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高校生である私が請け負うには重すぎる  作者: 吾田文弱
第三章 初依頼は荷が重い
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31. 作戦会議

 現在時刻は午後十二時半。朝から色々な事が起こっているけれど、時間の進みが何故か今日は極端に遅い気がする。買い出しに行って帰ってきた時も大して時間が掛かっていなかったし(買い出しに向かったコンビニエンスストアが近かったというのもあったと思うけれど)。光陰矢の如しという言葉も形無しと言った感じか。


 取り敢えず私は近所にあるコンビニエンスストアにて無難にミックスサンドとカフェオレを三人分買ってきた。臆助くんは本当に喜んで美味しそうにサンドイッチを頬張っていた。陰山くんは包帯で無造作にぐるぐる巻きになった片手を使い一応食べてはくれたけれど「次からはレタスサンドと珈琲を所望する」と言ってきた。何でもいいと言ったくせに……。


 昼食を食べ終えた後、彼は早速現像した写真と宝石店の見取り図らしき物を机の上に広げ、声高々にこう宣言した。


「よし、腹ごしらえもそこそこに、サンドイッチだけに三度サンド目の正直だ。これより、宝石店強盗の作戦会議を開始する!」


「…………」「…………」


「さて……早速プランをだな……」


「ちょっと待って! 勝手に先に進もうとしているけれど何なの今の一言?」


彼のキャラに似合わない一言に思わずツッコんでしまった。私自身の中の人物像も崩壊しかけてるその時、臆助くんが私に耳打ちをしてきた。


「海野さん、放っておいてあげましょうよ。奇鬼さんはこの緊張した空気を和ませる為にわざと慣れないダジャレを言ったんスよ。でも空振りだったみたいッスが……」


「うう……それも一理あるね。でも私がサンドイッチ買って来なかったらあんなダジャレ言えなかった訳だから多分咄嗟に考えたんでしょうね。面白いと思って……」


「お前ら……、ヒソヒソと話しているつもりだと思うが全部聞こえているからな……」


 その後臆助くんと二人揃ってお叱りを受けた。何故私達怒られなければならないのか意味不明だったけれど取り敢えず彼のほとぼりが収まるまでジッと彼の説教を聞き続けた。


「ゴホンッ! さあ……このプランの実行方法は大きく分けて──二つだ! 派手にやるか、密かにやるかだ!」


 一つ大きな咳払いをする彼は怒りすぎたのか疲れているようにも見えた。少し休んだ方がいい感じにも見えたけれどもうこれ以上会議を中断させるようなことは出来ない。それこそ本当に日が暮れてしまう。


「因みに私は、密かにやることをお勧めしよう。理由は単純、派手にするのは嫌いだからだ。そもそも三人で馬鹿みたいに強行突破するなど以ての外。後先考えずに突撃すれば少なからず証拠も残るだろう。無勢もいいところだ」


「俺っちもその方がいいッス! だって俺っちパソコンの事以外はてんで駄目なんで……。これではせっかくお呼び頂いたのに足手まといになっちまうッス」


「これで二対零だな。もう訊くまでもないと思うが、アンタはどちらを取るのだ?」


 多数決で決まった事が絶対に正しいとは限らないけれど、今回の場合は確かに陰山くんの言う通り、たった三人で、しかも未成年が真正面から強盗をするなんて無謀すぎる。それ以前にその方法だと私が一章分を掛けて行った盗撮の一部始終が全て無駄になってしまう。それだけは勘弁してほしい。

市に虎ありとも言うしここは、


「う~ん、私も後者かな。派手にやっちゃうとやっぱり顔を隠してたとしても声紋か何かでいつかはバレると思うし、少しでも警察の捜査が難航しそうな隠密行動にしたほうがいいと思うよ」


「フン……、アンタ、これから犯罪を犯すと言うのに随分と適切な判断を下すじゃないか。助手としてはいいかもしれんが、委員長としての立場はどうなるのだろうな?」


「ここは学校じゃなくて陰山くんの部屋でしょ? だから今はクラスの長たる委員長じゃなくてあなたの助手。ご理解頂けた?」


 ムウ……、と不服ながらも彼は私の意見を聞き入れたように低く唸った。


「では、満場一致で作戦の方は隠密にやるという事でいいか? 異議の申し立ては今からなら聞いてやってもいいぞ? 但し、聞くだけだ」


「異議無しッス!」


「右に同じだよ」


「ウム……、次は準備するものだな。隠密にやることが決まった以上、この写真が必要になってくるだろう。念のため撮っておいて良かった」


 そう言い彼はアタッシュケースからもう一枚写真を取り出した。恐らく私を先に帰らせた後に撮ったと思われる。その写真は何処かの建物の屋上の給気設備が写っていた。


「こいつはあの宝石店の屋上にあった給気設備だ。委員長が撮ってきた写真に写っている給気口に繋がっているのさ。これらが、今回の作戦を成功させる鍵となってくる」


「この写真のやつがッスか? う~ん奇鬼さん、自分にも解るように説明してほしいッス」


「こんなのも解らないのか? 委員長、あんただったら解る筈だろう? 説明してやれ」


「え⁉︎」


 なんというタイミングでスルーパスを渡してくるのだ彼は。私はオフサイドトラップを回避する術を持ってなどいないというのに。

しかし渡されたボールは何とかしてゴールしなければならない。私は何となく、こうだろうなと言う感じで臆助くんに説明を始めた。


「例えば臆助くん。隠密に事を進めるには大前提として人に見つかってしまっては意味がないの。ここまでは解る?」


「うんうん、それでそれで?」


「でも今回の場合、私が行った時の店内はそれほど広くはなかった。店員さんに見つからずに店内に侵入すると言うのは絶対に無理なの、でも見つからずに這入りたい。そういう時はどうしたらいいと思う?」


「う~ん……、いやぁ解んないッス…。店員さんがお店の中にいなければ何て思ったッスがまさかそんな訳──」


「その通りだよ。でも店員さんが全員居ないなんて事はあり得ないから、正確に言えば店員さんがその時どういう状態であるか、だね。例えば全員──眠っちゃってるとか」


「えぇー? 眠ってる? そんなの有り得ないッス! 仕事をほったらかして居眠りしてしまうなんて!」


「ううん、そんな事無いの。ここで陰山くんが言っていたこの給気設備と給気口が鍵になってくるの。店員さんはその時に眠りたくて眠っている訳じゃないの。もしもの話だけれど、誰かに眠らされたとしたらどうする?」


「眠りたくて眠ったんじゃない? 眠らされた? どういう事ッスか?」


「あの給気設備に例えば……睡眠ガス? を投げ入れたとするじゃない? するとその噴き出たガスは何処へ行くと思う?」


「ああ! それは解るッス! 勿論給気口から店内に入り込んで──ん? ま、まさか……」


「そう! そのまさかだよ。給気設備からダクトを伝って出口である給気口にそのガスが出てくる。そのガスを吸ってしまった店員さんはみんな急激な眠気に襲われて、眠ってしまうの。その間は店内は完全に手薄となって泥棒に這入ってくださいと言っているようなもの。見事、誰にも見つかることなく店内に侵入できるってことだよ」


「成る程~! そういう事だったんスね! スゲェ解りやすかったッス!」


「…………」


 流石にこの説は突拍子過ぎたのだろうか。陰山くんが口を開けて物も言えないと言う感じで佇んでいる。臆助くんは納得してくれたみたいだけれど、これは飽くまで臆助くんを納得させるための詭弁だ。作戦と言うのも烏滸(おこ)がましい程の机上の空論だ。


「おい……アンタ……」


「な、何……?」


 陰山くんが声をどんよりとした低い声で私に喋り掛けてきた。

 嗚呼、きっと「あんたに尋ねた私が馬鹿だったよ。残念だ」などと言う罵声にも似た言葉を言われるのだろう、と思ったら、陰山くんは急に身体を悪寒がしたかの如く身震いをして戦慄いた声でこう言った。


「いやぁ怖い怖い……。何故私が実行しようとしている作戦を完璧に言えたんだ……! しかもまるで解らない問題があるところを生徒に尋ねられて解りやすく解説している教師の如く! 挙句の果てには答えを敢えて教えずに臆助に正解へと導かせた……。この私も思わず聞き入ってしまったぞ。侮ってはいけないとは常々思っていたが、まさかここまでとは思っていなかった……!」


「えぇぇ⁉︎」


 予想だにしなかった。あの陰山くんが、毒舌家の彼が、私を褒め称えるどころかそれを通り越して恐怖すら感じている。両腕で身体を締め付けるように抱いている。そんな彼の姿は宛ら蛇に睨まれた蛙のような状態だった。


「全員が方法を把握しているならばもう一々作戦を繰り返す必要はなさそうだな。最後に作戦決行の当日の大まかな流れと役割分担を決める。まず臆助、お前はあの宝石店の警備システムをハッキングして警報機が作動しないようにしろ。私が見たところによるとあの警報機──店員がボタンを押して作動するものであると同時に火事などが起こった時に煙に反応するようになっている。そしてその警報は警察署や消防署に直接送られるようになっているとも見た。店員が睡眠ガスで眠ってしまうので前者での作動は省かれるが、催涙ガスの煙に反応する可能性がある。頼んだぞ臆助」


「アイアイサーッス! でも止めておける時間は限られるッス。どれくらい止めておけばいいッスかね?」


「私だったら十秒から三十秒もあれば十分だ。それ以上止めておけると言うのなら尚良いがな」


「お安い御用ッス! 大船どころか宇宙戦艦に乗ったつもりでいて下さいッス!」


「フッ……、頼もしい限りだな。但し時間制限がある以上ハッキングするのにもタイミングが重要だ。そこで委員長、あんたにはここで重要な役割を与えよう。あんたには屋上に上がってもらい催眠ガスを給気設備のファンに向かって投げ込んでもらいたい」


「え? それだけでいいの?」


「それだけとは何だ? 重要なと言った筈だろう。催眠ガスは私が用意するが、勿論そんなに多くの催眠ガスが手に入る訳ではない。数が限られるのだ。もしもだ、一つしか入手することが出来なかった場合、その一投に今回の作戦の全てが掛かっているのだぞ? 見てみろ、この写真に写っているファンを。それほど大きくはない。直径二メートルと言ったところか? 失敗してみよ、全てが水の泡だ」


「た、畳みかけるようにプレッシャーが掛かるようなこと言わないでよ……」


「なるべく私も出来るだけ仕入れるつもりだが、大した期待はするな。ま、そんな先の心配は今はしても仕方ない。作戦の流れに戻るぞ。

 そして給気設備のファンに見事催眠ガスを乗せることが出来た場合あんたは臆助に知らせろ。そうすれば瞬く間に臆助がハッキングを開始してくれる。ここまで滞りなく作戦通りにいけば店内には催眠ガスの煙が充満しているが、警報は鳴っていない状態になる。監視カメラの方は放っておいても問題ない。煙が部屋に充満していれば、映る物も映らんだろう。その間に私が店内へと侵入し時間が許す限り沢山の宝石を盗む! そして警報のハッキングが切れる前に皆バラバラに逃げ果せる。その後何処か適当な場所で落ち合おう。これが今回の作戦の全貌だ」


「凄いッス。正に完全犯罪。警察の人達の難しい顔が目に浮かぶようッス……」


「本当に成功するのかしら。こんな大掛かりな作戦……不安になってきたよ」


「作戦が決まっただけなのに不安がってどうする。失敗したらしたでその時は考えるのだ。何よりまずは準備だ。私は出掛ける。お前らは特に動かなくてもいい、ここで待機していろ」


「了解ッス!」


「気を付けてね」


 彼は頷く代わりに「フッ……」と鼻で笑って返事をして部屋を出て行った。

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