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epi-1




家から走って、今日から三年間新しく通う事になる学園に到着した。

周囲には同じように制服を着た女の子たちが校舎へ歩いていく。

一年生の子たちも期待を膨らませている感じで、その初々しさは華やかに感じた。

聖ブリランテ騎士女学園。

王都ルフトリアに存在するその女学園はかなり古い学園らしい。

騎士女学園といっても、別に騎士の訓練を実際に受けるわけではない。

数百年前に存在した騎士教育機関の名残であり、大規模な戦争が行われなくなった後には騎士教育も廃止された。

平和になったから、というよりは竜騎士や錬金術師の育成により魔法少女の手助けがそこまで必要にはならなくなったからだ。

女学園の事はともかくとして、アリスはその校舎へ入っていく。

その折にアリスはふと、銀色の髪の少女を見た。彼女はとても綺麗で、同じ一年生のようだった。

話しかけたかったが、それも空しく彼女は先に校舎へ入って行ってしまった。



アリス・マルテルはその後、そのすれ違った女の子を見かけた事は無かった。

一年のリボンをつけていたのですぐにわかる筈なのだが、アリスはその少女に会いたいとずっと思っていた。

一週間たって、昼休みに友達と夕食を共にしている時もアリスはその少女を探していたのだった。

「ねぇアリス。さっきから誰を探してるの?」

ファナとテオデリンデは、アリスを気にしているようだった。

1-3のクラスで一緒になった三人は毎日食堂でご飯を食べている。

「えっと。入学式の時に見なかった?綺麗な銀髪の女の子なんだけど。」

「銀髪?うーん。それだけじゃ誰の事か分からないけど。」

ファナは首をかしげる。銀髪の少女はそれほど珍しいわけでもないので、すぐに個人を特定するのは難しい。

「どういう子だったの?」

テオデはアリスに聞いてみる。

「えっと。綺麗で、とても頭がよさそうな子かな。確かに居たはずなんだけど。あの子を見ればすぐにわかるはず。」

「そう。アリスちゃんが言うのなら物凄くかわいい子なのね。」

「うん。きっと物凄い子なんだと思う。」

アリスは目を光らせていたが、ファナは不明瞭な情報なのでよく理解できていなかった。

「で、その子を今探しているけど見つからない。きっと幽霊だね。」

ウインクをしてみるが、ファナの冗談をアリスは本気にしていたようだった。

「嘘、私幽霊見たの!?」

「いや冗談だから。そんなにきれいな子なら、すぐに話題になりそうなんだけど。ねぇテオデ、銀色の髪の子はどれぐらいいる?」

「学校には結構いるけど。髪の明るさは分かる?」

「えっと、凄く明るかった。まさに銀って感じ。」

「そう。水色はかかっていない?」

「うん。」

「髪の長さはどれぐらい?」

「腰まであるよ。」

テオデはアリスにいくつか質問をして目を閉じた。

数秒後、彼女は目を開ける。

「彼女の影は見当たりませんね。」

「食堂には居ないの?」

テオデリンデが得意な魔法の内、自分の周囲に存在する人間を特定する能力がある。

心眼術というらしいが、その魔法で先ほどテオデリンデは探したようだ。

「はい。もっと範囲を広げたいけど、流石に感づかれて怒られるわね。」

「男子が居なくてよかったねー。絶対変な魔法使ってるって。」

「あ、あのファナ。変な魔法って・・」

「透視とか、テオデなら楽勝でしょう?」

「私を一体どういう目で見ているの貴方は。いい?透視といっても、魔法を使う事によってその人間は周囲に異常をまき散らすの。特に視覚系の魔術を外で使う人はほぼ100パーセント不審者にしか見えないんだから。」

「私は、目がぴかーって光って綺麗だと思うけど。」

アリスは綺麗だと言っていたが、テオデにとっては何か悪いことをしている人間にしか見えないようだ。

「でも透視ってばれないんじゃないの?」

「ばれます。貴方、一体ここに来てなんの勉強をしてきたの?」

「あははは。まほーって難しいよねー。」

「ファナ、貴方は・・。」

ファナは居眠りをすることが多く、よく先生に叱られることが多い。

アリスは一応起きているが、たまに寝てしまいそうになって仕方が無かった。

「で、なんでばれないのかな。」

「あ、アリスも聞いてなかったの?初歩の魔法よ?」

「初歩っていっても難しいもん。」

ファナはもりもりとうどんを食べながら初歩魔術に対する愚痴を言った。

「仕方が無いからここで説明してあげるわね。」

「えー。何で先生ぶるのさ。」

「透視魔術は基本的に見る相手への魔力投射を起こす。普通に世界を見る時は光を目で受け入れる物ですが、透視魔術はその逆の事をしているわ。だから、魔力投射を感じれば自分は何をされているのかすぐに分かるの。私がさっきやったのは空間に存在する人間の影を意識に取り込む魔法だから、誰にも感づかれずに容姿を判断できた。それぐらいは分かるでしょう?」

「うーん。大体は。でも、微弱な魔力ならそう分からないはずだけど?」

「いえ。服を透過するレベルなら気付かれるし、カバンの中身を見ようとしてもその異常性は分かるものなの。魔力はそれを知る人間であれば隠すのは難しいし、それをいやらしい方法に使おうとすればどうなるか・・。」

「つまり、テオデは使った事あるの?人に対して?」

「出来心で人の持ち物の中身を見ようとしたのですが。その中身は自分にだけでなく他人にも見えてしまいましたから。」

アリスとファナは首をかしげた。

「え?どういうこと?」

「透視魔術といっても、純粋に自分にだけ有利には働くことは少ないから。そうね。じゃぁ、まずこのパンの中身を透視するわ。」

テオデは手に持ったパンを透視する。すると、他の二人にもそのパンの中身がクリームだと理解できてしまった。

「魔力を投射する方法だと、どうしてもその魔力によって透過された部分は他の人にも見えてしまう。というのは、その魔力事態は普通の魔術師であれば他の人にも見えてしまうの。」

「すごーい。本当に見えた。」

「自分だけじゃなくて他人にも見えてしまうのは難点だけど。これってつまり私たちはテオデが投射した魔力を私たちも感じ取ってるってこと?」

「はい。だから、基本的には魔法は人に隠して行うことは難しい。魔術師の行動は他の魔術師に筒抜けなので、町の中で魔法を使う事は基本的にはマナー違反になるの。」

その魔力事態が常時いい事を起こすわけでもないし、例え普通の魔力だけでも周囲に異常をきたす場合もある。

アリスが勉強した限りでは、魔術師が持つ魔力は存在しているだけでも危険な魔物を生み出す原因になるらしい。

「じゃぁ、誰も居ない所で透視してみよう。」

「ファナ、もし悪戯でもそういうことをしたら承知しないわよ。」

「はいはい。」

「クリームパン、テオデはよく食べてるよね。」

「えぇ。」

「そういえば、基本的にこの学園の学食って何でもあるよね。極東の料理まであるし。」

「かなり遠い所にある国の料理なんだよね。何であるのかな。」

「さぁ。私はよく知らないけど、多分この食堂の料理人は色々なところを旅してきたんじゃないかしら。」

「旅をして料理の知識を得たの?」

「でも、極東ってかなり遠いんだよ?普通に行商人の通路を全速力で馬で走っても、往復するだけで私たち卒業しちゃいそうだし。」

「卒業は無いと思うけど。」

「絶対3年はかかるって。途中で魔物に遭ったら恐らくそれだけで時間とられるし。」

「そうね。ドラゴンに乗って行けば、多分大丈夫だと思うけど。途中で野良ドラゴンに遭ったら危険だもの。」

「極東の人がこの学園の食堂にメニューを追加させたんじゃないかな。」

「それなら、まぁ現実としてありそうだけど。」

「うどんはともかく、あの紫肉まんってなんだろう。おいしいかな。」

「あれは殷修という国の料理よ。うどんの方は飛鳥という国の料理。」

「ふーん。」

「紫肉まんの方は、基本的におすすめしないわ。」

「あれ?食べたの?」

「謎の肉が入って居て、味はそこまで大したことないのだけれど。匂いが独自なのよね。一体何を入れていたのかしら。」

「さぁ。え?味は大したことないんでしょ?」

「材料が・・何でもないわ。食べたいのなら好きにどうぞ。」

「明日たのもっかなー。」



アリスは放課後、学校の中を歩いていた。

特に何かしたいわけでもないが、広い校舎を歩くことでもわりと好奇心は満たされる。

「あれ?」

アリスは窓から見える馬上槍試合用の広場で、その試合が行われていることに気づく。

銀と黒。派手な鎧を身に着けた少女が突撃し、お互いに槍を突き合う。

その衝撃は重く、銀の騎士は黒の騎士を落馬させることに成功した。

風流なその試合は騎士学校の名残らしいが、今でもそのジョストはこの学園で行われている。

試合が終わったのか、銀騎士は兜を脱いだ。

そして、銀色の髪が見える。

確かに、あの少女は入学式に会った少女だ。いや、一方的に見たというほうが正しいだろうけど。

「あの子が・・。」

とても綺麗な光景だった。アリスはその少女に見とれてしまったまま動かない。

「ジョストが気になる?」

「はい。ってうわぁ!?」

かなり近くに人が立って居た。

「ごめんごめん。驚かせるつもりは無かったよ。あの試合に興味がありそうだから、ついね。」

「は、はい。えっと、あれ部活なんですか?」

「いや。ジョスト等の本格的な騎士の訓練は部活には認められていないよ。怪我もするからね。」

「じゃぁ、何であの子たちはジョストをしていたんですか?」

「決闘だよ。」

「え?」

「アーシャ・ギヨームとセリーヌ・ルシーは7度目の決闘をしていて、今日までアーシャによる連勝が起きている。今の所セリーヌは今日が最後と思っていたけれど、やはりアーシャは強いね。」

「あの。銀髪の子がアーシャ、ですか?」

「そう。一年生だけど、剣術やジョストの腕前は一流。もし一昔前のブリランテであれば騎士の名誉を受けてもおかしくないらしい。」

「そんな凄い子なんですか!?」

「今では、剣術やジョストの腕前もギルド関係以外ではあまり評価されないけどね。彼女たちは何等かの理由で突然決闘を始めて、一週間連続で放課後に決闘しているけど。知らなかった?」

「知りませんでした。」

「彼女・・アーシャは不登校児でね。」

「え?」

「ブリランテに入学式に来た後、やっぱりいいやって謎のドロップアウトをしでかして。彼女の友人であるセリーヌに決闘を申し込まれ学校の広場を借りてジョストをしているんだ。セリーヌもおかしいけれど、あのアーシャの腕前も中々だから一部の関係者の中では少女騎士の再来とかもてはやされている。」

「アーシャ、どうして不登校なんですか?」

「さあね。それは本人に聞かないと。」


三年生のメリルと別れ、アリスはアーシャの元へ走っていく。

話せるかどうかは分からないけれど、会って話してみたいというのは本当の気持ちだった。

「馬さん、結構大きい・・。あ、居た。」

「誰・・?」

「えっと。入学式の時にすれ違ったよね?」

「覚えてない。」

「そ、そう。」

「貴方も、セリーヌのように説教しにきたの?」

「せ、説教なんてしないよ。ただ、何で学校に来ないのか、聞きたいだけで。」

「学校なんで成績だけ出せば必要のない場所じゃない。」

「・・・。」

私はその成績すらギリギリなんだけど、とアリスは頭を悩ませた。

「私には必要ない。そう思っていたけど、セリーヌは突然家まで押しかけてきて、白い手袋を顔に投げつけて来たから。仕方なく付き合ってあげた。貴方は・・どうしたいの?」

「え?私は、その。貴方と、友達になりたいなーなんて。」

「友達なんていらない・・。」

「アーシャは、人が嫌いなの?」

「そうね。私は基本的に自分が生きていればいいから。」

「そんな寂しい事を・・どうして。」

「寂しいんじゃない。貴方たちと違って私はちゃんとギルドの中で生きていたいから。適当にピクニック気分で魔物退治をしている貴方たちとは違う。」

学園は騎士の訓練を科目から排除した代わりとして、ギルド関係の仕事の勉強を実施していた。

多分アーシャは、その実技の事を言っているのだろう。一か月に一度、実技試験として本物の魔物を討伐する試験がある。

人によっては確かに、その魔物を討伐するのを楽しんでいる感じではあるが。

「私たちは真面目に戦っているし、危険な真似もしてない。」

「そう。」

「貴方は、何になりたいの?」

「え?」

「何か高い目標があるのなら、私は貴方を別に責めたりはしないから。」

「そうね。私は彼のようになりたいだけだから。」

「え?」

「フレッド・マルテル。ギルドの任務をソロで行う剣士。私は彼のように強くなりたいという願望はあった。だから、別に学校の成績なんてなくても問題は無いの。」

「フレッド・・マルテル。私の、お兄ちゃん。」

「え?」

「うん。間違いない。私のお兄ちゃん、あの人になりたいんだ。」

「貴方は、名前は・・?」

「アリス・マルテル。」

「そう。妹が居たのね。」

「ねぇ。貴方はどうしてお兄ちゃんのようになりたいと思ったの?」

「強いから、では駄目?」

「それはそうだけど。もっと直接的な理由はあるの?」

「彼に、一度助けられたことがあるの。町の中に突然入りこんできた魔物に襲われそうになって、そこで偶然出会ったフレッドに助けられて・・。後でギルドの話を聞いた時、フレッドという剣士が物凄く強い人だって聞いたから。私もそうなりたいって思ったの。」

「物凄く強いのは知ってるけど。お兄ちゃん、女難の相があり過ぎ。」

「え?」

「何でもない。でも、それだったら学校に来た方がいいんじゃない?フレッドお兄ちゃんだって、自分のせいで不登校の女の子が出来ただなんて思いたくないもの。」

「そ、それは私の勝手・・でしょ?」

「アーシャ。私は貴方の友達にもなりたいし、お兄ちゃんのためにも少しは学校に来た方がいいとおもう。」

「・・・・貴方がフレッドの妹だというのなら・・。いいわ、一つ条件があるけど。」

「いいの?条件って何?」

「私と決闘なさい。アリス、私の気がすむまで私の戦いに付き合う事。いい?」

「はい?」

ちなみに、アリスの方はそこまで戦いの実践経験は無い。

剣術はある程度習得しているが、フレッドほどの剣術は無いしアーシャほど強くないことはすぐに分かることだった。

「私、強くないよ?フレッドお兄ちゃんが物凄く強いだけで!?」

「それは私が決めることよ。こっちに決闘場があるから、そこで戦いましょう。」

「なにそれ!?ちょっと誰か、助けてーー!?」


そして、無理やり決闘場へつれていかれたアリスはその場でできる限りの白兵戦を受けさせられた。

剣術、槍と盾の白兵戦、棒術、弓矢、クレイモア、そして格闘技。

夕方になるまで戦わされたが、ほぼ全てアリスの完敗に終わった。

「兄妹でもここまで差があるなんて・・。」

「鬼すぎるよ!?」

「でも、貴方の事をちょっとは知れた気がするわ。」

「せめて会話で知ってくれると嬉しいんだけど。」

肉弾戦をしないと相手の心理を理解できないタイプなんだろうか。

アーシャは物凄くさわやかだったが、アリスはボロボロの状態で苦笑いしていた。

「ところで、お兄様は貴方の実家に居るの?」

「お兄様!!?」

何でお兄様呼びなのか、アリスは理解不能になった。

「家には居ない。最近ギルドの仕事で忙しいから。」

「そう。きっと暗い森の奥で悍ましい魔物を狩っているのね。」

「何この子・・。」

ぽっと顔を赤らめているアーシャを見て、一瞬やっぱり彼女に話しかけるんじゃなかったと思ってしまった。

「さて。とりあえず、貴方の家の場所を聞いておきたいんだけど。」

「家まで来る気!?」

「お兄様はいつ帰ってくるの?」

「何時貴方のお兄ちゃんになったの!?一週間後ぐらいには多分帰ってくるけど、お兄ちゃんの一体何なの!?」

「わ、私は・・。ただフレッドの強さに憧れているというだけで別に変な感情は抱いていないわ。」

「嘘じゃないならいいけど。」

「とりあえず、今日はこれぐらいにしておこうかしら。ちょっと散らかしちゃったけど。」

「後悔だけは、したくない。」

「はい?」

「何でもない。さっさと片づけて帰ろうね。」

「そうね。」

そうして、アリスとアーシャは友達?の関係になった。






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