エルはやけくそになる
無垢の剣が変化し、新たな剣が構成されたところで銀竜から剣を抜く。
そして、銀竜の鱗を数枚切り取って新たにこの旅用に買った布袋に突っ込んで背負った。
「それにしても、暴れましたね。」
「竜との戦闘はいずれも周囲に甚大な被害を与えものだよ。今回は純粋な飛竜種だったからなおさらだろうね!」
辺りを見回せば、鬱蒼とした密林は跡形もなく、根元からぼっきりと折れた切り株もどきが至る所にある。場所によっては根ごと吹き飛ばされ地面がめくれてしまっているところもあって、いかに戦闘が激しかったかを如実に物語っている。
そしてその範囲は大きな村が4、5個は入るほどに広がっている。
主な要因は銀竜の風と、なんといってもあの強大なブレスだろう。・・・師匠の魔法による部分もそれなりにあるな。やっぱり魔法はずるい。
「それよりも、この銀竜をそのまま放置するのはまずいわね、骨格は割と無事だし、ゾンビ化すると手が付けられなくなりそうね。」
「といっても、これほどの巨体をどう処理するんですか?」
「んん、私の魔法なら燃やせないこともないんだが、如何せん竜の素体は貴重だ。加工に使えそうな部分は根こそぎ剥ぎ取るとしてもかなりの部分が残ってしまうし、今は私もさすがに魔力が足りない。どうしたものか。」
『ちょっといいかな?』
「ん?どうした?」
「ん?なんだい我が息子よ。私は何も言ってないよ?」
「いや、エルピスが何か言ってるんです。」
「・・・まるで独り言の様だね。声に出さないようにした方がいい。頭のおかしいやつに思われるぞ?」
「・・・それは、確かに。」
(それでどうした?)
『それなんだけどね。君がこの銀竜のリソースを吸収したらどうかな?』
(ん?俺が?)
『そ。だって君にはまだダンジョンの核を吸収できるほどのスペースが魂に残されているじゃないか。どうせだったらその部分に銀竜の純粋な生命力とリソースを蓄えたらどうだろうか。俺の見立てでは可能だと思うよ。』
「師匠、銀竜の生命力やリソースをすべて吸収できるって言ってるんですけど、そんなことできるんですか?」
「んー、君はいろいろ特殊だし、エルピス君が出来ると言っているなら、出来るんじゃないのかな?私には正直わからない、って感じだよ。」
ふむ。それで俺が強くなれるなら大歓迎といったところだが。そもそもこんな巨体をどう吸収するんだ?まさか全部食べて栄養分として接種しろと?一体何日かかるんだ。
『考え事してるところ悪いけど、話そうとしてくれないとこっちは聞こえないみたいなんだ。まぁ君のことだから大方全部食べるとか考えてそうだけど。』
(すまんすまん、その通りだ大正解だよ。)
『自身の主であると思うと、なんだか悲しくなってくるね。』
(まあ、そう言うな。で、どうやってやるんだ。)
「我が息子に助言するけどね。一人でいろんな表情を浮かべてるとそれはそれで変な人みたいで気持ち悪いよ?」
俺とエルピスの心の中のやり取りをみて師匠が話しかけてくる。俺が黙ってるからって寂しがらなくてもいいですよまったく。
「なんだか腹立つこと考えてそうだね。丸焼けになる気持ちを今から考えておきなよ。」
やばいやばい、思考がまた顔に出ていたみたいだ。
なるべく表情筋を動かさないようにして再度エルピスとの会話に集中する。
『もう話していいかな?それでなんだけどね、君のスキルは半ば俺が作ったようなものじゃないか。それで無垢の剣にはリソースを吸収できる機構が備わっている。だからそれを俺が少し弄って、純粋なリソースへ返還できるようにしようかと思ってね。』
(なるほど、それでそのリソースをいざって時に使えるようにするってことか。)
『そう、その通り。俺達の貯蔵できる魔力はどうしたって限りがあるし、傷の回復や体の頑丈さ等は魔力だけでは補いきれないからさ。その点、竜種のリソースを取り込めるなら、それらがすべて解決できると考えているんだ。じゃ、さっそくやってみよう。』
(もうかよ、意外と行動的なんだな。まぁ、ものは試しか。)
ということで、早速スキルを発動し、無垢の剣を呼び出す。
何度見ても、透き通った魔力で形成される刀身のお陰で自身に魔法適性がないことを思い出させる。
普通、人はそれぞれ適性に沿った魔力色を表すが、俺の場合は無色。これでは魔法の発動に難が出るのも仕方ないことか。
そんなことを思いながら、俺は無垢の剣を再度銀竜の体に刺そうとする。
『あ、ちょっとまって、まだ準備終わってないし、額から刺してほしいんだけど。』
出鼻をくじかれた形になったが仕切り直して、準備が整うまで竜の頭を登って未だ力強さを感じさせる双眸の前で待機する。
『よし、準備完了!これで吸収する機構はできた。後は君の精神力が竜に負けなければ大丈夫だよ!』
「え、ちょっと待って、なにそのいきなりの危ない発言!」
「どうしたんだーい、何か問題でもあったかのかーい!」
竜の口を、無理やり土魔法で作った柱で開けっ放しにして牙を数本抜く作業をしていた師匠が声を掛けてくる。
「いや、エルピスが竜の精神力に負けなければ大丈夫って言うんですよ!」
「あーそれは確かにそうだね。竜の魂の強靭さは異常なんだよ。一部の長寿の竜は神と同等の格に押しあがるからね、幼生期といってもその特性は備わっているだろうね!」
「なんですかその安心できない情報!」
「まぁ、頑張れ!暴走したら私が止めるから、安心して竜との再戦を楽しんでおいで!」
「あーあ、とってもあんしんするなぁーーー!!!!!!!」
ええいやけくそだ、せい!!
半ば投げやりに額に剣を刺した瞬間、意識が精神世界に引っ張られる。
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俺は何もない真っ白で真っ黒で、様々な色がごちゃ混ぜになったわけのわからない空間に一人浮かんでいた。
突如として目の前に弱々しい光の球体が浮かび上がる。
『我を殺した勇者がよもや、我の体を欲する愚か者であったか。』
いや、正確には俺あんたの邪魔しかしてないんだけどね?
『・・・ふん!とにかく、我はお主の中に取り込まれると言うのだろう?抵抗はしない。だが約束してほしい。』
約束?
『ああ、我の属する系譜は、一匹の悪魔とそれに連れられた漆黒の竜によって壊滅させられた。』
そいつらを倒して敵を討ってほしいと。
『ああ、その通りだ。』
・・・・・・
『どうしたというのだ、この精神世界ではお主の経験してきたこともなんとなくでしかないが感じる。悪魔という存在は執拗にお主を狙っているようだな、ともすればいずれは対峙する時がくるだろう。』
それはそうなんだが。
『我は矮小な人間にすら打倒されてしまう存在であったのだ。ならばお主に力を貸して、いつか我の悲願が達成することを祈るのみよ。それしかできんのだ。それの何が悪いというのだ!!』
怒るなって、そうじゃなくてな。なんかもやもやすんだよな。
『なんだというのだ!!!!』
だから、お前、自分でやりたいとか、思わないのかよ。
『は?』
いやだから、自分の手でやり遂げたくないのかよ。
『どうやってやるというのだ。我は死んでいるのだぞ。』
知らねーよ。
だけど、その為に俺の精神を喰らい尽くすとか考えないのかよ。
さっきまでの勇ましい戦いっぷりはどこ行ったんだよ。
イライラしてきた。
ふざけんなよ。
お前めちゃめちゃ強いじゃねーか。
それがなんでこの段階になって弱気になってんだよ。
ぶっ飛ばすぞ。
いまお前ともう一度戦っても余裕でぶっ殺せるぞ。
吠えてみろよ。
抗えよ。
何が矮小だ、お前の方がよっぽど小さくてひ弱だよ。
もう決めた。
そいつらが俺の前に現れたらお前にやらせる。
てめーを俺の配下に加えてやる!
エルピス!!!!
『はぁ、君はほんと突然強情になるね。時間かかるけど、大丈夫だよ。処理はやっとくさ。』
『何を、何をするのだ!』
まずはそこで反省していなさい!時が来たら起こしてあげます!全力で闘争心磨いとけこの駄竜!
そこで俺の意識は再び途切れ、精神世界から離脱する。
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「んん、ここは、さっきのところか。」
目覚めると俺は竜の頭があった地面に横たわっていた。
周囲にはもう、竜の巨大な体はどこにもなかった。
「起きたかい。いやーびっくりしたよ、剣を握ったまま項垂れたと思ったら竜が一気に光の粒子になって君に入っていくんだもの。それでそのまま地面に倒れて気絶したまま起きないんだから。ちょっと心配になったじゃないか。」
「そう、でしたか。いや、ちょっといろいろあって、予想外の結果になりましたけど、なんとかなりましたよ。」
「それは良かった。さぁ、ちょうどご飯ができたところだ。君は一日なにも食べていないんだから、さぞおなかが減っただろう。」
「え、一日?」
空を見上げれば、夕日で赤く染まっていた。てっきり数時間しか経っていないと思ったが、丸まる一日眠っていたとは。
「確かに、ものすごい空腹感ですね。さっそくいただきましょうか。」
「はは、竜らしく食欲も旺盛になったようだね。ほんと、予想外の方向に進んでいく君を見ていると母さんは楽しくて仕方ないね!」
「何言ってるんですか、俺はまだ人間ですよ。」
「ん?君は竜を取り込んで竜人になったんじゃないのかい?その耳、まるで竜だけど?」
へ?
恐る恐る自身の両耳に手を伸ばせば、そこにあったのは鱗に包まれ先端のとがった細長い耳だった。
(エルピス。)
『仕方ないじゃないか。君はあの竜の精神体をそのまま自身に移植したんだから。体は精神の影響を受けるものだろう?俺が最表面にいるから会話とかはできないけど、君の言う、時ってのが来たらこの場所を一旦譲るから心配しなくていいよ。』
・・・・・・・・・・どうしてこうなった。
俺は召喚獣的なやつになればいいなと思っていたのに!
『君が召喚獣を望んでいたのはわかってたんだけどね。そもそも召喚は魔法じゃないか。君が魔法を使えないのに、どうやって召喚するつもりだったの。』
さ、こんなくそみたいな世界ほっといてご飯を頂こう。
この日、食事中に俺の瞳から一粒の汗が流れ、それを見た師匠が爆笑するのだった。




