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グランの兄貴に続いて、食堂に入ると自然と離れていつもの席に座る。
家族が多いがゆえにその年の差は大きく、年齢の近しい者同士で席が固められている。
俺が座るのは朝から騒がしい子供たちの席だ。
この席では年長者であるため、さっきまでの怒りをぐっと堪えて、大人の余裕を見せる必要がある。
何と言っても、寡黙で渋い男、それが俺だからな。
机の下に握り込んだ拳を隠す。
けど、朝だからかな。足元がふらついて何人かの足を踏みつけてしまうのも仕方ない。
「いってぇ、わざとだろ。兄ちゃんっ!」
「イッ、小せえ」
子供は元気であるべきだ。
それには同意だよ。微笑ましい光景に思わず口元が釣り上がる。
するとどういうことだろう。静かになった。
そうこうしていると、食堂の扉が開き、談笑していた声がピタリと止んだ。
そこから現れたのは、腰は曲がっているが、その足取りは軽く、老齢というには逞しい老人である。言わずと知れた我らが当主様だ。
綺麗に整えられた白い顎髭をさすると近くの男たちが立ち上がり、椅子を引き料理を運ぶ。
爺さんの分が取り揃えられて初めて皆に食事が行き渡る。
「おはよう」
『おはようございます!』
爺さんが挨拶をすると、皆一斉に返礼する。
それを見て、爺さんはいつも微笑む。
「では、食べるとしよう。
英霊に敬意を、自然の恵みに感謝を」
一拍の間が置かれる。
『感謝を!』
その後は各々自由に食事を楽しみ始める。
同じ席の奴らと話すのも良し、一心不乱に食べるのも良しだ。
俺たちの席は特に食事を終えるのが早い。
遊び盛りの子供は口いっぱいに食べ物を入れると飲み込み、席を立つ。皆一様に駆け出し、食べ遅れた奴が食器を重ねて、落とさないようにゆっくりと運んでいく。俺の食器も山積みの皿の中にある。
こちとら眠たいのだ。一刻でも早く布団に潜り込みたい。
だと言うのに、席を立つや否や声をかけられた。
「おい、アビス」
振り返ると布で口元を拭う二つ上の兄貴がいた。
名前はローグ。昔から同じように馬鹿なことをやる面白い兄貴で、眠たそうな半開きの目がトレードマークだ。
仲の良い兄貴ではあるが、自分が興味のないことは下に押し付けてくるのが欠点と言える。まあ、俺にさえ振らなければ、文句はない。
興味のなさそうな態度と俺に声をかけたと言うことはつまりそう言うことだ。気が重い。
「あー、ローグの兄貴。何だ?俺とてつもなく忙しいんだが」
「嘘つけ、夜勤明けだから、さっさと寝るだけだろ。お前今日一日ガキどもの相手をしろ」
とてつもなくめんどくさい。元気の塊みたいな奴らを相手にするのは骨が折れる。
「いや、疲れてるし。兄貴がやってくれよ。ロンの兄貴か、メイ姉は?」
「あいつらは仕事が入ってる。残ったのはアレクだが、あいつは頼りにならん」
アレクの細い体躯を思い返して、確かにと頷いた。
「つまり、お前が適任だな。よかったな、おめでとう」
良いことなんて何もないと、気怠げな拍手を聞き流した。
「はぁ、わぁーったよ。やりゃ良いんだろ?」
「お、やってくれるか!今度街に行った時、面白いもん買って来てやる」
「へいへい、期待せずに待ってるよ」
ため息をつくと食堂を後にした。