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エルは掴む、果ての世界  作者: 必殺脇汗太郎
第一章 始まりの街編
10/50

エルは謝罪し巻き込まれる



どれだけ時が経とうと絶対にたどりついてみせると誓った到達点は、蓋を開ければ無限に広がる海に向かって佇む、いまにも崩れそうな崖の先端のようだった。


勇壮でありながら、しかしその先はなく、あまつさえ儚さを感じさせらた。


あの日夢見た少年は、いつしか血にまみれ、幾多の怨嗟に体を縛られた。


あの日母の遺体の前で誓った決意は、いつしか傷だらけとなり、悪意で塗り固められた。


ああ、広い、あまりにも世界は広く、とても虚しかった。



少年は、かくして、怪物になった。



『悪魔王の親類の手記とおぼしきもの』より


_______________________________


「ごちそうさまでした。あの、昨日はすみません。お騒がせしてしまいました。」


「いいのよ。アルベルトが吹っ掛けた勝負さね。ドアの修理代はあいつに出させたから何も問題ないさ。」


朝、というより日がすっかりと上ってしまったころ。頭痛を抱えながらも少量のご飯だけを食べて一息ついたところに女将さんがやってきたので昨日の謝罪をしたら、そう言われてしまった。


正直言って、昨日のことはあまり覚えていない。宿で楽しくみんなと飲んでいたら次の瞬間外で仰向けで倒れていてアルベルトさんが上から何かしゃべりかけていた、くらいしか覚えていない。そのあとすぐ寝てしまって、今朝に至るわけだ。


しかし、二日酔いかと思っていたら、これ完全に頭突きの痛みだろう。あのひと、意外と容赦ないのな、いや、酔っぱらって剣ぶん回したんだからむしろ正当防衛か?


とりあえず、ギルドに行ってアリシアさんのところに行くか。きっとアリアさん以上ではないにしろ心配かけているだろうし。


___________________________


ギルドに行けば会えるだろうと思っていたこの時、俺は完全に忘れていた。


ギルドがある場所、そこには瓦礫の山しかなかった。そうだ、襲撃に遭って吹き飛ばされてしまったんだった。


「えーと、臨時ギルドはあちらです?」


立札の指す方向には、噴水広場があり、そこの一角に人だかりができていた。

なるほど野外ギルドといったところか。


近づきていくと、人だかりの隙間からなんだかフワッとした空気を出すアリシアさんが見えた。

相変わらずあの人の列は長いな。ランクアップしたのにわざわざ並んで挨拶する人もいるくらいだ、彼女が結婚してしまったらこの街から冒険者がいなくなってしまうかもしれないな。


そんなこと考えながら列に並ぶこと十分、ようやく順番が回ってきた。


「こんにちは、アリシアさん。ただいま帰還しました。」


「・・・・・エルくん・・・?」


「すいません心配かけました。今日から冒険者稼業再開です。」


「・・・まったく、お帰りなさい。あなたのギルド情報、削除申請するとこだったじゃない。良いタイミングで帰ってきたわね。」


「はは、これ以上ないってくらい良いタイミングでしたね。それで、今日はなにしたらいいですかね?」


「普通は何するか決めてから手続きするもんだよ?三か月もほっつき歩いて忘れちゃったみたいだね。」


「そう、みたいですね。すいません。」


「いいのよ。害獣の討伐と薬草採取、どっちがいい?」


「じゃあ、どちらとも。」


「あら、秘密の特訓でもしてたから帰りが遅くなったの?普段なら片方だけなのに。」


「まー出来ると思ったからですよ!」


「わかったわ。はい、行ってらっしゃい!」


よし、成り行きで依頼まで受けてしまったが、とりあえず日常に戻ることができた。

いってきます、アリシアさん。

_____________________________


俺が二回も出てきた森側の真逆。街の裏側には大きな畑が広がっている。そこには定期的に魔力を吸った魔獣のなりかけが山から下りてきて畑を荒らしている。


今回は猿がなりかけになったらしく、そいつが群れのボスだったため、群れを率いて昼夜関係なく気まぐれで畑を荒らしていくため。時間を特定できず、冒険者が寄り付かないそうだ。そうであれば一日中張ってればいいのだが、冒険者が張っていると一向に寄って来ないらしく、そういうずる賢さという面倒さがこの依頼の不人気に拍車をかけている。


「ま、森に入ってしまえば、関係ないけど。」


畑を越えて、鬱蒼とした森に入り込んだ。そしていつもの魔体の詠唱を開始。


『身体よ、あらん限りの力を与える、我の想像の元に従え』


あとは『魔聴視まちょうし』で魔力の流れを感じれば、、、


「いた。」


助走をつける。

そして一気にトップスピードへ。極力音を出さないように注意しながら静かに駆ける。


遠めに見えてきた。あいつら木の上に集まってじゃれてやがる。

さらに近づいていくとさらに詳細に状況がわかるようになってくる。ひと際大きなその木に猿たちはコロニーを築いていた。見た限りざっと五十はいる。なかにはなりかけのなりかけと言えばいいだろうか、周りより一回り大きい猿たちがおり、その猿たちの作る集団に囲まれる形でメス猿を侍らせたボス猿がいる。


「なるほど食糧庫まであるのか、ボス猿は討ち取るとして、周りの集団のリーダー格も駆除するべきだな。」


独り言を呟いたとき、ボス猿がこちらを鋭く睨んだ。

気づかれたか、失態だ。メス猿たちは一目散に俺とは反対の方向に逃げる。ボス猿とそのほかのなりかけたちはこちらにむけて投石を始めた。思ったよりも理性的なんだな。当たったらそれなりの怪我になってしまいそうな速さで飛来してくるのですべて躱す。手間取っている間ボス猿が枝の上を器用に走ってくる。


俺はというとそろそろ木の上での攻防に嫌気がさしてきたので軽く木から飛び降りる。

それに続くかのようにボス猿が木から飛び降り、周りを囲むようにほかのなりかけたちが頭上の木々に散らばっていく。


「俺を殺るつもりか。案外好戦的なんだな、それとも巣を見られたから帰すわけにはいかないってか?」


「ギキイイイイイ!!」


通じるわけもなく、そのまま石をたたき割ったかのようなを()()を向けてくる。

というかそのまま、今言った通りのものなのだろうな。


観察していると焦れたのか、猿が刺突を繰り出す。素早く抜刀し剣を合わせる。今は魔体を使用している状態だ、いくら魔物化しようとしていてもそのスピードは頭上に陣取る猿たちより若干速いくらいだ。小剣の間合いから素早く抜けだし、俺の剣だけが届くように一歩後退。同時に合わせていた剣を弾くように押し返したので猿はよろめく。だがそこは野生というべきか。強くなった筋肉の補正もかかって、反った状態をすぐに前かがみの状態に力ずくで戻ろうとしている。だがそんなことは織り込み済みで、すでに自身の間合いにきっちりと猿を収めている。あとはただ前に戻ってくる猿の頭を一突きするだけ。


そんな時だった、突然肩に別の猿がかみついてきた。それを振りほどくのに手間取っていると今度はさっきまで上で傍観姿勢だった猿たちが一斉に群がってくる。捕まってしまっては死んでしまうのは目に見えているので、肩に思いのほか強く噛みついて離れない猿を無理くり離し、正面にいる猿めがけて投げ飛ばす。多少の出血は一旦置いといて、すぐに空中でぶつかった猿たちをまとめて串刺しにする。その勢いを保ったままボス猿に突進。


だがそこはさすがというべきか真後ろの木に素早く飛び移り突進を躱される。なら木をへし折るまで、と言いたいがそこまでの膂力はさすがにない。猿の一斉降下はなんとか切り抜けたが、周りをまた囲まれてしまい、頭上には油断なく構えたボス猿。


「狩る側が狩られる側に回ったわけか。」


大丈夫、落ち着いて対処すれば問題なんてない。

一瞬の均衡は、地上の猿たちの鬼気迫る咆哮により崩れる。


いちはやくこちらに駆けだした右の猿の拳を躱し、その後ろに続いてきた猿を振り向きざま一刀両断する。拳を躱され後ろに回った先ほどの奴に向かってバックステップ、剣を脇に抱えるような形で思い切り後ろに突き刺す。心臓当たりを穿ち、死亡を確認する間もなく横合いから三匹目の猿が飛びつかんとする。とっさに足の一本をつかみ力任せに振り回す。飛びついてきた猿の後ろに潜んでいた四匹目にそいつを投げ捨てると後ろに回り込んだ五匹目にむかって振り向きざま横なぎを繰り出し、怯んだ瞬間をすかさず頭から剣を振り下ろし、両断。ほんのわずか数秒でこれだけの攻防が繰り広げられたことに対して驚きが湧いてくる。そのせいでボス猿が木の上からこちらに向かって飛び込んできたのに対処が遅れた。組み伏せられ、力任せの拳の振り下ろしを幾度となく受ける。頭を必死にガードしてはいるがかなりきつい。


振り下ろしの一瞬の隙を狙って、腰に付けた解体用のナイフを逆手に持ち、首あたりを撫でるように切り裂く。大量の鮮血と、少し経ってからボス猿の体が覆いかぶさってきたのをもって戦闘が終了した。


「さすがにもろに血を浴びると臭いな。川で水でも浴びるしかないか。」


_____________________________________________________________


「ぷはぁ、冷た。。。次はもっとうまくやろう。こんな寒い思いはしたくない。」


上半身裸になり、服を水洗いし、べっとりと顔についた血を洗い流す。たき火を起こして服を乾かしている間に、水辺に生える薬草を採取して時間を潰した。採取する薬草を水辺近辺のものにしていて助かった。


「きゃ!なんで裸なのよおおおおおおお。」


そんな黄色い声とともに現れたのは見知らぬ女の同業者だった。


「血がついて服を洗ったばっかりで乾かしているんだ。頼むからその剣を下してくれないか。」


「こんな森の中で待ち伏せしているなんて筋金入りの変態ね。いいわ、ここで成敗してあげる!」


「・・・・そうか、すまないがいま戦闘の後で少々気が立っているんだ。おとなしくその剣を鞘に納めてそこのたき火のそばにある濡れた服を確認してくれないか。ここから動かないから確認したらそのままどっかに行ってくれ。おまえに興味なんて一切ないんだ。」


一泊おいて、最後通告を行う。


「それでも剣を収めないなら力づくでこの場から去らせてもいいんだぞ。」


「え。ちょ、ちょっと、ごめん!慌てちゃって!だからね?そんな殺気ビンビンでこっちみないで!怖い怖いから!」


どうやら俺はとことん運が悪いらしい。女が盛大にビビり散らしているその時に、女の後ろから男たち

が三人躍り出てきた。


「おい!貴様うちのパーティーメンバーになにしてる!!」

「大丈夫か、エルサ!」

「ち、なんだってこんな変態が山奥に!この季節に上半身裸だと!」


三者三様の言葉を並べ、槍を弓を杖を構える。


「なんなんだ、たく。おい!おまえら、俺はまったくおまえたちなんかに構って・・・」


「うるさい、みんなかかれ!」


一切こっちの話を聞かない上にあろうことか三人とも戦闘態勢に入ってしまった。

金髪ロングヘアの優男は即座に弓を放ってきた。射掛けるスピードに驚愕しながら横っ飛びで辛くも回避。だがそこに槍をもった大柄な角刈り野郎が突きを放ってくる。これも思いのほか速い突きで、躱し損ねたおかげで腕に浅い傷がつく。後ろに飛んで距離を取るが、三人目の神官風のローブを纏う不健康そうな男が詠唱を終えたことに気づき三度目の跳躍を行う。


「・・・『ライジングボルト』!」


跳躍の一瞬の間の後、先ほどまでいた場所に一筋の雷撃が着弾。小石やら土やらを巻き上げる。

顔にかかってきた土砂を防いでいると死角からまたもや槍が突き出される。


「いいかげんにしろよ。」


『身体よ、あらん限りの力を与える、我の想像の元に従え』


体をのけぞらし槍をかわしつつ、即座に魔体を詠唱し、槍を掴む。掴まれたことに驚愕する槍使いを無視し、槍を突き返す。


いままで突き返される経験がなかったのか、なんの対処をすることもなくそのまま腹に一撃を食らった槍使いは、悶絶し蹲る。こんなんで大丈夫なのかと疑うほど無防備な姿勢に一瞬呆けるも、おれと槍使いの間に次々と弓が射られる。


一本一本は大した威力ではないが、射ってからの減速がない。おそらく風の魔力を上乗せしている。創造具現はスピードが生命線、風をこちら向きに吹かせるくらいならさして具現に時間も使わないだろう。あの恐ろしく早い連続射撃は風の通り道に矢を乗せる感覚であり、現にこちらに絶えず風が吹いて鬱陶しい。


一旦挑発してイメージを狂わせるか。


「なぁ、そこの弓のあんた、もう少し早い矢は打てないのか?()()()程度じゃ、こちらが涼しくなる一方だぞ?」


「なぁ!?バカにしやがって!こんなもんだと思うなよ!」


『我が命じる、魔力を代価に、暴風の一矢となりて、敵を穿て』


「おい、挑発に乗るんじゃ・・・」


「助言はやめてもらおうか!」


「ぐはぁ!」


槍使いが悶絶から立ち直り弓使いを止めようとしたので、しっかりと腹の打撲と同じ箇所に蹴りを放つ。


詠唱具現は詠唱完了から発動までにタイムラグがある。簡単なものなら1秒もかからないが、やつは創造具現を主に使っているということと、挑発に乗ったことによって暴風のイメージがおそらく必要以上に増されてしまっていることが合わさり恐ろしく発動までに時間がかかっている。


よくよく感覚を研ぎ澄ませれば、魔力があいつの周りで淀んでいる。感情に左右され魔力の流れが正常でなく、イメージも定まらない、魔法を使うには冷静でなければならないと教わらなかったのか。ま、俺も本格的な魔法を教わったわけではないのだが。


「くそ!魔法が発動しない!なんでだよ!!」


「下手くそ、少し寝てろ。」


「うごぁっ!」


簡単に接近を許した弓使いは鞘による顎への攻撃であえなく意識を手放した。


あとは神官風、ただ1人。


「ふ!もうとっくに詠唱は完了してる!そいつに襲いかかるのは予想していた!おまえはもう終わりだ!」


「詠唱してたことなんて知ってるよ。ほら、さっさとなにかやってみろ。」


「ふ!余裕ぶりやがって『四重発動・火鉢鎖縛よんじゅうはつどう・ひばちさばく』」


現れたのは俺を起点にして渦巻く四重の炎。おそらく結界の意味合いの強い攻防一体のものであろう。試しに小石を投げるが通り抜けることはなく、炎の壁なのに硬い音を響かせて跳ね返る。しかもしっかりと焦げ目がついている。


「そこで蒸し殺されてろ!」


たしかにこのままでは蒸し殺されてしまうな。()()()()ならな。


魔力をまずは溜める。というよりもさきほど弓使いが魔力のよどみを作ってしまったことと同じことを意図的にする。ひたすら体を中心に魔力を引きつけたり離したりする。そうすることで本来ならばほぼ均一に空間に広がっている魔力を自身の周りに圧縮させる。そして結界内の魔力をある程度圧縮させたのを感じたら、今度は乱気流のように様々な方向にひたすら複雑に交差し絡み合うように魔力を直接操り解き放つ。


結果は簡単、イメージを乗せられた魔力が乱れ、精巧に編まれた魔法は崩れる。炎の結界はあっけなく鎮火されてしまう。


「な、なにをした!!」


「さーな、おまえはこれから気絶するんだ。知る必要もないだろう?」


そういって一気に相手との距離を縮める。とっさに杖をかかげて対抗しようとするが、鞘に納めた状態で振り下ろした剣で杖をたたき折り、そのまま頭に直撃させる。あまりの衝撃に白目を剥いて倒れてしまった。少しやりすぎてしまったかな?


さて、これで男三人は片付いたが、問題の女が残っている。一応誤解は解けていたが、新たな疑問が浮上する。


「なぁ、そこの草むらに隠れて止めようともしなかったし、なんで補助魔法なんてかけたんだ?おかげでこちらの・・・・体に力が入りすぎて困ったんだが?」


「ふふふ、ごめんなさい!この人たちパーティーを組めってうるさくて。組んだら組んだで全員隠れて口説こうとしてくるのよ。うんざりしてて、最近は探索とかいって離れる理由を作っていたのだけれど、それが今回は誤解の原因になったみたいね。どうせだから盛大に倒してもらって、起きたら事情を説明してパーティーの解散理由にしようと思っていたの。だから勝手ながらサポートしちゃいました!てへ!」


「・・・要するに切られたいと。わかった座れ。」


「ごめんなさい!本当に謝るから!お礼もするから!お礼するのに一緒に帰らないといけないから、だからーとりあえず起きるまで待ってもらって、説得の時に逆上しないかついててもらってもいいかしら!」


「・・・・・・・・はぁ、報酬は余分にもらうからな?」


「決まりね!ほんとにありがとう!私はエルサ、冒険者をしていて最近この街に稼ぎに来たの。復興にはお金が余分に出されるのよ。不謹慎ではあるけど出稼ぎにはもってこいだからね。よろしく、えーーっと?」


「正直なやつだな。・・・俺の名前はエル、とりあえず、よろしく。」


__________________________________________________________


容姿に関しては男三人に言い寄られるだけあっていいのだろう。ウェーブのかかった豊かな金髪を無造作に後ろで一つに纏められている。顔の横にはおくれ毛?があり、かわいらしさもある。冒険者らしく化粧はしていない素顔は日焼けと相まって健康的な印象を受ける。体つきも程よく締まっていて、身長は俺よりも少し低いくらいだ。おそらく身体能力は女の人の中では高いほうに分類されるんではないだろうか。装備は軽鎧で白で統一されていて、汚れてさえいなければ神秘さもあったかもしれない。その汚れも整備をしっかりと行ったうえで使い込まれてできたものだろうから、印象が悪くなることはない。どことは言わないがしっかりとついている部分はついている。ああどことは言わないさ。なんてことを胸部装甲に目をやらないようにして考えていた。


なぜそんなことを考えていたかというと、そんな美女に類されるだろう御方が、地面に横たわり寝てしまったこと、横向きで両手を枕にして寝ていることで腕に挟まれた胸部装甲がやけに強調されてしまったこと、それらの相乗効果によってつい観察をして余儀なくされたからである。


これ以上余計なことを考えないためにすっかり乾いてしまった服を着て周辺警戒をしている。倒れていた三人は起き抜けに暴れられたら困るので木にまとめて縛っているため、獣に襲われないように見張りをかって出た次第だ。


そうこうしているうちに、あほが起きだす。


「・・・んん、は!おい、なんだこれ!てめーエルサちゃんをどうしやがった!!!」


「おい、あきらめろ。エルサちゃんは気が弱いが実力は大したことない。もう襲われて召し上がられたあとだろうさ、ちっ、獣め。」


「エルサさん・・・・」


「おまえらのその思考のほうが獣じみていることには誰も突っ込まないんだな。」


「なにを!お前のほうが獣なんだろ!露出魔め!」


一向に話を聞こうとしない。途方に暮れていると、問題の女が目覚めた。


そこでのそのそと起きだした女に説明を求めることにした。


「みなさん、落ち着いてください。完全に誤解なんです。実は・・・・というわけなんです。もうこんなことが起きるのも嫌ですし、今回だけじゃないですよね?なので私たちは今日限りで解散ということで。」


「「「・・・・・・・・」」」


「とりあえず私たちはあなたたちとは別の方向から町へ帰ります。このあと何かあっても嫌なので今回は俺が一緒にエルサさんと町へ戻ります。」


「・・・てろよ、、、、。」


「はい?」


「・・・わかりました。じゃあ縄をほどいてください。すぐに帰ります。」


ようやくこの事件が解決し、三人組の睨むような視線を無視して見送りをした。


「はーーー、疲れましたね。私小さいころから断りを入れるのが苦手なたちでして、こういうことが何度かあったんです。変に慣れちゃって、迷惑かけてるのに気が付かないで本当にすみませんでした。それにしても剣を振るほうがよっぽど好きで、だから冒険者なんかやって、色気だってぜんぜん無いのに不思議ですよね。」


「・・・・そ、そうなんですねーーー。」


こういう無自覚で無防備なところがそもそもな問題なんだが。もう関わることはなさそうだし、変に助言もしないでおくか。そもそも演技臭いしな。


なんかどっと疲れが押し寄せてきた。長い一日がようやく終わりを迎えた。


しばらくたってから急ぎ足で森から抜け街へと戻った。

その間必要な会話以外は終始二人とも無言で、常に前を歩いていたこともあって、後ろから熱い視線を受けていたことを、この時のエルはまだ知らない。

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