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人里離れた辺鄙な場所に周辺の村々の共同墓地がある。
その墓地を守り、管理するのが僕たち墓守の一族、ロー家の生業だ。
ロー家の歴史は古く、始まりはダール王家の王命を受けた由緒正しい墓守である。
「あ〜眠い」
眠い目をこすりながら、魔灯のスイッチを入れる。
白い光が辺りを照らす。
空に二つの月が浮かび、淡い青い光が差し込んでいる。
こんな夜更けに何が楽しくて出歩かなければならないのかというと、仕事だ。世知辛い。
墓守は墓地が墓荒らしに合わないように夜通し巡回をしたり、アンデットが沸かないように聖石の取り替えたりしている。
あとは墓掃除だったり、森から出てくるモンスターを処理したりか。
それらを家族と王都から派遣された兵士と連携して行うわけだ。
だから、一般人よりかは鍛えられてるわけで、
「つっても面倒だ」
走る。
墓地を駆け抜けると薄汚れた衣を纏った、これまた薄汚い男たちがわらわらと入ってくるところだった。
「そこで止まりな。今なら見なかったことにしてやる。大人しく帰りな」
男たちはびくりと体を震わせたあと、辺りを見渡しニヤリと笑った。
「おい、ガキが何言ってんだぁ?
てめえこそとっとと失せな。いや、それとも奴隷にして売り払っちまうか」
俺を一人と見て、容易いと思ったのか驚くほど余裕の態度だ。躊躇いなく足を進める。
ため息をついて、腰の剣を抜いた。
何の変哲も無い片刃の剣だが、野盗を相手にするには十分だ。
「あーあ、かったるいな。サボれると思ったんだがな」
こういう野盗を捕らえる、もしくは始末すると臨時収入になる。
それは報奨金として、現実的には食卓のおかずが一品増えるという形で現れる。
そう考えれば悪くはないのだが、どうもやる気が出ない。
要は割に合わないのだ。
危険度、重要度に対する報酬が少なすぎる。
先程もあったように俺たちは野盗だけでなく、モンスターも相手にしなければならない。
そして、この墓地の位置が問題だ。
北にはモンスターが多く生息する森林が広がり、南方に村々がある。森から村に行くにはこの墓地を通るのが近道だ。
つまり、体の良い防衛陣地なわけ。それなのに細々とした暮らしをしなければ生きてはいけない。
さらに、自分たちの身を守るのにも人手がいる。するとさらに金がいる。
負の連鎖に囚われている。
大人になったら、こんな所出て行ってやろうとは思うが、俺一人でも出て行ったら、家族はどうなるのだろう。
家族の中でも上から数えた方が早いほどそれなりの力を持っている。
そんな奴が抜けたら、大きな穴となってしまう。
「はぁ、どうすっかなぁ」
と再度ため息をつく頃には野盗は残り一人になっていた。
今回は楽な仕事だった。
剣を振るえば、体を固くして怯える。
明らかに場慣れしていない。
それなのに墓荒らしなんてしようってんだから、余程食うのに困っているのだろう。
「まあ、お前らもそうだろうけどウチも同じでね。大所帯だからさ、食ってくのも大変なんだわ。
だから、手は抜けねえんだ。相手が悪かったと諦めな」
剣を振り上げ、がら空きになった鳩尾に膝を入れて昏倒させた。
縛り上げて、家まで連れて行くの疲れるなぁ。