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悪役令嬢は壁になりたい  作者: tea


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イライアス②

ボクが八歳になった時だった。

お城のお庭でボクと年の近い子ども達を集めたお茶会が開かれた。


どうやらボクの学友と婚約者候補を見繕うのが目的らしい。

そのお茶会の席で、ボクは一人の女の子を見つけた。


キラキラ輝く淡く長い金色の髪に、大きなアイスブルーの瞳。


少しでもボクの気を引こうと我先にとボクに群がってくる他の女の子達に対し、彼女だけは懐かない美しい猫の様にボクから少し離れたところで一人ベンチに腰かけていたから。

彼女はかえって妙にボクの注意を引いたのだった。





しつこく纏わり付いてくる女の子達にいい加減嫌気がさして。

彼女達を撒いて、一人薔薇のアーチの方へ逃げて来た時だった。


同じく会場を窮屈に思い抜け出して来たのであろう、アイスブルーの瞳をした彼女を見つけた。


「つまらない?」


思わず背後から行き成りそう声を掛ければ、女の子はビクッと肩を跳ねあげて驚いた後、しばらくモジモジした後で


「はい」


と、小さな小さな声で短く答えた。


年は恐らくボクより一つか二つ下なのだろう。


ボクを上目遣いに見上げながら小さく口を開いた彼女の様は、やはり子猫が『ミャー』と鳴く姿に見えて。

また妙にボクの庇護欲を煽った。


「おいで。花冠を作ってあげる」



棘に気をつけながら勝手に母が大事にしている薔薇を手折って、彼女の為に一生懸命冠を作った。


しかし皆はボクには差し出すばかりで、ボクがこんな風に誰の為に何かする側に回るのは初めてだったから……

情けない事に綺麗に冠を編み上げる事はボクには到底出来ず、新しい花を挿す度に、緩んだ結び目から花は零れ落ちて行った。


自分の不器用さを恥ずかしく、そして不甲斐なく思った時だった。

これまで僕を警戒していた彼女が、突然フフッと花が綻ぶ様に笑った。


それを見た瞬間、ボクは頬が全身が、どうしようもなくブワッと赤くなってしまうのが分かった。


もう一輪。

美しく咲き誇る薔薇を無造作に手折ってわざと結び目が緩むよう編めば、また別の花がスルッと冠から抜け落ち、それを見た彼女がまた嬉しそうに笑った。


誰かを喜ばせるのがこんなに嬉しい事だとは知らなくて。

何度そんな行動を繰り返した後だっただろうか。


「ごめんね、ボク、不器用だから出来ないや」


そう言いながら、一番綺麗な一輪をそっと彼女の髪に挿せば


「あ……ありがとうございます」


そう言って彼女がこれまで以上に嬉しそうに笑ってくれた。



『また会えるかな?』


そう思った時だった。


「イライアス様!!」


他の女の子達が僕達に気づき走り寄って来た。

そうして女の子達は彼女の髪に飾られた薔薇を見ると、自分達も同じ様に欲しいとボクに強請った。


薔薇は、まだいくつも咲いていた。

そしてボクにはその薔薇を惜しむ気持ちなんて全く無かったのだけれど……。


先程までの彼女との特別で甘やかな思い出を汚されたくなくて。

ボクはそれに応えることなく下を向き黙った。


その時だった。

彼女に嫉妬した女の子達が、悔し気に唇を噛んだ後


「何よ! 貴女なんてまだドレスも似合わない子どもの癖に!!」

「そうよ! まるで男の子がドレスを着ているみたい。せっかくの綺麗な薔薇が可哀そうだわ」


次々と彼女にそんな醜い八つ当たりを始めた。



ボクが。

ボクが馬鹿な真似をしてしまった為に、笑ってくれた彼女に嫌な思いをさせてしまった。


その事に動揺して、彼女を庇う事も出来ず、思わず立ち尽くした時だった。


兄なのだろうか?

彼女とどことなく面立ちの似通った少年が全速力で駆け寄って来ると、


「こんなトコにいたのか? 行くぞ!!」


そう言うなり彼女の髪にボクが挿した薔薇を実に忌々し気に払い落とすと、そのまま有無を言わさず彼女の手を引いて、あっという間にその場から走り去って行ってしまった。





彼女に謝りたくて。

彼女の名前を聞きたくて。


ボクはその後懸命に彼女を探したけど……

結局、ボクはどうしても彼女を見つける事が出来なかった。

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