エルは復讐・・・される
今回から二章に入ります。しばらく休んでいてすみませんでした。暑くてパソコンに向かう気力が皆無でして。
これからちょくちょく頑張っていくつもりです。
よろしくお願いします。
「さて、みなさん。準備はよろしいですかー。出発しますよー。」
商隊を纏める人物、カイル商会の若息子、スーワン・カイルさんがよく通る声でそう声掛けをする。
「それじゃエルくん、また会いましょうね!」
「ええ、アリシアさんもお元気で!」
わざわざ見送りに駆けつけてくれたアリシアさんに馬車から身を乗り出して手を振る。
「ターニャ!おまえは漢だ!しっかりと成長して俺に漢をまた見せつけてくれ!!」
「ターニャは立派な女(漢)になって帰ってくるですー!!」
ターニャは別れの挨拶にしては少し微妙な言葉を交わしていた・・・。
「エルサちゃーん、俺達はずっと待ってるからねー。」
「・・・」
エルサさんは、何故か多くの男達から沢山の悲しみの言葉と涙をもらい、結果黙り込んだ・・・。
「2人とも知り合い・・・偏ってないか?」
ターニャはこの街に来てからずっと俺にベッタリついていたようなものだから仕方ないにしても、エルサさんの方は少し、引いた。婚活とは大変な仕事らしい。そういうことにしておこう。
「いいのよ、アリシアとは昨日散々心の内をぶちまけたわ。今更挨拶なんていらないわよ。それよりもあの数は何なのかしら。普段視線を感じるだけだったのに、ここぞというときに全員出てくるとは思わなかったわ。」
「え、普段見られてたのかよ。」
「ええ、そりゃもう朝から晩までね。もう気にならなくなったからいいけれど、私が家を出て宿屋暮らしな理由は両親に迷惑かけるからなのよ?心配しないで、両親にはきちんと挨拶したわ。」
「・・・壮絶なんだな、俺、結婚相手探すの怖くなってきた。」
「エルさん、には、私が、ついて、ま、スーー、スーー。」
こいつ、話してる間に寝やがった。早起きしたから眠いとはいえ、さっきまで漢だなんだと大声で騒いでたじゃないか。
エルサさんと二人で呆れながら、可愛らしいターニャの寝顔を見て微笑みあうのだった。
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「エル君、起きて!ターニャも早くシャキッとしなさい!」
切羽詰まったエルサさんの声を聞き、素早く剣に手をかけ立ち膝になる。
ターニャは寝起きの悪さを、頬を叩いて強制的に脱し、胸のポケットから鉄の棒を出す。
「どうし・・・」
『ズドン!』
「掴まれ、くそ!一体、なんなんだ。」
せっかく、エルサさんと交代で寝ようと言って俺の番が回ってきたのに。
そんな苛立ちから出た言葉に、何故か申し訳なさそうな顔をしてエルサさんが答える。
「その、前にほら、エル君ともめた人達いたじゃない?私が原因で。」
「・・・なるほど、あの時恨めしそうな目をしていた奴らか。復讐ってところか?俺一人でいい。二人は流れ弾が商隊に当たらないように守っていてくれ。」
「それは悪いわ。私も・・・」
「俺だって眠いんだ。あんなのに眠りを邪魔されてイライラしてる。やらせてくれ。」
「・・・わかったわ。怪我しそうならすぐ援護に入るからね。」
「ああ、それでいい。」
エルサさんの了承を得て、馬車から顔を出すと、10台の馬車が二列進めるほどの道を一生懸命三人で塞ぐ奴らが目に入った。
俺達がいる馬車は先頭の二台のうちの一つ、人を乗せるための馬車で、最後尾に同じ用途のものがもう一台あり、他はすべて荷物となっている。
後ろをちらっと振り返れば、護衛で乗っているもう一つのパーティーがこちらに謎のハンドサインを送ってくる。
この人たちは、なんだったかな、そうだ、『深淵の漆黒』という、全員が真っ黒で派手な装備を身に着け、なんともいえない口調で話す人たちで、人はいいんだが話しているうちにこちらが恥ずかしくなってくる不思議な雰囲気を持っている。
その人たちが前へ行った方がいいかというような仕草をしている気がするので、こちらも手振りでこちらだけで大丈夫と示す。
「危険を感じれば、迷わず我ら『深淵』を呼ぶがいい!!!汝ら『彷徨える子羊』達よ!『漆黒』の者たちは常に良き魂を持った者の理解者なのだから!!!」
そう大きな声でこちらに返すとなぜか決まったというような顔をしてから、馬車の中へ戻ってくる。
ていうか大きな声で話すならハンドサインはいらなかったのでは。
それに・・・パーティ―名が全然違うのですが。
「ええい、ごちゃごちゃと話してないで、エルとかいうクソガキを出せ!」
「と仰ってるんですが、エルさんが出て行かれるんでしょうか?」
「ああ、このままだとあいつらは俺が出て行くまであそこをどかないんだろう。さっきは魔法まで使ってこちらを威嚇していたみたいだし、これ以上迷惑掛けられないからな。少しの間待っていてくれ。」
まだ俺よりも年の低い御者が恐る恐るこちらに尋ねてきた。すまん、わけわからないのに怖がらせちまって。俺も本当にああいう頭の中が逝っちゃってるやつはコワイよ・・・。
馬車の後方から出て、ゆっくりとした速度で堂々と奴らに向かって歩いていく。
「おい!さっさと歩け!俺達はエルサさんを解放しに来たんだ!今ここでお前に決闘を申し込む!」
神官の恰好をしたやつが代表として俺にこう言ってきた。
「三対一の決闘か。随分と卑怯なんだな?」
「ふ、この前は油断して負けただけだ。今回は邪魔が入らないように準備してきた。存分に俺達は実力を発揮できる。」
「おいおい、邪魔って、この前も正々堂々戦ってたんだが、どうやって脳内変換したらそうなるのやら。まったく負け犬の遠吠えは醜いな。」
「うるせぇ!てめーみたいなやつに俺達が負けるわけがないんだ!おい!出番だぞ!」
そういって角刈りが大声で合図をすると、道の脇の森からぞろぞろと薄汚い恰好をした男たちがでてきて商隊を包囲した。
「・・・盗賊を使うとは、やりたいことがハチャメチャすぎやしないか?」
「こちらはまかせてエル君はそいつらをさっさと倒して!」
「ああ!エルサちゃん!やはり君は洗脳を受けていたんだね。俺達の名前まで忘れてしまうなんて!いまこいつを殺してあげるから!」
そう言ったの皮きりに三人は俺に、盗賊どもは積荷に向かって走り出す。
とりあえず、さっさとこいつらを片づけて盗賊退治に専念しよう。
『雷よ、命ずる、射殺す一矢となりて敵を穿て』
『ライジングボルト』
そういって神官がいつぞやと同じように雷の一撃を放つ。矢のような形をしていたが、そんなに速度は出ないようだ。これならエルサさんの『ライトニング』の方が早いな、威力はこっちの方が上か?
さっと躱すと、角刈りが槍で突きを、金髪が弓をそれぞれ放ってくる。後衛二人はさすがにやりずらいか。先に金髪を仕留めよう。
角刈りの槍の技術というか威力というか、とりあえず実力が上がったということはない。
いまなら魔体無しでも十分戦えると判断し、俺の胴体を穿たんとする槍を剣で叩き落とす。
それだけで体勢の崩れた角刈りはたたらを踏む。素早く回し蹴りを食らわすとくぐもった呻き声をあげ膝をつく。俺めがけて放たれた矢はまさかの狙い外れ。躱すまでもなく、お陰で角刈りに集中できた。
「おい、そこの金髪。仲間にあたるのが心配ならもう少し練習したらどうだ?」
そういって、うずくまる角刈りを放置し、金髪と距離を縮める。
『・・・ライジングボルト』
さすがにそうやすやすと近づけるわけがないのはわかっていた。
後ろに飛ぶと、俺があと一歩踏みこんでいたらいたであろう場所にまたもや雷の矢が突き刺さる。
「さっきから思っていたが、神官さんだけ妙に小奇麗で、ほかの2人は小汚いし前より明らかに痩せてんのな。動きも鈍いし、おまえらなんかやらかしたのか?」
「ふん、お前に負けた罰としてこの私に賠償金を支払っているのだ。自分が食べる飯のお金も稼げないくせに、この私の名前に泥を塗ったのだ。当たり前だろう。」
「・・・なるほど、おまえらなんでこんなのに従ってんだ?」
「・・・」
「言えない事情があるのか。まぁ、ろくでもなさそうなことは確かだな。」
とりあえず、神官の野郎が一番腹が立つ。全力出すか。盗賊退治もあるしな。
『身体よ、あらん限りの力を与える、我の想像の元に従え』
魔体を発動。
魔体のいいところは発動に魔力を貯める必要がないことだ。他の魔法であれば自身の体内、そして大気中の魔力をかき集めてから詠唱するので自然と溜めの時間が長い。
その点、魔体は自身の体内魔力だけを励起状態に持っていき運用するだけ、さらにそれを詠唱で済ませるので早さは圧倒的にこちらが上なのだ。
会話の途中でいきなり詠唱を始めたので対応が遅れる三人組。
慌てて腹の痛みをこらえて後ろから刺突を繰り出す角刈りに対し、その槍の穂先を根元から叩き切る。
先程とは打って変わって速さが段違いの俺に反応できずに、槍を使い物にできなくされた角刈りは目に見えて怯えの感情を顔に出す。その隙をついてとどめの一撃として正面から拳を顔に叩き込む。
「ぐぼっ!!」
白目となって鼻血を噴き出し仰向けに倒れていく角刈りから目を離し、矢を番えて射掛けようとしている金髪に向かって走り出す。
「くっ、前のようにはいかない!!!」
連続で矢を放ち始める。精度は悪いが、それでも避ける方向に先読みして放ってくるため、近づきづらい、本来なら今以上の動きができるだろう金髪は、もしかしたらこの中で一番実力があるのではなかろうか。
そうして躱していると今度は胸糞神官が魔力を溜め終え、先ほどの雷の矢よりも長い詠唱を始めた。
『混沌の雷よ、我が命ずる、この大地を統べる暴君となり、』
さすがにあの魔力の量はやばい、そう思って止めに入ろうとするも、金髪が次々と矢を放つせいで、なかなか進めない。しかも地味に風の魔力で覆われているため軌道が変則的で剣で払うが難しい。こいつ、やるな。
『大地を穿ち、敵を屠るその漆黒の矛を振るえ、』
くそ、あの規模の魔法なんて金髪自身も巻き込まれるじゃないか。どんな弱みを握られれば強力な魔法に当たろうと思えるんだ。
『荒れ狂う雷鳴に、嘆き悲しむその姿をさらせ』
『雷神の裁き』
詠唱が終わり、突如として空が暗黒に染まり、三本の落雷が地上に降り注いだ。着弾点から半径10メートルの木々や植物たちは根こそぎ吹き飛び、その余波が盗賊とそれを守るエルサ達のところまで届いた。
「はぁはぁ、ふん消し炭になったか、これで、これでエルサちゃんは俺のものに!!!」
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「ふー、危なすぎだろお前の友達。」
「・・・」
「気絶したか。たく、そこで寝てな・・・・・・友達は選ぶべきだぞ。」
俺はぎりぎり逃げ切ることができ、今は神官から死角となる木の後ろでしゃがんでいた。
何故逃げることができたかというと、詠唱が終盤に差し掛かった時、金髪の矢が切れたおかげでその場を離脱できたからだ。俺だけ逃げてもこいつはあの魔法で黒焦げになっていただろう。それはさすがに後味が悪いので、わざわざこいつのところまで駆け寄り、迎え撃とうとしたこいつの腕のガードをすり抜けて腹に拳を一発ぶち込み、そのあとは担いで、できるだけ逃げた。
こいつを助けたおかげで本当にぎりぎりだった。
それにしても金髪の体の軽さは、おそらくだが年齢相応よりも軽く、楽に担ぐことができた。角刈りもそうだが、顔面パンチや腹パンで気絶するほど体力が落ちていたのだろう。
自業自得なんだろうが、ここまで衰弱するほどのことを、よくパーティーメンバーにできたな。あの神官野郎は本当に痛めつけてやらないといけないな、俺の精神のためにも。
とりあえず、俺が逃げ切れたことに気づいていないようだから、金髪の弓を拝借し、腰に携帯していた、ターニャ特製組み立て矢を素早く仕上げる。
そうして、矢を奴の後ろに回り込んで放つ。
「ぐあ!なん、どうして、痛い痛い痛い!!!」
大規模な魔力を消費して動けなくなっていたのだろう。今だ数の減らない盗賊たちとエルサさんたちとの戦闘を眺めていた神官の太ももに深々と矢が突き立つ。
通常の矢と違い、返しがついており、抜こうとすればするほど食い込みその痛みを増す。魔獣用とはいえ、かなり残酷な発想に、渡されたとき正直いうと引いた。ちなみにこれはターニャから弓が渡されなかった場合、直接相手に突き刺す想定もされていた、折り畳みとはいえ弓を持ち歩くのは面倒だしね。
なかなか抜けない上に痛みが増すせいで、半狂乱になってののたうつ神官野郎の頭を足で抑えて、納刀した剣を腹めがけて突く。足の痛みも合わさり、簡単に気絶した。こいつ、打たれ弱すぎやしないか?
「よし、こっちは片付いた。三人を縛ってさっさと合流するか。」
近くに垂れ下がった蔦を引っ張り、十分な長さがあることを確認して三人纏めて抜け出せないように縛り上げる。きちんとほどけないことを確認してから、もう一つの戦場へ向けて走り出す。
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「てーい!」
「これでも食らってなさい!」
『ズゴッ』『ズドン!』
駆けつけてすぐ、ターニャの戦斧が盗賊を真っ二つにし、エルサさんの蹴りで盗賊がはじけ飛んでいた。
「2人とも容赦なさすぎじゃないか?」
俺は人を殺したことはない。
が、今は割り切って盗賊を殺さないといけない場面なのだろう。
多数を相手取るというとは、相手が例え弱かったとしても、決して油断してはいけない事なのだから。よし、俺ならできる。2人に殺させて俺がやらなくてどうする。
覚悟を決めて戦線に向かう。
戦いは商隊を挟むようにして横に伸びており、エルサさんとターニャがいる側に横から切り込む。
俺の接近に気づかず背を向けた盗賊をそのまま袈裟切りで切りつけ、その背を蹴る。突然のことに驚く暇もなく、蹴られた盗賊は前にいた三人を巻き込みながら倒れた。
そこでやっと俺に気づいた何人かの盗賊が俺へと向きを変えるが、一人の哀れな盗賊がターニャの大きく振りぬいた戦斧によって跳ね上げられ、俺に気を取られていた奴らの頭上にその身を投げ出した。またもや数人が雪崩のようにもみ合いながら倒れていく。
大きく戦線が崩壊し、開けた空間に俺は身を躍らせ、数人の盗賊を切りつけ、勢いを止めずそのまま進撃する。突然横から飛び出し仲間を切り倒していく俺に驚き戸惑った顔を向けた盗賊の首を鋭い一撃で跳ね飛ばす。
ただでさえターニャとエルサさんにより仲間を殺されていた盗賊たちは、俺の登場により一気に形勢が悪化したことにより、撤退行動に移る。
数人逃げようとせず俺達に向かってくる者たちがいたが、もとより錆びついた剣などの貧相な武器しか持たない盗賊達では、数の利を失ったこの状況で到底敵うわけもなく、俺の剣、ターニャの戦斧、エルサさんのショートソードや爆撃蹴りにより悉く命を散らす。
向かってくる者がいなくなり、こちらの戦闘は終了したので俺は反対側の様子を伺うことにした。
「俺は反対側の様子を見に・・・」
「その心配は無用だ!我らは深淵を覗く者なり!道端の小石にてこずる道理などこの世のどこにもありはしないのだ!」
急いで反対側へ回り込もうとしたが、商隊の荷車の上に乗り香ばしいポーズをとって、『深淵の漆黒』のリーダーらしき人がそう告げた。
とりあえず、反対の戦闘も終わったのはわかったが、そのポーズは果たして必要なのだろうか。
「・・・そうですか、商隊の方々は全員無事ですか?」
「ああ!我らが同胞に死角などありはしないのだ!」
「・・・わかりましたから、そこかおりません?」
「・・・ああ、わかったから、その薄い反応はやめません?最近心が持たなくなってきまして。」
「あ、はい・・・。」
なんだか締まらない最後になってしまったが、窮地は脱した。
後はこの無駄な争いの原因を作った奴らに事情を聞くか。
おいおい、旅の初日にこれだよ、ハードすぎやしませんかね。
後でターニャに餌付けし喜ぶ姿で癒しを得ようと心に誓うのだった。




