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まぶたの裏で何かがチカチカと光る。
俺だけがはっきりと視えるあいつらだ。
「勘弁してくれよ。こちとら寝不足なんだ」
目を開けると、四十は過ぎているであろう割烹着を着た女性が立っていた。
知らない顔だった。
俺の部屋に何食わぬ顔で入っているところと、身体がうっすらと透けており、宙に浮いていることを除けばそこらへんにいそうなおばちゃんである。
死んだ人間の魂、幽霊である。
こいつらの存在を俺たち家族は近くに感じることができる。
何故だか俺は存在だけでなく、姿形はては感情の一端を視ることができた。
そのせいで厄介なこともあったが良いこともある。
まあ、何事も心構えだ。
と偉そうなことを言ってみても墓守なんてやってられないが。
そんな取り留めないことを考えていると、下から誰かが階段を駆け上がる音が聞こえた。
そう言えば、もう朝だ。
もしかして、
「起こしてくれたってのか?」
チラリとおばちゃんを見ると、微笑んで消えていった。
「まったくお節介な」
ああいう霊もいるから、悪くないと思える。
程なくして、ドタドタと音を立てて階段を駆け上がる音がした。
その音は収まることなく、俺の部屋の前まで来ると勢い良く扉が開く。
後に続いて、ちびっ子たちが飛びついてきた。
「朝だーっ!」
「起きろ、アビス兄ちゃん!」
『兄ちゃん!』
「おじちゃんっ!」
真っ先に飛びついてきたちびっ子たちを一人ずつ受け止め、下ろす。
「起きてるよ。毎朝毎朝お前ら元気だよなぁ。
それとおじちゃん言った奴はどいつだ。怒らないから出てこい!」
「起きてるーっ!」
「もう怒ってるから、言わない!」
「メシだー」
「おじちゃん」
一斉に言うもんだから、収集がつかない。
「おいっ、また言ったろ!
お前だな、レン!」
足元で走り回る子供を捕まえると持ち上げる。
悪びれる様子もなくニコニコと笑っている。
軽く小突くと、笑い返す。
捕まえられた子供はニヤリと笑う。
「俺はレンじゃないやい。ライトだよっ!」
振り抜かれた足が脇腹を捉える。
「ぐふっ」
手の中からスルリと抜け出すと部屋を出て行く。
流石は子供、手加減なしだ。容赦ない。
「ふっふっふ、上等だよ」
立ち上がると一目散に逃げ出したライトの後に続き蜘蛛の子散らすように走り抜けていく。
俺は大人だ。
だからこそ、社会の厳しさを教えてやる必要がある。
全力で後を追った。