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ドタバタとした足音を立てながら、家の中を駆け抜ける。
俺の前を子供たちが笑いながら走っている。
「おーきた、起きたっ!」
「ねぼすけ、起きたっ!」
「れいさん、こちら」
「手の鳴る方へっ!」
着替え途中の衣服を着ながら追いかけた。
「待てや、ライトォォッ!」
一番近い金色短髪の子供に狙いを定める。
「ヒェェッ!ぼ、僕はロイドだよぉっ!
ライトはあっち!」
「ばーか、ばーか。こっちだよぉーっだ!」
こめかみがぴくぴくと動いた。
俺の一族は墓守だ。同じ血が流れてなければ、その職務を全う出来ない。
人手を確保するには家族を増やすしかない。ゆえにここで暮らす家族は50人を超え、大所帯となる。だから、名前と顔を一致させるのも一苦労なのだ。
つまり、俺は悪くない。
「んなこと知るかぁぁっ!」
さらに足を早く動かした。
だが、天運は奴らに味方した。
ガチャリとドアが開く、そこから出てきたのはスラリと背の高い甘いマスクの優男。
グランの兄貴だ。
「今日も元気でよろしい。けどーー」
グランの兄貴は子供たちを見送ると俺に向き直り前に立った。
兄貴は子供には滅法甘いが、年の近い者には厳しいことで有名だ。
「少し大人気ないんじゃないかい。なあ、アビス」
ニコリとした笑みの下、無言の圧力を受けて、足が止まる。
「いや、これは社会の厳しさ。ひいては歳上の威厳を見せつけてやろうとだな」
「ほう」
たった二音に冷や汗が止まらなくなる。
優しそうな見た目に反して、その実力は折り紙つき。当然俺よりも強い。そして、稽古と称してボコボコにされた記憶は未だ色褪せず苦手意識をぬぐいきれない。
「じゃあ、僕も威厳というやつの見本を見せようかな」
ダラリと手を下げ、肩幅程度に足を開いた自然な体勢だというのに、隙がない。
横を通り抜けられそうもなかった。
「ぐぅ」
喉の奥が乾く。自然と笑いがこみ上げる。
「ハハハ、兄貴。冗談だよ、冗談。俺みたいな奴が社会の厳しさを教える?そんなこと出来るわけないだろ?
あいつらに付き合って遊んでやっただけだよ。まあ、歳上としての務めってやつですよ」
俺の言葉を聞いて満足そうに頷くと、教える頭に手のひらを乗せた。
「そうか、そうか。それは良いことだ。アビスも大人になったな」
微笑みながら、食堂へ向かっていくグランの兄貴の背中を見ながら、子供たちに毒づいた。
あいつら後で覚えてろよ、と。