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エルは掴む、果ての世界  作者: 必殺脇汗太郎
第一章 始まりの街編
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エルは厳しい訓練を受ける

訓練を始めて今日で一か月。

予想外に時間をかけているのは、ダグラスさんの訓練がかなりしっかりとした内容だったからだ。


「一か月しか経っていないが随分と体力がつくのが早いな。剣術のほうはまだまだだが、土台がしっかりしてきた分着実に努力していけばそこそこのものにはなるはずだ。今日から徐々に体力づくりの面を強化していく。あわせて剣の方も素振りのほかに、俺と試合をやってもらう。覚えた型をどう使っていいか体で覚えるんだ。いいな、経験の蓄積が戦闘での要になる。俺がいろんな武器を使うから対応法を必死で考えろ。わかったな?」


「はい、頑張ります。」


ああ、また過激な日々が始まるのか。剣術のほうはまだまだ素人だが、体力面は驚くほど伸びている。まず100周はまだ余力を残せているとは言えないが徐々に時間を縮めている。素振りも、最初は左右100回ずつ振るだけで腕がプルプルだったが、今は300回までは難なくこなせるようになってきた。

初めの身体的な伸びはかなり早いからそれで強くなったと勘違いするなとダグラスさんから言われているし、そんな簡単に達人になれるわけないのも弓に練習をしていた時に味わっているので、きちんと毎日の反復練習を怠らないようにしている。


ここ1か月くらい、俺は剣術の修行だけをしていたわけではない。


ダグラスさんとの訓練は午前中にやっている。

曰く、前日の疲れが残っている体でも仕事をきっちりとこなす為の訓練、とのことだ。初めはそんなものなのかと思って訓練に励んでいたが、今ははっきりとわかる。


ダグラスさんは午後自分の冒険者稼業をしっかりとやっている。ここでも、持論をきっちりと実践しているのだと思うだろう。実際俺は騙された。


ダグラスさんはなんと、ただ単純に朝が弱いからお昼から仕事をするだけなのだ。

受付の女の人から教えてもらった時、驚きのあまり、俺は間抜けな面をさらしてしまった。


あ、この1か月で名前を教えもらった。

アリシア・マインさんというそうで、ギルドの依頼受注Gランク担当のため、頻繁に顔を合わせている。頻度的には1位のダグラスさんに続いて2位となっている。3位は銀の熊亭の女将さんと同率のアルベルトさんだ。要するにギルドと修練場と宿以外にほぼ行くところがないというだけだが。


そうそう、ダグラスさんは朝が弱いとアリシアさんに教えてもらったんだった。

つまりあの朝練はダグラスさんが朝起きてから仕事をするまでに体を起こす作業もかねているという、締まりのない話だったのだ。それでも、準備運動程度に毎日あしらわれているのだから実力差は歴然である。


ダグラスさんはその昔、Aランク冒険者だったそうだ。

だが二年前に四帝魔獣と呼ばれる一柱に遺跡で遭遇し、たった一撃でダグラスさんのパ―ティーは壊滅させられた。死者こそ出なかったものの、ダグラスさん以外のメンバーは皆、自分たちは潮時だと、いままで薄々感じていたことを口にだし、解散を決定したらしい。

暇を持て余していたところに教育係が不足している旨の案内が目に入り、この役割についたのだそうだ。


度々思考が寄り道してしまう。

午後からの仕事も、街周辺の強すぎて放置されていしまいそうな魔獣をできる範囲で早めに狩るという内容、理由を訪ねると照れ臭そうに新人たちが早死にするのが嫌だからだって。なんとも人がいい性格の持ち主であった。


そんなわけで誰もついでで訓練なんてするなとはいわない。むしろついでに勝てないようではと、より一層修行に励む人が大半となっている。

さて長い寄り道をしてしまったが、昼食がすんだあとは、俺もダグラスさんと同じようにギルドの依頼をこなしている。

といっても魔獣退治などではなく、薬草採取や街のお助け的な依頼なのだが。

薬草採取では、城壁の外に出るので、魔獣に遭遇する危険があるのかと思われたが、ダグラスさんにそれは少し違うと教えられた。曰く、


「いいか、魔獣というのは普段は町になんて近寄らない。必ず一定の距離を置いて不干渉を決め込む奴らだ。だから薬草採取に出かけても出くわす可能性はほとんどない。だけど武器は忘れるなよ。はぐれの魔物は飯にありつけなくて人を狙いに縄張りから出てくることもあるし、盗賊まがいの奴らだっている、必要以上の警戒はミスを引き起こすが警戒を怠れば命を落とすことにもなる。自分に合った良いところを見つけて仕事にあたるんだな。がんばれ坊主。」


だそうだ。最初はかなり緊張していたがこれでだいぶ楽になったのを覚えている。ベストなコンディションで薬草採取に望むことができた。


薬草のことは狩人時代、そんな前なわけではないが、その頃の知識を用いて割りとはやめに採取することができた。そしてアリシアさんに驚かれた。


なぜかわからないの理由を聞くと、普通はきっちりと調べて手探り状態で数日かかるか、行き当たりばったりでこれまた数日を用する場合がほとんどだそうで、もともと狩人だったことを伝えるまでは納得してもらえなかったほどだ。狩人でもできる人は限られると言われもしたが。


このペースならあと1ヶ月もすればFランクに上がることもできるだろうと言われたので、受ける依頼を増やして数をこなすことにした。

だが、薬草に関しては知らないものが数種類あった。

おそらく時代が進むにつれて淘汰されたものなのだろうが、内容が気になるものも中にはあった。

例えば、霊命草。

図書館が教会に併設されており、薬草事典などというタイミングどんぴしゃな本があったので調べてみたところ、


『霊命草』

魔力を吸い、霊的な性質を帯びた、なんらかの植物が独自な進化を遂げたと思われるもの。

魔法の強制発現に使われることが多く、すりつぶして水と一緒に飲むと体内の魔力を一時的に活性化させ、小規模な魔法を打ち出す。打ち出し方、また場所、性質は本人の適性とイメージに依存する。


と書いてあった。

これは個人的にかなり気になっていたので依頼用の他に自分用も採取したいところだったが、こればっかりはどこのどのようなところにあるかなど知るわけもなく、また事典にも載ってはいなかった。よって依頼自体は受けてはいない。アリシアさんに聞いたが具体的な群生地などは知られていなく、発見された過去の群生地などから推測すらもすることができないらしい。


これに関しては手詰まり状態なので、ダグラスさんに聞いてみて、それでも駄目なら気長に探すしかないだろう。

群生地が知られていないだけあって依頼の貢献度はそこそこ高めに設定してあるのでできればこなしておきたいところではあるが、今はしかたない。


今日も常時以来の薬草5株、毒草5株、山菜数種類をそれぞれこなしてギルドに持っていく。

列に並び程なくしてアリシアさんに呼ばれた。


「おはよう、エルくん。今日も綺麗な状態で持ってきてくれたみたいね。依頼主の方がすごく喜んでくれてるみたいよ。これほど状態がいいのを毎日持ってきてくれる人はいないからね、その調子で頑張って」


「そうなんですか?もともとこうしてとることしか教わってないのでこれが普通なのかと。」


「まー、冒険者は、荒くれ者集団みたいなところあるからね。なかなかそういった知識をあらかじめ持ってるなんて珍しいし、定期的に講習会も開いているのだけど、みんなめんどくさがってやらないのよ。依頼に状態によって報酬は上下するって書いてあるのに適当に力任せに引き抜いたものを持ってきて、萎れた状態なのに報酬が下がるのはおかしいとか抜かす奴もいるのよ。ほんと、教養って大事よね。」


「はは、教養があると言えるほどのものじゃないですよ。やることがそれだけなので丁寧にとるしかないだけです。」


「謙虚ねー、エルくんの対応をするのは楽でいいわ。他の受付の女の子にエルくんの話ししたらみんな羨ましがるのよー、こんなスムーズで物分かり良くて、青年らしい清々しさがあるのに謙虚さまで持ち合わせてるなんて好物け、、ごほん、冒険者の鏡よ?」


 今、完全に好物件って言おうとしてなかったか?これは突っ込んだら大変なことになりそうだ。早めに切り上げよう。そうだ、あれ聞かないと、


「そういえば今の俺の貢献度って今はどれくらいですか?」


「エルくんは、そうね、1ヶ月着実に、一つ一つを最高点でこなしているから130ほどね。正確な数値は言えない規則になっているけど、エルくんはいい子だからほとんど言っちゃってるのだけどね?Fへの昇格は自動的になるから、あと170だからゆっくりとこなすといいわよ、普通よりはかなり早めだからね。」


「普通よりはですか?だいたい1ヶ月だとどれくらいが貢献度の基準なんですか?何でもかんでも聞いてすいません、言えないのなら大丈夫ですよ!」


「いいのよ、大丈夫。そうね、だいたい早い人で100に届くか届かないかって感じかしら。あなたは特別待遇みたいになっちゃってるからあまり他の冒険者には話さない方がいいわよ、やっかみは多いからね。」


「大丈夫です!情報は冒険者の命だとダグラスさんから教わりましたから!気をつけていますよー。」


「ふふふ、普通、若い子はそういう助言を軽視しがちなのよ?エルくんはほんといい子ね。もう少し年齢が高ければ私と結婚して欲しいくらいだわ。お姉さんこう見えて結構いき遅れなのよ。だいたい嫁入りする子は15、6で結婚するから危機感しかないわ。」


「アリシアさんを貰いたいって言える人はかなり勇気がいりますからね。すごく綺麗で優しさと、その砕けた話し方はずるいですよ。俺だったら心臓が100回くらい破裂するはずです。」


「それ、言えてる時点で他の男どもよりよっぽど高得点なのだけれど怖い子ね。」


「ん?なんですか?俺変なこと言いました?」


「うんん、なんでもないわよ?そのまままっすぐ育ちなさい、エルくん期待してるわ。」


「はい?わかりました、、、?」


とりあえずギルドの依頼をこなした後は宿にまっすぐ戻る。まずはまだ一度も実戦投入したことない剣の手入れをする。毎日欠かさずやれとダグラスさんから言われているので、まだぎこちなさの残る手つきで手入れをしていく。


この剣、かなり愛着を持って接し始めている。初めて持った時の興奮はなかなかだった。

持った瞬間、吸い付くように手に馴染んだ。

振り方が頭の中に浮かび、頭上に構えてまっすぐ振り下ろしたときの、風切り音、振り終わりの静寂は忘れられない。


これだけ聞くと自分が戦闘狂なってしまったのかと勘違いしそうだったがダグラスさんに、大抵、自分にあった武器を持って何かをした時は快感を得るものだと教えてもらった。

その後、直感的に動くだけでは戦闘には役立たない、きっちりと最適な振り方を頭に焼き付けた上で、体が自然に何度も同じ動きをできるようになるまで、素振りを繰り返すべきだと教えてもらった。

なので、剣の手入れをした後は素振りをしている。


上からまっすぐ振り下ろす動きを100。水平切りを左右100。下からの切り上げ100。足元の踏み込みはすり足で腰をしっかりと落とした状態で振る。地面から受け取った力を体全体を使って剣に乗せる。しなりを利用して力のロスをしないイメージで鋭く切る。踏み込みの足でできる跡がきっちりと一足分しか残らないようにするのが理想形だ。

実戦形式の試合ばかりしていると、動きが雑になる。

ので、誰かに協力してもらって試合をするのは禁止されている。


まーする相手がいないのが悲しいところではあるがきちんと言いつけを守っているので問題ない。俺の心の傷以外は問題ない。うん。ほんとに。


ほどよく汗をかいたところで疲れの溜まっている筋肉をほぐす。

こうすると翌日の疲れをいくらか改善できるうえに、怪我を予防することもできるとケンネルさんに教わって以来必ずするようにしている。理論は分からないが、とにかく疲れが取れるのはありがたいのでしっかりやるようにしている。

訓練の初めの頃は、いくら身体中を揉んでみても筋肉痛は取れることはなく、死ぬほど体が強張った。てか痛い。

狩人としてそれなりに体力の自信はあったが、それすらも上回るダグラスさんが少し嫌いになった。ハゲラスめ許さん。


鍛錬を終える頃にはすっかりとあたりは暗くなり、宿の明かりが俺を照らしているだけだ。


素振りは宿の裏手の庭を借りている。ここは宿からでる洗濯物を干したり、従業員が休憩に使う場所で、スペースは十分あるから使わせてもらうことにした。

体の汗をさっと拭いて、部屋に戻る。剣を丁寧に手入れしてから、着替えを持って宿の大浴場に向かう。


泊まる人専用のこの大浴場は使う人が少ない。そもそも連泊する人があまりいないのだ。ここの女将さんとはそれなりに会話をするようになったが、おかみさん曰く、商人はもっと高い宿を使うし、旅の人は最近めっきりいない。だいたいの冒険者はここの出身だから自分の家を持っているので泊まっているのは俺くらいだそうだ。


その代わりここの食堂は毎夜、大盛況。なぜか、それは大量の兵士が酒を飲み、飯を食うために来ているからだ。


料理はかなりの美味しいし、俺はここの宿以外考えられなくなってしまった。それにアルベルトさんにも会えるのでとてもすごしやすい。アルベルトさんが食事を奢ってくれるので助かるという利点もかなり魅力的だ。ほんとにアルベルトさんにはいいところを紹介してもらった。


「おう、エルじゃねーか。すっかりここの住人だな。女将さんも毎日若いのが精を出して運動してるのを見れて心が若返るって顔してるぞ!」


 バン!「あんたね、適当なこと抜かしてんじゃないよ。うちのエルは純粋なんだ、何言ってるかわかってないんだから変なこと教えるんじゃない、あんたの飯はこれから土に変えるからね!」


「いてーよ、おかみさん。街の治安を日夜守る兵士に向かってお盆フルスイングとはどういうことだ。まったく潰れちまうぜ、そんな態度だとよー、へへ」


「気持ち悪い笑い方してないで、さっさとエルの料理を注文しな。息子みたいでなんか可愛がりたくなるって抜かしてたのはあんたじゃないか。さっさと可愛がってやんな。ね?エル?何が食べたいんだい?」


「じゃあ、ビールと、辛味チキン、ご飯大盛りで。あと野菜炒めもお願いします。」


「たく、財布がだんだんさみしくなっていきやがる。くそっ。」


「あいよ、そこに座って待ってなね。」


ここの生活はかなり楽しい。和気藹々として居心地がいい。知らないうちに人のぬくもりを求めていたのかもしれない。1人でまったく知らない土地にいるようなものだ。気づかないだけだ寂しさというものは積もってしまうものだな。 そんなことばっかり考えてはいられないので、着実に力を溜めよう。


いぜんとして元の時代に帰るための手がかりは何もない。だけどいつか帰って母さんのことを安心させたい。


父さんに加えて俺までいなくなったしまっても母さんなら乗り切るだろう。けど、悲しみは、胸に一度でもついてしまった傷は、簡単に無かった事になんてできない。時間が経って、蓋はきっとできるだろう。でも傷は癒えたりはしない。ふとした瞬間記憶は蘇る。涙は止めることなんてできない。


だから俺は帰る。なんとしても。


少し感傷的になってしまった、アルベルトさんも仲間の方々もおかみさんもみんな俺がしんみりしてしまったことを気づいたのか狼狽えている。


「すいません、楽しくてつい母と二人暮らししてたころを思い出しまして。父は早くに亡くなってしまったので思い出の大半は母との思い出なんです。だから気にしないでください。すっごく楽しいです!」


「そうか、そんな過去が。毎日楽しそうに笑うからそんなこと微塵も考えなかったぜ。わかった、お前ら今日はおれのおごりだ好きなだけ飲め!」


「「「おおおおぉ゛!!!」」」


「じゃあ、この店で1番高い酒をお願いします!」


「やめろぉ゛ぉ゛ぉ゛」


 なんとかみんなの好意に救われて、場はまた盛り上がりを見せた。これくらい楽しくないと人と集まってる意味がないと俺は思うから、やっぱり今この瞬間に会うのは楽しいという言葉なんだろうな。


____________________________________________________________



 次の日俺は頭がガンガンする中、ダグラスさんとの訓練に励んでいた。


「よし、なかなか見れる太刀筋になってきた。風切り音も素人とは思えないほど鋭くなってきてる。今まではひたすらこちらに打たせていたな。今度はこちらも隙とか関係なく打ちにいく、防御の面も考えながら立ち回るんだ、いいな!」


 打ち合いの中で突然そう言ったダグラスさんは先ほどまでとは打って変わって攻勢の手数が格段に増えた。


「はい!これにはコツなどは!?」


 突然のことに防戦一方になってしまった俺は解決策を求めてダグラスさんに聞いてみた。


「決まってる。相手の動きを一つも見逃さず、行動をひたすら予測するしかない。みてから反応していたらいつまで経っても防ぐ事しかできない。防いでからどうするかが問題だろ!当たり前のことだが、当たり前ということは誰もがやってるということだ。それを極めれば極めるほど坊主の強さは確かなものになる。」


「なるほど、確かにその通りですね!全力で挑みます!」


「おう、その意気だ。だが、まだまだ甘いな!」


『ドン!!!』


会話の途中に気を抜いてしまったのか。思いっきりみぞおちを槍で突かれた。

ダグラスさんとの訓練の毎日の中でもう何度目ともしれない気絶によって一旦休憩となった。


____________________________________________________________


「う、あー、また気絶しちゃったか。くそ、まだ痛いぞ。」


「おうおう、起きたか坊主。毎度毎度綺麗に気絶しやがるな!はは。」


「もう少し手を抜いてくれって言いたいところですけど、為にならないので、今のままで大丈夫ですよ、たく。」


 今日から新しい訓練に移行した。

 これからどんどん強くなって目指すは剣聖。

 人数制限とかはさすがにないよな?そう思いたい。


 その後の訓練は気絶もなしに乗り切った。

 軽く顔を洗って髪が自然に乾燥するまでまってから、銀の熊亭にむかう。途中に露店があったのでギルドの依頼で稼いだ分から少し出して鶏肉くんというただの串を買って食べることにした。

 お金を渡して歩き出そうとすると後ろから鎧の音がしたので横に一歩動くと、すれ違いざまに見覚えのある顔の人が急ぎ足で通り過ぎた。


「たしか、この前ぶつかった女の人か?」


 うん、横顔がすごくスッキリしていてつい見惚れてしまいそうだ。透き通るような肌も魅力てきだしって、そんなこと考えても仕方ない。

ただの低ランク冒険者が騎士と知り合いになることはないだろう。良くてアルベルトさんのような門番の兵士くらいだ。アルベルトさんをバカにしているわけじゃなくて階級差はどうしようもないものだって女将さんに教えてもらったからな。騎士は滅多に平民と仲を深めたりしないことはこの世界の常識のようだ。だからあまり気にしないでおこう。


「ところで君はずっと後ろについて来ている鎧の音はまるで気にならないのかな?」


「え、ってさっきの!」


「はは、その物言いは新鮮でいいものだな。」


「いえ、失礼しました。騎士様。」


「そんな改まらなくてもいいよ。かえって堅苦しいから、さっきまでのとは言わない。騎士様じゃなく、アリアさんとでも呼んでくれ。それくらいであればそちらも気は使わないだろう?」


「はい、気を使って頂いてありがとうございます、アリアさん。」


「ふふ、滅多にそういう話し方にしてくれる人もいないのだが、私にとって君はすごく心地よい存在になってくれそうだな。名前は?」


「そうなんですか。田舎から出て来たものでかってがどうもわからないんですよね。俺の名前はエルマリアです。大抵の人はエルと呼びますのでそう呼んで頂いて大丈夫です。」


「そうさせてもらうよ。エルくん、話しかけた理由だが、先日こちらがぶつかってしまったのに一方的に話を切り上げようとし、そのまま行ってしまったことを後悔していたんだ。そしたら先ほど顔を見かけてね。またぶつかりそうになってしまったな。先日も含めてすまない。先日に至っては許してもらったことに感謝している、と伝えたかっただけなんだ。」


「そんなこと、全然大丈夫ですよ。人混みの中でぶつかってしまうのは良くあることですからね!怪我もしてませんし、問題ないです。」


「そうか、そう言ってもらえるとこちらとしても後腐れがなくて助かる。それでは夜間警護に向かわなくてはいけないだ。失礼する。」


「はい、頑張ってください。」


 騎士なのに、夜間に働くなんてかなり真面目な方なんだな。夜間の方が魔獣は活発になるから城門付近にも出没するようになるらしい。そんな時間を任せられるなんてそうとうな腕前に違いない。ギルド長にはさすがに及ばないだろうけど俺なんか一瞬で塵に変えられるだろう。


 うん。


 そーれにしても、なんというか。


 可憐で快活で。


 きれいだったなぁぁぁぁーーーー。



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