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情報屋京華

「朝から最悪だ……」


 校舎に入るなり生気が抜けたようになるミコト。さすがに天敵たる雲辺寺花蓮が相手となると精神的消耗が激しい。

 結局のところ、あまりにも収拾がつかなくなりそうであった為、もう一人いた一学年上の風紀委員がミコトに「次から気をつけてください」と言ってその場を収めた事で二人の啀み合いは、とりあえず鎮静化した。


「ミコトよ……随分とあの娘と相性が悪いようじゃが、何者かの?」


 思えばクズがミコトの体に憑いてからは一度も雲辺寺花蓮との絡みは無かった。知らないのは当然と言えよう。


「雲辺寺花蓮……風紀委員会の委員長にして、この学園の理事長の娘。おまけに何故か中等部時代から何かというとあたしに敵意剥き出しにしてくる厄介な女だ」


 今朝は定期的に風紀委員が校門で登校する学生の身だしなみチェックの日だと事前に聞かされていた為、朝から憂鬱だったのはこの為だったのだ。


「なるほどな……絶大な権力を持っておるという事か……。自ら権力を確立するおぬしと似て、しかし相反する存在じゃの」


 その言葉にミコトは今にも吐きそうな顔をする。


「あんなのと同列に扱うな! 親の七光りで権力の座にのし上がった悪女だ。下手すると学園の教師達より強い発言力を持ってる。だからあたしもあいつにおかしな真似すれば、場合によってはママの立場も危うくするんだ……」

「そういう事か……。道理でおぬしにしては、いつもより迫力に欠けると思ったわい」


 もちろん、いくらミコトでも腕力で劣る女子や幼い子供にまで手を出すような事はしない。が、悪ぶってる女子や嫌な相手であれば、先ほどの雲辺寺花蓮とのやり取り以上に凄んで見せるものだ。


「ホンモノの権力を盾に取るなんて卑怯者のする事だ。だからあたしがあいつと顔合わせると必ずと言って良いほど衝突する」


 面倒臭そうにミコトは深いため息をつく。

 教室に着くと、地獄耳の京華は早々にミコトと花蓮のいざこざに関して話を聞きつけていたようで、開口一番、


「あんたも厄介なのに目をつけられたものね。ホント、ご苦労な事で……」


 と、労っているのか皮肉っているのか、どちらとも取れる言い方をした。


「昨日は一緒に残ってた筈のオレたちは何のお咎めも受けなかったのにな」

「そんな事だろうと思った……」


 鉄平の言葉で確信が持てた。

 雲辺寺花蓮はただ単に自分を目の敵にして、どうにかして貶めようとしているだけなのだと……。


「おまえ、あいつに何か恨まれるような事でもしたのか?」

「知るか! こっちが訊きたいわ!」


 ミコトはふて腐れて自分の机に突っ伏すと、首だけを京華に向ける。

 そして、しばし無言のままジッと京華の目を見つめた。


「……なに? その期待に満ちた目は。情報って事?」

「ん〜、情報屋さんの京華なら何か知ってるかなぁ……と……」


 口を尖らせて白々しく言ってみるが、瞳はキラキラと輝いている。

 ミコトがおねだりする時の定番仕草だ。

 悔しいかな京華はこのミコトの仕草を見るとギュッと抱き締めたくなるほど可愛いと思ってしまう。

 しかし、そこは「情報屋」との異名を持つ京華。


「雲辺寺花蓮の情報ともなると……値は張るよ?」


 いくら親友とは言っても、無償で情報収集を請け負ってくれるほど甘くはない。

 そこはそれなりの労力と場合によっては危険も伴う為、ギブアンドテイクを徹底している。


「これくらい?」


 ミコトは机に突っ伏したままの体勢で指を二本立てて見せる。


「ノンノン! ご冗談を……。これくらいは頂かないと割に合わないわね」


 そう言って片手をパーにし、もう一方の手で指を三本立てる。


「マジか……。そいつぁぼったくりだぜ、マダム」

「何を仰いますやら……。相手が相手ですもの。これくらいが相場というものでしてよ? ピティガール」


 妙なエセ外国人のようなやり取りである。

 ちなみに彼女たちが指で示しているのは金額ではない。金銭でのやり取りはしないという京華なりのポリシーがある為、奉仕なり物品の数である。

 例えば奉仕なら課題を代わりにやるだとか、物品ならファミレスでランチ一食分などだ。


「でもまあ、どっちみち雲辺寺花蓮が何でミコトの事を目の敵にしてるのかって事に関して調査するのはご遠慮願うわ」

「何でさ?」

「いくらアタシでも難しいって事よ。あの女がそう簡単に尻尾を出すとは思えないし、そんな事を周囲に漏らすような女じゃない事はミコトだって知ってるでしょ?」

「そりゃまあ……」


 よく啀み合っているぶん、ミコトも花蓮が内に秘めている事を口外するような人間でない事は重々承知していた。

 認めたくはないが、自分同様に相当な負けず嫌いである。

 京華が匙を投げるのも無理からぬことだと思った。


「でもまあ、要望に応えられないお詫びと言っては何だけど、雲辺寺伊予に関する情報は仕入れてあるから、今回は無償で提供してあげる」

「伊予?」


 ミコトはガバッと上体を起こし、体全体で京華に向き直る。


「あの子があんたに憧れる理由は、あの子の言ってる事が全てなのかどうかまでは分からないけど……まあ、それとは関係無しに雲辺寺伊予の内情をね……」


 そこまで言うと京華は少し表情を曇らせ、ひと呼吸置いた。


「前以て言っておくけど複雑な事情なんで、笑って聞けるような話じゃないから」

「え……?」


 ミコトは僅かに体を強張らせる。

 が、そこでタイミング悪く予鈴が鳴り響いた。

 モヤモヤ感を残して、無情にも話の続きは昼休みに……という事になってしまったのだった。

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