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エルは掴む、果ての世界  作者: 必殺脇汗太郎
第一章 始まりの街編
6/50

エルは飛ぶ

夢を見た。


真っ暗なはずなのに、頭に浮かぶのは色とりどりの花たち。


あるはずの手が、足が、一切動かないどころか、感覚がないのに、ぬくもりを感じる。


「………なさい、…をもつ………、さあ、目覚めよ!!!!!」


_________________________________________________________________


「うわ、声でっか」


心地は確かに良かったけど、さすがに聞き耳を立ててるときに大声はない。心臓がバクバクしてる。しかもまだ早い時間じゃないか。もう少し寝かせてくれてもいいはずだ!


とりあえず、訓練場に行く準備でもするか。

訓練は順調にすすみ、もう三か月が過ぎた。といっても最近は師匠ダグラスさんから思った以上に進歩がないと言われてしまっている。きちんと言われた訓練は続けているし、加えて暇があれば自主的に訓練内容を加えているし、冒険者業もきちんとこなしているし、体づくりのための筋力底上げだって欠かさずやっている。だが、ダグラスさんからは、もっと動作に切れが出てきてもいいころ合いのはずだがそれが一切見受けられないそうだ。


これにはさすがにここ一週間ほど気分を憂鬱状態にさせられた。

なんだ?才能が無いって言いたいのか?喧嘩売られたのかな????

もっとも、喧嘩を買ったところで、千の武器が俺の体に突き刺さって鋼鉄の花束を作るだけだろう。それだけの実力差はわかっているのだ。ただの憂さ晴らしだからね、変な夢も見たことだしね、いや、なんか寒気したよ?ダグラスさんの悪口を心でつぶやくのはやめよう。


「おい、聞いたか。」


「暴徒の話はやめとけ、まわりにそういうやつがいたらこっちにまで迷惑かかんだろうが。」


「わりーな、確かにその通りだ。でもよ、ここらはまだましだが、騎士様の詰め所あたりはやばいらしいぜ。もうそろ俺らもほかの街に移ったほうがいいんじゃねーか?」


「かなりの移民者が出てるらしいな。ここらも最近じゃ魔獣の支配領域が拡大してきて、行動範囲が狭まってきてやがる。旨味がねーな。潮時かもしれん。」


「ここからだと一番近いのはー、緋槍王クリムト様の街か。名前はー、ウィスパータウンだったかな。」


それじゃ、一稼ぎしてささっと移住しちまうか」


朝食を食べていると、不穏な空気を感じさせる会話が聞こえてしまった。

暴徒?反乱か?アリアさんが夜間警備に駆り出されてたみたいだったし、あのころから暴徒が発生してて深刻化してきたみたいだ。


「エル、お前さん、騎士様の詰め所には近づくんじゃないよ。あそこは今とんでもなく危険だ。あたいの知り合いもこの前盛大に刺されたばかりだしね。物騒な世の中になったよ。星槍のベルグリンディア様もさっさと豪商どもの値段の吊り上げをやめさせればいいんだよ。ただでさえ税が厳しいってのにやってらんないね、まったく。」


「そうなんですね、冒険者は街に入るとき以外、税を取られないのでそこら辺の事情は知らなかったです。でも確かに、食料は日に日に値段が吊り上がってきてるのは感じます。てっきり不作の年なのかと思ってました。」


女将さんとの会話はなれたもので普段より多く言葉を発している。しゃべるのは得意じゃないんだよね、うん。友達?はは、ごはんおいしいー。


「不作も重なってはいるけどそれよりもこの街にくる旅人が減ってきたのが値段の吊り上げの原因だね。お金の流れが止まっちまってんのさ。商人たちも食いっぱぐれるわけにはいかないからね。」


なるほど?よくわからないが、とにかく、治安が悪くなってきているのはわかった。詰め所、近づく、ダメ、絶対。

女将さんに朝食のお礼を言ってから席を立ち、店をでる。

さて、訓練訓練と。


______________________________________________________________


「エル少年じゃないか!この方向はギルドかね?今は行かないほうがいい。私も向かう途中なのだがね、ギルドに溜まってる薬草やら薬をくばれという市民たちが殺到しているんだ。街中に配る量なんてギルドには備蓄していないのだけれどね。市民の怒りはたまに行き場を失うんだ、困ったものだよ。」


ギルドに向かう途中、アリアさんに出会ってそんなことを言われた。

どうしよう、ダグラスさんに限ってなにかあるわけじゃないけど、アリシアさんが心配だ。それなりに武術の心得があるらしいが、あの華奢な体格では心もとないことこの上ない。


「わかりましたと言いたいところですが、すいません。同行します。知り合いが心配なもので。」


「むーーー、しかたない。同行を許可するが、常に暴徒と距離を取り、私の手の届く範囲にいることが条件だ。君が死んでしまっては寝覚めが悪いのでな。」


「わかりました。背中はお任せください。」


「ふむ、頼もしいことだ。」


ま、任せられても剣の才能がないので不安要素しかないんですよね。女の人の前は少しくらい強がってもいいよね、うん。


そうこうしているうちにギルド前の集団が見えてきた。


「住民たちよ、鎮まれ。何度も言うが備蓄は少ないし、これは冒険者たちが傷ついた時用でしかない。不当な備蓄ではない!そもそも回復薬をもらったところで腹の足しにもならんだろう!」


ダグラスさんが大声を出して説明している。だけど住民たちは聞く耳もたずといった様子で、ずっと要求を口にしては石を投げている。ダグラスさん石が当たってます。お願いだから体のどこにあたってもコツって音しかたてないのはやめて下さい。人をやめてしまったのですか。


「ギルド長の話を聞いただろう、君たちの中にはダグラスに助けられたものもいるのではないか!?石を投げるのをやめろ、鋼鉄に壁に投げたところで響きはしないぞ、言葉で解決を図るべきではないのか!」


うんそうなんだけどねアリアさん。ダグラスさんは決して鋼鉄の壁ではないんですよ。ダグラスさんの顔を見てください。そんなふうに思ってたの?って目が点になってますよ。というかお知り合いだったんですね。

アリアさんの言葉と白銀の鎧甲冑と艶やかな紫の髪の神々しさに住民たちは一瞬口を閉ざしたが、すぐにアリアさんにも投石が始まり、盾で防ぐしかなくなってしまう状況になった。これにはアリアさんもたじたじなようだ。


んー、状況が状況なので、離れたところに置き去りにされてしまった訳だが、仕方ない。


「おい!騎士団がみえたぞぉ!みんなはやく逃げるんだ。騎士たちは完全武装だぞぉぉぉ!」


あらん限りの大声で、近くのカフェの二階・・・・・から遠くに見えた様に警告してみる。もちろん、嘘でしかない。一切の真実もないので一時的な効果しか望めないかもしれないな。


だが予想に反して、住民たちは命の危険を感じたのか、全員蜘蛛の子を散らすようにいろいろな方向に逃げていった。


「坊主、助かった。さっさと職員たちを帰しちまってしばらくは閉鎖するしかないな。どのみち営業できる状態じゃない。冒険者に緊急依頼で護衛を雇うか。」


「それ手伝い「ダメに決まってんだろうが」……はい。」


不甲斐ない。三か月で少しは成長しているとは思うが、まだまだ危険に挑むのを許可できるほど成長したわけではないのぐらいわかっている。だけど、それとこれでは話が別だ。やりきれない、言葉に表すことができない、曇天の空のような重い気持ちが溢れてくる。


アリアさんとともにダグラスさんが立ち去る。アリアさんも悔しそうな俺の顔を見てかける言葉を失い、何も言わずギルドの扉の向こうに消えた。



そんな時だった。


ギルドの頂上、警鐘が鳴り響き、


人々が戸惑う暇もないまま、


激しい轟音とともに、


俺を包みこむような大きな影を落とす鐘が吹き飛んできたのは。


____________________________________________________________________

「ぐ、、、、がはっ」


痛い痛いいたいいたいいたいいた、いいい、いいいい、いいいいいいいたい、いいい


右足が、焼けるように悲鳴をあげる。頭が思考を拒否し、ただひたすら足の痛みを取り除くために、鐘の下から引っ張りだそうとしている。


声が遠くに聞こえる。そのくせやけに甲高い悲鳴と、何度も鳴り響く爆音だけが耳から入って、全身を駆け巡り、つぶれて動かない右足から絶大な痛みとなって抜け出していく。そんな錯覚を覚えた。


「少年!エル少年!みなさんお願いだから鐘を!鐘をどけるのを手伝ってください!!!!」


あれいつのまにアリシアさんが?ていうか痛みが、ほとんどないな。もう治ったのかな?そんなわけないか。


「もしかし、て、、、おれ、、、しんじゃ、う?」


「だめ!そんなこと言ってはダメよ!!」


こんな美女に抱かれながらならなかなかいい最期ではないだろうか。ああ、母さん、ごめん。帰れないかも。


遠のく意識の中で、冷たい地面の硬さが背中に広がる。アリシアさん、手放すの早いよ、まだ死んでない。


フワッと体が浮いた。掠れる視界には先ほどまであった建物たちは映らず、雲一つない青空と、何が何だかわからないくらい早く過ぎ去る色の塊と、どんどんと近づいてくる広大な緑。死の瀬戸際にしては先ほどから、なかなか意識がなくならない。あれ?


そして、ほどなくして大量の木々が折れる音と再び訪れた右足の激痛により、俺は意識を手放した。やっとかよ。


____________________________________________________________


「まったく、転移に失敗したと思ったら、突然爆音が聞こえるし、空飛ぶ男の子が墜落してくるし、おまけに瀕死だし、思わず助けちゃったじゃない。なんでこんな右足だけ殺されかけてんのよ。面白い子ね。」

____________________________________________________________


こうして、後に起こる厄災との対峙の度に感謝することになる運命の出会いを果たした。


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