エルは実験する
いやーー、なんでしょうこの虚無感。
「うぐぐぐう、なんなんだよてめぇは!」
「はいはい、吠えない吠えない。」
はぁ、ガキを襲い楽して儲けようっていう悪人を返り討ちにする。これを一回やってみたかった、ただそれだけのために一人で行動したのに。
はぁ。
よっっっっっっっっわ。
え、なに?漆黒さん達って一人一人の力もあったよね?なんなのこの人たち、ほんとに護衛なんていう仕事を引き受けていいの?全員一撃で沈んだよ?俺一応剣士だからね?剣使ってないんですよまだ?
疑問が顔に出てしまっていたのか、エルピスが呆れた声を漏らす。
『君さ、自分で竜を受け入れたこと忘れてるよね。』
(え、だってリソースを蓄えただけだろ?)
『あのねぇ、俺じゃなく、君自身が、竜を受け入れたんだ。体に竜の因子を取り込んだってことなんだよそれ。そりゃ、膂力だって今までと段違いだろうさ。なんせ体が作り変わったんだから。』
(魔獣と戦った時は普通に今まで通り戦ってたけど?)
『何言ってんの、あの辺の魔獣、相当強いよ?一応俺ってこの世界の知識とか、そういうの一通り入ってんだけどさ。君と師匠が通った森、指定されてないだけでダンジョンだからね?』
「え、何それ。」
「はぁ!?何それはこっちが言いた・・・」
「うるさいって。」
とりあえずこのアホには眠ってもらうとして。つい驚きの言葉が声に出てしまった。
腰を下ろしていたアホが(俺の蹴りによって)気絶したため、仕方なく木箱に座って会話を続ける。
(それで、あの森ダンジョンだったのかよ。先に言えよ。)
『いや、あそこで時間取られるわけにはいかなかったでしょうに。』
それもそうか。なら許す。
それにしても、戦ってるときに気づかなかったのは、俺だけじゃなく敵の強さも上がっていたからなのか。そして、この小悪党どものお陰で初めて力の上昇具合がわかったと。
てか、竜の因子って。そのうちほんとに竜人とかになりそうで怖いな。
別にもう今更人にこだわる理由もないんだけど、本当の母さんが絶対にめんどくさいくらい心配しそうだなぁ。
とりあえず、一旦宿に帰って今夜の準備をするか。
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はい、拍子抜けした戦闘を終え、俺は今日一番のお楽しみ。
無垢の剣で魔石を吸収して心剣を作ってみようの時間がやってまいりました。
いやー、魔石屋があるんじゃないかと聞いて閃いた時はもう、天才すぎかって思ったよね。
とりあえず価値の低そうなやつから順に並べていく。
うん、思った通り。少し濁りがあって大きさも今一な感じのものから、店頭に並べてあったような鮮やかな色で大きさが少し小さいくらいのものまで、一通り段階分けできるようだな。
もちろん今回の目的には心剣の種類を増やすという意味合いも少しは含まれている。しかし、どれくらいの魔獣であれば心剣が作れるのかという境界線を知ることが今回の本当の目的だ。
一つは確実に作り出せるだろうと思っている、ガラスケースに並んでいた『キングシャドウバット』の魔石。ひと際鮮やかで、更に中心に向かうにつれてその色が濃くなり、魔力が渦巻いているのがわかる。
こいつはさすがに行けるだろうと思っているが、残りは正直わからない。
19個の内一番上等なものを1として番号を振っていくと、心剣を作り出せるのは良くて3まで、後はきっと弱すぎる気がする。
なんせ生きている魔獣でも心剣が作れるやつと作れないやつがいたくらいだ。そして心剣にならなかった魔獣は総じて手ごたえのないやつが多かった。
魔石で作れるラインが下がるのか上がるのかはわからないが、少なくとも弱い魔獣の魔石では話にならないだろう。
早速期待を込めて、19番、一番価値が低い魔石から順に無垢の剣に取り込ませていく。
19番、失敗。
まあ、これはな。わかっちゃいたが魔石を砕く行為はなかなかに精神に悪い。主にお金への終着という面で。
気を取り直してどんどんやっていこう。
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「くっそ、胃が、胃が痛い!」
『そんなに悶えるならガラスケースの中の魔石を数個買った方が良かったんじゃ。』
「いいか、これは重要な儀式なんだ。これから心剣の種類を増やすのにどれくらい金を使わなくていいかを知るための、大切な儀式なんだよ!」
『いや、そこは戦って作ればいいだけでしょ。』
「なにを言ってるんだ。強敵ばかりと戦っていたらさすがに疲れる。楽できるところがあれば楽するのが冒険者の基本だ。」
『君の中に入ってまだ日が浅いけど、冒険者している姿をあまり見ないのはなぜかな。』
「よし、1番行くぞ!」
エルピスの小言を躱すため、俺は勢いよく紅い魔石に無垢の剣を打ち込む。
真っ二つに割れた魔石は、内部の魔力を周囲に解き放とうと光を強くし、そして光も飛び出そうとする魔力も、そのすべてを俺の無垢の剣が吸い込む。
「おおおお、今までにない反応!」
そして無垢の剣が、その姿を変え始める。
まず初めに刀身が実体を得ながら徐々に大きくなっていった。
ロングソード程度の大きさから、両手で持たないとバランスを維持できなそうな程に巨大な両刃の大剣へと変わる。
続いて持ち手が変化していき、両手で持ってまだ余裕があるほどに長くなった。
刀身の根元中央は、中心線に沿った握る部分を残すようにしてくり抜かれている。
鍔は刃方向に細長く伸びていて、その先っぽには小さな輪っかが円を成して取り付けられており、回転している。そしてその輪一つ一つに火が灯されていた。
最後に刀身が赤熱化したかのように火のような朱色に染まる。
「よし!なんとか一本目!」
【心剣・熔炉大剣】
それが頭に浮かんだこいつの名だった。どうも心剣の命名は自動的に決まるみたいで、エルピスによると、俺とエルピスが持つ知識の中から最適な言葉が選ばれ名が構成されるそうだ。
熔炉の中で溶ける金属を見て伝説のドワーフ鍛冶師が残した格言、地獄の炎の方がまだ温そうだという半端な知識から選ばれた、ということはないだろうから、きっと熔炉の正式な知識はエルピスが持っているのだろう、でないとこの大剣が途端に可哀そうになってしまうだろうが。
「よしよし、じゃあ心剣になることがほぼ確定している最高額さんをいただくとしましょうか。」
『あんまそういうこと言ってると痛い目見るよ。』
実際、心剣になる保証はないが、俺はこいつの元になった魔物の特徴や姿かたちの詳細を魔石屋の店員に聞きまくった。それはもう、店員さんが少し引いた目をするくらいに。
イメージが魔法を左右するなら、スキルにだって十分イメージが作用するのではないかという仮説が俺の中にもう半ば定着している。
なぜか、それはどちらも魔力を使って現象を起こしているからだ。
魔力とは未だ解明されていない、この世界に充満している空気のようなもの。
そしてそれはかなりイメージに影響されやすい。
いや、むしろ体で触れたり、体内に実体として溜めることが出来ない以上、イメージが魔力を操ることが出来る唯一の器官ではないかと考えることもできる。
その仮説に乗っ取り、一番成功させたい魔石だけ情報を集めたわけだ。
「よし、気合だ!高まれ俺の想像!唸れ俺のイメージ!うぅぅーーー、てい!」
パリン、という音を響かせて、魔石が粉々になる。やべ、力入れすぎたか!
心配を他所に、魔石から解放された魔力は、無垢の剣が吸いきれないほどに当たりに魔力の本流をまき散らす。家具等は壊れていないが、部屋全体がきしみ、風圧を感じるほどに魔力が駆け巡る。
そして、急激に迸った魔力は、消える時もまた突然であった。
すっと、消え入るように魔力が落ち着き、体を全体的に押されているような感覚が消える。
そして、両手で振り下ろした無垢の剣はすでにその姿を変えていた。
夜の空に翳せば消えてしまいそうなほど黒く、されど確かに青を感じさせる色。
ロングソードと呼ぶにはほんの少し短いこの剣は、予想以上に細かった。
一振りしてみれば、剣であるのにしなりを見せるほどで、切っ先に近づけば近づくほど剣速が上がる。
シュッ、というように音を鳴らすこの剣、光がないところで振れば、切っ先の動きはもはや肉眼では捉えられないだろう。
【心剣・王影蝙剣】
正にその名に相応しい特性を宿した、夜を駆る暗殺者の剣。
よしよしよし、なかなかに上々な出来。
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「うん、なかなか月が輝く、良い夜だ。」
昼間に揃えた装備をパパっと着る。
腰からつま先を覆う、ショースと呼ばれるものの上から膝にサポーターを付ける。上半身は袖がない細身のチュニックを着用し、その上から腰辺りにベルトを装着し、更に短剣2本を左右に括り付ける。体の線に沿うような、腹筋の上部より少し上あたりまでしかない胸当てを最後に装着すると、その姿はまさに暗殺者のそれだった。
もちろん、極力命は奪わない方向で行こうと思うが、もしもの時はね。
机の上に置いてある、鼻から下と耳を覆う仮面を、頭の後ろで仮面の左右に付いている紐を結ぶことで固定し、顔を隠す。デザインが真っ黒で、一切の装飾なく、凹凸だけで不気味さを出しているところが気に入ってすぐに買ったこいつが、やはり一番お気に入りだ。呼吸が少しし辛いが、多少のことは気にしない。
窓枠に手をかけて身を躍らすその前に自身のなりについてもう一度確認したところで、エルピスから適格と言える突っ込みが入る。
『君、心剣発動したら紅い方の眼が光るのに、どうやって潜入するつもりなの。』
俺はすっと眼帯を付けて、再び窓枠に手をかけ、今度は勢いよく飛び出して隣の民家の屋根に飛び乗る。
『いや、建物の影を歩いた方が見つからないんじゃ。』
(ああ、もう!おまえってやつは本当に気が利かないよまったくもうホントさ!!!)
エルピスの決意を砕かんとする言葉に抗いつつ、俺はとある屋敷へ向かう。
屋敷の主は、カナリア・バン・ウェステリア。
アリア・バン・ウェステリアの母にして、この帝都貴族界の支配層、その一端を担う人物の屋敷に、今夜俺は忍び込む。
目標は、マ・フリンスク・ピピ。ペペの母であり、ポポの母の救出が今夜の目的である。
・・・こいつら名前ややこしいよなぁ。




