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エルは掴む、果ての世界  作者: 必殺脇汗太郎
二章 勇者と悪魔編
39/50

エルはかけっこで勝負する

ようやく国境についた。

道中はこれといった障害もなく、数本の心剣を造ることもできたので結果は上々と言えるのではないだろうか。


そして、今俺は一人だ。


少し前、森の中を進んでいた時に師匠がそろそろだねと言って別れを告げてきた。


俺はやっぱりまだ師匠と居たかったので引き留めたが、さすがは自由人。またどこかで会えるさと言って飛んで行ってしまった。


街を出たところで空を飛んで旅立つことはできたのだろう。それをしないで途中まで一緒にいてくれたのだ、そのことに感謝して、俺は別れを終えた。


そして現在、国境の関所で入国の手続きをしている。


「よし、行っていいぞ!若いの一人だと何かと大変だろうが、竜人の混血ならそれなりに戦えるんだろう。帝都までは遠いが、気を付けていくんだぞ!」


「はい、ありがとうございます。あ、これよかったら家族のお土産にしてください。」


親切な兵士のおじさんに、背中に背負った布袋から道中で採取した山菜の詰め合わせを差し上げる。


「お、なかなかいいのが揃ってるじゃないか!ありがとな坊主!」


そういって嬉しそうに詰め所の奥に入っていく兵士さんの背を見送ってから関所の門をくぐる。

ここから先は、神帝国グリムローズ。目指すは帝都、アリアさんのいるところだ。


意気揚々と第一歩を踏み出したところで、草むらから小さな影が飛び出してきた。


「痛て!あっ!おいその袋返せ!」


突然体当たりを喰らったかと思うと、瞬く間にナイフで肩紐を切られて布袋を掠め取られた。

兵士の人たちが怒声を上げて小さな少女・・を追いかける後に俺も続く。


そして瞬く間に兵士を追い抜かした俺の先には、どんどん距離を離す少女の背があった。


「おま、早すぎんだろ!」


『少女に追いつけないとは、まだまだ君も鍛錬が足りないようだね。』


(普段は無口なくせにここぞとばかりに煽るな!)


俺の中の生意気な野郎に突っ込みを入れつつ、魔体まで発動して少女を追いかける。


『身体よ、あらん限りの力を与える、我の想像の元に従え』


体に漲る力。それを総動員して速度を上げる。


「ひいい!あっちいけぇ!」


こちらを振り返った少女が、まだあどけない声を上げて更に加速する。


「嘘だろ!」


とっくのとうに兵士の人たちを置き去りにしていく速度で駆けているというのに、そこからまだ加速するのかよ。





ちっ、仕方ない、これはもう、あれをだすしかないようだなぁ!?





『スキル発動・【心剣創造・群隼双剣ぐんしゅうけん】』


大量の魔力が体中で活性化し、両手に力の結晶を顕現させる。


それは透き通った、今にも折れそうなほど薄い()()


羽根のような膨らみのある刀身は白銀の刃以外、翡翠色の結晶でできていた。

鍔は無く、持ち手までも結晶でできているこの双剣は、柄から先端にかけて、表面も内部も幾何学的な線が複数走っている。


まさに速さを生み出す二本の羽根。


そしてその効果は、見た目通りの速さを生み出す。


『ズドン!』


勢いよく蹴られた大地が、爆発のような音を上げる。


木を器用に避けて進んでいく少女の背を、()()()()()()()()()()、流線的な挙動を描きながら追いかける。


「ひいい!なんで浮いてるんですか!ていうかなんなんですかそのぬるっとした動き!」


再度こちらを振り返り間近に迫った俺を見た少女は、摩訶不思議な現象を起こして自身を追いつめる男を恐怖の対象にしたようだ。


だが少女は、盛大に引き攣った顔を正面に向け直してスキルを発動する。


『スキル発動・小人の逃げ足』


途端にさらに速度を上げる少女。


まだ上がるのか!

だけどこっちのほうが少し早い!あと、すこしぃぃぃ!!!


「捕まえた!!!」


逃げる少女の服を掴んで地に足を付ける。


だが二人の速度はもはや急停止できるものではなかった。


二人同時に足をもつれさせ、俺は少女を抱えて・・・地面をごろごろと転がる。


たまたま進路が直線のところだったので木にぶつかることは無かったが、何十回と転がった俺達二人は平衡感覚を失い、四つん這いになってくらくらする頭を押さえた。


「もう、なんだってこう騒動に巻き込まれるんだ。うっぷ、とりあえず、その荷物を返せ。」


「うっぷ、いやです、私たちはお金が必要なんです!」


「それでひと様の物を盗むのは話が違うだろう。ほらさっさと・・・」


「その子をか、開放してもらおうぅぅ、お、おねがいします!!」


そう言って俺のに何かが押し付けられた。


何者かの言葉を皮切りに、ぞろぞろと辺りの茂みから姿を現す、俺のへそくらいの身長しかない者たち。


もしかして、こいつら小人、か?


『どうも、君はいろいろな問題を一度に引き起こさないと気が済まないみたいだね。』


(そろそろお前の小言も聞き飽きてきたよ。)


『それは残念だ。でも俺はとっても面白いからもう少し聞いててもらうことにするよ。』


(勝手に言ってろ。)


エルピスとのくだらない会話を終えて、ゆっくりと少女の服を掴んでいた手を放し、周囲を見渡してどう話を切り出そうか思案する。





「とりあえず、おまえら大人数で囲んどいて、なんでそんな涙目なんだよ・・・・。」


誰もが目に涙を溜めて、必死にこちらに槍を向けているのを見て、つい、そう漏らしてしまったのだった。


____________________________________________________________


「それで、なんでお前たちはこんな森の奥深くで暮らしてるんだ?もう少し浅い所の方が魔獣に見つからなくていいんじゃないか?」


「魔獣なんぞ、私達であれば簡単に逃げ出すことが出来ます。しかし、人間は狡猾で、ずる賢い。用意周到に準備をしてから私達を襲って奴隷に落とします。私達は逃げ足は速いですが、囲まれれば必ず誰かは捕まる。一人であれば逃げ切ることも可能ですが、私達は血のつながった氏族単位で村を築きます。必然的に守るものが多くなって、結果多くの者が捕まってしまう、私達は人間によってここに追いやられているのです。」


『君、もう他人からも人として見てもらえてないけど、この状況ではそれが功を奏したって感じだね。』


(悲しいことに、俺は今人間やめててよかったと思ってしまっているよ。それと今はふざけるのはやめなさい。)


『はーい。』


エルピスとのやり取りはいつでもなんとなく力が抜ける。そのおかげで、今事情を聞いている小人族の族長に必要以上の同情を抱かなくて済んでいる。


父さんが死んだ時、俺や母さんに向かって、今後の暮らしの仕方を教えようとする人が数人いた。必要以上の同情は、必要以上の善意を生み、必要以上の善意は絶対の正義として確立してしまう。


そしてその正義に沿わない行動をした相手に対して、誰も必要としていない悪意が芽生える。


その悪意に俺と母さんは苦しめられた。


そんなこともあって、俺は同情というものをある程度制御するようにしている。もちろん彼ら彼女らの状況ははっきり言って悲惨だ。同情しないわけがない。だが、欲してもいない助けを施すという行為は、優越感を得るための行動でしかない。


俺も母さんも、本当は父さんの死を純粋に悲しんでほしかった。死んだその日だけはそっとしておいて欲しかった。そこに不純な気持ちを混同してほしくなかった。


そんな中で誰よりも俺達と一緒に泣いて、次の日には思い出を語ってくれたのがケンネルさんだった。

あの人に対して、友情以上のものを感じているのは、やはりこの部分が強いように思う。


思考が脱線した。そう、小人族の問題だったな。


彼らはとても弱かった。それはもう、非力で、種族特性が逃げ足と言い切れる程、弱かった。

そこに付け込んだのが、人間だ。


小人族は大人になっても背が小さく、顔もかなり幼い。

一部の貴族は、小人族愛好家と呼ばれる者もいるようで、結論から言うとそいつらが金を払うから小人族はこんな暮らしを強いられているわけだ。


だって、捕まえようと思えば罠を張って即終了。あとは大金を出す貴族に渡してはい、終わり。


確かに感情を除けば、これほど儲かる仕事もないだろう。


だがしかし、その安易な悪感情が、彼らをこれまで傷つけた。

街に暮らす人間は、大多数が人より魔獣の方が怖いと言うだろう。だが小人族は最初、揃いも揃って俺に恐怖の眼を向けた。まるで、悪魔を見るかのようなその視線は、俺が敵意がないことを示すと少し和らいだが、それでもその瞳の奥には不安がチラついている。


そんな彼らだが、安住の地としてここを定めているのは訳がある。

それは自然に生えた茨の迷路が人の侵入を阻むからだ。更に茨の外にはトレントの大群。


これはもう、近づこうというやつの方が頭がおかしく、まさかそんなところの中心に、よりにもよって小人族がいると思う方が更におかしい。


そして小人族はトレントに襲われない。

なぜなら、族長の後ろには、かなりの年季を感じさせる表皮を纏った、古木のトレントが鎮座しているからだ。


『エンシェントエルダートレント』


必死の思いで人間から逃げたとある少女が、茨の迷路の中心の開けた場所で、干からびかけていたこの魔獣に水をやり続け、ついには復活までさせてしまった時から、小人族は周囲のトレント達から襲われなくなった。


よく見れば、小人族のほとんどの者が、エンシェントエルダートレントの枝から作ったのだろう、木の装飾品を身に着けている。この魔獣によって彼らは外敵から守られているのだ。


「大体状況はわかった。それで、どうしてお前たちは金が欲しいんだ?」


そんな質問が来ると思っていなかったのか、族長をはじめ、話し合いを見守っていた多くの小人族が、その質問がもたらされた理由を考え、一人また一人と、英雄的存在である一人の少女・・に目を向けた。


「う、仕方ないじゃないですか!私この人に拘束されてたんだから!訳を話して見逃してもらう以外に、方法なんてなかったんですからね!!」


小さな小さな神速の英雄。

最古の木から生まれた魔獣から、加護を受けた唯一の小人族。


マ・フリンスク・ペペは、注目を浴びたことにより顔を真っ赤に染めてそう叫んだ。

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