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エルは掴む、果ての世界  作者: 必殺脇汗太郎
二章 勇者と悪魔編
25/50

エルは静かに切れる

「なんか・・・すみませんでした!」


事情が事情なだけにエルサさんは頭を下げていた。


「いえいえ、今回のことは大半が勘違いということもありますし、そこまで頭を下げなくてもよろしいのではないですか?」


「護衛の依頼を受けた身でありながら、その本人が引き起こした問題です。彼女を擁護して頂くのはありがたいですが、報酬の減額等を受けるのは覚悟の上です。」


「わかりました。では次の町中の護衛もお願いするということでどうでしょうか?報酬は変わらずにそちらは罰を受け、こちらは無料の労働力が手に入ったという形であれば、双方が納得できるのではないでしょうか?」


そうスーワンさんが言ってくれたので、俺達はその罰を甘んじて受けることにした。


「それにしても、あの神官君、えーと、パパルくんでしたか。あれは相当頭がおかしいですね。」


「その部分は私も同感です。一人の女性をあそこまで自身の物として扱えるのは正直言って引きますね。」


神官パパルに、今回どうしてこのような行動に出たのか話を聞くため、『彷徨える旅人』からは俺とエルサさん、『深淵の漆黒』からリーダーのファティマさん、商隊からスーワンさんがそれぞれ集まり、事情聴取をした。


話し合いとは言えない独りよがりな主張ばかりで、聞いたもの全員が引いた顔でパパルを見ていた。


____________________________________________________________


「それで、なんで俺達を襲った?あれから二か月は経っている。なんでこのタイミングだったんだ?」


「うるさい!お前のような平民風情に話すことなどなにもない!」


「・・・エル君、この人これから向かうケーンの出身でね。名前をパパルと言ってこいつは貴族なのよ。ケーンでの貴族は、それこそ神か何かのような存在ととして扱われるの。だから普段からこういった主張をして問題ばかり起こしていたのよ。最初はお金持ちで顔も悪くないから声をかけてみたんだけど、ずっとこの調子だから私疲れたの。これで最初に合った時に言ったことが嘘じゃないって解ってもらえた?」


「ああ、もう疑ってはいなかっ・・・」


「クソガキ!俺の女に気安く話しかけるな!」


「・・・こういうことなのよ。もう私が話すわ。」


無言でうなずき、この話し合いはエルサさんとパパルの一騎打ちとなった。

他のみんなが全員唖然とした顔を浮かべ、さすがのファティマさんも普段の言動や行動を表に出すこともできずに、頭がおかしいものをみたという表情だ。ちなみに言っておくがその表情と俺がファティマさんとやりとりをしたときの表情はほぼ一緒だったと思うぞ。


「それで、どうして今日なのかしら?」


「ああ、エルサちゃん、君が強い洗脳を受けていることがわかった俺達は仲間を集めようとしたんだ。だけどやはり平民だらけのこの地では私の崇高な思考が理解できない者たちばかりだった。しかもだ、あろうことか君と私の時間を共有することを許したこの馬鹿二人すら、やめようだのそれはやりすぎだとかなんだとか言ってくるようになった。そこの頭のおかしいクソガキを殺すことが私の意志で、こいつらは親の代からそのまた親の代まで私の家の家来として勤めてきたものたちなんだ、私の意志を聞けば賛同しなければならないに決まっているだろう。それなのに反論してくるものだから、幼いころから私の周りの世話をさせてきたこいつらであっても許すことができなかった。心苦しかったが私へ賠償金を支払わせて、食料等を貢がせることで私のすばらしさを理解させた。こいつらはみるみるうちに体から悪いものが取れてすっきりしたようで、今日の襲撃ではノリノリだったのだ。そうそう、盗賊どもはお前らが積んでいる積荷があったので報酬として渡すと言ったら大喜びだったよ。エルサちゃんの持っているものはもちろん私のものであるのだから当然それを誰かに渡すのも私の自由というものだから気にしないでくれ、どうだい、寛大な男だろう?それで、どうしてこの日なんだって?そりゃもちろん街の中ではクソガキを守ろうとする人たちでいっぱいだからに決まってるじゃないか。特にあのバカでかい猿、あいつは妙にそこのクソガキを気にかけていて邪魔で仕方なかったよ。あんな薄汚い冒険者として少しばかり有名になったからと言って、少年に欲情するよう・・・」


『ズドッ!!!』


「すまない、聞くに堪えなかった。長々と演説してくれたおかげで頭がおかしい内容は十分話聞いたはずだ。開放すればどうせすぐ追ってくるだろう。もうこの場で・・・殺そう。」


「エル君、落ち着いて、盗賊と同じ扱いをするわけにはいかないわ。ケーンで問題にされても困るでしょう?とりあえず、まだ街に行って帰れるぐらいの距離よ。さっさと街の詰め所に突き出した方が賢明だわ。」


「・・・そんなことする必要ねぇ。パパルは常識がなってないから親父さんに家を放り出された身だ。その護衛として俺らが付き添ってるわけで、その役目を放棄したと言われれば俺達の家族が危ない。だけどこいつの問題行動で死んだってなれば俺達の家族もこれまで通りの生活をおくれる。だからいっそこいつと俺らを殺してくれねーか?」


唐突に角刈りの男が話し始め、不覚にもその内容に少し同情してしまった。すまない、俺はてっきりどうしようもない理由で従っているのだとばかり思っていたよ。


そして次に口を開いたのは、やはりというか金髪の方だった。


「私とそこのステファンはこいつの機嫌を伺わなくて済むならもう命すらも惜しくない。エルサさん、君に執着してしまったのは申し訳ない。俺達は建前だったとはいえ、失礼な言動や目を向けてしまったのは事実だ。それに、パパルの指示とはいえ人を一人あやめてしまったこともある。もうこれ以上罪をかぶりたくはないのだ。」


「その汚い口を閉じろ!お前らの・・・」


『ドゴッ!!!』


「すまない、我の耳にはどうしても小賢しい虫の羽音が耳障りだったものでな。安心しろ、地獄の業火で燃やし尽くすような真似はしていない。」


気絶から目覚めたパパルが突如として喚きだしたが、それをすぐさまファティマさんが気絶させて止めた。その言動を今ぶっこまれるのは精神的に疲れるが、いい仕事をしたので全員から称賛の目を向けられていた。


「とにかく、そういうことならパパル一人を馬に載せて、事情を説明した紙を挟んで街に送ればいいんじゃないですか?私たちの商隊の馬であれば行って帰ってこれるぐらい頭いいですし、この人たちのことは、私から直接、パパルの本家に報告しに行きますよ。私それなりに大きな伝手は確保してありますので、交渉も難なく進むでしょう。」


「よし、ならそうしてもらうとして、こいつら二人、えーっと、ステファンと、そっちは?」


「私の名前はハリスルだ。」


「そうか、ステファンとハリソルはどうします?」


「そちらの2人も私に任せてもらえないだろうかエル君。見たところまともな飯さえ食べさせればなかなかの槍と弓の使い手じゃないかと思う。ぜひうちの商隊の私兵として働いていただけないかね?」


「いいん、ですか?」


「ああ。もちろん今回のことを簡単に許すことはできない。だからその分必死で働いてくれないか?そうすれば君たちを間接的に支配していたパパル君の親御さんにも話をしてあげようじゃないか。」


「はい!ありがとうございます、一生仕えさせて頂きます!ありがとう、ありがとうございます!」


「この御恩は一生忘れません!」


2人は次々と感謝の言葉を口にしてスーワンさんに涙目を向けている。

どれだけ辛い思いをしてきたのだろうか、大人がこうも涙を流すとは。


「それじゃ、この阿呆を馬に載せちゃいますか。」


ファティマさんがかなり強めに殴ってくれたおかげで未だ気絶しているパパルを再度縄で縛り上げ、商隊の待機する場所まで引きずっていく。縄から解放された残りの2人はスーワンさんに足にしがみついて再度お礼を言っている。さすがにここまでされるとスーワンさんも困り顔で、迷惑を被った側なのに優しく慰めるしかできなかった。


____________________________________________________________


そんなこんなで、今は馬の帰りを待つために急遽、街道脇に馬車を止めなおし、みんなで歓談の時間となってしまった。そして先ほどのスーワンさんの会話に至るわけだ。


「あのさ、俺が行きたいと言ったはいいが、あんなのが偉そうにしている国に行くの反対になったりしてないか?俺は正直少し後悔してきたところだぞ。」


「んー、でもまぁ、あんなのは極少数だと思うわよ。ケーンの貴族と言えば神のような振る舞いっていう噂と一緒に、神らしく民を平等に扱い慈悲をもって接しているって話もよく聞くし。だからパパルは貴族に相応しくないってことで旅に出されたんじゃないかと思うわ。」


「それなら、ひとまずは安心だな。そういえば混戦でターニャとエルサさんが組むとかなり強力だなって思ったよ。超攻撃力と動けて戦える魔法戦士、だからダンジョンの時の乱戦も切り抜けられたんだなって再確認できたよ。」


「あらそれはうれしい評価ね。それを言うならエル君だって、あの切り込みはなかなかできるものじゃないと思うわよ。敵陣を横断してたじゃない。」


「はは、馬車から隠れてみていましたが、三人の活躍は目を見張るものがありましたよ。深淵さん達が5人で守ってたのに対して、こちらは三人でしっかりと積荷を死守していましたから。みなさんはお強いのですね。」


「ありがとうございます。それにしても『深淵の漆黒』の戦いは見ておきたかったですね。皆さん言動はあれですが、装備も性能が良さそうでしたし、なにより立ち振る舞いに切れがありますからね、そんな5人の連携はぜひ参考にしたかった。」


「そういうことなら、我らが【♰死闘♰】という名の狂気の乱舞をして差し上げようではないか、あーはっはっは!!!」


「「「「わーはっはっは!!!」」」」


先程まで少し離れたところで全員片膝をつき、ファティマさんを中心にしてなにやら秘密の暗号らしきもので密談していたはずなのに、突如として俺達の後ろに現れた。


どうやら、手合わせをしてくれるらしい。

理由を尋ねると、長い口上を述べて訳を話してくれた。

要約すると、三人パーティーで、一人は幼女、もう一人は若い男、そうしてどことなくエロいお姉さんという内訳→お姉さんが若い冒険者を捕まえて自分の子供を育てさせてるのではないか→かかわるとろくなことがない!→どうやら普通のパーティー→しかも強い!→時間もあるし、死闘(手合わせ)しちゃう?やっちゃおうぜ!、という流れらしい。


こちらとしては大歓迎だが、話の途中で話している意味を理解したエルサさんが、私はそんなあばずれじゃないわよ!!と言って襲い掛かろうとするのを防ぐので必死だった。ファティマさん、女性が怒った顔が怖くてしてそんなにビビるなら下手に煽らないほうがいいですよ、そのうちほんとにがっつり叱られちゃいますよ。そう助言をしようかと思ったが、それはそれで面白そうなので俺の心の内に留めておく。


「その提案、快く受けさせていただきますよ。負けたら?」


夕餉ゆうげの狩猟を一手に引き受け、さらに体得した技術の粋を尽くしたものを御馳走、というのはどうかね?」


「のった!」


そうと決まれば早速支度だ。


「ターニャ―、石で地面に蝶々の絵を書くのはやめて、あっちで楽しいことしようかー。」


「はいなのです!」


うん、パパルの後だとターニャが可愛くて仕方ないぞ。誰だ初対面で適当にあしらおうとした奴は。


____________________________________________________________


「ねぇ、私を勝手に巻き込まないでよねぇ、もうさっきの騒動で疲れちゃったんだからー。」


「はは、もう決まったことだ!エルサさん、彼らは料理がうまいらしい、しかもここから遥か遠く、東の国の料理で想像を絶するそうだ。食べて・・・みたいだろ?」


「エル君、本気で勝ちに行くわよ。最悪腕の一、二本無くなっても構わないのだろう?」


おいおい、エルサさん、向こうで準備してる深淵さん達(スーワンさん命名、勝手に使用)が恐怖の目であなたを見ていますよ。


「エルサさん、腕は取ったらダメなのですよ?あの人たちはみんな心が優しい人たちなのです。」


うん、ターニャは偉いねぇ。深淵さん達が今度はターニャをすごく優しい眼差しで見ちゃってるよ、あれ完全に保護者の目だよ。でもこんなターニャが一番高火力で盗賊の胴体を両断しちゃうんだから、世界って残酷だよな。


場所は馬車を止めてあるところから数メートル離れたところ、あのパパルが魔法で焼き払いできた半径10メートルの円が丁度いい大きさだったのでそのまま使用することにした。ルールはどちらか一方が制圧されるか、円の外に押し出されたら負け、というシンプルなものだ。


それと、俺達が離れたせいで盗賊が襲ってくる可能性はかなり低い。

なぜなら俺が魔体で索敵をするよりも更に精度が良く範囲も広い『シーフサーチ』という想像具現魔法を、『深淵の盗賊シーフ』(自己申告)ことカンディーダが使い、十分に遠いところにいることを教えてくれたからだ。


ちなみに『盗賊』というジョブを持つ者は至る所に引っ張りだこなので仕事に困ることはなく、【盗賊に身を落とすような『盗賊』なんて盗賊以下だ】ということわざが有名だそうだ。そして補足だが、ファティマさんは『深淵の騎士ナイト』という二つ名|(自己申告)なのだとか。


「よし、こっちはいいですよー!」


「では、この爆竹を上に投げて破裂した瞬間に始めるとしよう、では!!」


ファティマさんが上に投げた爆竹に俺達は視線を誘導される・・・・・


「ははは、隙ありなのだ!深淵の偽装を見破れんとは!」


「おい、さすがに卑怯だろ!」


「勝負に卑怯もないのだよ、若き少年よ!」


「ちっ、さっきからちょいちょい意味がかぶってんだよ!」


「そ、それは言っちゃだめでしょおおぉぉぉ!」


こうしてくだらない掛け合いをしている間に互いの距離は限りなく近くなった。ここで小さな影がさっと飛び出し、深淵さん達がこちらに駆けだした瞬間・・から行使していた力を解き放つ。


『スキル発動・トリプルフィジカル・フィジカルブースト・ドワーフの血統』


『ドワーフの神よ、大地の恩恵を我が獲物に』


こちらの先駆けはターニャ、不測の事態にもいち早く反応し、スキル&祈祷のコンボを即座に行使していた。さすがだ、戦闘と鍛冶だけは完璧なうちの子の実力を刮目して見よ!


いつもの柄を地面に突き刺し石礫を飛ばしながら斧を生成する技により、深淵さん達の陣形が崩れる。

だがファティマさんだけはそのまま突っ込んでくる。全身真っ黒派手派手装備によって気づき辛いがファティマさんの装備は全身鎧。そしてこれまた真っ黒なタワーシールドを前面に掲げ、その強大な質量の壁で迫ってくる。


『身体よ、あらん限りの力を与える、我の想像の元に従え』


「ふん!」


『ゴン!』


「このまま押し切って・・・あ、あれ?」


「うちの最高火力をなめすぎですよ。」


タワーシールドの横を抜けて剣を振るう俺を見て、即座に得物を投げ出し逃げるように後ろに跳躍したファティマさん。その顔はどうしてという疑問の色で染められている。ころころ表情が変わって面白い、じゃないじゃない、即座に後ろに回ったカンディーダさんの鋭い短剣の一撃をしゃがんで交わし、その勢いで廻し蹴りで足払いをかます。


カンディーダさんはその場でくるりと回って俺を飛び越していく。そこにエルサさんが剣舞踊によるショートソードの突きを放ち、それをカバーするように『深淵の拳士ファイター』(ファティマさん命名)のグシケルンがその鋼鉄の籠手で覆われたその拳をエルサさんの剣に当て軌道を逸らす。


だがエルサさんの攻撃は終わらない。突きで一歩踏み出した足に重心を乗せ回転、そのまま蹴りを放つ。拳士ファイターだけあって近接戦はあちらの方が有利、即座に蹴りに反応しもう片方の拳で受け止める。完全に攻撃を受け止め反撃に出ようと一歩踏み出そうとしたその時、爆発音とともにグシケルンが吹き飛ぶ。


双方が互いの攻撃を防がれ一旦距離を置いた。両者睨み合いの状態で、ファティマさんが口を開いた。


「おいおい、こちとら倍以上の体重にさらに重装甲なんだが?なんで幼女が斧一つで受け止められるんだい?」


「ターニャはドワーフの天才なのです、おじさんなんてへなちょこなのですよーだ!」


「ファティマさん口調が素に戻ってますよ?それにしてもカンディーダさんは随分身軽なんですね。あんなに綺麗に裏を取られて蹴りまで躱されるなんて思ってませんでしたよ。」


「ふん、回復薬があるからって、私の足を折ろうとしたな。蹴りの速度を見て一瞬ヒヤッとさせられたよ。」


「おいおい、そっちのねーちゃん、随分いい蹴り持ってんじゃないの、今度は拳で語り合わねーか?」


「私もその逞しい体に惹かれるんだけど、さすがにあの蹴り食らって傷一つもない拳と語り合う気にはならないわね。それ脱いでくれるっていうなら、私も一枚脱いであげようかしら?」


「「「「「「ほんとですか!!!」」」」」」


「ちょっとエル君まで乗ってどうすんのよ!それにそっちの盗賊の子と魔法使いの子!あなた達女はでしょう!」


「「「えへへ、つい?」」」


「そ、そんなことより、続きをはじめようぜ!」


そう言って今度は俺が駆けだす。ターニャがその後ろを少し遅れてついてくる形。

狙いはファティマさん、の盾!


俺の突進に慌てることなくタワーシールドを構え、受け止めようとするファティマさん。その視界はタワーシールドによって塞がれている。そこに足を掛け、後ろから助走をつけて飛んできたターニャを放り投げる。狙いは不測の事態に備えてファティマさんの後ろに密集陣形で隠れた残り四人。頭上から落下してくる幼女に度肝を抜かれ、蜘蛛の子を散らすように散開する。


『ズドーン!!!』


「いやいや、それ死んじゃうから!!!」


「細かいことは気にするなです!」


「それ今言って良いセリフじゃないから―――!!!」


そう叫ぶファティマさんを放置して、とんぼ返りのように反転し『漆黒の双剣使いツインソードマン』(漆黒漆黒と周りがうるさいから飲んだノリで自身で命名。実は後悔している。)がターニャに向かって迫る。


『ドワーフの神よ、大地の恩恵を我が獲物に』


ターニャもそれに新たに作り出していた二本の手斧で応戦。


「てい!」


「ふっ!」


「やぁ!」


「そいや!」


「ちょー!」


なんだか可愛らしいかけ声を聞いている暇もなく、掛けていた足をタワーシールドに弾かれ態勢が崩れた俺に、すかさずグシケルンがその拳で正拳突き。それを俺は体の軸に沿って空中で回転、拳が空を切ると同時にその拳を下から切り上げる。


『ガギン!!』


「どんだけ硬いんだその籠手!」


『シュン!』


「ふん、そっちこそどんだけ金かけたと思ってやがんだ!」


『ブン!』


お互いに言葉を交わしながらも攻める手は止まらない。

そこにファティマさんのロングソードと、カンディーダさんの短剣の攻撃が加わり、完全に防戦一方となってしまう。


「くそ、なんで三対一で躱せんだ!」


「甘いんだよ、トレント並みの手数か目に見えない速度じゃなきゃまだまだ余裕だぜ!」


「みんな、どきなさい!」


「2人とも大きいの行くわよ!」


その2つの声はほぼ同時に全員の耳に届いた。


いつのまにか詠唱すら終わらせて、2人の魔法使いが、同時に魔法を放つ。

おい、まだ誰も避難終わって・・・。


『嵐の天撃』


『氷爆』


丁度俺とターニャの間、約3メートル弱の中間地点に2つの魔法が炸裂する。


落雷により、あらかじめ生成された水が一気にはじけ飛び、驚異的な速度で飛び散り皮膚を切りつける。それだけでなく、さらに感電効果も上乗せする『嵐の一撃』。


氷の巨大な塊を内側から風の爆発ではじけ飛ばせ、風に乗った大きな氷の破片を周囲にまき散らし、その氷に触れたものを瞬時に凍り付かせる『氷瀑』。


その魔法が発動する少し前、このままでは死んでしまうのではという恐怖に襲われた俺達全員は一目散に走り出す。そして背中越しに魔法の発動を知らせる爆音とともにやってきた衝撃波で、全員が吹き飛ばされた。そして魔法が重なり予想外に大きな威力を出してしまった為、魔法を放った本人達まで吹き飛ばされてしまうのだった。


「いてて、・・・いや、威力!威力を考えろよ!!」


「つぅー!ごめんなさいエル君、怪我はない!?」


「がはぁー、死ぬかと思ったー!おいハリーヌ!てめー俺達まで巻き添えにしてどうすんだ!」


「きゃー、大変私のローブが凍っちゃった!」


「「「「話を聞かんかい!てか心配せんかい!」」」」


「だいたいなんで2人してあんなタイミングで魔法を放ったんだ!」


ファティマさんは完全に仮面がはがれ落ち、素の話し方で話し始めちゃってる。

それで、皆が疑問に思ったことを2人に問うと、


「「え、だってみんな熱くなってたし?ついね!えへへ。」」


一言一句違わずにそう述べた。


そして一人の幼女が重大な事実に気づく。




「あー!全員円から出たです!・・・これはどちらが負けなのです?」



そしてここで同じ思いを心に浮かべた同士たちが全員声を揃える。




「「「「「その二人でいいだろ・・・」」」」」




「「ええええ!!!!」」


「ターニャもなんとなくそんな気がしたです・・・」





こうして、ターニャも呆れるほどの失態を犯してしまった二人はトボトボとした足取りで狩りに出かけることで同意した俺達の死闘は幕を閉じたのだった。





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