表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルは掴む、果ての世界  作者: 必殺脇汗太郎
二章 勇者と悪魔編
47/50

エルは謀る

「とりあえず、その足をどかしてくれないか。」


そう言ってから、俺は作り出せる限界まで影の腕を作り出し、一気に襲わせる。


だがテルミラスには一切通じなかった。


「ふん、『スキル発動・魔封じの弾丸』一斉掃射。」


スキルの発動と同時に、連続した破裂音が鳴り響く。そして一発の音につき一つの腕が破裂していくではないか。次々と生み出す腕はその悉くを破裂させられる。


この方法は無駄だと悟った俺は、すぐさま足の下からの脱出を図る。


密かに体の下の地面を掘っていたことによりできた隙間。体を支えていた影の腕を消してその隙間に落ちる。載せていた足が体重のよりどころを失ってバランスを崩すテルミラス。


それにかまうことなく離脱を図る俺は、不意に横合いから飛んできた鉄の棒に殴り飛ばされる。


数メートル転がったところでようやく体勢を整えた俺は、顔を上げテルミラスの次の行動を伺う。

しかし俺の視界に映ったのは、仁王立ちしてこちらを堂々と睨みつけている姿だった。


「迫撃はいいのかね?」


「はっ、俺がお前ごときに不意打ちだらけってのも格好がつかないと思ってな。戦うにしても逃げるにしても、先手を取らせてやるよ。」


「・・・・・・いいだろう、お言葉に甘えさせてもらう。」


言い終わるなり、闇を展開する。半径10メートル以内の光を奪うこの技は、心剣の効果範囲を拡大しただけではあるのだが、その実かなり有効な技である。


しかし、最強の冒険者に、小手先の技は通じなかった。


『スキル発動・心眼・剛射・一撃強化』


『合技・心撃の一弾』


聞きなれない言葉とともに、見えないはずの俺の肩を正確に打ち抜くテルミラス。


何かが俺の肩を貫通する。ありえないほどの痛みを伴ったその一撃に沈みたくなる膝。しかし倒れるわけにはいかず、影を全身にまとわりつかせ強制的に体を動かす。


「おいおい、なんだよ。臆病者の殺戮者なんて聞いたことないぜ。俺に背を向けるなんて死にたいって言ってるようなもんだってのによ!」


そういうテルミラス。手に持つ鉄の棒をこちらに構えると、またもや破裂音を響かせた。

そして風切り音を鳴らし飛来する何か。咄嗟に横に飛ぶと、飛来した何かはそのまま地に吸い込まれ地面を弾けさせたではないか。


(あんなものもう一発喰らったらさすがに死ぬぞ!)


『あれはおそらく銃っていうものだ。鉄の塊の弾丸を射出して敵を打ち抜くもので、おそらく遺物の類だろう。あんなものがこの世界にあるとは思わなかった。』


(なんでもいい!対抗策は!)


『ないだろうね。とりあえず、一生懸命逃げるしかない!』


「だーちくしょう!やってやる!!」


「おらおらおら、どんどん行くぞ!」


『バン!バン!バン!』


俺が逃げるのを面白がるように足ばかり狙ってくるテルミラス。必死に左右に跳ねながら逃げるも、足を掠る弾丸。足をかすめる度に鋭い痛みを伴い、しかしそれを気にすることもできない切迫した状況に焦りだす思考。


突如として始まった逃亡劇は死と隣り合わせのおかしなダンスに変わった。


なかなかの距離を空けてはいるが、それでも正確に俺の足を打ち抜かんとする弾丸にヒヤリとする。

あと少しで塀といったところで、立て続けに破裂音が聞こえ、躱した後のその場所に弾丸が飛来した。


見事に左足の太ももを打ち抜かれた俺は体勢を大きく崩し地面に倒れ込む。


これ以上被弾しない為に、陰で壁を作って伏せながら迫撃を待っていたが、不思議と続く音は聞こえなかった。


様子をうかがうために顔を出してみれば、どうやらテルミラスは誰かに体を抑えられているようだ。


これ幸いと言うように力を振り絞って片足だけで跳躍。塀を飛び越えた後はすぐさま空き家に転がり混み、素早く治療を施す。もったいないが回復薬をすべて使い傷を軽く塞ぐ。


そそくさと裏口から通りに出て、宿へと向かう。まだ治りきっていない足が痛みを訴えるが構わず走り抜ける。


やがて宿に着き、あらかじめ開けておいた自身の部屋の窓から侵入し、なんとか事なきを得た。


「つううう、肩も足もめちゃめちゃいてー。」


「むにゃ、やっと帰ってき・・・って、どうしたのその傷!今直すからそこに寝なさい!」


俺の部屋で寝ていたぺぺに強引にベットに抑えつけられると、暖かい光が俺を包んだ。


「私、少しだけなら回復魔法を使えるの。時間はかかるけど傷はしっかりと治るわ。でも、かなり深い傷ね、どうしたらこんな傷つくのよ。」


「軽く、最強と戦ってみたらこうなった。あれとはもう戦いたくないな。」


「はぁ?まさか、あの『冒険者』と戦ったとかいうんじゃないでしょうね!」


「そのまさかだから、困ったもんだよな。」


『グイッ』


「痛い痛い!!!なにすんだよ!」


「あんたね!勝手になんかやるのはいいけど、さすがにやりすぎじゃない!死んだらどうするつもりよ!もう一回やるからね!」


そう言ってまた俺の肩の傷を押し込むペペ。そして痛みにのたうち回る俺。

なんで傷を治されながらダメージを負わなきゃいけないんだ。おかしい。


「つつつ、仕方ないだろ。アリアさんを助ける為にまずはアリアさんの意志確認は必要だったんだから。あれは確実にあそこから出たがってる。あと少し準備をすれば何とかなると思うんだよ。」


呆れた目を向けるぺぺは、もう知らないという風に口を閉ざし治療をする手を止めた。


「明日の朝また続きをしてあげるから今日はもう寝なさい。その痛みが教訓になるといいわね。」


「え、ちょっとまだ眠いんですけど。ええ、終わりですか?痛くて寝れなさそうなのに?」


「治したら教訓にならないじゃない。ほら、さっさと寝なさい。」


えええ、まさかの放置。今度からはあらかじめ誰と戦って傷つくかもしれないと言ってから宿を出るようにしよう。じゃないと不眠症になりそうだし。


とりあえず、痛みを堪えて眠りにつくことにした。


____________________________________________________________


次の日の朝、街は騒然としていた。

それはそうだろう。

貴族界の重鎮が二回も襲撃を受け、二回目に至っては市民まで参加していたのだから。


だがそれを受けて動き出したのは騎士達だった。

貴族の息がかかった者たちは強制的に市民の家宅捜査に乗り出し、怪しい者を片っ端からとらえだした。


これに対抗して各地で暴動が起き、街中で悲鳴や物音が絶えず鳴り響く、混沌とした様相を呈していた。


「エル、あんたちょっと騒ぎすぎたんじゃないの?」


「そうかもな。でも、この国のトップはこんなことじゃ動かない。だからまだ安心ってわけだ。それに貴族どもは腐敗しすぎてる。ここらで市民から革命が起きてもいいんじゃないかな。」


「無責任ね。それで何人の人が死ぬと思ってるの?」


「なんかさ、最近、俺の大切な人とそうじゃない人の線引きがかなり明確になった気がするんだ。それでさ、大切な人を守るためなら、俺はなんだってできる気がするんだよ。」


「はぁ?アリアさんて人、あなたの話を聞く限りそんなに親密な関係じゃないじゃない。それならその理屈には当てはまらないんじゃないの?」


「確かに。だけどダンさんが救ってくれって言うし、思えば最初見たときから目が離せない人だったんだ。その二つだけで、守るには十分だと思うんだけど、ほんとどうかしちゃったのかな?」


「なにわけわかんないこと言ってんの。それで、次はどうするのよ。まだ『冒険者』はあそこにいるんでしょ?さすがに三度目の襲撃は失敗してもおかしくないわよ?」


「大丈夫。ちゃんと策は用意してあるから。」


疑いの目を向けつつも、階下にある食堂に向かうぺぺ。俺は早くに起きて食事をとっているから一緒にはいかない。


さてさて、最後の仕掛けと行きますか。


____________________________________________________________



―テルミラス視点―



「・・・・以上で報告を終了致します。襲撃に加担した大半の市民は捉えましたが、依然としてサイレントキラーの正体は不明のままです。」


「くっどうなっているのですか!私達の名に泥を塗るばかりか、大切な娘まで傷物にしようなどと、はやくそのサイレントなんちゃらをとらえてきなさい!」


「は!」


息のかかった騎士に怒鳴りつけるカナリア・バン・ウェステリア。貴族界の重鎮と言えど、連日の不祥事にはいら立ちを覚えているようだ。


「まぁまぁ、マダム。おたくのお嬢さんは無事だったことだし、これだけの手勢を投入してるんだ、さすがに敵さんもしっぽを出すだろうさ。」


「黙りなさい!そもそもあなたを雇ったのはいざというとき敵を殺す為なのよ!それなのに逃亡を許すとは何事ですか!」


「そういわれてもな。おたくのお嬢さんが止めなきゃ確実に仕留められていたんだ。だからそのことで責められるとつい、な?」


軽く腰にあるホルスターに触れる。三挺あるうちの一つ、一番小柄だがすぐに打ち出すことが可能である便利な銃を見て、マダムは口をつぐむ。


「とにかく、次あった時は遊ばないで仕留めるから、マダムはおとなしくここで待っててくれよな。」


そう言い、手を振って部屋から出る。初日に通された時とはまた別の甘ったるい香りに鼻がむずむずしたのでそそくさと屋敷から出ようとする。


しかし、その道すがらすっと隣に現れた執事風の男に俺は驚きの顔を浮かべた。


「昨日の今日でよく顔を出せたじゃねーか。それに素顔とはどういうつもりだ、サイレントキラー?」


「悪い、あんたに話が合った。あんたの話を聞くに、こんな依頼受ける人物には思えなくてね。そこで真意を聞きにちょっと寄ってみただけさ。」


「はは、そりゃ高額な報酬につられたに決まってるだろ。それ以外に何の理由があるってんだ?」


「そうか。それじゃあ、俺がこれからお前が稼いだ金の一部を密かに渡してる教会を襲撃しても、何も文句はないよな?」


「・・・どこでそれを?」


「はは、あんた、情報屋の中ではかなり有名な話らしいぜ?」


隣に立つ青年の真意がつかめず、俺はホルスターに手をかけて無言の脅しをかける。


「おっと、俺を殺したら、教会にいる仲間にすぐに情報が伝わる。そうしたらあの協会に居るシスターと孤児たちは、どうなるんだろうな?」


「・・・なかなか、汚い真似するじゃねーの。」


退路を綺麗にふさがれた状態のなかで、手の中に気持ちの悪い汗をかきながら平然とした風を装う。

一瞬でこの青年の命を刈り取ることはできても、それは選択肢からすでに除外されてしまった。


どうしたものかと思考を巡らすも、まともな案は出てこない。

仕方なく、この男の問いに素直に答えてやろうかと思い始めたところで、不意に男の方から話始める。


「あんた、貴族が嫌いなんじゃないのか?貴族の依頼を受けたという話を聞かないし、なによりさっきの部屋での会話、あんた嫌悪感が丸出しだったぞ?」


「それがどうした?それじゃ俺がこの依頼を受けた理由がないじゃねーか。」


当たり前のことだが反論すると、男はにやりと笑いかけてきた。


「これは勘なんだがな、あんたどさくさに紛れてここの主人を殺そうとしてるだろう?昨日、俺がここの娘を襲わなかったら、姿をくらませたまんまだったんじゃないか?」


「はは、おまえさすがに声が緊張しすぎだ。はったりとしても、さすがに突飛すぎるな。」


「だけど、否定はしないと。それだけで十分だ。頼みたいことがある。俺はここの娘がここを抜け出すことを手伝いたいだけなんだ。あんたの望みをかなえる代わりに、見逃してくれないか?」


突飛押しもない話からさらに飛躍した頼み事にさすがの俺も笑いが飛び出てしまった。


だがしかし、それに対する答えはすでに用意されていた。






「わかった。明日の夜、なにかまた陽動をしろ。俺がそっちに行っている五分の間に必ず仕留めろよ?」




俺はすんなりと喉から出た答えに、たまらず苦笑しながら去っていく背中を眺めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ