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さよならサボテン  作者: 嗚呼三三
1/1

ろくでなし男と霊感少女

初投稿です。感情を無にして読むことをお勧めします。

 高校時代の同級生が死んだ。

 一年生の時に同じクラスで、数回しか喋ったことはなかった。

 SNS上で同級生たちは騒いだ。皆あいつのことを口々に喋っていた。

 だが、次の日はあいつの話題はなくなり、再び平穏な日常に戻った。

 ざまあ見ろ。お前の価値はそれだけだった。


 大学進学とともに家を出た。大学近くのボロアパートの部屋を借りて大学生活を満喫すること1年。七七二郎は退学届けを提出し、荷物をまとめて実家に舞い戻って来た。アパートから電車で1時間、バスで2時間、徒歩で30分の場所にある実家に、半日かけて帰って来た。

 二郎はパンパンに荷物を詰め込んだボストンバッグを肩に下げ、実家の玄関前に立ち尽くした。玄関の鍵はデニムの尻ポケットに突っ込んでいる財布の中にある。しかし、二郎は家の中に入れず、じっと突っ立っている。

 理由は2つ。1つ目は親に無断で大学を辞めたから。高校を卒業したら就職すると言っていたのを直前で変更し大学に入学したにも関わらず、1年で辞めて帰って来た。合わせる顔がないとは、まさにこのこと。

 2つ目は玄関の前で、膝を抱えて寝ている少女の存在を無視できるほどの神経を持ち合わせていないから。

 1つ目に関しては親に土下座をする予定だった。元より恥もプライドも持ち合わせていない。ろくでなしの息子を持って可哀そうだな、と他人事のように考える程度には、中退の件は気にしていない。

 2つ目は予定外、予想外、常識外れ。

 「おい、嬢ちゃん」

 重たいバックを足元に落とし、玄関の階段で丸まっている少女の肩を揺らす。染めたこともないような真っ黒な長い髪が振動でサラサラと散らばる。

 「起きろよ」

 「ん・・・」

 揺らし続けていると、ゆっくりと顔が上がる。

 「朝子、さん?」

 少女は二郎の母親の名前を呼んだ。

 「母さんの知り合いか」

 「・・・!?」

 微睡む目を瞬かせていた少女は、二郎の声を聞いて目を見開いた。飛び上がり、機敏な動きで二郎から距離を取った。

 「だ、誰よ」

 少女は学生鞄を盾にするように前に出し、二郎を睨む。しかし、二郎が動くたびにびくびくと身体を震わし、少しずつ後ろにさがって行く。

 制服を見るに、地元の私立中学校の生徒だ。紺色のセーラー服に赤いタイ。襟の白いラインが3本あるのが特徴だ。

 どうしたものか。扉の前から邪魔ものはいなくなったし、このまま放置してもいい。しかし、母の知り合いとなると、後で怒られるのは確実だ。

 「・・・俺は朝子の息子だ」

 取り合えず少女の警戒を解こうと喋りかけてみる。

 「息子?・・・晴香さん?」

 「それは兄貴。俺は次男」

 長男の名前を出てきて、二郎は思わず顔を顰める。二郎と長男の晴香は仲がよろしくない。名前を聞くだけで顔を顰める程度にはお互い嫌っている。

 少女は二郎が顔を顰めたことを怒ったのだと勘違いし、ビクッと大きく肩を震わした。

 「あー・・・俺は七七二郎。嬢ちゃんの名前は?」

 「・・・九条院、のばら」

 「えぇ・・・」

 二郎は思わず面倒くさいと舌を出した。その反応に少女はつり気味の目と眉を吊り上げた。二郎のような反応をされるのは初めてではないのだろう。それもそのはずだ。九条院はこの島で一番大きな病院の院長の名前だ。所謂、権力者だ。

 「朝子さんの息子のくせに・・・」

 恨みがましく呟いた少女に、今度は二郎も眉を寄せた。

 「俺に何を期待してんのか知らねぇが、俺はどこにでもいる平凡な男だぞ」

 「・・・」

 少女は口を閉じて俯いた。二郎は居なくなってくれない少女をどうすべきかと頭を捻る。少女が外で寝ていたということは今家には母はいないのだろう。今は昼過ぎだ。父はまだ職場だ。弟は学校に行っているはずだ。無人の家に中学生を入れてもいいのだろうか。

 「・・・はぁ」

 数秒ほど考え、二郎は大きなため息を吐き、玄関の戸を開けた。少女が音に反応してちらっと視線だけを上げる。

 「入れよ」

 言うだけは言ったぞ、と二郎は先々と家に入る。二郎としては放置しなかったという事実だけあればいいのだ。見ず知らずの男に付いて来ないだろうと、高を括る。重たいバッグを上がりたてに放り投げ、リビングに足を向ける。

 「お邪魔、します」

 「え・・・」

 リビングの戸を開けたところで、後ろの玄関の戸も開いた。入って来た少女は軽く頭を下げ、靴を脱ぐ。何故入ってくるんだ、と二郎は隠さず嫌な顔をする。

 「知らない男に付いて来るなよ」

 「・・・でも、家の鍵持ってたし、それに」

 少女は黒い大きな目で二郎を見つめる。二郎は脱色して傷みに傷んだ髪の毛をかきあげる。

 「・・・それに?」

 続かない言葉に痺れを切らし、続きを促す。少女はもごもごと口を動かし、目を逸らしながら言った。

 「あんたに付いてる霊が、付いて来いって・・・」

 続いた想像以上の言葉に、二郎は反応に困った。何を言っているんだ、と今度は二郎が少女を警戒した。

 「・・・なに、霊感少女的な?」

 「う、嘘じゃないわよ! 朝子さんだって信じてくれたわ」

 「・・・さっきも言ったけど、俺に母さんと同じことを期待すんなよ」

 「・・・」

 また黙り込んだ少女にため息は止まらない。いい加減にしてくれ、早く帰ってくれ。そればかりを願っているが、少女はいっこうに聞いてくれない。

 「・・・もう、分かったよ!」

 二郎はばたんと荒々しくリビングの戸を開けた。負けたのは二郎だった。


 リビングのソファに座った少女の前に椅子を持ってきて座る。少女は出されたコーヒーには手を付けず、じっと二郎の目を見つめている。

 「嬢ちゃんと母さんはどういう関係なの」

 「・・・怪我してるところを、助けてもらって・・・それから相談とかによく乗ってもらってる」

 流石お節介ババア。面倒な家の娘によく関わろうと思ったな、と二郎は鼻で笑った。

 「で、九条院のお嬢様は霊感でもあんのかい」

 「・・・その、馬鹿にした呼び方やめてよ」

 「なんて呼べばいいんだよ」

 「・・・・・・二郎って呼ぶから、のばらって呼んで」

 呼び捨てかよ、と突っ込みたかったが、どうせ短い付き合いだ。母が帰ってきさえすれば、この少女と関わる必要もなくなる。

 「分かった。のばらは、霊が見えるのか」

 「・・・ええ。そのせいで親にも疎まれて家にも帰れないわ」

 面倒くさい。速攻お帰り頂きたい。帰れ、帰れ、帰れ・・・。

 「じゃあ、俺に憑いてる霊はどんなやつなんだ?」

 付いて来いと言った霊はどこのどいつなんだと問うと、少女はじっと目を凝らした。そして、ピッと人差し指を二郎の後ろを指さして、声高らかに言った。

 「血まみれの男よ」




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