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エルは掴む、果ての世界  作者: 必殺脇汗太郎
二章 勇者と悪魔編
27/50

エルは酒に難を感じる

あまりの静寂に自身の鼓動だけが耳に届く。


首を垂れる数十人の男たちは、恐怖によってその体を彫像のごとく固め、天上から見下ろす視線にただ平伏するのみ。


俺達は突然のことに唖然とし、呆然と上を眺める。今眺めているものが太陽であればどれだけ晴れた心を持てたことだろう。そう思うと少しばかりの緊張もすぐに解けてくる。


「跪かんとは、我の問いに対する答えと受け取っても良いということだな?」


圧迫するかのような覇気はさらに高まり、自然と足が竦む。

だが、ここで無様に腰を抜かしては、まさしく首謀者であるというようなものだ。


全神経を集中して、口を動かす。


「いえ、それは違います。私達はそちらの方に食堂を使えと言われたのでそうしただけの、ただの旅の者です。」


「ではなぜそのただの旅の者が、我の軍に囲まれ、矛先を向けられておるのだ?」


「その軍の方々というのは、我らを客人と認めず、女をよこせと言い、従わなければ剣を振るう者のことを指しているのでしょうか。そしてその軍の方々が正しいと言うならば、私達はこの砦の敵ということで間違いなく、騒ぎを起こした原因であるでしょう。」


「なるほど・・・・・安心しろ。我の軍は客人にむやみやたらに矛を向けるような輩ではない。」


そこで区切りをつけて、国主様はテラスから飛び降りた。


『スタ』


着地の音はほとんどせず、少し膝を曲げ屈んだだけの態勢から上体を起こし、肩幅に足を広げると次の言葉を放った。


「つまり、我が客人に対し無礼を働いた愚か者が、今我に膝をついている者達の中にいるということで相違ないな?よもや全員、というわけではなかろう?」


「そうですね。何人かは、言い逃れできないほどに刃を振るいましたが。この場の全員が私達に危害を加えたかと聞かれば、それは否と答える他ないでしょう。」


「なるほど、貴様は頭の回る者のようだ。客人に愚か者達の命の権利を握らせるのはあまりにも酷なことであるな。・・・おい、立て。」


「は、はいぃ。」


俺に向けていた視線を逸らし、一人の兵士に近づくと、その襟首を軽く持ち上げ強制的に立たせた。


「貴様に栄誉を与えよう。愚か者の名前を言え。」


「お、愚か者の責は、咄嗟のことに正常な判断を下せなかった我々全員で共有すべきであります!」


「そうか、では全員我の手で始末を着けねばならないと申すか。」


「それはお止めになった方がよろしいかと。」


このタイミングで俺は口を開いた。


「ほう、客人よ。訳を申してみよ。」


「私達が害されたというだけで、ここにいる者すべての命を摘むというのはあまりにも大きな恩になってしまいます。その恩を私達三人だけで返すというのは到底難しく、それならばこれからの働きで報いてもらう方が効率的かと。治安が安定するということは、私の友人達が安心して暮らしていけるということに他ならないのですから。」


「・・・・気に入った。貴様らを我の正式な客人としてもてなそう。そろそろ我も食事時だ。共に話をしようではないか。おっと、そうであった、おまえ達!情けなくも命を救われたことを感謝し、その身を今一度精神とともに鍛えなおせ!理解したのなら直ちに果てるまで走りを止めるな!」


『『『は!!!』』』


命令を受けた瞬間に跪いた兵士たちが一斉に走り出す。誰もが先ほどまでの酔いを忘れ、我先にと砦の門を出て行く。


「ふむ、年々軍人としての品位が落ちていく。これは改善の時が来たやも知れんな。」


そう言って身を翻し、こちらに視線でついてこいと促すと、すたすたと歩きだした。


「行くしか、ないよな。」


俺達三人は何も言うことなくその後ろをついていくことにした。


____________________________________________________________


「エルよ、ダンの弟子ということだが、あやつの指導はどんなものだ?」


今、俺はなぜか豪華な装飾が施された部屋の中央にある、一体何人が座って食事する予定なんだと考えてしまう机に向かって、ダリル様と食事をしている。


アリシア様と呼ぼうかと思っていたら、ダリルと呼べと言われたのでそうしている、じゃなくて。


なぜ、二人きりで食事をしているのか。

それはダリル様がそう指示したからにほかならない。


全員で食事をすると思っていたところ、ダリル様が俺だけと話をする、他の者は案内させるので別の場所で食事をしてほしいと言われたしまった。そう言われたからには従うしかあるまい。


一応、食事の始めに何故か聞くと、文官さん、正式には宰相のチャンコフさんが理由を説明してくれた。


「食事は気に入ったものとしか共にしたくないというのがダリル様の考えでして、エルさんのことは気に入ったが、他のふたりに関してはすまないがそうでもない、ということなのです。憤りを感じるのはもっともですが、国主たるダリル様は休まる場所というのがあまりありません。ご理解していただけると助かります。では、食事をお楽しみください。」


とのことだった。別に俺は気にしていなかったが、そうなるとどうして俺だけそんなに気に入ったのかが気になる。


その話を振ってみたところ、


「ああ、我の覇気に当てられて、行動できたのはお前だけだったからだ。お前の仲間たちは恐怖により動けず立っているしかできなかったが、お前はあろうことか我の問いに皮肉を持って返してきたではないか。蛮勇とは正にこのことよ。だがそういった者を我は好いておる。それに、ダンからの手紙にお前のことが書いてあった。ダンのお墨付きが来ておるというからあとで会おうと思っていたら、いきなり騒動を起こし、我の兵に囲まれ、そして皮肉までぶつけてきたのだ。これで気に入らなければ我の懐は相当に狭いと言わざるを得ないだろうな。」


だ、そうだ。一旦納得して、そのあとはいろいろな話をし、先ほどの質問に至るというわけだ。


「ダンさんは、人のことを痛めつけては笑い、早く立てと言いながら足を払い、必死に防ぐ俺の姿を見てさらに苛烈に攻め立てるのを喜びとした指導を施してくれました。おかげで打たれ強さには自信がありますよ。」


「ふっ、あやつは昔から言葉より先に行動に移すやつだった。お前のことを気に入りすぎて力が入ってしまうと言っていたぞ?指導者としての実力がないのは大目に見てやってくれ。」


「ええ、大丈夫ですよ。それに教えるべきことはしっかりと教えてくれていましたし。厳しさは、まあ、あれですが、ダンさんのお陰で強くなれたんですから文句なんてありません。」


「そうかそうか、このことはあいつにしっかりと伝えておいてやろう。手紙にお前のことを害せば我の兵を根絶やしにして最後にお前に剣を突き立ててやるからそのつもりでいてくれっと書いてきよった。それだけ好かれているというのは、お前は幸福なやつだな。」


「・・・おじいちゃんに好かれるってのも変な話ですけど。」


「それはそうだ!!お前というやつは本当に面白い。」


____________________________________________________________


談笑をしながら、酒を飲み続けた。

すると徐々にダリル様に変化が訪れた・・・。


「だからな?俺は!べつにケーンと仲が悪くなんてないんだよ!それなのに阿呆の貴族どもが好き勝手やりだすから!俺は旧友と話しすらできん!おかしいとは思わんかエル!」


「そうですね、その話はもう数回聞きましたよ。もうそろお酒をやめられてはどうですか?」


「ええーーい、うるさい!俺はこの国で一番偉いのだ!だから一番酒を飲むんだ!」


「なんなんですかその暴論は・・・。」


この人、酒乱だった。それも結構絡んでくるタイプの同じ話を何度も繰り返す人。


そろそろ苦痛にも感じてきたところで、ぎぎっと扉が開く音がした。

振り返るとチャンコフさんが呆れた顔をして立っていて、俺と目が合うと申し訳なさそうな表情に変わり、口を開いた。


「エルさん、申し訳ない。商談の続きをしていてダリル様を放置してしまった。この人は酔うと国の情報をペラペラ話してしまう癖があるのです。なにを話したかはわかりませんが、どうかご内密に。」


「わかりました。といってもそんなに重要な事を話していたとは思えないので大丈夫ですよ。」


「そう言っていただくと助かります。ほら、ダリル様、おしまいですよ。エルさんにも用事があるのですから。」


「えええい、俺以上に大事な用など、あるかぁーーー。」


そういってダリル様はばったりとテーブルに倒れて身動きしなくなった。

顔を覗き込んでみれば幸せそうな顔をして寝ているではないか。


チャンコフさんと顔を合わせ、同時に呆れた顔を浮かべる。心が通じ合う瞬間というのはあるものなのだな。




この後2人がかりで酔いつぶれた国主様を寝室のベットに放り投げる作業をした。もう結構な年なのになんでこんなにがっちりしてんだよ。そしてまたチャンコフさんと顔を見合わせ、お互い苦労しそうな性格ぽいですよね、そう言って互いを慰めあったのだった。


____________________________________________________________


「ふう、まさか一人部屋とは、好待遇だなぁぁ。」


あくび交じりにそう呟きながら今通された、一人で使うには大きいベットに倒れ込んだ。


「それにしても、あの人が【槍王キングオブジャベリン】か。」


ダリル様の酔いがそれほど回ってはいなかった時、不意に問われたこと。それは俺の紋章のことだった。


お前はどんな紋章なのだと聞かれ、答えないわけにもいかず、剣士ですと事実を少しだけ話した。

そうすると、グリム様はおもむろに自身の【職】を明かし始め、そして次のように語ってくれた。


____________________________________________________________


「我はその昔、ダンが戦争で活躍していた頃に手合わせをしたことがある。」


「どうだったんですか?」


「引き分けだ。我はその時すでに最終職である【槍王】であり、あいつは未だに【剣豪】という第二職の特殊派生でしかなかった。ちなみにダンは今でも【剣豪】のままだぞ。それでだ、我が反乱を抑えるための軍の将軍として出陣した時、あいつはまっすぐ俺の元まで走ってきた。障害などないかのように俺の兵を切り捨てながら。あの時我は不覚にも恐怖してしまった。【剣王】とはここまですさまじいキレを生み出すのかとな。そして俺の元までたどり着くと、『おい、そこの棒もったやつ、俺と勝負しな』と言ってきたのだ。」


「棒をって、あの人若い時は結構ぶっきらぼうな話し方だったんですね・・・今でもそんなに変わりませんか。」


「だろうな、あれの愚直さはそうそう変わらんだろうて。でだ、一騎打ちをしたはいいが一向に決着などつかぬ。やがて俺の率いた兵が反乱軍の勢いに負けて敗走するまで、勝負はつかなかったのだ。だから、勝負はお預けだ、最後にお前の【職】を聞かせろと言ってやった。いやー驚いた、第二職でしかない、だから言っても仕方ないだろうと適当にあしらわれたのだ。まったくやつは恐ろしい奴だ。」


「第二職で最終職に勝てるものなのですか?」


「無論だ。高い技術はそれだけで何にも勝るものである。あ奴はまさしく剣の鬼だ。そんな奴に師事を仰いでいるのだ。ありがたく思えよ?」


____________________________________________________________


まさかダンさんが第二職とは知らなかった。てっきり【剣王】やそれに近いものだとばかり。

そして、最終職に届くほどの剣の腕ということに戦慄する。


おれ、そんな人にくそじじいとか言ってたのかよ。危なすぎだろ。


だけどその強さには少し憧れる。どれだけの時間を掛ければいいかわからないが、絶対に届いて見せると、そう思いながら眠りにつくのであった。





明日は、軍の訓練に参加することになっている。

昨日散々やられた恨みを晴らしてやるぜ!

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