表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高校生である私が請け負うには重すぎる  作者: 吾田文弱
第三章 初依頼は荷が重い
30/64

29. 別行動

短めに行きます。飛ばしすぎて頭も指も疲れたようです……。

 店の裏手に戻ると陰山くんがジュラルミンケースを完全に開きその中身を凝視していた。何をしているのだろうと近付き覗き込もうとしたら、視線を感じたのかケースを閉じられた。


「戻ったか。フンッ、まあ、我が助手の初仕事としては上出来だ」


「陰山くん、ケースを見てたみたいだけど何をしていたの? 何かをしまっている様子じゃなかったようだけれど」


「アンタがそれを知る必要はない。知ったところでどうなる訳でも無し……、しかし何だ。ここから出ていく前と後とでは随分と浮かない顔をしているではないか。何か不満でもあるか? 聞くだけなら聞いてやろう」


「陰山くん、今ならまだ間に合うからもう止めよう? あなただったら頭金くんにあげられるくらいの蓄えがあるでしょ。それに彼だってこんな方法で工面したお金なんて貰っても嬉しくないと思うけど……」


「甘いな。バレンタインデーに女子が好きな男子にあげる本命チョコやそのイチャイチャしたムードより甘い。確かに私はあいつにどのような金額を提示されたところで、その場で貯金通帳を出し勝手に好きなだけ持っていってもいいと言えただろう。だが、それは私のプライドが許さない。もし何の苦労も無くして依頼をやり遂げたとして……あんた、その後で食う飯が美味しく感じるのか?」


「御飯が美味しいだけでは満足しないあなたがそれを言いますか」


「とにかく私はやると決めたことは必ずやる。どんなに簡単な依頼だろうと必ず苦労をする。罪を犯す事も厭わぬ。これも全てクライアントの期待を裏切る為だ。勘違いするなよ。良い意味で、だ」


 助手のくせに私に意見をするな。と彼は最後に付け加えた。ジュラルミンケースの件もそうだけれど、彼は私の忠告や質問を本当に聞くだけ聞き、言いたいことを言いたいだけ言い話は終わってしまった。


「その眼鏡は返せ。まだ私にはやるべきことがあるのだ。ほら、預かっておいてあげた制服とアンタの眼鏡、それでもって私の部屋の鍵だ」


 そう言われ私は自分が掛けていた黒縁眼鏡と彼に預かってもらっていた制服と私の眼鏡を交換した。そして彼は黒縁眼鏡に付いていたレンズを力づくで外し、自分の顔に掛けた。この瞬間に彼のご尊顔を拝することが出来るかもと期待したけれど、流石は彼。

 顔を俯かせながら眼鏡を掛け、顔を挙げた時には眼鏡を掛けているかどうかも解らなくなってしまった。


「あんたは先に私の部屋に帰っていろ。作戦会議はその後だ」


「作戦会議までするなんて本当にやる気なんだね……。もう止めろとは言わないけれどあんまり無茶しないでね。捕まったら元も子もないんだから」


「フッ……、アンタに気に病まれるほど私はこの仕事伊達に何年もやってはいない。心配するならアンタがこれから無事に帰れるかどうかを心配するんだな」


「ど、どういう意味……?」


「忘れた訳ではないであろう、白臣だ。まだあいつはあの町にいる筈だ。私があいつに直接会って話を付けてもいいのだが、流石に私でもあいつの動向を把握することは出来ぬ。もし出くわしてしまったら、これからの人生もう二度と走れなくなる身体になってしまうくらい全力疾走で逃げろ。それでは、健闘を祈る」


 そう言い彼は何処かへ走って何処かへ消えていった。

 彼には言えなかったことだけれど、私は忘れていた。私が彼の部屋に泊めてもらっていた理由を。

 白臣塔という闇医者の存在を。飽くまで彼の推測でしかないけれど、そうとは言い切れないのが怖いところである。


──怖い……恐い、嗚呼……!


 そう思い出した時には私は早歩きで駅へと向かっていた。あの人に出会ってしまったら、あの巨体に追われることを想像したら、体力的に、速力的に、歩幅的に、逃げれない。


 電車の中でも気を抜くことは出来ない。車内は昼前という事もあって乗客は疎らだったけれど、私はその乗客一人一人を確認していく。当たり前のことだけどそれだと疑わしい人物は一人も居なかった。というかあれだけの長身を誇る人が電車に乗っていれば一目で判る。警戒するまでも無かったと自分に呆れつつもどこか安心している自分がいた。


 そうこうしている内に私は自分達が住んでいる町の駅に到着していた。電車を出る時も周りをよく見回しあの人がいないのを確認し駅の改札を抜け、再度早歩きで彼のマンションへと急いだ。客観的に見れば、学校の制服をはだかで抱えてスーツを着た女子が小走りをしているのだ。好奇の目に晒されても可笑しくない。

 しかし私は必死だった。まだ捕まりたくなかったから。死にたくなかったから。

 息が切れようと、革靴を履いているが為に靴擦れを起こし踵が痛くなろうと、私は必死に彼のアパートへと急いだのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ