第4話:創造神
光が徐々に弱くなり、視界がはっきりとしてくる。
光がなくなっても、視界は白いままだった。
単純に眩しさが無くなっただけのようで、依然として状況が飲み込めない。
「ようこそ、ボクの世界へ」
突然背後から声がし、ゆっくりと振り返る。
そこには、八歳くらいの少年が立っていた。
「ボクは男でも女でもないから安心してほしい」
不安と恐怖を抱えて見ていると、心を読んだかのように言われた。
「あ、心なんて読めないからね? キミの誕生から最後まで見ていたから言ったにすぎない」
「そう……ですか……」
「さて、今の状況を簡単に説明すると、死んだキミをボクの世界に呼んだ」
「…………それだけ……ですか……?」
「簡潔だろう?」
ニコニコと満面の笑顔を浮かべ、さも完璧と言わんばかりに腕を組んでいる。
簡潔すぎて何一つ分からない。
「え……あの……何故呼ばれたんでしょうか……?」
「死んだから?」
「はあ……」
「……あ、そういうこと? 目的ってこと?」
「え、あ、はい……」
「なーんだ、そうならそうとはやく言ってよー」
この人はいったいなんなんだろうか。
恐怖心よりも不安感が満ちていく。
「随分昔に地球の神と賭けをしてね、ボクが勝ったら地球から誰かくれって話でさ」
「……賭けの……対象……」
「正確には地球の人類から無作為に選ばれた『誰か』が対象ってだけで、『キミ』が対象だったわけではないんだ」
「…………」
変な人に捕まった気がしてジト目になる。
さすがに理由がちょっと……。
「とは言え、何の意味もなくそんな賭けをしたわけではないんだ」
突然真面目な顔になり、少したじろぐ。
「ボクの作った世界はちょっとした停滞を迎えていてね、発展を後押しできないかと思っていたんだ」
「どんな……その……世界……なんですか……?」
「キミの世界で言うところの、中世ヨーロッパに近いのかな? あーそうそう! キミが遊んでいた『ファンタシーゲート・オンライン』ってゲームが一番近いかもしれない!」
「えっ……」
「剣と魔法あるし、モンスター居るし、スキルが重要だし、なにより街並みとか技術水準はほぼドンピシャだ!」
「それって……PGOの世界……ってことですか……?」
「いや? まったく?」
「あ、はい……」
もしそうならとワクワクドキドキしたのも束の間、バッサリと否定されてしまった。
なんだよ……せっかく久しぶりにテンションマックスだったのに……。
「要望は『料理、娯楽、科学、技術を押し上げる』って感じかな」
「知識は……そんなには……」
「大丈夫! 何のサポートも無く送り込もうなんて思ってないから!」
そう言って指をパチンと鳴らすと、少年の手元に木のプレートとチョークのような物が現れる。
それを持って空中に腰掛ける。
「キミが望む物を与えようと思う。まあ、ボクの力を超えるような物は無理だけどね」
「どれくらい……貰えるん……でしょうか……」
「思いついただけ言ってみてよ。ダメならダメっていうし、多ければ妥協してもらうからさ」
ニッと白い歯を見せて笑うと、八歳の少年らしい雰囲気で漂う。
……いや、八歳かどうかは知らないけども。
それから時間をかけて要望を伝え、あーでもないこーでもないと話をした。
気が付けば緊張や恐怖、不安が薄れ、ごく自然に話す事ができるようになっていた。
「じゃあこんな感じでいいかな? 要望だけじゃなくてスキルもすごい量あるけど、まぁ大丈夫でしょ♪」
「はい……」
「さて、決めるべき事は決めたし、そろそろ転生してもらおうかな」
そういうと同時に、足元に黄色に輝く魔法陣がスーッと現れる。
ゆっくりゆっくりと光が強くなっていく。
「もし地球での人生に後悔が残ってるならさ、次の人生では同じ思いをしないよう頑張ってみてよ。母親の事とか、死んだ大本の原因の事とかさ……ボクの依頼遂行は絶対だけど、他は何してくれても良いし、悔いのない人生を送ってほしい」
「……はい……ありがとう……ございます……」
涙が溢れてきた。
何かが許されたわけではない。
過ちが帳消しになったわけでもない。
それでも、神様の言葉は心の奥底に突き刺さった。
「あの……お名前を……」
「ボク? ボクは【創造神 シャルルァンヌ】。何故か豊乳と畜産の神として崇めてる変な街があるけど、もし行く事があっても間違えないでね?」
なんとも言えない苦笑いを浮かべ、後頭部を掻く姿は本当に困っている様子だった。
「シャルルァンヌ様……ありがとう……毎日……拝みます……」
「はははっ♪ よし、オマケだ! ボクの加護を与えておくから、安心して暮らしてくれ!」
シャルルァンヌがパタパタと手を振ると、視界が揺れて意識が遠のいていく。
そして、暗闇に包まれてから暫くすると、不意に誰かに抱きかかえられた。
「お前の名前は【シャルル】だ!」
変な街ですね?