イライアスとシュゼット③ side イライアス
「リュシアン???」
思わず窓から身を乗り出すようにして、そう声を掛けた時だった。
「え?! イライアス様!!」
記憶していたリュシアンのものよりずっと高く綺麗な声で、ボクの名を呼んで、
「きゃあぁぁ!!」
その人はバランスを崩し、母の花壇に真っ逆さまに落ちていった。
「大丈夫?!」
慌てて階段を駆け下りその人に向かい手を伸べれば、助け起こす為掴んだその手は酷く小さく華奢で、やはりその人がリュシアンなんかじゃなくて綺麗な女の子なのだと分かった。
『なんだ、つまらない』
そうがっかりしながら、
「どこか痛いところは?」
そう言いながら、彼女の手を引いて立ち上がらせた。
リュシアンでないなら、彼女に用は無い。
そう思い、いつもの様に心無くヘラッと笑って見せた時だった。
「シュ……シュゼットと申します。王妃様の花壇を滅茶苦茶にしてしまい、本当に、本当に申し訳ございません!!」
ボクの呪いにかけられて、ボーっとボクに魅入ると思ったのに。
何故かその予想とは正反対に、彼女が涙目で震えながらボクを見た。
あれ?
もしかして……。
「君…………ボクが怖いの??」
彼女の反応が面白くて、もっと意地悪したくなって彼女の耳に口付けるように低い声でそう囁けば
「め、滅相もございません!」
他の人間なら恍惚とそのバラ色の唇を差し出そうとするところで、彼女はそのアイスブルーの瞳を恐怖に大きく見開くと、ボクの不興を買うまいと必死になって頭を横に振った。
リュシアンの来訪を心待ちにしていたけれど、こんな近くに、ボクの呪いが効かない子がいたなんて!
彼女を再度よく見れば、彼女は辺境伯の紋の入った騎士服を纏っていた。
シュゼット、それは確か辺境伯の一人娘の名前だったか。
辺境伯とは血筋が近い為、彼女が強い魔力を有していても不思議ではない。
彼女に呪いが効かない事を更に確かめたくて
「怪我が無いなら花壇なんてどうでもいいんだけど……」
いかにも王子様然と優しく微笑みながら、スッと彼女との距離を縮めいつでもこの腕の中に閉じ込められる距離まで追い詰めた後、瞳に故意に魔力を込め手を伸ばせば。
ボクに追い詰められているが故に逃げ場のない彼女が、懸命にボクの手を逃れようと可能なかぎり体をのけぞらせた。
「……へぇ……かわいい……」
思わずそんな感想を口に出せば
「はい??!」
焦った彼女が今度こそ本気で逃げ出そうとしたから、
「あ! ううん、こんなに汚れちゃって可哀そうにって。そう!! 『可愛そう』って、そう言ったんだよ?」
そう笑ってごまかして、ボクは逃げられない様ギュッと彼女の手首を掴んだ。




