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エルは掴む、果ての世界  作者: 必殺脇汗太郎
閑話1
23/50

閑話 在りし日の二人

「ねぇ!メイファス!森の中でね!とっても綺麗な花を見つけたの!」


「摘んでこなかったのかい、アイレス?」


「ええ!だってお花は摘んだら死んじゃうのよ!可哀想じゃない。」


ある日の昼下がり。俺とアイレスはいつもの、木の上にある秘密の小屋で他愛ない話をしていた。


俺たちの住んでいる村から少し歩いたところにあるこの森は魔獣が寄り付かないところとして有名だ。


なんでも森の守護者の覇気が魔獣を怖がらせるらしい。俺たちは感じたことのない覇気は魔獣にとっては有害なのかもしれない。


だから子供二人でいても安全だ。村の大人たちは森には人攫いがいるから気をつけてというけど、そんなのに出会ったことはないから大丈夫だ、心配性な大人たちは窮屈な性格なんだなきっと。


「メイファス、私ねこの後用事があるから行かなきゃいけないの。明日もここに来てくれる?」


「ああ、必ず来るよ。だからもう行ってもいいんだよ?」


「わかったわ!ありがとうメイファス!」


そう言うとアイレスはスルスルと木を伝って降りていく。森の中に走っていく途中に振り返ると元気一杯に手を振って来るので、お返しにこっちも大きく手を振る。


「隣村って俺行ったことないんだよなぁ。アイレスの村はどんなとこなんだろう。」


そんなことを考えつつ、ゆっくりと目を瞑り眠りに落ちていく。不思議とアイレスの心配は湧いてこない。一人で森は流石に危ないはずなんだが、アイレスならそんなの気にならない。


いつも思い浮かぶ不思議は眠気には勝てず、すぐにまどろみの中へと消えていく。


____________________________________________________________


「ねぇメイファス!今度はあっちに行って見ましょう!あっちには大きな滝があるの!」


そういってアイレスが走り出す。俺はその後をゆっくりと歩いて追いかける。茂みの向こうに消えていったアイレスはしばらくするとまた走って戻ってくる。


「メイファスったら!はやく来ないと私帰る時間になっちゃうじゃない!」


「ごめんごめん。森の中だと静かでついゆっくりしちゃうんだよ。」


「もう!はやくいきましょう!」


そういってアイレスは俺の手を引っ張る。仕方ないから一緒になって走る。でもすぐにアイレスは息を切らして立ち止まる。


「ふー、私普段こんなに走ることないからすぐ息切れちゃうの。でもメイファスといると元気が出るのは何でなのかな!」


「アイレスはいつも元気じゃないか。村の女の子たちよりずっと元気だよ。」


「む!ずいぶんと村の女の子と仲良いのね!」


「はは、そんなんじゃないよ。だいたいいつもアイレスと一緒に森の探検をしてるじゃないか。」


「それはそうだけど!とにかく私ともっと仲良くしなさい!」


「はいはい、わかったよ、そうするね。」


「ふん!メイファスおぶって!」


いつも疲れたアイレスを背負っているおかげで俺もなんだか力がついた気がする。


でもアイレスは結構軽いからあんまり負担でもないんだけど。


小走りに森を駆け抜けると、大きな滝が見えてくる。


「ほらあれ見て!私がくるとね、大きな魚が寄ってくるの!いつもぴちゃぴちゃ飛び跳ねてご飯をねだるんだから!私のお昼のパン半分はなくなるのよ!」


「ああ、大きな魚だね。いつも食べる量少ないと思ってたけど、こんなところであげてたんだね。」


あれ、でもアイレスの食べてるところって見たことあったけ?でも少ないって覚えてるし、あれ?


「そういえばさ、アイレスはいつも帰ったら両親と何やってるの?それとも他の友達と?」


「うーんとね、帰ったらいつもベットに寝かされるの!それでね、ながーい夢を見るんだー。いつも幸せな夢!それでメイファスがおいでって夢の最後に迎えに来てくれるから起きてすぐこの森にくるの!」


「そうなんだ、だからいつも元気いっぱいなんだね!」


「うん!お父さんもお母さんも森に出かける時はすっごく嬉しそうな顔でいってらっしゃいって言うのよ。メイファスと出会ってからなんだか元気になったの!だからきっとそれが嬉しいんだよ!」


「それはよかったね。俺もアイレスと会っているといつも眠いのが冴えるんだ。もしかしたらアイレスに眠気を移してるのかもしれないね。」


「あら!それは迷惑ね!私は起きていたいのに!」


「冗談だよ?」


「え!もう!メイファスったらいつも私のことからかうんだから!」


「ごめんごめん、ほら、次はどこへ行く?」


「遅くなっちゃうからもう帰りましょう?あんまり遅いとこの前みたいにお父さんとお母さんが泣いちゃうわ。」


「わかった。なら途中までまたおんぶしてあげるよ。」


水辺のほとりで足をばちゃばちゃして涼んで今日の遊びは終了。アイレスは満足そうな顔で背中で寝息を立てている。ほんとねぼすけさんだな。


____________________________________________________________


「メイファス、あなたいつも早いわね。私朝一で起きてすぐ来たのだけど。」


「ん?アイレスかい?今日は来てくれたんだね。」


「最近はあまり出歩く暇がなくてね。日が空いてしまってごめんなさい。」


月日が経ち、アイレスはだんだんと大きくなっていった。


それになんだか暖かい雰囲気が全身に漂っていて、森の獣たちなんか自然と懐いてしまう。


森の守護者に負けず劣らず、森に気に入られているのかもしれないな。


「メイファスは仕事とかないの?私は祭事で舞を披露したり、遠くからくる偉い人の歓迎とかあるんだけど、メイファスはいつもここに来ているでんでしょ?」


「俺はいいんだよ。村のみんなはいつも通り畑を耕してそれ以外は特にしないし、畑仕事は俺が小さいせいでさせてもらえないんだ。」


「メイファスは私より小さいものね?」


「・・・俺アイレス嫌いになっちゃうかも。」


「ふふふ、冗談よ。今日は森に薬草を摘みにきたの、一緒にどう?」


「まったく、行くよ。」


「よし、それじゃ、行きましょうか。」


森の中ではアイレスがいるといつも穏やかに感じる。アイレスはどれだけ森に気に入られてるんだ。


そんなことを考えつつ薬草を探していると、いつもは見かけない人影が目に映った。


「最近は他国の兵士がうろついたりしてるのよ。だから私の村でも警戒態勢が敷かれてあんまり村から出られないの。私は強いから心配ないけどね!」


「ほら声出さないで。見つかるだろう?」


「ご、ごめんなさい。」


こちらに気づくことなく兵士たちは森の中心とは反対に歩いて行く。なにか調べ事があったのだろうか。


「今日は見つからないように村に帰って方がいい。俺ももうすぐ帰るから。」


「そうね、メイファスは小さいからすぐやられちゃうだろうし。」


そういって別れを告げてから、それぞれ別方向に帰って行く。アイレスは強いと言うけど心配だから後をつけていこうかな。


すぐに向きを変えてアイレスが帰っていった方に歩き出す。


____________________________________________________________


「おい、なんだってこの森には魔獣が一匹もいないんだ。ものすごい広いし、魔力も潤沢。おまけに森の恵みも有り余ってやがるのに。」


「はぁ、聞いてなかったのかよ。隊長がこの森の守護者とやらに気をつけろって・・・」


「おい?急にどうし、っおい!どこ行ったんだよ!」


男が振り返ると、そこにさっきまで話していた相棒の男の姿はなく、木々に血の跡が撒き散らされている以外なにも見えなかった。


不安にかられた男は相棒のいた場所まで走り寄ると何かにつまずく。


「いってぇ、なんだってこんなとこに木、が・・・ひいいいぃぃ。」


そこには頭を吹き飛ばされて横たわる相棒だったものが転がっていた。


「おいおい!誰だ!誰がいやがる!」


『オマエ、ココデ、ナニ、シテル?』


周囲を見渡して何もいなかったはずなのに、突如として後ろから声がかかる。


驚きに振り返ってみても、やはりそこに声の主はいない。


「ああ、もう!なんなんだよ!」


『来る』


「え?」


『来る』


『来る』







『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』『クル』『くる』『来る』『クル』『くる』『来る』『来る』



突如として辺りから一斉に聞こえ出した不気味な声に男は狼狽える。どれだけ見渡してみても人っ子一人おらず、されど声はその量を増して行く。


『ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー』


だんだんと音が重なり、やがて聞き取れないほどの雑音となって頭に響き渡る。


あまりの恐怖に耳を塞ぎうずくまった男は長い長い不気味な現象が終わることをひたすら願った。


そして、ふとした瞬間、頭に響き渡る声が一つになっていることに気づく。



「くる?」



いつのまにか止んでいた言葉が自身の口から出ていた。止めようと頭では理解できていても、口からはとめどなく溢れてくる。


「くるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくる」



『死ね』


初めて違う言葉を発した声に頭を上げてみれば、そこには全身を真っ黒に染め、いくつもの木を背中に生やし、めいいっぱい翼のように広げて、おぞましいほど大量の頭骨、しかも人間を含む多種多様な生物の頭骨をその木の枝に貫かせた、異形の怪物がいた。


「ひっ・・・」


男が声を発しようとしたその瞬間に怪物は木が絡まったその手を振り抜き男の頭をもぎ取った。


驚きと恐怖の表情を浮かべる男の頭は、急速に肉が剥がれ落ち、やがてただの頭骨のなる。その頭骨を、背中から伸ばしてきた木の枝に貫かせると、怪物はなにかに吸い寄せられるようにして歩き出した。


____________________________________________________________


「アイレスはしっかりと家に帰ったみたいだな。それにしても初めてアイレスの村を見た。意外と人が多いんだな。」


アイレスの後を追いかけている最中、痕跡を見失った時はどうなるものかと思ったが、無事見つけ出すことに成功し、村まで見送ることができた。


心なしかアイレスの足取りが重たいが見失った後に何かあったのだろうか。


心配ではあるが部外者の子供がそう簡単に村に入れる訳もなく、俺は帰路につくことにした。


そしてこの日を境にアイレスは俺の元へくることはなくなった。






この時、まだ俺はこの世の理不尽がどういったものか、知らなかった。

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