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エルは掴む、果ての世界  作者: 必殺脇汗太郎
二章 勇者と悪魔編
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エルは村を出る。

俺の失敗は確実に村中に伝わり、すこし抜けている人というイメージが定着して事によって元奴隷達や未だ俺へと不安の眼を向けていた一部の小人族たちからもだんだんと話しかけられることが増えた。


そして一番驚きだったのが、俺に稽古をつけてほしいと言ってくる連中がでてきたことだ。

だが、種族や性別関係なく強くなりたいと言う者たちの気持ちに、正直俺は応えられないでいた。


何故なら俺自身が未だ修行中だと思っているし、教わってきたことは基本中の基本でしかなく、後は実戦で磨いてきたのだ。そんな俺が下手に教えて変な癖がついてしまったりしたら申し訳ない。


そのことを素直に話してもやはり教えを受けたいと言うので、とりあえず貧弱な体を鍛えてからといいことで体力作りから始めさせることにした。


という小話は置いといて。


肝心の武器製作は、順調に段階を踏んでいった。


まず、大鍋の件について。これは思った以上にすぐ片付いた。

というのも、奴隷達の中には人間も混じっていて、この人たちを身ぎれいにしてから街に俺と一緒に向かい、あたかも必需品を買うかのように買い物がスムーズにできた。


帝都は、亜人に対する差別が酷い。下手をすると買い物すらもできない店があるくらいだ。小人族はその点あまり亜人らしい外見ではないので食べ物などを買うことは出来たが、お金がなく金属類の道具を買うことが出来ていなかったらしい。


そう言ったことを一気に解決できるということを考えての元奴隷受け入れだとしたら、存外小人族の村長は優秀な人材かもしれない。もっとも俺なんかよりよっぽど長い時間を生き抜いてきたのだから、その辺の知恵や機転の良さは段違いで、俺なんかが口を挟むことではないか。


ともかく大鍋等の問題は解決したので、早速タイリースの作業に取り掛かることにした。


____________________________________________________________


「よし、いい具合に水が沸騰してきた。エル、魔力を注いでくれ。」


「ああ、わかった。」


言われた通りに大鍋の内へと魔力を注ぐ。俺が魔力を注いでいる間にタイリースは数種類の薬草と、強力な魔力を帯びた『エンシェントエルダートレント』の葉を大鍋に入れてかき混ぜ始めた。


「これはね、この水の魔力の通りを良くするための触媒のようなものさ。特に強力な魔獣の体の一部は必要不可欠。なんせ、生きた物体に自然に大量の魔力を蓄えることが出来るのは魔獣か人間くらいのものだからね、その特性を調合した薬草によって水に引き継がせてから、改めて他の物体に移植する。この工程を踏まないことにはエルフの武器を大量生産することなんてできやしないよ。」


「本当にタイリースさんは豊富な知識を持っていますね。これで本業じゃないってじゃあ何が本業なんですか?」


「ん?あたしかい?そんなこと聞いても何の足しにもならないがね。あたしの本業は【吟遊詩人】さ。歌って踊って時々戦って、面白おかしく生きていたいっていうエルフにしては変わった性格でね。いろいろなことを覚えたいと思って、まずはエルフの技術から始めようかって流れさ。おかげで命拾いしたんだ、結果的には最良の選択だったんだろうねぇ。」


「それでここまでのことが出来るならきっと誰もタイリースさんのことを馬鹿になんてしませんよ。」


「んなことは分かってんだよ。そもそもあたしを馬鹿するやつがいたら遠間から眉間に一矢ぶち込んで終わりさ。話にならないよ。」


「・・・失礼しました。もう逆らいません。」


「ふん、良い心がけだって、そろそろ魔力を切ってくれ、十分だ。」


こうして出来上がった魔力水なる代物は、一見するとただの水だ。しかし、その内に内包する魔力はかなりの量だ。なんせ俺が大量に込めたのだから。


水の具合を見て満足したタイリースさんは、ポチョンという音を立てながら昨日作った小刀の木刀を水の中に沈めた。小刀には刀身部分にびっしりと刻印が施されている。焼き文字で描かれているので木の色に黒の文字が描かれている様は美しいの一言に尽きる。それに刻印の配列自体が整然としていて、それが更に美しさを引き立てていた。


しばらく待っていると刻印が光だして、小刀に魔力が通り始めたことがわかる。

そしてその光が落ち着きを見せた頃にタイリースさんが水から取り出し、水滴を一振りで払う。


「よし、なかなかの出来だね、すこし刻印が雑ではあったけど、道具がそろえばまだ少しはマシになるだろうさ。ほれ、魔力を通して振ってみな。」


言われた通り、手にもった小刀に魔力を集中させる。すると先ほど水の中で見た様に刻印が輝きだした。


ぐんぐんと吸われていく魔力がふいに止まり、刻印の効果が発動した。

まず始めに重量が消えた。手に持っているのに重さを感じない。


試しに一振りしてみると、鋭く空気を切り裂く音が鳴った。


「これ、めちゃめちゃか軽いですね。少し軽すぎて振りづらい気もしますが、小人族の人たちからしたら嬉しい効果でしょう。」


「それは小人族用だからね。それと【斬撃】も付与されているんだ、木刀でも細い枝くらいなら楽に切れるよ。」


【斬撃】の付与って、疑似魔道具というよりも魔道具そのままなんじゃ。


「言っとくけど、これは決して魔道具ではないからね。数回使えば壊れるし、そもそも使用者が魔力を込めないといけない時点で魔道具失格さ。」


「それでもすごいものはすごいと思いますよ。それと心を読んだような発言はドキッとするのでやめて下さい。」


「はは、ありがとね。あんたは少し顔に出すぎさ。男は少し寡黙で無表情な方が格好がいいものさ。あんたも少しは大人になんな。」


突然の指導にとりあえず曖昧な返事を返してこれからのことについて話合う。


そして大体の方針が決まったことで、忙しい一日が終了した。


____________________________________________________________


次の日の朝、まだ日の出から少ししか経っていない時間に、俺は村を出た。しばらくは帰ってこないと伝えてあるので黙って出てきたわけではない。もちろん俺に指導をお願いしてきた連中には一か月でとにかく体力を付けろと伝えてあるので、そちらのほうの心配もない。


ようやっと大きな問題に取り掛かることができる。もちろん、アリアさんについてのことだ。


予想以上に問題は根深く、一個人としてすぐにどうこうできる問題ではない。というわけで、まず俺は仲間づくりから始めなければいけないわけだが、いかんせん解決方法が見つからず、小人族の村滞在中ずっと頭を悩ませていた。


「んんん。どうしたものか。」


「どうしたものですかねぇ・・・痛い!エルひゃん痛いれす、ほっへたちゅまんでもひあへようとひないでくらひゃい。」


「なんで、お前がついてきているんだぺぺ。」


「いたたた、え、なんでってもちろん助けて頂いた恩返しに決まってるじゃないですか。」


「いや、別にいいから。お前みたいな弱い奴が居たら危ないだけだし。」


「ひどい、どうしてそんなことを。もしかしてエルさんは幼い子供を虐めるしゅ・・・いえ、エルさんは至って正常です。まっとうな竜人との混血です!!!」


「はぁ、俺別に竜人との混血でも何でもないんだけど。帰れって言ってもついてくるよな?」


「もちろん!エルさんに恩を返すまで離れられません!」


まいったなぁ。さすがにこれは余計な荷物だ。無理やり帰してもきっとまたいつの間にか後ろに立っている、そんな気がする。


「わかった。ついてくるのは構わないが、宿に居ろって言ったら必ず言うことを聞くんだぞ。」


「わかりました!任せて下さい、命令を聞くことに関して私以上の生物は他に居ません!」


はぁ、絶対聞かないやつだこれ。




とにかくこれ以上話し合っても仕方ないので、再び俺は帝都への道を歩き出した。傍らに小人族のおてんば娘を連れて。



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