表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルは掴む、果ての世界  作者: 必殺脇汗太郎
第一章 始まりの街編
9/50

エルは帰還する



『この祝詞を聞いた時、あなたは導かれる。』



『何もかもが灰燼へと帰し』



『その塵さえもやがて無限の砂漠に囚われて』



『希望など持たされたこともなかったと』



『嘆き、咽び、後悔と憎悪で煮詰まりきった彼の元に』



『ああ、この祝詞をあなたに捧げる』



『目覚めよ、神の御手に抱かれし汝よ』



『永劫尽きることなき光とともにいきなさい』



世界システム中枢管理記録書・エラー報告記録から抜粋

_____________________


「話とは何でしょうか?」


「それはね、気を付けなければならないことよ。」


「まだ魔体を覚えたばかりですし、そんなに慢心しているつもりはないですよ」


「ふふふ、それはわかってるわよ。ちゃんと信頼してる。夜寝るとき私が薄着なのを気にしていつも毛布を掛けてくれるしっかりものだものね。襲われないか最初は心配だったわ!」


「何言ってるんですか。初日から熟睡かましてたくせに。」


「そんなことはどうでもいいの!本題よ。『王』や『将』には気をつけなさい。」


「王将ですか?」


「なんとなく脂っこい印象を受けるわね、じゃないのよ、真面目な話。」


「この紋章のことが関係あるんですね。」


「解ってるんじゃない。そうよ。例えばあなたはまだ剣士ソードマンの階級。初期職ね。この時点では基本的なジョブしかないし、種類の総数も少ないわ。少ないと言っても第二職に比べてってことだけどね。それで第二職とは、剣士ソードマンから派生するジョブのことで、刀使いサムライ細剣使いフェンサー、あとは剣士ソードマンからより応用の利く剣騎士ソードナイトなんかもあるわ。それでね、私が言った『王』や『将』っていうのはね、第三職一般的には最終職、剣王ソードキングや、刀将マスターオブサムライ、特殊なところだと聖剣王ホーリーソードキングとかもいるわね。とにかくそういったものたちのことよ。やつらは例外はあれど国の要職、もっと言えば王様だったりするのよ。そいつらには決して逆らってはダメ。第二職までは相性差を突けば勝てるかもしれないけど、第三職は次元が違う。君は自分が死んだことにも気づかないまま死ぬかもしれないわ。」


「・・・わかりました。師匠のそんな真面目な顔久々に見ました。」


「ほんとに大事な事なの。今は昔ほど楽な時代じゃないの。私がこそこそ森で暮らしてるのだってそれが理由な部分もあるくらいなんだからね。」


そうこぼした師匠の一瞬みせた悲哀が込められた表情をみて、茶化すべきではなかったかと思い直す。


「まー今となっては大事な弟子もできたし結果オーライなんだけどね。」


「・・・わかりました。俺も師匠にこれからもお世話になると思いますし、今度は俺の話をします。」


「お。待ってたよ。君のこと案外なんにも知らないんじゃないかって最近思ってたところだったのよ。」


「待つって言ったのは師匠ですけどね。それで、俺が故郷に帰れない訳ですけど、それは時間遡行、タイムスリップしてしまったからなんです。それで、ここがどこかもあんまりわかってないし、地形は一緒なのに人も文化も違う、この紋章だってなかった。そんな世界で故郷のことを調べるにはきっと世界中を回らなければならない。世界も俺が知っているよりもはるかに広いみたいだし、訳が分からないですよ。だから一人で(・・・)旅ができるように、強くならなければならないんです。師匠にも迷惑はかけられないので、力ずくでも来ないでくれって説得するつもりだったんですけど、師匠に勝てる気がしないし、なによりこの三か月間師匠の人懐っこさに緊張していた心がほぐれたせいで、こんなことまでしゃべっちゃいました。」


「なるほど、わかったよ。ついて行かないわ。」


「だから師匠ついてきたらダメなんです、めいわ、、、、、え?そんな簡単に?えええ・・・」


「君がダメって言ったんじゃない!まったくひどいね。大丈夫、君はまだ強さを得たがっている。街に降りてしばらくは人々と触れ合うといいわ。そして強さを必要としたらまた来るといいさ。大丈夫、君が来る時は事前に察知できるよう魔法を掛けてるからね!」


「いつの間に、そんなことしたんですか!わかりましたよ。また戻ってきます。その時はもう少し強くなってきますからね!片膝くらいはつかせますよ?」


「頼もしいね。がんばるんだよ。それじゃまた明日の朝別れの挨拶をして街に降りることにしようか。道案内を用意しておくよ。」


道案内を用意?なんとなく物騒な言葉だが大丈夫だろうか?やはり街を追われる犯罪者の肩書きは伊達じゃないのか?そんな冗談を考えながら、寝る準備をして、もうすっかり慣れてしまったハンモックに潜り込んだ。


「きみ何を勘違いしてるんだい。素振りしてから寝なさい。」


「・・・・師匠のばーか(小声)「聞こえてるよ」はーーい!すぐやりまーす」


________________________


朝起きると師匠が珍しく早起きをし、布団も片付けられていた。


「おはよう少年。道案内を()()()()()()よ!」


そこにはビクビクと体を震わせ耳を弱々しく折りたたんだピンク色のウサギいた。


「ここら一帯にたまにいる長生きして魔獣化したうさぎくんだ。魔獣といっても弱々しいから無害な小動物的な生物もいるんだよ。説得して街への道案内をお願いした。きっちりと送り届けてくれないとスープになるって言ったら快く請け負ってくれたよ。」


「時々師匠が悪魔に見えてくるから不思議です。」


道案内もついたことだし、そろそろ別れの時間。この洞窟さえも名残惜しく感じるようになった自分がいて、やはり寂しさを感じていたのだろうかと思ってしまう。それだけ師匠との三ヶ月で築いた絆は深いものだったのだろう。


「辛気臭い顔してないでいいから行っておいで。今生の別れじゃないんだ。ほらいったいった!」


追い出される形で背中を押されて洞窟から一歩踏み出す。

何回も出入りしてきたはずなのに、やはり独り立ちのような不安が込み上げてくる。大丈夫、少しはマシになった程度だが強くなっている。


「ふーーーー、いくぞっ!」


新たな一歩を踏み出し、昨夜降った雨でぬかるんだ地面に足をとられ、見事泥だらけのスタートを切ったのだった。


___________________________


道案内が的確だったのだろう。二つほど小山を超えたら街が見えてきた。朝早く出ただけあって夕方になる前には着きそうなほど近いわけだが、やはり案内と山歩きに慣れた体がなければこんなに早くつくことは無かった。


「おまえ、見た目によらず優秀なんだな。」


「ピー!」


「ほら、食べな。さっき取った野いちごだ。」


泥が深くない道を選び、尚且つ魔獣が使う獣道を避け、それでいて遠回りをしない道、それらを選び続けていられるのだ、伊達に長生きはしていないか。


一体何歳なんだ?そもそも何歳とか通じないよなぁ。


「ピーッビピッ」


街と森を隔てる平野にさしかかろうとしたところで小さい腕を交差させ、続いて自分を指す。なるほどここから先へは行けないってことかな?


「ピィィ、、、ピッ」


「ああ、なんとなくわかるよ。お別れの挨拶だろ?じゃあな、また会おうぜ。」


____________________________________________________________


ゆっくりと街に近づくにつれ、遠目からでもわかった城壁の穴の詳細が見えてくる。


師匠からはあえて何も聞かなかったが、ここまで盛大な穴が開く攻撃で、しかも所々焼け焦げているのが見て取れるあたり火魔法あたりだろう。


それにしても城壁の上から下まで盛大に抉り取ったこの攻撃はかなり威力が高い。一体誰がこんなことを。


「おい!そこのおまえ、エルか!エルなのか!?」


「アルベルトさん!生きていたんですね!」


「それはこっちのセリフだ!おまえ今までどこに行ってたんだよ。しかも始めてあった時と同じ森から出てくるなんてほんと意味わかんねーよ!」


吹き飛ばされて、森の奥深くにいたことを伝える。

よくよく考えたらなぜそこまで吹き飛ばされたのだろうか。


「そんなに飛んじまったのか!アリアさんがずっと後悔してたみたいだぞ。おまえに超軽量化の魔法をかけて戦場から吹き飛ばして救おうとしたらしい。俺は門近くにいたがあの爆発のあとの咄嗟の判断だ許してやれ。鐘に下敷きになったおまえを助けるには最善だったんだ。運悪くもう一回爆発が重なっちまったってだけでよ。」


「いいんです。結果的に助かったんですし。それよりそんなに後悔しているならすぐに帰還した報告をしなければならないですね。」


「おう、そうしてやんな!とりあえず宿の女将とギルドの嬢ちゃんに挨拶しに行けば噂なんてあっという間に広がるさ。」


「わかりました。そうします。ところであれは一体なんだったんですか?」


「あー、あれは悲惨だった、、、」


そうしてアルベルトさんはあの日の出来事を語ってくれた。


__________________________


「エルが吹き飛ばされたぞ!」


「失敗しました。超軽量化と飛翔の魔法をかけてこの場なら傷が悪化しないよう待避させようとしたんですが迂闊でした。」


「たく、そんなことよりいまは()()()だ!」


数巡の会話のあと、ギルドから顔を覗かせた爆発の張本人の影を二人は睨む。


「ダグラスさん、気をつけてください。人じゃありません。」


「みたらわかる。牛人型か、どうりで高火力の筈だ。吹き飛ばしの効果も付与されてやがんな。」


「ダグラスさんの目は相変わらず、見通せるんですね。」


「おうよ、てめーが騎士団に入ってからしばらく経ったが、その間も鍛錬は欠かしたことはねーよっと。」


「人が折角昔話に花咲かせよーとしてんだ、邪魔すんなよ。悪魔さんよぉ。」


《不遜ダ、我コソハ力ノ顕現者ニシテ、悪魔王ーーー




ーーディアナテス也》


_________________________


「とんでもないのが出てきましたね。」


「ギルド長が酒場でみんなに語ってくれた時は、その場にいた奴ら全部が呆然と口開けてたぜ。今のお前みたいな。」


言われて初めて俺は現実味のない恐怖に自然と口が開きっぱなしになっていたことに気づいた。


「そ、それで、ダグラスさんや、アリアさんはどうなったんですか。」


「おいおい、心配いらねーって!二人とも重傷を負っちまったがもう回復して復興に勤めてる。」


「復興?」


「おまえ、城壁だけ壊してたったわけないだろ?あいつは教会を跡形もなく吹き飛ばした後、アリアめがけて何気なく咆哮ブレスを放ちやがったんだ。この城壁まで一直線上にあった建物は倒壊。というよりも塵になっちまった。」


「そんな被害者は?」


「多数としか言えねーな。俺の知り合いも余波で何人も死んだ。冒険者はずる賢いところがある。生きる可能性を見つけるのも得意だ、そのおかげで負傷者はいるものの、死者は一人も。だが、街の半分は倒壊した建物で埋め尽くされちまった。ダグラスさんもアリアも本気を出さなきゃ死んでた。一応おれも加勢に入って暴れるのを食い止める手伝いはしたが、どうにも奴さんの目的が果たされたのかその場にはもう無かったのか、どちらにせよ用は済んだって言っていなくなっちまった。」


「俺がいない間にそんなことに、、、というかアルベルトさんよく加勢出来ましたね。」


「まーとりあえず、おまえが無事でよかったよ。早く知らせに行ってやんな。女将さんなんて数日飯のうまさがほんの少し下がっちまうくらいだ。きっと会いに行ったら死ぬほど喜ぶぞ。」


こんなことになってる間、俺は自分のことばかり考えて、強くなることしか考えていなかったなんて。というか師匠、どこが大丈夫なんですか。


________________________


場所は変わり、今は銀の熊亭の前。アルベルトさんとの話を終え、門をくぐって真っ先に足を運んだ。


中からは夕時にむけ忙しなく動き回る音が聞こえる。


重たい木製の扉を片手で押しひらくと、厨房にいる女将さんと真っ先に目が合う。


その瞬間厨房から女将さんが一瞬にして消え、かわりに厨房内が爆ぜた。

そして従業員用の開き戸を、体当たりで開いたであろうものすごい勢いで開けてでてきた女将さんはその勢いのまま俺に抱きついてきた。


ふふ、昔の俺ならここでよろけてしまうところだが今は違う。魔体発動!女将さんの体重なんてランドベアに比べだら、まだ、まっし、、、!


「あんた!なにやってたのさ!こちとらあんたに出す飯の準備してたおかげで食材が無駄に!なっちまった、だろうが!!!」


あー、いまは戦闘状態と同じだから女将さんの動きが知覚できる。甘んじて受けよう。


俺は生まれてから一度も味わったことのない、首がもげそうになるほどのお盆のフルスイングをくらった。


「ただいま、言いいたいことは山ほどあると思いますが、そのー、朝から歩き詰めで倒れそうなんです。飯、ありませんか?」


「・・・今度は、ちゃんと食ってくんだろうね!無駄にしたら承知しないよ!おまえら宴だ、このボンクラのこと心配してぶっ叩きたくなってるやつが山ほどいるだろう!全員呼んで盛大に飲むよ!!」


「「あいさーー!」」


返事はハイでしょ!バーーーン!と、本日2度目のお盆フルスイングがかまされた。


そこからはもうあれよあれよと言う間に宴の準備が行われ、人が集まり、多くの人が俺の頭を叩いたり荒々しく撫で回して、酒を酌み交わし続けた。


程よく全員に、女将さんにまでしっかりと酒が入ってきたころ、新たな珍客が舞い降りた。


エルくん!!と一言大きく言った後、誰の目にも、もちろん俺の目にも追えないスピードでアリアさんが飛び込んできた、俺の胸に。


「ごめんなさい!私のせいで3ヶ月も森をさまよったんでしょう!なんて詫びればいいかわからない!本当に無事でよかったぁぁぁ!」


そのまま泣き崩れて、あれ?こんな人だったか?酒臭い?飲んでたってことは今日は休日かなんかだったのだろう。そして虫の知らせを聞いてここまでかけてきたわけだ。


問題は、俺の腕の中で胸に顔を押し付けて泣いていることだ。うん、わかってるさ、普段だったらこんなことしないし、そもそも抱き合う中じゃない。


ああ、わかってるとも()()なことなど。だからやめてくれ、衆人たちよ、そのとびっきりの餌を用意されたまま待て状態の犬のような目を。


最悪はいつも突然に始まる。二人目の珍客が言葉とともにそれをもたらす。


「おぃ、いつからここは盛りのついたガキが乳繰り合う酒場になったんだ?ん?エルゥ?」


「おい、アルベルト、エルが折角女に泣き付かれたんだ、青春じゃねーか!」


「ちげーねぇー、無粋な真似したな!ガハハハ!」


そして始まる大爆笑。俺のことを知ってる人はみんなそんな関係になってないのは知っているくせに、若いのはいいなぁだとかぬかして笑っている。


「みなさん、いつか必ず頭から真っ二つに切り裂いてやりますよ!女将さんとアリアさん以外!」


「おーこぇこぇー、・・・どうだ一発やるか?」


「・・・決闘ですか?」


「そんな大それたもんにはならねーよ!力試しだ、かかってこい。」


「いいますね。3ヶ月前の俺とはちげーとこ見せてやんよ!」


「エル坊、酒が入るとあーなんのねぇー。おとなしいやつだと思ってたが、存外、喧嘩っ早いのかね?」


カウンターでこちらを見て女将さんが放ったつぶやきは喧噪と酔いによる興奮でエルの耳には届かなかった。


事の成り行きを泣き止んで見守っていたアリアは今しがた犯した自分の行為のせいでほんの少しの酔いも吹き飛んで、いまでは恥ずかしさのあまりユデダコのようになっていた。


そして、エルがとった行動はなんとも意外であったとだけ言っておこう。


まず詠唱を開始。


『身体よ、あらん限りの力を与える、我の想像の元に従え』


これがエルが力を発揮するのに最適だとした詠唱である。つまりエル専用。師匠の魔術理論はその内容からして必然的に、すべての魔法がその人個人の専用、固有のものとなってしまう。


これにおけるメリットは、相手からはなんの呪文かわからないこと。アルベルトは歴戦の戦士・・・・・ではあるが、この時ばかりは場の雰囲気と聞きなれない呪文に一瞬反応が遅れる。


次いで起こったのは、アリアが急に宙に浮き、釣られた視線の外から急接近する影にアルベルトが吹き飛ばされた、いや、影と一緒に店外へと転がり出た。


酔いが冷めていたアリアは急に宙に浮いたことも気にすることはなく、むしろ、そうすると事前に聞いていたこともあって、軽やかに着地した。


『いまから上に投げます。着地は任せます』


そう、小声でエルが言ったのだから、乱雑には投げられたりしないであろうとの推測、加えてもし投げ捨てられたとしても着地など造作もないことなのだから焦る可能性は皆無だった。


場所は変わり、宿の外、この街の本通りへと出たエルは、組み合おうとしたアルベルトに突き放されてほんの少しばかり転がった後、勢いを利用してクラウチングスタートのような姿勢をとった。そしてアルベルトに向け再度急発進、抜刀までしてアルベルトの上半身と下半身を分かとうとする。


そんなエルを完全な戦闘態勢に入ったアルベルトは、常に装備しているナックルガードを剣に合わせる。通常なら拳が負けるのは道理であろうが、鋼よりも硬い、魔鋼でできた装甲と、鍛え抜かれた体から力を振り絞るように繰り出された拳とが相乗効果を生み出し、エルの剣を弾き返す。


エルは剣を返されただけでなく僅かに仰け反らされたことに驚愕するも、次いで相手の左手から繰り出される第二の拳が迫ってきたのを察知すると、仰け反りを利用してそのまま後ろに宙返り、『魔聴視』により第三の拳を放とうとするアルベルトを感知し、すぐさま真横に飛ぶ。それを読んでいたのか、勢いを殺さずにエルの逃げた方向に反転してくる。


「おら!逃げても無駄だろうがよ!」


そう言って放たれた拳は空をきる。否、エルに向けて拳を正確に突き出している。かくして起こるは『空拳』。空気弾とも呼べる拳闘士の技の一つである。アルベルトの得意とする中距離格闘戦術であり、初見で躱されることはまずない。アルベルトは相手の怯みを確信して強く地面を蹴る。


だが、エルはこれを『魔聴視』で知覚している。もちろんわかっていてもそんなものが飛んでくるとは思っていなかった。よって脇腹を掠るようにして躱すも、明らかに態勢を崩されてしまった。


「よく躱した!お前、()()()()な!!」


魔聴視を見破られても、エルは驚いている隙などない。すぐに立ち上がるも、顔面に向け、致死の威力を持った拳が迫る。


「いつまでもやられっぱなしなわけねーだろ!」


そう言い放つと、一歩踏み出す。

拳を躱すには意表を突いて相手の懐に入る方法がある。相手の右手で放たれる拳から遠ざかるようにエルは相手の左手方向に踏み出した。

アルベルトはこれに対応し左足を踏ん張り前に進もうとする力を回転の勢いに転じた。ストレートだった拳がいきなりフックに変わる、この機転の速さがアルベルトの持ち味でもあった。だが、エルはもう一歩今度はアルベルト方向に盛大にジャンプした。フックの腕の輪に入るように飛び込んだエルは得意の空中回転斬りを『魔体・伝え(またい・つたえ)』付きで繰り出した。


ドッッッッ!!!


「惜しかったなエル、その速さの溜め斬りなら幾らでも対処されちまうぞ?」


そう言い放ったアルベルトがしたのは簡単なことで、フックを躱したことで手が背中側に来た、そこでそのまま体と腕でエルを挟んだのだ、回転の途中、力が乗り切る前に回転を止められ無防備となったエルは頭突き一発で地面に転がされた。


「酔い冷めたか?たく、お前が戦闘狂だとは思わなかったぞ?ナックルガードしといてよかったぜ。随分と重たい剣を放つようになったじゃねーか、手がジンジンしやがる。」


「・・・・・・・・」


「おい、こいつの部屋どこだ。酔いつぶれて寝ちまった。」


この日初めてエルは酒は飲んでものまれるなという言葉の意味を理解した。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ