公女ごときに、この初恋は阻止できません
『殿下には、この婚約は破棄できません』と
『殿下にも、この婚約は破棄できません』の続きの話です。
続きと過去話に当たります。
上記2作を読んだ後に、お読みください。
※流血シーンがあります。苦手な方にはお勧めできません。
たっぷりと練り絹を使って織った豪奢な琥珀織り、煌めく輝きの金糸銀糸の刺繍、まろみを帯びたゴールドの輝きを持つ大粒の真珠、繊細で華やかなアンティークレース。
思いつく限りの豪華さを注ぎ込みながら、そのデザイン自体はパメラ・カーライル嬢が持つ、しなやかで強い美しさを一層惹き立てるような、全体の膨らみを極端に抑えシンプルなドレスとなっていた。
結い上げられた銀糸のような髪と小さな金のティアラ。大きな真珠のイヤリング。ティアラと対をなす金のチョーカーと金の腕輪。
それらすべてが、パメラの薄水色をした宝石のような瞳と完璧な調和を生み、普段夜空の煌めきのようだと謳われることの多いパメラだったが、今の彼女はまるで黄金の女神のように美しい。
勿論、金はクリスの色だ。金髪金瞳。それがシュトーフェル皇国皇太子クリストファー・アップルフェル・シュトゥルーデルたる証だった。
「これ、身体の線が出過ぎではないかしら」
珍しく戸惑っているような恥じらいを見せる。
スレンダーラインのマーメイドドレス。スレンダーすぎてそのままでは足が動く余裕すらなくなると、前身ごろには大胆にも足の付け根辺りから裾まで深い切り返しがある。ただし内側にはアンティークレースが美しい襞を成しており、そこに下品さは一切ない。
それでも、隠しているその素材がレースなだけあってどこか上品な色香がある。艶めかしくもあり、それが普段女性らしい服装を避けてきたパメラの顔を羞恥に染める。
「通常のマーメイドよりかなりタイトに作ってありますからね。
そのドレスは、私の持つ、パメラのイメージで作って貰ったんです。
とてもよく似合っていますよ。想像以上です」
今日という特別な日に着て貰いたくて1年掛かりで用意して貰ったドレスだ。
勿論この婚約が内々定する前から、ということである。
皇国で一番だと誉れの高いデザイナーに、クリスは一体何枚のデザインを書かせただろう。何十枚では足りない、何百枚だ。
パメラの姿絵を何枚も見せ、パメラのすばらしさ、美しさを何夜も話して聞かせた。
そうして出来上がったドレスを、クリスはとても気に入っていた。
勿論それは今日という晴れがましい日に、こうしてパメラに着せることができたからでもある。
いつもは清廉で厳かな空気で張りつめている大聖堂が、今は華やかなざわめきの波が静かなるうねりをもって埋め尽くされている。
そこに立つ全ての人が(実際には胸の中に違う思いがあったとしても)祝福の思いを込めて、入口から入ってきた主役の2人がゆっくりと祭壇に向かって歩いていく姿を見守っていた。
シュトーフェル皇国皇太子クリストファー・アップルフェル・シュトゥルーデルは、婚約者にしたい相手はいるかと父、セイドリック・アップルフェル・シュトゥルーデル皇帝陛下にそう問われた際に、いつになくはっきりとした声で答えた。
「フェラン国公爵令嬢たるパメラ・カーライル嬢、彼の令嬢以外ありえません」と。
その日から秘かにいつか贈るこのドレスに使いたいと思える品々を集めてきたのだ。
勿論、2年後の自分が成人する際に正式に自分の下へと迎える日の為の品々もまた集め出すつもりだ。今日のこのドレスは今日までの自分が贈れる最高の物を用意した。2年後のその日の為には、その時の自分に贈れる更なる最高の物をと考えている。
クリスにとって、パメラはずっと秘密の婚約者だった。
婚約者に誰を望むのかを聞かれたその時まで、誰にも告げたことはなかったが。
パメラにとっては、そういう意味ではなかったことは知っているけれど。
それでもクリスにとってそれは本物だった。
それは幼い日の幼い恋と大人からは微笑ましく笑われて終わりにされるものだったかもしれないけれど、クリスにとっては今も続いている本物の恋だった。
「どうしたの? 迷子になっちゃった?」
そういって顔を覗き込んできたのは、綺麗な銀色の髪をした男の子。
優しそうな薄水色をした瞳が、自分を見つめていた。
クリスよりだいぶ年上に見えるその子は、仕立ての良いジャケットと丈の短いズボンと膝丈のブーツを身に着けていて高位貴族の子息に見える。
だから、緊張していたし今にも泣きだしてしまいたい位不安でもあったけれど、クリスは他国からきた外交官の子供として相応しい態度を取ろうと懸命に務めた。
「わ、私は、父のお仕事に連れてきて貰ったのですが、その、道に…」
それでも、母国語とは違うその言葉を操ることは幼い子供にとって難しいことだった。
いくら家庭教師から満点だと褒められても、異国にきて、その国の人と直接会話をするのとでは勝手が違いすぎる。しかも迷子になったなどと口にすることは難しかった。
頭の上を飛び越して交わされる大人同士の会話に飽きて、つい庭の薔薇の見事さに一人で歩きだしてしまったのだ。花の香りに誘われるまま歩いてきた時には、この薔薇の迷路のような通路へ迷い込んで出る事すらままならなくなっていた。
そうして途方に暮れてしゃがみ込んでいた所に声を掛けられた。
「判った。君はシュトーフェル皇国からのお客様ですね。
ようこそ、幼いレディ。関係者のいるところまでご案内しましょう」
拙いながらも、相手がクリスの国の言葉で話しかけてくれた。
しかもそっと手を差し伸べてくれる。でも。
レディ? あ、そうだった── クリスの頭に母と父の言葉が蘇る。
『クリストファー、知らない相手に本名を名乗っては駄目。悲しいことだけれど皇国皇太子の第一子であるアナタの命を狙っている者はたくさんいるの。いいですね、ティナと名乗り女の子の振りをなさい。信用できる人に向かっている時でもです。そのすぐ傍で、悪い人が聞いているかもしれないでしょう?』
そうだった。父に連れられている時でさえ、この外遊の間の自分はクリスティナ、愛称はティナだ。そうして今はその身を薄水色のドレスで装っている。
「クリスティナです。ティナとお呼びください」
そっと慣れない淑女の礼を取る。ぎこちなさも異国に来た緊張のせいだと思って貰えるといいのだけれど。
「ティナ嬢ですか。…あの、クリス嬢とお呼びしてはいけませんか?」
「え?」
それは困る。クリスだとクリストファーと同じ愛称になってしまうので避けたい。
おろおろしていると、その子はすぐに謝ってきた。
「すみません。何故だかクリスと呼んだ方がお似合だと思ってしまったもので。
私の事はパムと呼んで下さい。ではティナ嬢、こちらへどうぞ」
そっと手を取られエスコートされる。
歩きやすい。
背の低い自分に歩幅を合わせてくれているのだろう。
「あの、シュトーフェルの言葉を話されるのですね」
無言で少年に手を取られたまま歩き続けるのが照れくさくて話しかける。
「あまり上手ではありませんが、勉強中なのです」
こちらも照れ臭そうに話しに乗ってくれる。優しい人だ。
「いえ、なんでシュトーフェルだって判ったのかなって」
そのクリスの問いに、パムと名乗った少年は柔らかな笑顔を浮かべて理由を教えてくれた。
「昨日、シュトーフェルの外交官様が到着して、たぶん今日、王宮へ挨拶に登城するだろうと聞いていたのです。お嬢様をお連れになるならお仕事ではなく挨拶の時かな、と推測しました」
なるほど、とクリスは感心してしまった。
今、この国では近隣諸国の外交官が集まって国際会議が開催されている。
国家間の輸出入の取り扱いや、関税についてや、ちょっとした紛争などについて、年に1回集まって決めようというこの試みが始まって5年が経つ。
まだ5年という人もいれば、もう5年だという人もいる。それでも大きな戦争にならないで済むようになればという祈りにも似た気持ちは参加国の誰もが持つ共通の願いだ。
そしてこの年の会議は、明後日から5日間掛けて、ここフェラン国で開催されることになっている。クリスはこの会議に出席する父に連れられて来ていた。
少し年上だろうとは思うものの、自分と大して違わない少年の推察力と会話のスマートさ。そしてそのエスコートにも。自分がいままで言われるままにしてきたエスコートの拙さに恥じ入る。
きっとご令嬢はみな呆れていたに違いない。次からは気を付けようとクリスは心に決めた。
もう少しで薔薇の迷路を抜ける、その先に開ける空間が視界に入った時だった。
「ティナ、どこに行っていたんだ。心配していたんだぞ」
自分にそっくりの、背の高い金髪金瞳の美丈夫が駆け寄ってきた。
セイドリック・アップルフェル・シュトゥルーデル。。シュトーフェル皇国皇太子であり、クリスの父である。
「お父様、ごめんなさい。薔薇が綺麗でつい奥まで入り込んでしまったのです」
力強いお父様の腕に抱きとめられて、クリスはほっとした。
つい涙ぐんでしまい恥ずかしい。
「君は?」頭の上から聞こえた、お父様のその声に険をみつけて慌てて否定した。
「違うのです。この先の薔薇の迷路で途方に暮れていた私を見つけてここまで連れてきて下さったのです」
振り返った先でパムが頭を下げたままでいるのが見えた。
「…それは失礼した。我が娘は少し好奇心が旺盛でね。迷惑をお掛けしたようだ」
「いえ。美しいレディのお力になれたなら幸いです、外交官様」
パムはずっと頭を下げたままだ。もしかしてお父様が誰なのか判っているのだろうか。まさかね。
「…このフェラン国には国際会議が開かれる前後10日間ほど滞在する予定です。よろしければ、その間、ティナと仲良くして貰えると嬉しいと思います」
「お父様?!」
嬉しいけど、この女装状態で友達ができても、困る。
帰国してから手紙でこんなことを告白するのも恥ずかしすぎる。
「ありがとうございます。父、カーライル公爵に伝えておきます」
パムは公爵令息だったんだ。通りでいろいろと完璧な筈だ。年齢からすると完璧すぎるほどだとクリスは思う。年齢差分を成長したとしても、同じように泣いている女の子をスムーズにエスコートして父親に引き渡すなんてクリスにはできそうにない。
「カーライル公爵の御令息か。なるほど。公爵は将来有望ないい息子さんをお持ちだ」
そんな父の言葉に、パムは笑顔でもう一度頭を下げた。
後日、私は父が近隣諸国が集まって開かれている会議に参加している間、カーライル公爵邸へと招待されることになった。
『王宮ほどではありませんが、公爵邸の庭の薔薇も見頃を迎えております。一緒にお茶でも如何でしょう。 パム』
綺麗な花束と一緒に届けられたカードにある、美しい書体で書きこまれたその署名に、何故だか胃の辺りが落ち着かなくなる。
そんなクリスに、父は笑って許可を与えてくれた。
「こうなりたいと思う相手ができるのはいい事だろう。行っておいで。そうして、未来のこの国の重鎮となるである人間がどんな相手か、見極めてくるがいい」
そういってお土産に持っていくといいとチョコレートの詰め合わせも用意してくれた。
クリスのお気に入りの店のものだ。口に入れた瞬間、ほどけていく蕩ける様な舌触りが癖になる繊細なチョコレート。これならきっとパムも喜んでくれるだろう。
「粗相のないように。レディとしてきちんと過ごしてきなさい」
そう言われて、緩んでいた気持ちを引き締める。そうだった。ただ単に仲良くなった男の子の家に遊びに行くのではないのだった。
皇国から連れてきた侍女たちにはすでにお父様からの指示が届いていたようで、その日は朝早くから、楽しそうに私を飾り立てていた。
「やり過ぎじゃないかな、これ」
鏡の中にいる、目を見張るような美少女にげっそりとする。
銀糸の刺繍がほどこされたスノーホワイトのAラインドレスに、薄水色のシフォンでできたショール。完全にこれから招待を受けるあの子の色じゃないか。
そんなの着て会えないよ。男なのに。
「大変お似合ですよ、ティナ様」
ハーフアップにした髪に、やはり銀細工の髪飾りが留められる。
細い銀線で出来たそれは、歩くと花弁の中心にある水色の宝石が揺れる細工が施されている。
「いつの間に用意したのさ、こんな髪飾りまで。石の色まで揃ってるとかありえなくない?」
ぷう、と膨れて抗議した。
「それが。今、このフェラン国の王都で一番人気のある髪飾りなのだそうですよ。ドレスの配色もです。つまりは、この国で一番人気のある王族が、ティナ様のパム様だということです」
「…私のパムじゃない」
自分で否定して、なんだか寂しくなった。否定より肯定したいと思う気持ちがそこにあって、自分がパムと本当の友達になりたいんだと初めて気が付いた。
できればあの子の、特別になりたい。
薔薇は朝の方が綺麗だと、午前中の約束をした。
その約束の時間丁度に、公爵邸の紋章が入った馬車が期間中借りているタウンハウスの前に着いた音がする。
中からパムとパムのお兄様だという方が降りてきてお父様に挨拶をしてくれた。
手土産だとお菓子の詰め合わせを渡される。「皆さんで食べてください」と渡されたそれはとても大きな缶入りで、侍女たちがはしゃいで受け取った。
パムのお兄様は少しというかかなりお年が離れているようで、少年というよりすっかり成人して見えた。
お父様へはお兄様が挨拶をし、改めて今日の外出許可を取ってくれた。侍女と一緒にパムの手で馬車へとエスコートされる。
「招待を受けてくれてありがとう。今日は楽しんで貰えると嬉しいな」
そう微笑んでくれるから、クリスも嬉しくなって今日という日が一層楽しみになった。
馬車を降りると、お兄様は仕事があるのだと私に謝ると、忙しそうに書斎へと入っていった。
「兄はすでに父の仕事の肩代わりをしているのです」
少し羨ましそうにパムがお兄様の背中を見つめていた。
クリスには兄と呼べる相手はいなかったので、どんなものなのかは想像もつかなかったが、もしかしたら今パムに対して感じている憧れに似たものなのかもと考えていた。
「パムも、いつかあんな風にお父様のお仕事を手伝えますよ」
そういうと、何故だかパムは少し切なさそうな笑顔になった。
公爵邸の薔薇は本当に見事だった。
「素晴らしいですね。王宮の薔薇にまったく引けを取りませんね」
大輪が咲き乱れる様も、芳しいその香りも。
うっとりするほど素晴らしかった。
勿論、出された紅茶も素晴らしかった。
ミルクを先に淹れるか後に淹れるかで議論してたら、紅茶を淹れてくれた公爵家の侍女さんが「実はレモンや林檎といった果物を入れた紅茶も美味しいんですよ」と教えてくれて、どんな味が二人で想像した。
いつの間にか、美味しい紅茶についてではなく、何を入れた紅茶が一番飲みたくないかについて話していて、侍女も交えて大笑いした。
もうすっかり、自分が女装していることをクリスは忘れ切っていた。
そこに厭味っぽい声が掛けられた。
「随分、楽しそうだな、パム」
いきなり割り込んできた声に緊張が奔った。
「何の用だい、トリッキーリッキー」
殿下と呼べとその割り込んできた少年が喚き立てたので、クリスはようやく、その少年がこの国の第二王子だと気が付いた。
このままここにいるのは危険だろうか。悩んでいる内に目の前の二人の会話がどんどん物騒になっていく。
「勝負しろ。今日こそ俺は生意気なお前に勝ってみせる」
そう宣言した我が儘王子にため息をついたパムは
「今、大切なお客様が来てるから」
そう断ろうとしたけれど、その王子はいきなりパムに殴りかかってきた。
「パム!」
王子に殴りかかられた目の前のパムが、回転しながら、私の目の高さまで、跳びあがった。
ドガッ。
「これがローリングソバットっていうらしいよ、リッキー」
少し離れた所に着地したパムが、しれっと技の名前を口にした。
── だ、第二王子とはいえ、王子様のこめかみを土足で蹴り上げた。
目が点になるかと思うほど吃驚した。
後ろを見れば、一緒にきた私の侍女も同じように驚愕していたけれど、公爵家の侍女といえばしれっとして従僕を呼びに行き、そこに完全に気絶して伸びていた第二王子様の看護を申し付けていた。
「よろしいのですか?」
「よろしいのです」
まったく意に介さないという態で、パムが紅茶を淹れかえるよう声を掛けた。
また新たな声が掛けられた。
「こちらにクリストファー皇子がいると聞いてきたの。
お逢いできるかしら」
ずかずかと勝手に入ってきたのは、金色のフリルに埋もれたような令嬢だった。
艶のある黒髪と勝気そうなアーモンドアイ。我が儘そうな唇を少し尖らせて、その美少女は立っていた。
「失礼ですが、なにかお間違えではありませんか?
ここはカーライル公爵邸です。クリストファー皇子といわれますと、シュトーフェル皇国皇太子殿下の第一子の御令息のことでしょうか。残念ながら誤情報ですね」
パムの困惑した声が耳に痛い。
そのクリストファーというのがクリスの事だとは微塵も思っていないのだ。
「…いつから、この公爵邸はこんなのが簡単に入り込める場所になったんだ」
返事をしようとしない令嬢に少しいらだった様子のパムが、結構ひどいことをさらっと吐き出した。うわっ。ご令嬢をこんなの扱いしちゃって大丈夫なのだろうか。
「銀髪薄水色の瞳? 金髪金瞳の麗しいお方だとお聞きしていたのですが。
…はっ。そうですね。そうですわよね! お忍びで花嫁候補を探して回っているなら、色も変えるし名前も偽りますわよね。
失礼いたしました、クリストファー皇子。わたくしはザコーバ公国公女イザベルと申します」
ギラギラとした瞳で奥にいるクリスを睨みつけながらも、今更のように淑女の礼を取ったその人を見つめるパムの顔はどこまでも冷たかった。
「公女様ともあろうお方が、招待された訳でもない他国の公爵邸にずかずかと入り込む訳がない。手荒な真似をしないでいる内に、お帰り頂けますか。レディ?」
出口をそっと指し示す。
しかし、そんなパムの言動に公女は激しい憤りを噴出させた。
「何故そんな女を庇うのです。私よりその女の方がいいというのですか?!」
──もしかしなくとも、そんな女呼ばわりされているのは私の事だろうか。
クリスは目の前が暗くなる思いだった。
会いに来たと言われたのも自分。そしてそんな女呼ばわりをされて邪魔者扱いされているのも自分。
どう考えても、今の自分は公爵邸にとって厄災でしかない。
「あの、私、もうこれで失礼します」
この場を収める方法として、逃げることしか思いつかない自分がみっともなくて辛かった。
パムに二度と顔を合わせられない。合わす顔がない。
自分がクリストファー皇子だということもきっとバレてしまっているだろう。
切なくて、辛くて、涙が目の縁から零れ落ちていきそうだ。
「勝手に帰っては駄目ですよ。今日は私にティナ嬢の一日をくれる約束でしょう?」
抱きしめるように引き留められた。
「大丈夫です。安心して?」
「あ…」
我慢しきれなかった涙が零れ落ちていく。
「ご、ごめんなさい。わた…みっともなくて…」
ぎゅっと目を閉じると更に涙が流れて行ってしまった。本当に。男の癖になんとみっともないのだろうか。
パムはそっとそんな涙をハンカチで拭きとって、クリスの手にそっとそのハンカチを持たせた。
「これを使って下さい。今日の為におめかししてきてくれたんでしょう? とてもお似合ですよ。可愛いし、お綺麗です」
そういわれても、クリスとしては侍女たちの悪乗り悪ふざけの結果だと言いたかったけれど、パムに褒められて嬉しい気持ちが湧き上がり、顔が赤くなるのが判る。どう答えていいのか判らなくて、ついクリスはハンカチを握りしめたまま黙ってしまった。
「なに私を放置していちゃついているのよ! 絶対に許さないわ。ガイ、あの女に痛い目をみせてやって!」
苛立った声に振り向くと、公女の後ろに控えていた近衛兵が前に出てきていた。
どことなくやる気がなさそうに見える。公女の我が儘に振り回されることに厭きているのかもしれない。
「…公女様、本当にやるんですか?」
「いいのよ! 私がいいっていってるんだから早く行きなさいよ!」
はぁ、とため息をついて、この国の物ではない近衛の制服を着た男とパムが対峙した。
「あの、皇子様? そのお嬢さんをちょっとばかし、その、移動させて貰えればですね、誰にも怪我をさせないで済むんで。大人しくしていて貰えないですかね?」
頭を掻きかき男がいう。
しかし、パムは堂々と
「断る」
そうひと言で言い切ってパムはクリスを侍女達の方へと押しやった。
「こんなことになってしまってごめんね。でも、絶対に君のことは守るから」
そうして、侍女から差し出された剣を躊躇わずに受け取った。
「ご武運を」そう言って侍女が頭を下げる。
吃驚していて固まったままのクリスとその侍女に向かって、公爵家の侍女が笑顔で言い切る。
「この国の公爵家に押し入った相手に、言われるままにお客様を差し出すなどありえません。
ご安心ください。この公爵邸にはたくさんの腕自慢が揃っております。私もその一人です」そう鮮やかに侍女は言い切った。
その視線の鋭さがさきほどまで一緒にお茶会の席を盛り上げてくれていた女性と重ならなくてクリスの身が縮みこむ。
そんなクリス達にそっと元の通りの優し気な表情にもどった侍女は、
「パム様なら大丈夫です。彼等には、その罪と罰を身に受けて貰いましょう」
笑顔のまま、そう告げた。
すらりとパムがその剣を鞘から抜いて、構えを取る。
その姿を見て、対峙していた近衛が「ほう」と感嘆のため息を吐いた。
「なかなか様になっているじゃないですか」
そういって、両足を広げて拳を構えた。
身の丈は180を優に超えているだろうか。
肩の筋肉の盛り上がりといい、握られたごつい拳といい、兵士というより戦士という言葉の方が似合いそうな男だった。
戦い慣れているであろうことは、戦うことに慣れていないクリスの目から見ても判った。
その構えがどっしりとしていて力強い。今にも襲い掛かってきそうなその迫力に、相対しているのは自分ではないにもかかわらず、クリスの喉がぐびりと鳴った。
──パムは、あんなに細くて小さいのに。
自分より上背はあるといっても、パムだってまだ少年の域を出ていない。
それなのにあんな大男を前にして全く気負っているように見えなかったし、その構えに隙はない。
「貴方は剣を使わないのですか?」
目を眇めて睨みつけながらパムが問う。
「…他国の公爵邸に押し入って、刃物を振り回して客人や家人に怪我をさせたとあっては、ザコーバ公国の公女様といえども重罪に問われること間違いなしですからなぁ」
刃物を振り回さなくても、怪我人を出さなかったとしても、シュトーフェル皇国であったら重罪だとクリスは思ったが、賢明にも口に出すことはしなかった。
「私は斬りますよ。そうしないと、貴方に勝てない」
パムの目が剣呑に光る。
「俺に勝とうっていうのか。10年早えな」
そう笑った男は、明日、そう言った自分をどう思うのだろう。
なぜなら、目の前からパムの姿が消えたからだ。
身を沈みこませ、一瞬で男の足元に滑り込み剣を揮う。
「いてぇぇ」
男が転げまわって叫ぶ。
足首から血しぶきが立っていた。
最初に男の軸足である左足首。
その次は利き腕らしき右手首。
パムの剣は無造作に見えるほど迅く、狙いすました場所を斬り捨てた。
男が転げまわる度に、脈動に合わせてしゅぱっしゅぱっと血しぶきが飛び散る。
どうやらどこか太い血管を斬ったようだ。
あっという間に、転げまわる男とその周辺は血塗れになっていく。
「警告はしましたよ。腱を浅く切りました。今すぐ医者に繋いで貰えば歩けるようにもなるし、ナイフとフォークくらいは持てるようになるでしょう」
転げまわりながらも恨めし気にパムを睨みつける男に、言い捨てる。
「何度でもいいますが、警告はしました。そしてこれは試合ではありません。公爵邸に仇をなし、客人へ暴虐を揮うと宣言した悪漢への処罰です。試合の様に開始の声が掛かるとでも思いましたか?」
面白くなさそうにパムは剣から血を振り払った。
ただし、鞘には戻さず、構えも崩さない。
転げまわる男から、目も離さない。
「どうぞお帰りを。このことは追って正式に、フェラン国からザコーバ公国へ抗議致します。そのおつもりでいて下さい」
真っ青な顔になった公女がガクガクと顔を上下に動かすのを確認して、ようやくその構えを解いた。
パムは侍女に向かって視線を移し、それだけでここの始末と医者へ連絡をとるよう指示を出した。
「すみません。せっかくのお茶会でしたのに、こんなに汚してしまいました」
固い顔をしたパムが離れたところから謝罪する声がした。
お茶会の会場を、血塗れにしてしまったことを恥じているらしい。
見まわせば、大輪の薔薇の咲く庭の地面に男の流した血によって、歪で血生臭い薔薇が描き足され猟奇的な場所と化していた。
確かに、普通の令嬢なら卒倒しているだろう。
それでも、その身に返り血を浴びてないことの方が、クリスには奇跡のように尊く思えた。
「あなたの一日を戴く約束をして貰えて嬉しかったのに。なのに、怖い思いをさせてしまって申し訳ない」
がばっと腰を深く折って謝罪した後、そのまま走って逃げようとしたパムに必死で追いすがる。
パムのせいじゃないのに。クリスのせいなのに。
クリスを守る為に、パムはあんな大人の兵士に立ち向かってくれたのだ。だから。
後ろから抱き着くように、追い縋った。追い付けたことにホッとする。
「守ってくださって、ありがとうございます。パム」
ここで離したら、二度と会って貰えない、そんな気がしたから懸命にお礼を伝えた。
パムは何度も口を開いては閉じを繰り返し逡巡した後、ようやく震える声を絞り出した。
「…ティナ嬢は、私が怖くはないのですか?」
「怖い? どこがでしょうか」
抱きしめたパムの腰が思った以上に細くて、自分の手に重ねた手指の細さと柔らかさに驚く。マメは確かにあるけれど、全体的に細くて小さなパムの手は温かくて、ずっと触っていたいと思った。
あんなに強いのに。
どれだけ剣を振れば、あんなに強くなれるのだろう。
「…気が付かれていないようですが、私は…わたしは、その、おんな、なのです。でも、人を斬ることに躊躇いがないんです、私は」
え?
「女だということは、ティナ嬢のお父様へは話を通してあります。もっとも、こちらから申告する前に知っていらしたようでしたけれど」
そんな馬鹿な。クリスは一切聞かされていないのに。というか、その申告を受けても自分がクリストファーだということは秘密のままなのか。
ここで、自分も男だとパムに告げられたらいいのに。
帰ったら、お父様にお願いしてみよう。
そう決心した時、男の自分がご令嬢の腰に抱き着いて、その手の温かい感触に甘えていたことに気が付いた。慌てて離れる。
でももっと繋いでいたい。
ずっと繋いでいたいと願うこの気持ちの名前はなんというのだろう。
それを確かめたくて、もっとパムの近くに行きたくなった。
「パム。えっと愛称ではないお名前をお聞きしても?」
「パメラ。パメラ・カーライルです」
下を向いたままのパメラの手を取り、身を屈めて視線を合わせる。
「パメラ、ありがとう。私を守ってくださってありがとうございます。私の騎士様」
上手に伝えられただろうか。この私の感謝の気持ちを。
この、不思議な胸のときめきを。
「ティナ嬢…」
「どうぞ、クリスとお呼びください。他の方の前ではあれですけど、二人の時だけは、クリスと貴女に呼んで欲しい」
パメラ。パメラ・カーライル。私の騎士様。誰よりも強くて綺麗な私の騎士。
「クリス」
「パメラ」
お互いに手を繋いで名前を呼び合う。何度も。何度も。
それは侍女が「サロンにお茶を用意し直しました」と声を掛けに来るまでずっと続いた。
侍女に促され、上着だけでもと着替えて顔を洗ってきたパムと一緒にサロンへと移動する。
新しく淹れて貰ったお茶は、先ほど話題にしていた果物入りのお茶だった。
柑橘系の華やかな香りのするお茶を配りながら、侍女がパムに駄目出しをしていた。
「ご令嬢の前であんなに血を見せるなんて。
無力化させるだけなら、もっとやりようが有った筈ですよ、パム様?」
そのお小言を言いながら、侍女の視線がさりげなくクリスにも向けられて身が竦む。守られるだけで何もできなった自分が情けない。
「体格差もあったけど、あの近衛の腕は確かだった。
短期決戦の為には必要かと思ったんだけど。
でもそうだね。無血で無力化できる方法を、私は覚えた方がいいね」
そう、クリスの目をしっかりと見たパムがいうから、なんだか気恥ずかしくなって顔が熱くなっていくのが判る。
その様子を、侍女たちが微笑ましく見ていたことに気が付いていないのは、中心にいる2人だけだった。
配られたカップはガラス製で、中に沈むオレンジや林檎やレモンが目に楽しい。
「美味しい」
カップを持ち上げるだけで柑橘系のさわやかな香りがして、口に含むと豊潤な果物の味と香りが口の中に広がる。
「これはいいですね」
初めての味わいに共に目を見張り、そっと視線を交わし合い、微笑みあう。
すごく楽しくて幸せな気分だった。が、クリスには、自分の視界に入った己の身体の線の細さが悔しかった。
「…パメラは強くて凄いですね」
いつまで経っても少女のようだといわれる自分。
今こうしていても、パメラは自分が女だと信じて疑っていない。
本当なら、自分がパメラを守りたい、そう思う。
「…私は、強い人が好きです。だから自分もそうありたいと思います」
やっぱり。パメラ以上に強くなければ、きっと横に立つ人にはなれないのだろう。
少しでも鍛えようとすると、すぐに熱を出してしまう、虚弱な自分の体質がクリスはこの時ほど恨めしいと思ったことはなかった。
父も同じ体質だ。なので誰よりも健康な女性をと母を望んだそうだが、それが自分に遺伝することはなかった。
「でも、強さとはなんでしょうね」
ゆっくりと、紅茶のカップの底を見つめながら、パメラが一つ一つの言葉を選びながら話し続ける。
「少女と言われる年齢でありながら、刃引きをしていない剣を手に大の大人を血塗れにすることができる、できてしまう私に、畏れることなく守られてくれる、あなたという存在は、十分すぎるほどお強い」
その昏い瞳には、いま、何が映っているのだろう。
誰に何を言われたことを思いだしているのか。
パメラにそんな瞳をさせたヤツを殴りたい。クリスは初めて自分が暴力的な考えを持ったことに衝撃を受けた。
「守らせてくれて、ありがとうございます」
儚く笑うパメラの心を全部自分が守りたい。だから、
「守ってもらってありがとうというのが普通です。なのでありがとうを伝えるのは私の筈ですよ、パメラ」
そう、少しでもパメラを笑顔にしたくて、おどけて返した。
「強さというのは武力だけじゃないと思うんです。あ、このチョコレート、本当に美味しいですね」
ぽいっと私が持ってきたチョコレートを口に放り込みながら、先ほど、不用意に自分の弱さを晒してしまったことを恥じているのか、少し早口になってパメラが話を繋げる。
柑橘系のお茶とチョコレートの相性は抜群で、いくらでも食べてしまいそうだ。
「でしょう? 絶対にこの果物茶と合うと思ったんですよ。
で、武力以外の強さって何でしょう?」
財力…もそうだとは思うが、パメラには似合わない。
クリスがいつか継ぐことになる予定のシュトーフェル皇国は今現在は豊かで強国といわれている。でもそれだって絶対じゃない。
油断していたら、いつかその地位から蹴落とされ失ってしまうだろう。
いつか、パメラを国へ迎え入れることが出来るなら。
その日がくることを望むなら、国を今よりずっと豊かにしないといけない。
「知力とか、まぁ財力もですけど、他にもいろいろあると思うんです。
発想力も大切だし、理解力とか、計算力とか。あれ、これ全部知力の範囲内ですかね、これ」
あはは、と笑ってパメラは続ける。
「軍事だって、智将と言われる人が立てる戦略がなければ勝てる戦も勝てない。
総力で優っていても、知略で負けてしまうこともある。
強さというのは、人其々。一概には言えないものだと思っています」
これは…慰められているのだろうか。
「武力ではない、女性には女性の、その人なりの強さがあっていいと思うのです。
こんな私がいうのもあれですけどね」
そうパメラが笑っていうから、私も笑っておくことにする。
でも。
そうか。知略か。勉強だったら得意だ。それなら私も、世に名を知らしめす強者になれるかもしれない。
「いつか、私の国に来て下さいますか?」
帰り道の馬車の中でそう強請る。甘えている自覚はある。
まだ自分が何者なのかも白状していない癖にと自嘲する思いもある。
それでもクリスは、パメラが欲しいと強く希わずにはいられなかった。
「喜んで。クリスが呼んでくれるなら、どこへでも行きますよ」
そうパメラが微笑んでくれるから、クリスは嬉しくなって更に甘えたくなったのだ。
「絶対に。約束ですよ? 私の国に来てくださいね」
『帰ったら、お父様にパメラにだけはティナの正体を告げたいとお願いしよう。クリストファーの話を、ちゃんと自分でパメラには話したい。パメラとの関係を本物にしたい』
そう心に誓ったのに。
お父様が帰った時には、カーライル公爵邸がザコーバ公国の手の者により急襲されたことが筒抜けになっていたのだった。
その理由がクリストファー自身にあったことも。
どこからクリスの情報が漏れたのか、それも不明のままだったし、国際会議自体はまだ続いていたけれど、その日のうちにクリスだけ先に自国へと帰されることになってしまった。
別れも告げられないまま、クリスはパメラの元を去る。
本名も、性別も、なにも告げられていない。
そんな自分が悔しかった。
あれから7年か。
長いようで、短いようで、やっぱり会えなかった月日の長さは辛かった。
それでも、いつか自分がパメラの横に立てる資格を得る為の努力をしていると思うと、それだけで頑張れた。
だからあの日、婚約者に望む相手として、胸を張って答えられたのだ。
「フェラン国公爵令嬢たるパメラ・カーライル嬢」その名前を。
──また女装させられたのには、吃驚したけど。
顔合わせで会った時の反応も、今思い出しても笑ってしまう。
やられた。
本気でそう思ったのだから。
「クリス。なんで今この時にそんな変な顔して笑っているんですか?」
愛しい人の少し怒ったようなその声にハッとすれば、すでに教皇の祝いの言葉も終わり近くなっていた。
「つい。パメラに婚約の申し込みに行った時の事を思い出してました」
パメラは一瞬、嫌そうな顔をして肘で突いてきた。
「あれはアナタが悪いんですよ、ティナ」
よりによって今その名前で呼ぶとかないと思う。
なのでクリスも肘で突き返す。
「なんでその愛称で呼ぶの? パムにだけはクリスって呼んで欲しいって言ったでしょう」
「クリスがいけないんでしょう? いきなり私の前から姿を消すから」
急に帰ったって聞いて泣いちゃったんだからね、なんて。
拗ねた顔したパメラがいけないんだ。可愛すぎて息が止まった。
おもわず教皇の言葉なんかどうでもよくなった。
「パメラ。好き。愛してる」
ぶほぉっ。と、前から噴き出す声がしたけど、きっと気のせいだろう。
「えー。愛し合う二人の前には神の祈りは長すぎたようですな」
やっぱり気のせいじゃなかったようだ。苦笑した教皇様に、誓いの言葉を促された。
「シュトーフェル皇国皇太子クリストファー・アップルフェル・シュトゥルーデルは、ここにフェラン国公爵令嬢パメラ・カーライルとの永遠に続く縁を望む。その約定としてこの指輪を贈る」
そっと、教皇様が差し出したトレイから金の台に埋め込まれた金色の真珠の指輪を取り上げパメラの指にそっと嵌める。
「フェラン国公爵令嬢パメラ・カーライルは、ここにシュトーフェル皇国皇太子クリストファー・アップルフェル・シュトゥルーデルとの永遠に続く縁を望む。その約定としてこの指輪を贈る」
パメラも、震える指で金の台に埋め込まれたブルーダイヤモンドの指輪を持ち上げ、少し時間が掛かりながらもなんとかクリスの指に嵌めることに成功した。
幼い恋でしかなかったクリスの恋は、この日この時をもって、永遠へと続く本物の恋と認められたのだった。
ただし、本人たちにはそんなことはどうでも良かった。
お互いの傍にいる資格ができた。資格を認められた。ただそれが嬉しかった。
「愛してるよ、パメラ。2年なんて言わないで、もっと早くお嫁にきてくれたらいいのに」
「愛しているわ、クリス。すでに7年経つのよ、あと2年待ったって大したことないわ。正式な婚約者として恋人の時間を楽しみましょう?」
その言葉の意味がクリスに伝わるまで、たっぷり30秒は掛かっただろうか。
「え? 7年って。それって、あの? え、パメラ?」
慌てふためいて今の言葉の意味を確認しようとするクリスに、パメラは笑うばかりで答えようとはしなかった。
「今ここに、大いなる神がこの二人を永遠に続く縁を求め合う者としてお認めになられました」
美しく荘厳なステンドグラスから差す、いろとりどりの光が神の祝福として降り注ぐ中、教皇からの厳かな宣告を受け、ようやく迎えることができたこの瞬間を二人は幸せな笑顔で見つめ合い喜んだ。
「2年後の婚姻式も、楽しみにしておりますよ」
教皇様の声に一層大きな歓声と拍手が湧き上がる。
クリスとパメラの二人の姿が寄り沿い重なる。
二人を祝う拍手と歓声が鳴り響く中、いつまでもそれは続いた。
このお話を読んだ後に、第一話を読み直して戴くと
パメラはんの浮かれっぷりを堪能していただけるかもv