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またも狂犬の苦悩にキツネは笑いけり  作者: 夏炉冬扇
第5章 それぞれの絆
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強襲

 八雲を連れだって中等部校舎の裏口から、学校裏の遊歩道に面した高い土手の前に出た。

 ここから右手に進めば体育館の裏手。過去にタタリモッケの影響で我を失っていた八雲を追いかけている時に出た場所だ。

 まだ授業が終わってもいない時間帯に正門や西門から堂々と出るわけにも行かない為、あの時と同じように体育館裏を通ってフェンスを乗り越え、土手の階段を上って遊歩道に出るつもりでいた。


「ミコト。どこへ行くかは分かってんの?」

「ちょっと距離はあるけど、例の廃寺に行くつもり。伊予が善哉に話を聞いて来るって書き残してったから、多分、あそこに行けば何か手掛かりが掴めるかもしれない」


 というより、他に宛てなど無いのだ。

 瑞木はもちろん、失踪した花蓮の事も気がかりだが、他に思い当たる場所も無い以上、化け狸達が根城にしている廃寺しか探すところが無い。


「せめて瑞木が無関係なら良いんだけど……」


 考えれば考えるほど最悪の事態が脳裏をよぎる。

 もしも……瑞木が花蓮失踪の原因を作っているのだとしたら?

 ミコトは一瞬思いを巡らせ、即座にかぶりを振って否定した。


(無い無い! だって、瑞木は普通の人間なんだ。伊予が善哉に会いに行ったって事は、化け狸絡みの話だって可能性は高いし、それなら普通の人間である瑞木と化け狸が関わってるなんて事ありえない!)


 そうやって自分自身に言い聞かせるが、やはり先程の瑞木の様子を見る限り、花蓮失踪と全く関係が無いとは思えない。

 そんな葛藤を繰り返しているミコトに八雲が穏やかな声で語りかける。


「瑞木の事なら心配無いよ。この一件に関わってたとしても、僕らを裏切るような、そんな真似を出来る子じゃないだろ?」

「あ……う、うん……」


 完全に見透かされていた。

 そのうえ、自分は根本的な事を忘れていたのだという事を八雲の言葉で思い知らされ、そして恥ずかしくなった。


「そうだよね……。瑞木があたしたちを裏切る筈ないんだ。あたしってホント、バカだなぁ……。目に見える状況だけで考えて、親友がどういう人間かも忘れてたなんて……」


 ミコトは気合と反省を込めて、両手で自分の頬をバシッと叩く。

 思いっ切り叩いたものだから、頬も手のひらもジンジンと痛んだ。けれど、その一発でスッキリした。


「やっぱり八雲について来てもらって正解だったかも」

「そう?」

「あたし一人だったら、ずっと疑心暗鬼になってたもん」


 そう言って少し照れ臭そうにニカッと笑って見せる。

 そんなやり取りをしながら体育館の裏手を通り抜けようとする二人の前に、突然、体育館向こうの陰から二人の男子学生が現れた。

 ミコト達の通る体育館と土手の間は人が二人並べばいっぱいいっぱいという幅しか無い。しかし、その男子学生二人はまるでミコト達を遮るかのように二人並び、ゆっくりした足取りでこちらに向かって来た。


「何だ? おまえら……」


 ミコトが問いかけるが、彼らは無言でこちらを見つめているだけ。それも妙に冷たい目である。

 よくよく見れば高等部のピンバッジを付けているのだが、高等部の生徒であればミコトの存在を知らぬ者はいない。当然、ミコトが『狂犬』と呼ばれ、恐れられている事は誰でも熟知している。

 そんなミコトに、このような視線を浴びせ、無言で立ちはだかる怖いもの知らずな学生など、京華や花蓮などの一部例外を除いては、まず存在しない筈なのに……。

 いや……そもそもミコトは彼らの顔に見覚えが無かった。


「これでも高等部の生徒はそれなりに顔を知ってるつもりなんだけどな……。おまえら……ホントに人なのか?」


 鋭い目で睨みつけるミコトの言葉に、彼らは僅かに眉を寄せる。

 咄嗟に八雲も身構えた。


「ふふん……だんまりか……。生憎、ここでは黙秘権を行使したところで無意味なんだけどな。どうせ見えてるんだろ? ほ〜れほ〜れ」


 ミコトは鋭い眼光ながらも口もとで不敵に笑い、お尻に生えた尻尾をゆらゆらと振って見せる。

 彼らの視線は明らかにミコトの尻尾に注がれ、動きに合わせて目で追っていた。


「妖気はまだ感じてないけどな……だからこそ分かる事もあるんだぞ? おまえらも尻尾を見せたらどうだ? 狸ども!」


 一喝すると彼らはどこに隠していたのか、それぞれ抜き身の脇差を取り出して半身はんみに構えた。

 妖しい輝きを放つ刀身には広直刃ひろすぐはと呼ばれる波紋が見て取れ、鋭い切っ先やふくら(・・・)からも、紛れもない真剣である事がわかる。


「なるほどな……。あたしに首を突っ込まれては都合が悪いって事か……」


 ほんのひと時、拳に力を込めていたミコトであったが、スッと力を抜き、ダラリと両手を下げた。

 だが、脇差を手にした二人は中段半身の構えを崩さず、ジリジリと間合いを詰める。

 この危機的状況にもかかわらず、ミコトは笑みを浮かべた。それも普段、ミコトが学校内で見せるような笑みではない。瞳孔が開き、口を半開きにし、狂気じみた……まさに『狂犬』の異名に相応しい程の笑みだ。


「でも残念だったなぁ〜。その程度の脅しで引き退るあたしだと思われちゃなぁ……オイ……。刃物取り出した以上、容赦してもらえると思うなよ? ケダモノ風情がぁぁぁ!」


 咆哮が如き怒声をあげると、ミコトの脚は地を蹴っていた。

 瞬時に間合いを詰めると身体を沈め、一方の男子の胸部——丁度、胸骨の中心に掌底打ちを見舞う。

 生身の人間が食らえば致命傷になり兼ねない危険な打撃だ。だが、あやかしならどうか……。


「か……はっ……!」


 掌底打ちを食らった男子は飛び出しそうな程に目を見開き、もんどりうって倒れる。

 その間に、もう一方の男子が脇差をミコトの頸部目掛けて振り下ろすが、ミコトは脇差を持つ方の手首に下から手刀を当てて防ぐと、もう一方の右手で相手の下顎に掌底打ちを食らわせた。

 それも、ただの掌底打ちで止めず、その勢いのまま押し込み、相手の後頭部をコンクリートの土手に打ち付ける。

 人間ならば死んでいるかもしれない容赦無い攻撃ではあるが、相手があやかしで、しかも自分を殺そうとしているのならミコトにも躊躇いなど無い。

 二人の男子は数々の修羅場をくぐり抜けて来たミコトに敢え無くノックアウト。そしてポンッという破裂音を立てて正体を現した。


「やっぱり化け狸か……」


 ミコトの足もとには泡を吹いて意識を失っている野生のタヌキそのものが倒れていた。

 人の姿に化ける事の出来る手練れの化け狸であっても、意識を失ってしまえば普通のタヌキ同様の姿に戻ってしまうようだ。

 間近でその一部始終を見ていた八雲はひと言……。


「怒らせないように気をつけよう……」

「ん? 何か言った?」


 ミコトには聞こえないように呟いたつもりだったが、ミコトは愛くるしいまでの笑顔を八雲に見せて問いかける。白々しく……何事も無かったかのように……だ……。

 こんな女の子の彼氏になってしまった事に一抹の不安を抱かずにはいられない八雲であった。

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