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1.推しが死んだ

またしても推しが死にました。



剣と魔法のある世界の学園を舞台にした小説に出てくる、推しの魔術師であり第二王子であるウィルが死にました。


黒目黒髪で怜悧な目元と一見冷たげなキャラビジュアルが素晴らしい推しが、ずっと一途に片思いしていたヒロインであるローザを守る形で死にました。


魔力暴走を起こした悪役令嬢のリリーメイと相打ちになる形で死にました。



前巻の終わりの方から、妙に登場場面が増え、本巻の中盤でメインヒーロー差し置いてグイグイ株上げてくから超絶嫌な予感がしてたけど!

彼の死により、その愛が純粋なまま永遠に完結するって素晴らしいメリバではあったけれど!! 



メリバ好き故、私の推しは何故か妙に致死率高いので、推しを亡くすのには慣れているはずなんですけどね……。


ウィルは言動は大胆不敵でありながら、彼が子供の時に兄から虐待を受けていた事に起因する、ふとした時にヒロインにだけ見せる怖がりな少年の様な姿のギャップと、そのクールでモテモテな外見とは裏腹に片思いしているヒロインに実は一途っていうギャップがホント素晴らしくて。

数年ぶりにドはまりしてしまったキャラだったので本気で辛いです。


あまりに辛すぎて、思わず仕事帰りの電車の中でアニメ一期のタイアップ曲聞いたら涙止まらなくなったレベルです。

マスクの下なんて、もう鼻水でぐっちゃぐっちゃ。



|そんなことを思いながら《転生のくだりは》寝不足のままフラフラ(耳タコだと思うので)歩いていたのがいけな(思い切ってサラッと)かったのでしょう。(割愛しますね☆)


気が付いたら、推しを殺した悪役令嬢、リリーメイの幼少期に転生してました。







******



両親に先立ってしまった不孝を詫びる前に、私は思いました。


小説版のリリーメイは、婚約者である王太子ゼイムスが妹のローザに心変わりした事をきっかけに、憎悪に飲み込まれ魔力暴走を引き起こし、そんな彼女の暴走を止めようとしたウィルが死ぬのですが。

私、ゼイムスにはちっとも興味ありません。


と、いう事はもしかしてこの人生、別段何もしなければ夢であった『壁』として推しウィルの成長アンド幸せを見守る(覗き見る)っていうのが叶うのではないでしょうか?!!!


そう気づいた瞬間、私は正に今日、ゼイムスとのお茶会の為、お城に遊びに来ていた事を思い出し、いてもたってもいられず、スカートの裾を引っ掴むと、侍女の制止を振り切って駆け出しました。



ウィルの姿を探し、お城の廊下を爆走しながら思います。


『壁になりたい』


前世では事ある毎にそう呟き、その度生粋の庶民故、賃貸に貼ってあるやっすいクロス貼ったペラッペラの壁を漠然と想像していましたが……。

実際のお城って、廊下の壁にも豪華に装飾がなされているものなんですねぇ。


心根が真っすぐ庶民な私が、すぐさまこのような高級壁に擬態出来るかはいささか不安ではありますが、しかし、推しを見守る(覗き見る)為です。


高価な壁紙だろうと高名な画家が描いた壁画だろうと、全身全霊をかけて成り切ってやろうと思います!!







******


興奮のあまりそんなよく分からん事を考えながら、息せき切らし推し(ウィル)を探しまわり走る事、約五分――


「おいおい、逃げるのはそれで終わりか泣き虫ミーナ?」


茂みの陰からそんな子どもの声と、それに合わせて少年二人の嗤い声が聞こえました。


『泣き虫ミーナ』


それはウィルの回想シーンに出て来た、彼が子どもの頃の蔑称でした。

ウィルの非力さを女の子みたいだと揶揄するため、ゼイムス達は事ある毎にウィリアムを女性名に変換した時の愛称『ミーナ』と呼び彼を辱めてみせるのです。



『知ってる! これ、ウィルの回想に出て来たやつだ!!』


私はそんな、まるで通信教育の勧誘漫画に出て来るヒロインのような事を思うと、歓喜に震えながら足音を忍ばせ、早速、壁代わりの植え込みに擬態してその場面を覗き見ることにします。


偉そうに真ん中で踏ん反り帰っている金髪碧眼の美少年が第一王子であり、私、後の悪役令嬢リリーメイの婚約者のゼイムス。

そしてウィルの両サイドの逃げ道を塞ぐようにして意地悪そうな顔でニヤニヤ彼を見下ろしながら立っているのが、同じく私の腹違いの双子の兄のクリストファーとブライアンです。



双子の兄とゼイムスは今年で十三歳、一方私とウィルは十一歳。

非力さを揶揄するも何も、この歳の同性の二歳差は絶望的な程大きいでしょうに……。



そんな事を思っていると。


「その本は大切な物なんだ! 返してくれ!!」


必死に手を伸ばすウィルを面白そうにニヤリと見下ろし、ゼイムスが持っていた本をクリストファーに投げました。


「返せ!」


取り返そうとまた手を伸ばすウィルを嘲笑いながら、今度はクリストファーが乱暴に本をブライアンに投げます。


「返せ!!」


投げられ、その形を歪める本に向かいウィルは一生懸命手を伸ばしますが……。

その小さな手は宙を掻くばかりで本には届きません。


ページの破れる音に、思わずウィルが唇を強く噛んだ時でした。



「せい!!」


突如四人の前に姿を現した私の正拳突きが、本を受け取る為手を上にあげがら空きだったブライアンの鳩尾に決まりました。

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