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悪役令嬢は壁になりたい  作者: tea


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イライアス③

十七になった時、ボクは通っていた学園で、一人の伯爵令嬢に恋をした。


彼女の名前はクラリッサと言って、ボクのクラスメイトであり、ボクの親友チェスターの婚約者でもあった。


二人の婚約は家同士が決めたものであったが、クラリッサが幼い頃からずっとチェスターだけを思っていたことも、チェスターがクラリッサだけを深く愛していることも、彼らと長い時間を共にしてきたボクは良く知っていた。


だから……。


十八で学園を卒業する時、ただ一言クラリッサにボクの思いを伝えて、ボクはそれで自分の勝手な思いに綺麗に終止符を打つもりだった。



それなのに。


誰もいない図書館でボクが思いを伝えた途端、クラリッサが甘く微笑みながら自ら自身のドレスに手をかけた。


全く彼女らしくない突然の行動に驚いてクラリッサを見れば、微笑みとは裏腹に彼女の瞳からボロっと大粒の涙が零れる。


それを見た瞬間、頭の中にかつて叔父に言われた言葉が蘇ってきた。


『お前が成人する頃には、皆がお前に全てを捧げようとするだろう』


叔父がそれを『祝福』ではなく『呪い』だと言ったのはこういう訳だったのか……。



「……ごめん、クラリッサ」


世界で一番大事にしたいと思っていた人を辱めてしまった事が悲しくて。


彼女に自分の上着を羽織らせて、彼女がそれを脱いでしまわぬ様、上着の上から抱きすくめながら


「ごめん、本当にごめん」


そう為す術なく繰り返せば、


「愛しています、イライアス様」


ボクの呪いにかかった彼女は妖艶に微笑みながら、また体が心を裏切るのがそんなにも辛いのか、ボロボロと涙を零した。





どれくらいそうしていたのだろう。


「クラリッサ??」


ギーッとドアが音を立てて開き、おそらくボクらを探していたのであろうチェスターが顔を出した。


「イライアス?」


まともにチェスターの顔を見る勇気なんて無くて、


「チェスター、すまない。許してくれ……」


俯いたままそう言った時だった。


「はい、全てはイライアスのお心のままに」


気色の悪い猫なで声で、そんなあり得ない言葉が返って来た。


茫然とチェスターを見る。

すると、クラリッサと同じように恍惚とした表情でボクを見るチェスターの手は、その表情とは裏腹にきつく握りしめられていて。


爪が深く掌に食い込み、その肌を傷つけたのだろう。

クラリッサと違い涙を流さない彼の代わりに、彼の手の平から滴った真っ赤な血が、ポタリポタリと図書館の床を汚していた。





二人の記憶は、ボクを助けに来てくれた叔父がその場で魔法で消してくれた。


ただし、魔法とはそんなに便利な物ではないようで、あの日の事だけを二人の記憶から消す事は出来なかったから。

だからボクは叔父に頼んで、二人の記憶からボクに関する物全てを消してもらった。


風の噂によると、チェスターとクラリッサは王都からは少し離れた領地で幸せに暮らしているらしい。



一方で。

彼らにきちんと責められる事すら許されなかった、ボクの中の罪悪感は風化する事が無くて。

事ある毎に酷く痛んで、ボクを苛んだ。



あんな風に大切な人の心を捻じ曲げてしまうくらいなら、もう誰とも関わるまい。

そう思った時だ。


ふと隣国の女王陛下の噂がボクのところに流れてきた。

何でも女王陛下は泣いている男の顔が好きなのだという。


彼女なら、陛下なら……

僕の罪を正しく断罪して、そしてあの日の二人の代わりにボクを許してくれるだろうか?


そんなことを考えるくらい、あの時のボクは少しおかしかったのだと思う。







◇◆◇◆◇


そうして藁にも縋るようにして訪れた隣国で――

僕はリュシアンと出会った。


リュシアンは僕程ではないにしろ強い魔力を有していたせいか、僕の魅了がいっさい効かず、どういう訳か出会ってすぐ僕に対し古典的な、しかし陰湿な嫌がらせを繰り返してきた。


本来ならば腹を立てるべきところだったのだろう。


でもボクは、ボクがそれに乗じて女王様にちょっかいをかけるたび、リュシアンはそれをチェスターのように気色の悪い笑顔で受け入れることなくいつだって正面切って(時には裏から実に陰湿に)僕から奪い返して見せてくれるから。


その事に酷くホッとして。

僕はリュシアンの傍で、久しぶりに気楽な夏を過ごす事が出来たのだった。







◇◆◇◆◇


自国に戻り、また大切な人を隷属させてしまう事に怯えながら、一日も早くリュシアンがここに遊びに来てくれないかと思っていた時だった。


「リュシアン??」


ボクは何故か窓の外の木の上に、リュシアンを見つけた。

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