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番外編 彼のお母様、とお父様

 結婚式まであと一週間ほどになった頃、バートのご両親がエルウェズから一時帰国された。


 バートの婚約者が姉から私に変わった経緯や私がラトクリフ家でお世話になっている事情はお祖母様やバートが手紙でお知らせし、ご両親も「母上が認めたなら」と了承してくださっていた。

 私も手紙でご挨拶してその返事もいただいていたものの、いざ顔を合わせるとなるとやはり緊張した。


 だけど、実際にお会いしたおふたりは優しい笑顔を私に向けてくださった。

 想像どおり公爵らしい威厳を纏われたお父様。

 お母様は肖像画の印象より小柄で、この方がこんなに大きなバートを産まれたのかと少し驚いた。


「いや、悪かったね。エルウェズ行きを前に気が急くあまり、きちんと確認せずに婚約を結んでしまって」


「まったくですよ。無事に結婚できることになったからこうして笑っていられますが」


「バートがもっとちゃんとセシリアのことを教えてくれなかったからじゃない」


「それは、まだ自分の気持ちに気づいていなくて」


「しかし、まさかバートが自ら動いて婚約者を変えるとは思わなかったな。おまえがそこまで想う相手に出会えたことは、親として喜ばしいぞ」


「そうね。本人に会ってしまえば、バートがフレデリカ嬢ではなくセシリアを選んだ理由も何となくわかったし」


 ご両親とバートの会話を聞いているうちに、実家の両親とフレデリカの会話を思い出していた。

 私を蚊帳の外に置いて交わされていた言葉たちは、今になって思えば偽りに満ちていたのだろう。


 バートとご両親のテンポ良い会話から感じるのはお互いへの信頼だ。

 それなのに私は疎外感を覚えなかった。

 むしろ、ご両親までが私を蚊帳の内に入れようと気を配ってくださっているようで、私もここにいて構わないのだと思えた。




 翌日。


「あら、これ似合うじゃない。これもいただくわ」


「いえ、帽子ももうありますから」


「お義母様に買っていただいたものでしょう。私だってセシリアに選んであげたいわ」


「ですが、すでにドレスや靴を買っていただいたのに」


「この帽子、セシリアは気に入らない?」


「いえ、とても素敵だと思います」


「でしょう? ほら、もうこのままかぶっていきなさい」


 私はお母様に連れられて街にお買い物に来ていた。

 てっきりお父様とお母様がエルウェズに戻る時のためのお土産などを買われるのかと思っていたのに、先ほどからお母様が目を輝かせて選んでいるのは私のものばかりだ。


 ちなみにバートとお父様は王宮でお仕事。


「実は私、娘が欲しかったのよね」


 休憩しましょうと入ったカフェで、お母様はそう仰った。


「一緒にお買い物して、ドレスとか色々選んであげたりしたくて。でも子どもはバートだけだったから、バートに婚約者ができたらって思っていたの。今日はやっと夢が叶って楽しいわ」


 お母様のふわりとした笑顔を見ていると、温かい気持ちになった。


「私もお母様とお買い物なんて初めてなのですが、とても楽しいです」


「本当かしら? それなら、こちらにいる間はたくさん付き合ってもらうわよ」




 そうして、翌日からも私はお母様のお供であちこち行くことになった。観劇やお茶会、またお買い物など。

 長期休暇が近いのでお父様やバートはお仕事がお忙しいそうで、私はお母様とふたり、あるいはお祖母様も一緒に三人で過ごす時間が多かった。


「やっぱり娘は良いわね。いっそエルウェズにも連れて戻りたいわ」


「母上、それは勘弁してください。来年あたりふたりで行きますから」


「バートが忙しかったらセシリアひとりでも良いわよ」


「私も必ず行きます」


 お父様によれば、おふたりがエルウェズに赴任される前、バートはお仕事を理由にしてあまりお屋敷に帰らなかったらしい。お母様はそのことをちょっと根に持っている。

 お母様にとって、ドレスを選んであげられる娘ではなくても、バートは可愛い息子だから。

 お母様の笑顔が一番柔らかくなるのは、バートの話をしている時だ。

お読みいただきありがとうございました。

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