エルは病に呆れる
一話の分量を落として読みやすくしてみてます。もしかしたら分量が多い話は分割してあげなおすかもしれませんが、内容の変更はないので気にしないでください。
目覚めるとそこは昨夜寝ていた部屋だった。
そして当たり前のように添い寝、というより大の字で寝ているターニャがいた。顔は心配の色を浮かべてはいるが、体はその限りではないようだ。
「まったくなにして、っつ!」
上体を起こそうとした途端に背中から鈍い痛みを感じて起き上がることができなかった。
「・・・・ああ、俺斬られたのかよ・・・。」
負けた腹いせに斬りつけるとは、どんな神経してんだ。ていうか死ななくてよかった。
俺がもぞもぞと動いているとむくっと小さい何か―――ターニャが起き上がり、どこか壊れた人形のようなゆっくりとぎこちない動きでこちらを振り返ってきた。いや怖すぎだから。
「んんんんーーーー!エルさん!大丈夫です!??」
「ああ、どうにもやられちまったみたいだな。俺気絶してベットに運ばれないといけない病気にでもかかったのかな?」
「まったく!エルさんが死んだらどうするつもりだったんです!?今から一緒にぶっ殺しに行きましょう!」
「おいおい、過激すぎか。とりあえず落ち着け、めんどくさいやつにこっちから絡みに行くと余計にめんどくさくなるだろう。とりあえず、ダリル様に報告するだけにしとこう、ほら、俺より厳しい罰を下してくれそうだろう?」
「案ずるな、犯罪者として今は牢屋にぶち込んでいる。追って処罰を下そう。」
突如として隣から声を掛けられ、音の発生源から体を離そうとして、背中の痛みに体がつい強張る。慌てて声の主を確認すれば椅子にゆったりと座るダリル様がそこにいた。
「すまない。驚かすつもりは無かったのだ。心配して見に来てみればすやすやと眠るその小娘がベットで大の字で寝ていたではないか。起こしては悪いと思い気配を消していた、さっき来たばかりだ、そう怪訝な目を向けるな。」
「そうですか、失礼しました。今体を起こしますので、ターニャ手伝ってくれ。」
「ふむ、その様子だとやはり深く斬りつけられたようだな。戦闘後でも気を抜くなと言いたいところだが、さすがに演習の終了後まで周囲に気を配るのは違うだろう。あいつはもう兵士としての道はないだろうな。」
「その道を無くす張本人が言うんだから本当にそうなるんでしょうね。」
「うむ、その通りだ。そして今回のことは我の失態だった。ここに謝罪とさせてもらおう。」
そういってダリル様は背筋を正すと頭を下げた。
「やめてください。あんなのどの道なにか問題を起こしていたでしょうし、ダリル様が頭を下げたとあっては良くない噂が立ちますよ。」
「私は今すぐ牢屋に行く許可が欲しいです。隣の部屋ではエルサさんが待っているです。一緒に行ってコテンパンにしてオオカミの餌にしてくるです。」
「すまないがそういうことなら許可はやれんな。我が正式な罰を下して奴の命を途絶えさせるということで勘弁してもらえないか?」
「ターニャ、口の利き方に気を付けなさい。ダリル様も真面目に対応しなくても大丈夫ですよ。俺は一応生きていますし、傷もポーションがあればすぐに治りますから。」
「そうか、だがお主はわかっておらぬ。我の客人を、我の兵が、襲ったのだ。我の威厳の為にも奴は処刑するしかないのだぞ?」
「・・・・そう、ですか。わかりました。出過ぎた真似を。」
「気にするな。命はそうそう簡単に奪っていいものではない。小娘の怒りももっともだが、感情で動いているといつか手痛いしっぺ返しを食らうことになるぞ、心しておけ。」
「わかりました、です。」
「物分かりはいい方だな。では我は事後処理がある、これで失礼するぞ。」
「はい、見舞い感謝いたします。」
ダリル様が最後に手を振りドアを開けて出て行く。
その後ろをすたすたとついて行き一緒にドアを出て行くターニャ。
ダリル様の威厳ある後ろ姿を、ターニャが小さい子供を連れたお父さんに変えた。
このことは、言わないでおこう。うん。
それは置いておいて、ターニャはきっとエルサさんを呼びに行ったのだろう。
しばらく待っているとどたどたと走る音がして勢いよくドアが開き、エルサさんが登場した。
そしてなぜかターニャと同じような首の動きでこちらに顔を向けてくる。いやだからそれ怖いから。
エルサさんとしばらく目があったまま固まっていると、おもむろにエルサさんが一歩踏み出し、その行動に不安を覚えたのと同時、エルサさんは次の二歩目で宙を舞った。
「ぎゃあああああ!」
絶叫を上げて痛みにのたうち回り、それによって一層痛みが増すという悪循環の間、元凶のエルサさんは自身の失態によっておろおろするばかり。おい、ターニャよ、おまえまで狼狽えんでもいいだろうに、・・・くっそ痛てぇ。
「ごごごご、ごめんなさい!!」
「つつつ、いいよ大丈夫、だから今度から抱き着くときは自分の体がもう少女ではないことを考えてから慎重にお願いするよ。」
「めっちゃ根に持ってる!」
珍事件が収まり、改めて心配したんだよという話を聞いて謝る流れをこなし、それからしばらくは三人で談笑していた。話の最後の方で聞いたんだが、今さっき通行許可の知らせが来たそうだ。
傷は今現在ポーションを数回に分けて傷にかけている最中で、これをあと数回時間をおいて繰り返すだけで治る。明日には万全の状態で旅立てるだろうとのことで、俺は安心してもう一度眠りにつくことが出来る。
二人にそろそろ寝かせてくれと言って、解散した。
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日が昇り、俺は強張った体をほぐすため演習場に出て走り込みと軽い素振りをした。
半日ほぼ寝たきり状態というのはやはり体が鈍ってしまうものだなと感じつつ、感覚を取り戻すために一振り一振りをしっかりと大切にしていく。
「ふむ、余程ここにいる兵士より熱心な方ですな。」
声のした方に顔を向けると宰相であるチャンコフさんが立っていた。
「おはようございます。冒険者は感覚が命ですから。感覚を養うには鍛錬あるのみとダンさんや師匠達に教わったもので、体を動かさずにはいられないんです。」
「それはいい心がけでしょう。武の道は険しい。一日一日の積み重ねが明日に繋がるのですから、エルさんは良き戦士になることでしょうな。」
「ええ、戦士というよりはしがない冒険者って感じですけどね。」
「なにを仰る。昨日の前線での活躍は我が兵の中でも噂になっておりますよ。どうです?騎士、とはいきませんが、ダリル様の配下に加わっては如何ですか?」
「・・・そうですね。旅を終えてこの身が更に強くなったら、考えてみます。」
「今はそれでいいのです。いずれダリル様には良き配下の者が必要になる。その時までに、良い返事を期待していますよ。」
ではこれで失礼します、といい、チャンコフさんは踵を返して砦内に戻っていく。
まったく、下手に返答すると瞬く間に従軍が決定しそうだった、宰相はやはり宰相ということだな。俺は頭がよろしくないからこういった会話は少し疲れてしまう。
気を取り直して続きの素振りを続けていると、いつの間にか昨日一緒に戦った白軍の兵士たちが周囲で同じように剣を振ったり俺の素振りをみて何かを話し合っている。というか、中には騎士階級の制服を着た人たちまで俺のことをギラギラした目で見ている。
「・・・手合わせ、したい人いますか?対人の経験をもっと積んでおきたいので。」
そう周囲に言ってみれば、我先にと兵士と騎士達が男女問わず、わらわらと集まってきたではないか。
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朝飯の時間まで次々と相手を代えて模擬戦が繰り返された。
一撃いいのを入れたら勝ちとはいえ、病み上がりの貧血気味には堪えた。もちろん意地で全勝してやろうとしたが、さすがに最後の方は騎士達に負けてしまった。すこし悔しい。
赤軍と比べて白軍はなんとも気のよさそうな人たちだな。
騎士の方々だってすごく気軽に話しかけてくるし、話し方も実に好感度が高い人ばかりだった。熱心に集団戦での立ち回りについて聞いてきたのでつい俺も盛り上がって話し込んでしまうほどにはいい人達だな。
白軍の方々と話ながら砦に戻り、そのまま食堂に連れだって入っていく。
すると多くの視線が俺と俺の周囲の人たちに注がれた。特に赤軍の人たちからのものが多いようで、そのどれもが睨みつけるようなものだった。
「気にしないでくれ。騎士である私達がいるのだ。さすがに問題行動も控えるだろう。」
どうやら入口側が赤軍の範囲で、その奥に白軍の面々が見える。堂々とした態度で歩く騎士、クルスべリア様の後ろをついて行き、白軍の面々に迎え入れられてようやく一安心・・・することはできなかった。
一緒に訓練をしていた人たちと俺が席に着いたそのすぐ後に、赤軍に属していると思われる騎士様が鎧をきてつかつかとこちらに歩み寄り、俺に向けて白い手袋を投げつけてきた。
咄嗟のことで反応しきれなかった俺はその手袋をしっかりと受け取ってしまう。周りの人たちがやっちまったという顔を向けてきて初めて俺は、これが決闘の申し込みだということに気が付いた。
「昨日の借りを返させてもらう。あのように無様に馬上から落とされて黙って居られるものか。さっさと準備しろ、私は外で待っている。」
そう一方的に言い放ってその騎士は食堂を出て行く。・・・・まじかよ、仮にもお前の部下が不意打ちで斬りつけた相手だぞ。名誉の為だけにそこまでするのかよ。
深いため息をついたところ、周りから激励の言葉を掛けられ、クルスべリア様には相手を殺さないようにと頼まれた。
どうやら周りの話を聞くに、あの騎士、大して実力もない癖に家の力で大隊長の位についたそうで、一対一の戦闘は大したことはないらしい。
だが。
大したことが無いのは、別に問題ではない。
決闘ということはあちらは俺を殺すつもりでかかってくるだろう。
それを簡単にあしらうことはできる。できるのだが、あの騎士は家の地位に余程の誇りがあるようで、そんな奴に素直に勝ってしまうと後からいろいろ面倒に巻き込まれるのではないのだろうかというどうしようもない問題が浮上する。
・・・・・・・・ま、いいか。どうせすぐにこの国から出て行くことだし。
もう昨日の疲れもあってどうでもいい感がすごく増してきている。ちゃっちゃとぶっ飛ばしてそそくさとでていこうと心に決めて俺は戦いの準備をする為に部屋に戻ることにした。
もちろん、ターニャとエルサさんは起きてはいない。
心配して疲れていたのはわかるんだが、肝心な時にいないとは。というかターニャよ、おまえ俺のベットで寝てただろ。




