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悪役令嬢は壁になりたい  作者: tea


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番外編5 ゼイムスside2

オレは汚い。


体だけでなく、きっと心も、長い事深い深い汚泥に浸りきってきたから取返しなんてつかない程汚れ切っている。


そうして手足にはこびりついたヘドロの一部は硬く乾き、まるで囚人の鎖の様にオレをこの深い谷底に繋ぐ。



それなのに。


同じ場所まで引きずり堕としてやったと思っていたウィルは、あっさり自分だけ逃げていった。



「僕はさ、この国は歪んでて好きじゃないんだ」


そんな言葉を簡単に言い捨てて。

どれだけ焦がれてもオレは得る事をが出来なかった抗うだけの(魔力)を、そしてリリー()を持っている癖に、ウィルは再び全てをオレだけに押し付けてさっさと自分だけ逃げて行った。



オレだって……。

オレだってこんな歪んだ国大嫌いだ!!



それでも。

ウィルが逃げるならオレは王太子の座を絶対に降りたりなんてしない。


アイツが逃げるならオレが!

オレが王になって、オレを汚した奴らを必ず一人残さず粛清して見せる。



いいだろう。

悲願がかなうその日まで、どれだけ無様であろうと、このヘドロの中藻掻ききってやる。





そんな事を思い返していた時だった。

隣で眠っていたローザがふと目を覚まして少しかすれた声で言った。


「眠らないの?」





ローザは、オレからの理不尽に弱弱しく涙することも、屈して足元に縋ることもしなかった。

誰一人彼女を庇う者がいなくても、ローザは常に凛と顔を上げて己の矜持を保っていた。


その強さは思い続けたリリーと同じものだったから、歪んだオレは汚すのが怖くて触れられなかったリリーの代わりに、ローザを汚す事を選んだ。



そう、ローザはただの代わりの筈だったのに。

そうである方がきっとよかったのに。

いつの間にか本当に欲しいものはローザ自身に変わってしまっていた。



可哀そうに思いながらも、美しい小鳥が逃げ出さないようその風切り羽を切るように、ローザの純潔を奪った後で、


『あぁ、これで彼女はもうどこにも逃げられない』


そう胸を撫で下ろし、彼女もまた絶望してオレと同じところまで堕ちてくればいいと思った。



オレと同じところまで堕ちて来たのならば、彼女にはせめてオレが優しくしてやろう。

まるで愛しているかのように、ローザの乞うまま……オレの願うまま甘やかしてやろう。


そう思ったのに、ローザもまたオレの元から一度あっさり逃げてみせた。



たった二人の深淵の中。

せめて優しくしてやろうと思っていた筈なのに。


「愛している」


ただそう言ってしまいたいと思っていただけなのに。

死に物狂いになって再度捕らえた彼女のその羽を、オレは二度と飛べぬよう無残に毟った。



それでもなお、消えなかったローザの瞳に灯る炎にオレがどれだけ救われたかをきっとローザは知らない。

そしてまた堕ちて来ない彼女に焦れて彼女を何度も傷つける苦しさに、オレの心の奥の決して誰にも触れさせなかった最後に残った純粋な部分が、血を流す程に痛む事も彼女は知らない。





ローザの存在に慰められ安心して深く眠りこける様になればなる程、また彼女が逃げてしまう事が怖くなる。

そのせいで再び飛び立てぬよう、彼女の傷が癒えぬようその傷口に爪を立てるような真似をしてしまいそうな衝動に駆られてしまうから、オレは眠らない。





あぁ、だから傷つけなくて済む様、オレが隣で深く眠れるよう、早く自分と同じ所まで堕ちてきて欲しい。

……そんな歪んだ事ばかり願っていたのに。



『殿下と私の色が混ざった美しいものなので嬉しいです。ですから、私が願うのは……これが切れてしまわないことでしょうか』


組紐を見たローザが、かつてオレがリリーに言って欲しいと願いつつ決して叶えられなかった事をあっさり言ってみせたから、オレは酷く焦ってしまった。


ローザを堕とす事ばかり考えていたのに。


こんな細い細い紐一本で、あっさりローザはオレの心をわずかだがこの深淵から引き上げてみせた。





まるで地獄の底に垂らされた細い命綱のようだと、美しい色の組紐を見て思う。


あぁでも。

本気でこれに縋れば、この細い紐はあっさり切れてしまうだろう。



長い間、かつて身に着けていた物とは色合いの異なる紐を見つめて、オレは自分の中で覚悟が決まるのを感じた。



そうだ、やはりこれを切ってしまうのは惜しい。


だから。

オレは……。

これを切らぬためにも、オレは一人この深淵で耐えて見せよう。


かつての、まだ幼かった自分ですら

『ローザを守る力と知恵が手に入るなら、ボクは喜んでそれを受け入れて見せる』

そう言い切ってみせたのだ。


今のオレに出来ぬはずなどない。



今に見ていろ、腐りきったウジ虫ども。

近いうちに必ず。

必ずお前達をオレが粛清してやる。

ハッピーエンドのお気楽悪役令嬢物から一転、うっかり暗く重いお話になってしまったにもかかわらず最期まで読んで下さって本当にありがとうございました。



ここでは描ききれませんでしたが、ゼイムスJr.は悲願を果たしたゼイムスとローザからの溺愛を受けて、ちょっぴり腹黒のそれはそれは見目麗しい素敵王子に育つことと思います。


ゼイムスJr.の趣味は双子達協力のもと、居眠りする父にいたずらを仕掛ける事でしょう。


そして、『愛が重めの故~』に出て来た『生き急ぐように去って行く美少年を見送りたい』女王様アーデルリーザの国に遊学にやって来て、きっとリュシアンをキーキーさせるんじゃないかななんて思ったリしています☆

R3.9.9 『愛が重め故断罪された無罪の悪役令嬢は、助けてくれた元騎士の貧乏子爵様に勝手に楽しく尽くします』 第10部 番外編 リュシアンとチョコレート① (女王様side) よりゼイムスJr.ことイライアス登場中です。

イライアスsideのお話はゆくゆくこちらに番外編として書きたいなと思っていますので、気長にお待ちいただければ嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 番外編完結おめでとうございます。 [気になる点] >そして、『愛が重めの故~』に出て来た『生き急ぐように去って行く美少年を見送りたい』女王様アーデルリーザの国に遊学にやって来て、きっとリ…
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