ただの0
「お前だけは絶対に許さない。」
「ふ、貴様が一体なにを積み上げて来たと言うのだ?仲間との絆か?地位か?それとも」
あの無様に死ぬしかなかったーーーのことを言っているのか?
言外に含まれた意味は、まったくもってその通りで、だからこそ胸が張り裂けそうになる。
「お前だけは、お前だけはおまえだけはおまえだけはおまえだけは!」
その続きの言葉を紡ぐには、俺の心にはできなかった。
「教えてやろう。貴様が許せないのは自分自身だ。ーーーを死なせたのも、ーーーーーーーが滅んだのも、『ーーーーーー』の悲劇の原因も、あれもこれも貴様の失態だろう?私に抗えなかった貴様が!貴様こそが!!脆弱で!薄弱で、軟弱で、不甲斐なく!強さを幻視し、過ちを認めず、過去から何も学ばなかったことが!許せないだけなのだろう!!!」
その言葉が痛くてただ辛くて、本能が拒絶し、気づけばーーを顕現させ盲目的に斬りかかっていた。
そして呆気なく両腕が弾け飛ぶ。
「その儚さこそが貴様の弱さの正体よ、生き急ぐなと教わらなかかったか?それともそれを言われぬまま、師を、友を失ってしまったのか?」
「黙れ!」
投げつけられる言葉が、失ったはずの感情を揺さぶり、その揺さぶりが、まだ生々しく残っていた傷を抉る。
「俺は、俺は!」
どうすればよかったんだ?
やはり頭に浮かんだ言葉を自身の内側から出すことができずに、流れる涙を拭ってくれたーーーの温もりを今更思い出して、血で溢れかえりそれでも世界に抗うように身開いていた目を、そっと閉じた。
____________________________________________________________
「起きなさい!早くしないと遅刻するわよ!」
朝のなんとも言えぬ倦怠感に包まれながら、まだここから抜け出したくないと思う気持ちを必死に抑えながら、起き上がり、ベットに座り直す。
「あれ?」
頬に涙が流れ、止まる気配もない。
「ーーー?」
記憶にない名前を呟く。
しだいに何も思い出せなくなり、不快感も消えて、日常に戻っていく。
涙もやがて消えて、本当に何もなかったかのように、エルがーーーの名前を思い出すことはないだろう。
やがて訪れる世界の変革のその時まで。
『あなたは本当に頑張り屋さんなんだから。』
届かない想いが、ただ時の彼方に木霊した。




