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高校生である私が請け負うには重すぎる  作者: 吾田文弱
第二章 請負人のいろいろ
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18. 閑話からの休題

 そんなネガティブな考え事をしている内に、私はあの例の空地へとやってきていた。まあ、通学路なので通るのは当然なのだけれど。


 そこにある電柱には相変わらず例の貼り紙が雨風にも負けず貼ってあった。

 そうだ、元々私はこの貼り紙に気付きさえしなければ、こんなことにはならずに済んだのだ。私の後のことを顧みない行動に今更ながら後悔する。

 んん、この貼り紙さえ、この貼り紙に気が付かなかったら! 貼ってなかったら…!


「アンタ、何しようとしているのだ?」


 私のすぐ後ろの方から突然低く暗い声が聞こえた。あまりに突然だったので私は場も弁えずに叫んでしまった。私は振り向く。


「きゃあ!」


 そこにいたのは、例の如く顔が隠れて見えていないが、恐らく驚いた私の姿を見てあきれ顔を浮かべているであろう、陰山くんがそこに立っていた。


「何を驚いて珍妙な声を出している。普通に声をかけただけではないか。出会った時から思っていたがアンタって意外と臆病者だな」


「臆病者ということに関して否定はしないけれど、こんな薄暗い道で一人でいた時に突然後ろから声を掛けられたら誰だってびっくりすると思うのだけれど」


「この程度で一々驚いてたらいくら心臓があっても足りぬぞ。これから私の助手として働くのだから、しっかりしてほしいものだ」


 これから驚かなければならない依頼をこなしていかなければならないのか。幾多数多の依頼をこなしてきたであろう彼の心臓は主に鋼を主成分として形成されているようだ。

 私の心臓は普通の血と肉と細胞で出来た普通のものなのでびっくりすることに慣れないといけないだろう。


 ところで彼は何故こんな日も落ちかけているというのに、こんなところにいるのだろう?

 というか今朝あんなことがあったと言うのに割と元気そうだ。流石、鋼の心臓の持ち主。そのことに関しても訊いてみたかった。


「陰山くん、何でこんなところにいるの?」


「いや、あの理科教師が眠りたかったら家に帰って寝ろと言ったものだから、眠たかったから遠慮なく家に帰って寝たのだ。それで、起きたらこんな時間になってて、やることはないし暇だからこの町の散策をしてたのだ」


「…………」


「そしたらこの道を歩いていたらアンタがいたのだ。何をしてるのだろうと思って後ろから見てたら、貼り紙に手伸ばしてはがそうとしてたから声掛けて止めたのだ」


 私無意識にそんなことしようとしてたんだ。相当心が疲れてしまっているのだろう。

 その前に彼は今凄く気になることを言った。眠たかった、だって?


「え、陰山くん……、眠たかっただけなの?」


「ん、ああ、アンタの受けた依頼の疲れが取れなくてな、朝起きてもまだ眠たくて。全く……、学校行ったら行ったであんたが俺の名前間違えて大声出さなきゃならないわ、クラスの奴らが騒ぎ出すわで、耳塞いでも五月蝿(うるさ)かったものだから眠れなかったぞ。そしたら何という僥倖(ぎょうこう)。あの理科教師は良い仕事をしてくれた。お陰でぐっすり睡眠をとれた」


「え? 陰山くん、あなたは、イジメられてたん……だよ?」


「イジメ? ああ、そうだ。実はそのことに関してアンタに礼を言わなければと思っていたのだ。最初はアンタに名前を間違えられてマズいと思い大声を出してしまったんだが、それが偶然にも功を奏した。クラスの奴等とは極力アンタ以外に関わりを持ちたくない。

 関わりを持たないようにする一番の方法は人から嫌われることだ。あの件で私は随分嫌われ者になったことだろう。これも全てアンタが名前を間違えてくれたお陰だ。まあ、私の助手としての初手柄、まあまあといったところだ。礼を言おう」


 そう言い彼は口元をニカッと緩ませた。恐らく満面の笑みを浮かべているのだろう。


 お礼を言われてこれほど嬉しくなかったのは初めてだ。彼はイジメられていたことに関して心を痛ませるどころかむしろ私を褒め称え喜んだのだから。


 ということは、机に突っ伏していたのは眠たかったので寝ており、そしてクラスメイトからの土下座コールの時頭を抱えているように見えたのは皆の声が五月蝿くて耳を塞いでいたからなのだと今更理解した。


「何それ、イジメられて喜ぶなんてどうかしてるよ」


「ああ、イジメ大歓迎だ。何だったらこの世の人間全てが私のことを嫌いになってくれてもいい。その方が気苦労もないしな。ま、元々そんな苦労、したことなどないがな」


「…………」


 呆れて言葉が出てこなかった。絶句。

 彼の心臓は鋼で出来ているみたいなことを言ったけれど、それどころでは収まらない。全人類から嫌われてもいい? 一匹狼でもたかが知れている。


「あなた、そうやって今まで人付き合いを避けてきたの? 寂しくならない? いくら転校を繰り返しているからとはいえそこまでする必要はないんじゃない? 親御さんが知ったら悲しむと思うけれど」


「フッ、人付き合い……友達……、私にとってはこの世で最も必要のない物の一つだ。それに親が悲しむだ? 私は生まれた時から一人だ。だから一人でも生きていけてる。寂しくないかどうかなんて、今私が生きていることこそが証明になるだろう」


「え……?」


──一人? 生まれた時から? 彼には両親が──いない? 


「おい、どうしたんだよ。急に暗い顔になりやがって、驚いたり悲しんだりして、忙しい奴だな」


「ごめんなさい。あなたの事情も知らずに物を言ってしまって」


「何自分のせいみたいなことを言っている。気にするな、私の家庭の事情なんか。私にとって親なんて最初からいなかったような……ものだ」


心做しか、若干言葉を詰まらせながら話す彼の言動が気にはなったけれど、私は質問をする。


「お父さんやお母さんに会ったことないの?」


「ああ、父や母の顔は写真でしか見た事ないな。知ってることと言えば、互いの名前くらいか。だが父のことは少しは知ってるつもりだ。あいつから聞いた限りな」


 あいつ? あいつって? 私は一瞬誰のことか思ったけれど、私が知るわけないと考えるのを辞めようとした時、記憶がフラッシュバックした。


「……いや、まさかね」


「どうした? アンタ、あいつって誰のことか知っているのか?」


「ううん、何でもない。交友関係が皆無のあなたにまさか白臣塔なんて人が知り合いだなんて……」


「! 何 ︎ あんた、あいつに会ったのか!」


 と急に彼が明らかに動揺して私を問い質してきた。


「こっちに来い! 早く来い! 直ぐに来い! 私のそばから離れるな!」


 と彼が私の腕を鷲掴みし強引に引っ張り、何処かへ足早に歩き出した。


「きゃッ! ちょっと陰山くん! 痛いよ! どうしたの ︎」


「五月蝿い! 騒ぐな! 黙って私に着いて来い!」


 冷静そうな彼がここまで取り乱しているなんてよっぽどのことなのだろう。もしかして私は関わってはいけない人と関わってしまったのではないだろうか。また後から後悔してしまうようなことをしてしまった。もう少し先のことを考えて行動しなければ。


「ところで陰山くん、私を何処へ連れて行くつもり? 流石にそれには答えてもらわなきゃ、親にも連絡いれないといけないし、困るよ!」


 すると彼は、このような状況でなければ、聞いた女の子なら誤解しかねない場所と連れ出した目的を言ってきた。


「私の住んでいるアパートだ。今夜はそこで泊まってもらう」

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