エルは奮闘する!
夜が明け、俺達は朝早くから体を動かしていた。
三人共それぞれ体をほぐし、戦うための体を整えると共に、精神を研ぎ澄ませていく。
もっとも、命がかかっている訳ではなく、意趣返しのためではあるが。
「よし、準備万端。あいつらの憎たらしい顔にほえ面かかせてやりましょう。」
「そうだな。さすがに昨日のあれは頭にきた。ぼっこぼこにしてやろう。」
「私は手足の二、三本叩き切ってやるです!」
「「それはやめよか。」」
「ん?だめです?」
そんなこんなで三人の準備が整う。
今俺達がいるのは昨日演習を行っていた戦場。
そしてそこで赤と白に分かれた内の白軍のほうにいた。
「お三方には期待していますよ!なにせあっちの赤軍の者たちを蹴散らしてしまう実力を持っているらしいじゃないですか。最前線での配置になってしまいますが、よろしくお願いしますよ!」
「任せてください。こっちもイライラが溜まってますから。頑張ります。」
「ええ、お互いに!」
会話の終わりに、高らかと整列のラッパがなる。
「皆の者!位置につけーーー!!!」
「前列、構え!」
歩兵と、それに混じった俺達が武器を構え、しばしの静寂が訪れる。
『ブオオオオオン!!!』
「すすめぇぇーーーー!!!」
開戦の合図とともに両軍が一斉に駆ける。
「ターニャ!ぶちかませ!」
冒険者のパーティーと歩兵を中心とした軍の違いとはなんだろうか。
軍は数の暴力で押しつぶすことに長けている。
一方、俺達はわずか三人。
だが、冒険者は狭い場でも個人の圧倒的な力を発揮することによって凶悪な魔獣を駆逐できる。
そして俺達三人の中で一番破壊力があるのは誰かと問われれば。
「全力でいくです!!!」
『スキル発動・トリプル・フィジカルブースト・ドワーフの血統』
『ドワーフの神よ、力を』
いつものスキルと祈祷のセットを素早く唱え、漲る力でもって、錬成した戦斧を引き抜くと同時に飛び上がる。
そして落下の勢いを合わせて地面をたたき割った。
「「「「うわぁぁ!」」」」
俺達の位置は隊列の中心。よってたたき割られた地面の被害を受けるのも赤軍の隊列の中心。
勢いよく走ってきた最前列の兵士が隣や後続を巻き込みながら倒れていく。
「両翼は直進!後続部隊は中央部隊に続け!」
指揮官が戦局を見て即座に指示を飛ばし、それに合わせて指示を伝えるためのラッパがなる。
「エルサさん!殺傷能力低めで広範囲に魔法を!」
「まかせて!」
『我が命じる、魔力を代価に、あまねく水でこの地を洗い流せ!』
『海神の荒波』
魔法名を唱え終えた瞬間に、ターニャの割った地面から怒涛の勢いで水が噴き出し態勢を整えていた赤軍の兵士を纏めて押し流していく。
「おい、進めねーぞ!」
「エルサさん!なにしてんの!」
「だって、広範囲の魔法って威力が高すぎるんだもん!」
エルサさんの放った魔法で敵を押し返すことはできたが、反面こちらの進軍速度が目に見えて遅くなった。水の勢いは弱まったが地面がぬかるんで兵士たちの足が泥につかまってしまいうまく動けない。
「ああもう!俺が突撃して時間を稼ぐから隊列を崩さないで進んでください!」
そういって前を走っていたターニャを追い抜き、開戦と同時に発動していた魔体で身体能力をあげ強引に泥の上を走っていく。こういうとき狩りで森を駆けまわってバランス感覚を培っておいてよかったと思う。
「昨日の奴だ!さっさとやっちまえ!」
聞き覚えのある声がどこからか響き、一斉に態勢を整え直した赤軍の兵士たちが殺到してきた。
足止めをするために一人一人にかける時間を極力少なくしなければならない。
よって今回は多少の骨折は後で魔法でどうにかしてもらうとして、多少本気で剣に力を籠める。もちろん刃には布を巻き、切れないようにしてあるので殺してしまう心配はない。
左からきた一人目の兵士の頭を思い切り叩き、よろめいた背中を蹴り後続に当てる。
二人目が右から剣を刺すような構えで突進してくるので、剣を合わせ、後ろに流す。
勢いそのままに、一人目と衝突してもみ合いになったやつらに二人目の兵士が加わりついに周囲を巻き込み転がる。
これで左側にスペースができたので体を滑り込ませ、接敵を減らすことに成功する。
複数を相手取るとき、攻撃される面を減らすことが大事だとダンさんに言われた。
今の場合、後方は味方で気にする必要はなく、左方面は現在俺に転ばされた者たちで塞がれている。右方面の敵は俺が左に動いたことで間が空き、その間を詰めるため一瞬遅れる。つまり次来るのは正面のみとなった。
「死ね!!!」
明らかに刃がむき出しとなった剣を振り上げ切り込んでくるこいつはもしかしなくても昨日喧嘩を吹っ掛けてきた兵士では?
殺意高めの攻撃は、反面ひどく遅い。ダンさんくらいの剣速じゃなきゃ今の俺には温すぎる。
振り下ろしの一撃を半身になって躱し、次の行動に移るその一瞬を突いて、剣を持つ手を俺の剣の柄で叩く。鈍い音がして、あまりの痛みに手放された剣を空中で掴み、兜を直接切りつける。
金属音を響かせて倒れていく兵士の上に乱暴に剣を放る。やろうと思えばこんな粗末な兜ごと叩き切れたが、今の一撃でも相当痛いだろうから今はこれで良しとする。
遅れて右からやってきた兵士の槍の一撃を跳躍で躱し、槍の上に着地することで強制的に槍から手を離させる。廻し蹴りのように後ろ向きに回転し、遠心力を付けた剣の一撃を無防備な兵士の腹に叩き込み吹き飛ばす。またもや後続を巻き込んで転がっていく兵士を最後まで確認せずに次の相手に目を向ける。
こうして派手に戦うことで中央部隊の進軍を止め続ける。そうしているうちに後ろからようやく追いついてきたターニャとエルサさんと白軍が俺の援護に入り、戦いは混戦になっていく。
「ターニャ、エルサさん、左右を頼む!これからは固まって動こう!」
「「了解!」」
左右を固め、それぞれが一方向だけを担当する形に持っていく。
先程までとは違い、今俺達は戦場のどのあたりにいるのかがはっきりとしない。わかるのは少しずつ侵攻しているということだけだ。
「一旦空白地帯を作ろう!多少は強めでもかまわない!」
指示を出し、二人が頷く。俺は陣形から一歩飛び出すために強引に前にいる兵士一人を鍔迫り合いの状態に持っていき、身体能力を極限まで高めて押し飛ばす。
そうしてできた隙間に飛び込み、最近考えていた技を繰り出す。
「せい!!」
剣を大振りに振り敵を後退させ、あえて剣を地面に刺し、万力のように力を込めて廻し蹴りを放つ。
そう、要するに魔体による力押しだ!・・・だって俺魔法とか使えないし。
やったことのしょぼさに比べて促した効果はことのほか大きい。
「うわあああ」
直撃した兵士が先ほど押し飛ばした兵士よりも大きく吹き飛び後続を巻き込む。というか巻き込んでばかりで芸がない気がしてきた。
一瞬振り返り後ろの状況を確認すると、ターニャは戦斧でまたもや地面をたたき割って敵を吹き飛ばし、エルサさんは地面を思い切り蹴りつけターニャと同様の状況を作り出し空白地帯を作り出していた。
・・・高火力はいいですよねホント・・・。
ともかく俺達が作り出した空白地帯の意味を察した味方の白軍が一斉になだれ込みがっちりとした塊を作り出す。
「いっきに進軍だ!!」
「「「おおおお!!!!」」」
将官たちには申し訳ないが俺が号令を出し兵士たちを鼓舞する。
「俺達は魔法を警戒だ。飛んできた魔法は全力で打ち消せ!」
「「わかったわ!|(です!)」」
こうして一丸となった俺達の勢いに負けて赤軍の戦線が押し上げられていく。
そして高々と角笛による号令によって、虎の子の騎馬隊が投入された。
「進めえええええ!!!!」
ドドドドっと戦意を挫く、血の底から湧きあがってくるような音を立てて騎馬隊がおれたちのところまで一気に駆けてくる。
塊になっていた一段が一気に二つに割れ道を開けると、さながら砲弾のように騎馬隊が赤軍を蹂躙し、進軍する。
意外と奥深くまで来ていたようで騎馬隊が突き抜けた先には高々と掲げられた旗が見えた。
だがその前には赤軍の騎馬隊が待ち構える。
「行ってくる!!!」
仲間の返答を聞くよりもはやく最高速度で騎馬隊を追い越す。
自身でもここまで早く走れたのかと驚愕しつつ、最後の仕事に取り掛かる。
「おおおらあああああ!」
前方から駆けてくる騎馬隊。俺は愚直に正面から衝突する。距離にして5メートルといったところか、それくらいの距離から相手が突き出している槍に向けて跳躍。
飛び上がった俺を見て、恰好の的というように狙ってきた騎士の突き出す槍を体を捻って躱し、同時に鎧を掴んで相手の態勢を崩す。
まさか飛んだ状態で体を動かしてくると思っていなかったのか、目に見えて動揺が表れた騎士はいとも簡単に落馬した。そして主を失った馬の背を蹴って右後ろを走っていた騎馬にぶち当て、俺は左後方にいた騎士に飛びつき頭を掴んで強引に馬上から落とす。
一緒になって落ちてしまったがすぐさま立ち上がり戦線から離脱を図る。
俺の仕事により中央を陣取っていた三体の騎馬がいなくなったことでできた穴に白軍の騎馬が駆け込む。
その勢いのまま中央突破し、赤旗を掲げた騎馬の一人が勝鬨をあげたことで、演習は終了した。
「なんとか仕返しはできたかな?」
やっぱり勝った時の高揚感というものはなんとも言えない気持ちよさがあるな。それに大群の中でもしっかりと動けることが分かったし、三人の連携も悪くなかった。
あとは今よりもっと高火力の技さえあれば、というところだが、実際今の俺にはどうすることもできないので一旦そのことは思考の端に追いやる。
汗をぬぐい、仲間の位置を確認していたところに一人の騎士が駆け寄ってきてねぎらいの言葉をかけてきた。
俺はしっかりと返答をし、互いに勝利の余韻に浸り、そろそろ仲間の元へ行こうとした、その瞬間。
騎士が俺の後ろに視線を向け、驚愕の表情を向けたと同時、鋭い痛みが背中に走り、そのまま前方に倒れ込んでしまった。
朦朧とする意識の中、どたどたと地面を響く音を聞いたのを最後に、俺はあまりの痛みから意識を手放したのだった。




