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またも狂犬の苦悩にキツネは笑いけり  作者: 夏炉冬扇
レトロスペクション2
18/46

因縁の出会い

 時は今より十年ほど遡る。

 その頃の私は喘息のがあって、頻繁に通院していた。

 病院は藤野町の隣り、八王子市にある比較的大きな総合病院で、私はそこの小児科に週一度の割合で通っていた。

 父は私が物心つく以前から私立牧野学園の理事長を務めていて忙しく、きっと誰でもそうなのだと思うが、幼い私は夜更しなんて出来なかった為に、殆ど父と会える事など無かったものだ。

 それ故、私を車で病院へ連れて行くのは、いつだって母だった。

 もちろん、母は優しい人で、ちゃんと私の面倒を見てくれたから、父に会えなくても寂しい思いをする事は少なかった。

 けれど、もともと物静かで、あまり積極的ではなかった当時の私には、殆ど友達と呼べる存在が無かった。幼稚園に行っても大抵は隅っこの方で独り黙々と折り紙を折って遊んでいただけだし、誰かが「一緒に遊ぼう」と誘いに来ても、黙って首を振るだけだったから当然のように友達など出来る筈もない。

 友達が欲しくなかった訳じゃない。寧ろ本当は友達が欲しいと思っていた。


「私……弟か妹が欲しいなぁ……」


 友達も兄弟もいないから、母にそんなおねだりをした事もある。

 兄はいたけれど、歳が離れ過ぎていて、おまけに私の相手をしてくれた事など一度として無かった。

 今思えば伊予を施設から引き取って家族に迎えたのも、父が慈善活動に積極的だった事もあるが、そんな私を不憫に思ったからというのも有るのかもしれない。

 ともかくも……幼い頃の私はずっと独りぼっちであった。

 ただ一度だけ……それも一時的に友達になれた子はいた。


 ある時、私は風邪を拗らせ、もともと喘息のもあった事で咳が酷くなり入院した事があった。

 入院したのはいつも通っている病院の小児病棟であったから、医師の勧めもあって同年代の入院患者が集まる小児科教室にも参加していた。

 その中で一人、私と同い年で、私同様に物静かで泣き虫な女の子がいた。

 聞けば自動車事故で怪我をした為に入院中だとの事で、右脚をギプスでガチガチに固められ、頭には包帯を巻いた姿だった。

 初めに声をかけたのは、どちらからだったか覚えていない。

 ただ、私と彼女はどこか似た性格で、小児科教室でも二人して折り紙やお絵描きが特に夢中になったという共通の好みがあった事から、自然と打ち解けていった。


「へぇ〜! 花蓮ちゃん、折り紙上手だねぇ〜」

「えへへぇ……」


 彼女の方は下手の横好きというタイプだった為、私が慣れた手つきで器用に鶴や猫を折って見せると、その度に瞳をキラキラと輝かせて驚嘆の声をあげていたものだ。

 大人しいながらも彼女は何かと感動しやすいタイプだったようで、私と一緒にいる時は非常に表情が豊かだった。

 笑えばお日様のようにパァーッと輝き、ベソをかけば顔を丸めた紙屑のようにしわくちゃにし、不満をあらわにすればフグのように膨れる。

 一緒に居て楽しかったし、見ていて飽きない子だった。


「花蓮ちゃん! あのね……あのね……あたしのおじいちゃんがご本買ってくれたの! 一緒に見よう?」


 そう言って嬉しそうに妖怪の本を見せてくれた事もあったけど、正直なところ私にはグロテスクなものにしか映らなくて……それでも仲良しだから渋々見ていたものだ。


「ミコトちゃん、こういうの好きなの?」

「うん! 大好き!」


 屈託ない笑みを浮かべて答える彼女に、好みの違いを感じはしたけれど、それでも私達は入院中、いつだって一緒だった。

 何故か彼女は同い年なのに、私の事をまるで姉のように懐いてたっけ……。

 それでも……別れは突然やって来た。

 私は彼女よりも先に退院する事になり、退院日の当日はあれこれと忙しく、満足に彼女に挨拶も出来ずに別れてしまった。

 彼女の家がどこなのかも知らず……ただ知っているのは名前だけ。

 それからというもの、彼女との記憶は私の中で徐々に薄れていった。


 あれから数年が経ち、私は小学校の三年生になっていた。

 その頃、私は別の小学校に通っている男の子に淡い想いを抱いていた。思えばそれが私の初恋だったのかもしれない。

 けれど学区が異なる為に、時々公園などで見かける程度。もちろん話した事だって無いし、向こうも私の存在に気づいてなどいなかった。

 その男の子も大人しい子で、公園などで他の男の子たちと遊んでいる事はあっても、本当の意味で仲間に入れてもらっているという雰囲気では無かった。

 どこか浮いていたのだ。

 それでも私はその男の子とお喋りをしてみたくて、何度も声をかける機会を窺っていた。

 そしてある時……彼が公園で一人、ボーッと立ち尽くしている姿を見かけた。

 周囲には誰もいない。

 ずっと話しかけてみたいと思っていた私だ。このチャンスを逃す訳には行かない。

 それこそ清水の舞台から飛び降りるような覚悟で声をかけようと……勇気を振り絞り、一歩踏み出した瞬間——


「あ、ミコトちゃん」


 その男の子が名前を呼ぶ。その視線の先にいたのは見覚えのある女の子だった。


「え……どうして……あの子が……?」


 少しだけ背も伸びてはいたが、紛れもなく私が入院していた頃に仲良しだった女の子……。


「八雲くん。今日は何して遊ぶ?」

「う〜ん……昨日の続きにしようか」

「うん!」


 二人は楽しそうに手を繋いで公園の砂場へと走り去る。

 結局、私はその男の子に話しかける機会を失った。

 いや……もはや話しかける気にもなれなくなった。

 私の心には、やり場の無い喪失感だけが残されたのだった……。かつて仲良しだった少女——筑波ミコトによって……。

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