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私の声は誰にも聴こえないし届かない  作者: 轟 十六夜
漆黒の騎士団
20/20

霞の魔術師

榛名は家に歩いて帰っていた。 

 その途中何やら違和感を覚え、回りを見ると榛名が歩を進めるごとに霧が濃くなっていた。

 榛名は最初不思議に思ったが徐々にあることに気付き走って家に帰った。


家についたとき榛名は叫んだ。

「兄さん!」

「よう、帰ってきたか。久しぶりだなぁ。」

そこにいたのは細くしかし、それは不用な脂肪が無いガッチリとした体格で好奇心旺盛な目をした。青年、榛名の兄、千葉隼人だった。

 隼人はそこにいるのが当たり前のようにソファに座っていた。

「母さんと、父さんは?」

榛名は戸惑いながらも冷静さを保ち、聞いた。

 すると隼人は何ともないように言った。

「ああ、寝室で眠ってもらってるよ。明日の朝まで起きないだろう。」

「!そう。」

隼人は不適な笑みを見せながら言った。

「今回俺が来たのは別に特別な理由があるわけじゃない。ただ、妹の成長を間近で見てみたいと思ってな。」

訝しげな目で榛名は隼人のことを見た。

「そう、私もあなたに会いたかったわよ。ずっとね、兄さん。」

榛名が言うと隼人は快活に笑いながら言った。

「くっく。そりゃ嬉しいな。兄貴冥利に尽きるってもんだ。」

榛名は一息吐くと真面目な顔で問うた。

「それで、本当の用は何なの?」

隼人はニッと笑いながら言った。

「だから、言ったろう?お前の『成長』を見に来たと。」

隼人が言うと周りの景色が霞がかったようにぼやけた。

 すると、家のリビングからいつの間にか霧が立ち込める孤城の風景になった。

「幻、影?」

榛名がボソッと呟くと、隼人は首を横に振り、答えた。

「いいや、異世界さ。」

「?!」

さらっと言った隼人に榛名は目を白黒させた。だが、隼人は気にせず続けた。

「異世界、俺が作った異世界だ。」

隼人の言葉に榛名は驚きを隠せなかった。

 隼人は榛名のことが見えてないかのように続ける。

「俺はあの孤城の頂点でお前を待つ。もし、これなかったら、、、そこまでの奴だったてことだ。『成長』を見せてくれよ。」

そう隼人が言うと、隼人は霧となり姿を消した。

 その瞬間榛名は驚愕の渦から抜け出して隼人に反応した。

「あ、ちょっと!」

だが、隼人はなにも答えずにそのまま消えていった。

「あの人の言うとおりなら、ここを進めばいいはずだけど。」

榛名は呟くと孤城の中に入っていった。

 ギィと甲高い音を出した扉を開くと孤城の中は薄暗かった。

 隼人の居るところに行くには外から見ただけでも最低でも四つの階段を上らなければ行けないようだった。

 榛名が考えているとバサバサっと羽の音がした。榛名が回りを見渡すと暗くてよく見えなかったが、うっすらと一匹のコウモリが見えた。

「こう、もり?」

榛名が首を傾げるとコウモリはジッと榛名を見ると、踵を返し進んでいった。

 だが、榛名が立ち止まったままだったのを見るとまた、同じようにした。そこで榛名はコウモリの意図に気が付いた。

「ついてこいって言ってるのね。」

榛名がコウモリについてくると、コウモリはキュイッと満足そうに鳴いた。

 まず、階段を上り、コウモリはあるドアの前で止まった。榛名がそこの扉を開けようとすると、鍵かかっていて開けることができなかった。

「あら、開けれないわ。」

榛名が呟くとコウモリは思い出したように鳴いて、別の場所に進んでいった。ついたのは中庭だった。

 そこには広い池があり、池の影に何か大きいモノが蠢いていた。 

 榛名は戦闘態勢に入り、コウモリは安全な場所に行った。

 池から出てきたのは美しい水竜であった。

「こいつを倒せばいいのかしら。」

榛名が呟くと水竜に何か鍵らしき物が引っ掛かているのが見えた。それを見ると榛名は水竜に向かって電流を放った。

 しかし、水竜はびくともしなかった。

ーでしょうね。

心の中で漏らすと榛名は詠唱を始めた。

ー水は苦手なのだけど

ー水よ我が命に答え、舞えよ!

水柱

すると、水の柱がたち、水竜を囲んでいった。

 だが、水竜はそれをなんなくかわしていった。

ー雷よ、水よ、穿て

雷水弾

雷を纏った水が、水竜に向かって伸びていった。

 水竜は避けきれず攻撃を受けてしまった。すると水竜はこの世の物とは思えない鳴き声をあげて榛名に突進した。

 水竜は池の水を纏って、水がドリルのような形になった。

 だが、榛名はそれをかわそうとせず真正面から立ち向かった。

ー出でよ

雷神の槌(ミョルニル)

榛名はミョルニルを出して向かってくる水竜に向かって叩きつけた。すると、雷を纏った槌は水竜を丸焦げにした。

 それを見ていたコウモリは嬉しそうにキュイキュイと鳴いた。

「こんなものかしら。」

榛名は鍵を持ち、コウモリの方を見ると、コウモリはは来た道を戻っていった。

 元の扉の前に行き、鍵を開けると、扉はすんなりと開いた。

 扉が開くとそこには奥に続く階段があった。

 階段を登り、進んでいくとまた、扉にぶち当たった。しかし、この扉は先に扉とは違い、機械的な雰囲気を醸し出していた。

 ドアノブは無く、押しても引いてもびくともせず、横にも縦にも開かなかった。

 榛名が首を傾げているとコウモリがキュイキュイと鳴いた。その方向を見ると何か手を翳すことができそうなものを見つけた。

ーなるほど

榛名は心の中で呟くと装置の方に向かっていった。

 手を翳すと画面に『電力を注入してください』という文字が表れた。

 榛名はその指示通り電力を込めたが、装置はびくりともしなかった。少し強めてもびくともせず一旦休憩をするとトールが口を開いた

『どうやら全力の電力を込めなければ行けないようだな。』

「なるほど。」

榛名はトールの助言通りに全力の電力を込めた。すると、装置が耐えれずショートして扉もがしゃんと勢いよく開いた。

 コウモリは誉めるのように鳴いて、進んでいった。

 4階は大きな広間でたくさんの部屋があった。しかし、コウモリはただ、一点のみを目指して進んでいった。

 ついたのは一番奥の部屋であった。榛名はドアノブに手をかけるがびくともしなかった。

「また鍵か···。あなた何処か分かる?」

榛名はコウモリに聞くがコウモリは体を横に振って小さく鳴いた。

「そう。」

ーじゃあ、この中から探さなければならないのね

榛名は振り返り幾重もの扉を見ると、溜め息をついた。

「ひとつひとつ見てくしかないか。」

榛名はそう決心したが、いきなり胸が鳴り出した。

 何か知らせるように榛名の胸の鼓動が大きく響いた。榛名は首を傾げ、広間の中央に行くと大きく深呼吸をして探そうとした。

 すると、ある部屋から微量な電気を纏っているのを感じ取れた。

 その部屋を意識すると榛名の胸の鼓動がどっどっとはやくなっていった。

 榛名が決心して近づいてくと胸が締め付けるような痛みに見舞われた。

「っ!」

榛名は顔をしかめたが、大きく深呼吸をしてドアノブに手をかけた。すると、扉は抵抗もなく開いた。

 部屋にあったのは一つの鏡であった。化粧台のような鏡が薄暗い部屋の中にポツンとあった。

 そこから見えるのは自分の顔だが、その顔がまるで榛名自身を覗き込むようにジーと見ていた。榛名は背筋を振るわせ目をそらそうとしたが、榛名の中の何かが目をそらすなと言ってるかのように体が一ミリたちとも動かなかった。

 鏡の中の顔は依然として榛名を覗き込むようでその表情は少しも変わりはしなかった。

 黒い黒い瞳が榛名を覗き込むだけであった。

 その刹那、鏡の奥の榛名は一瞬笑みを浮かべ、鏡から出るかのように身を乗り出した。

 榛名はまだ、金縛りがとけはしなかった。

 鏡の奥の榛名は鏡から出て、金縛り状態の榛名と同じ態勢をとった。

 その姿は瓜二つの双子が正面から向かい合っているかのようであった。

 『榛名』がスッと攻撃態勢に入った瞬間榛名も同じように攻撃態勢に入ろうとした。

 しかし、それは榛名の意に反するものであった。

ー!?体が勝手に、、、

『榛名』が笑みを浮かべると榛名も笑みを浮かべ同時に詠唱を繰り出した。

ー神よ、鳴け

神鳴り

二つの力は相殺され、打ち消された。依然として榛名は自らの体を動かすことが出来なかった。

ー雷よ我に力を

雷神の情け(サンダーマーシー)

榛名と『榛名』のまわりで静電気がパチパチと起こった。

ー神よ、その怒りをあの者へ!

雷神の怒り(フュゥアリサンダー)

二つの力がぶつかりあい、部屋にあった窓が粉砕した。

 二人は自分の限界まで、力をぶつけ続けた。

 榛名は体の制御ができないまま自らの意に反して消耗した。

ー、どうしたら、、、

榛名がそう考えていると、キュイと鳴き声が聞こえ、コウモリが榛名に触れた。すると微量ながらも電気が送られ、榛名の金縛りが解けた。

 それを感じ取った瞬間の榛名の行動は素早かった。

ー雷鳴よ我の元に来て、その力を轟かせろ!

雷鳴の光(ライトニングサンダー)

『榛名』は全身に駆け巡るように電流が走った。『榛名』は我を忘れたかのように榛名に向かって走り出した。

ー甘いわね

榛名はそれを見越したかのように『榛名』をいなし、そして『榛名』の足元が光り出した。

雷鳴の罠(サンダートラップ)

『榛名』は光に飲み込まれるように消滅した。

 すると、何も写らない鏡から、鍵のような物が出てきた。

「この鍵かしら。」

榛名は呟くと鍵を手にして部屋を出ていった。

 奥の部屋に戻って鍵を開くとすんなりと扉は開いた。

 するとコウモリは嬉しそうに部屋に入っていった。

 榛名も部屋の中に入るとたくさんのコウモリがいた。榛名はあまりの光景に後ずさりをすると、大量のコウモリが徐々に人のかたちになっていった。

 完全に人の姿になったコウモリは肌は青白く赤い目をして、八重歯が光る吸血鬼であった。

「くっく、よく、ここまで来たな。お前の兄さんはこの上にいるよ。」

吸血鬼は笑いながら言うと、腰の剣に手をかけた。

「あなたを倒す、と言うことね。」

榛名が言うと、吸血鬼は頬をあげこぼした。

「物わかりのいい娘は好きだよ。」

その瞬間吸血鬼は剣を抜き、榛名に向かって奇襲を仕掛けた。

 しかし、榛名もいつのまにやら出していたミョルニルで対抗した。

「ふ、久方ぶりに楽しめそうだ。」

吸血鬼はそう含み笑いをした。

ー我が血を喰らえ黒血剣(ブラックブラッド)

血醒

吸血鬼の持っていた剣の柄から木のつるのようなものが吸血鬼の腕にまとわりつき、ギュッと締め上げ、血を吸った。

 すると吸血鬼の動きが速くなり剣を振り上げた。

「ブラント流剣術」

ー紅時雨

吸血鬼の剣撃が榛名を襲う。榛名もミョルニルで防いではいるが、吸血鬼の一撃は重く、すべて防ぎきることは出来なかった。

「くっ、」

榛名は歯を食い縛りなんとか耐えていた。だが、吸血鬼の攻撃は隙を見せてはくれなかった。

ー隙がないなら作ればいいだけ!

雷鳴の光(ライトニングサンダー)

榛名は無詠唱で魔法を放った。しかし、その威力は修行した甲斐もあって、吸血鬼が隙を見せるには十分な威力だった。

ー雷よ我に力を

雷鳴の情け(サンダーマーシー)

榛名の周辺がパチパチっとなりだし、強力な静電気を発した。

ー雷よ、我が槌に力を

粉砕

榛名は静電気を纏ったミョルニルで思いきり、吸血鬼を叩きつけた。

 吸血鬼は笑いながら歯を食い縛り、剣で耐えていた。

 吸血鬼は咄嗟に後ろに飛び、態勢を整えた。しかし、榛名の狙いはそこにあったのか笑みを浮かべて詠唱をした。

ー雷鳴よ我の力になり神を天地をゆるがすがよい!

神の雷(ゴッドサンダー)

一対の電流が吸血鬼目掛けて進んでいった。吸血鬼は避けきれず、上半身の半分を持ってかれてしまった。

 しかし、吸血鬼の体は再生をすることは無かった。

「再生したところから燃やしているのか。」

吸血鬼が言うと榛名は微笑み答えた。

「ええ、そうよ。まだ、痺れているんじゃないかしら。」

吸血鬼は弱った笑いをして、大きく息を吐き、構えた。その構えは次の一撃で終わらすと言わんばかりの気が込められていた。

「ブラント、流、剣術」

ー雷殺し

吸血鬼は雷をも打ち消すような勢いで榛名に飛びかかった。

ー粉砕

対する榛名も力を込めたミョルニルを吸血鬼に向かって降り下ろした。

 吸血鬼は榛名の一撃を片手で受け止めようとしていたが、力が発揮できず押し負けてしまった。

 そして、榛名のミョルニルが吸血鬼を潰した。

 すると、吸血鬼が霧のように消えて無くなってしまった。

「あのコウモリも同時に消えたみたいね。」

榛名は寂しそうに呟いた。

 榛名は階段を上がっていくと、最後に一つだけ扉が見えた。

 しかし、その扉が鍵口がなかった。

「どういうことかしら。」

榛名が声を漏らすと、トールが答えた。

『我が力を使え。』

榛名はトールの言うとおりに神々の力を使った。

 すると、扉は一人でに勝手に開いた。扉が開いた先にいたのは王様のような椅子に座っている隼人であった。

「まるで魔王ね。兄さん。」

榛名が言うと、隼人は腹を抱えながら笑った。

「くっくっく。それはいい得て妙だな。確かに奴の座を引きずり下ろすのも良いだろうな。」

ー奴?

榛名は隼人の言葉に首をかしげた。それを見た隼人は何でもないと言い続けた。

「俺はお前と手合わせに来たんだ。」

隼人が言うと、榛名は先の疑問など忘れ、すぐ臨戦態勢に入った。

「おっと、そう構えるな。ちょっとしたゲームだよ。ルールは10秒で相手を倒すというものだ。」

「10秒?なめてるのかしら。」

榛名がそう睨んで言うと、隼人は笑いながら答えた。

「だから言ったろう?ゲームだと。俺は別に10秒でお前を倒せると思っていないよ。逆に負けるかもと思ってる。その方が面白そうだからな。」

ーああ、そういえばこんな人だったか、、、

榛名は頭を抱え呆れた。

「では、このコインが床についたらゲーム開始だ。」

隼人はそう言うとコインを高くあげ、笑みを浮かべながら座っていた。

 榛名はコインが床についた瞬間に攻撃を繰り出すため、ミョルニルを出していた。

「ゲームスタートだ。」

隼人が不敵に笑って言い、チャリンとコインが床に落ちた瞬間、もとい落ちる寸前に榛名は飛び出していた。 

 しかし、隼人は笑ったまま椅子から離れなかった。

雷鳴の光(ライトニングサンダー)

榛名は飛びかかりながら魔法を繰り出したが、隼人は鳥のような羽で攻撃を防いだ。

 榛名はそれを見て、目を見張ったが、瞬きをするうちに隼人の目の前きてミョルニルを降り下ろしていた。

 しかし、隼人は霧のように消えて、榛名の攻撃をかわした。

 榛名は咄嗟に振りかえるが後ろには誰もいなかった。

「後ろだ。」

隼人の声に振り返ると、隼人が優雅に椅子に座っていた。

 榛名は舌打ちをしながら雷撃を放った。しかし、これもまた防がれてしまった。

「では、行くぞ。」

隼人は自らの姿を消した。榛名は辺りを見回すが隼人の姿は見えなかった。

 その時、隼人の姿を見ると、榛名は魔法を放ったが隼人は消滅するだけであった。

 10秒が迫るなか、榛名は焦っていた。

 すると、入口の所に隼人を見つけると榛名は電流のような速さで飛びかかった。

 しかし、榛名はその横から腹を思いきり蹴られた。横を見ると、笑顔で勝ち誇っている隼人の姿があった。

「どうやら俺の勝ちのようだな。」

隼人は笑顔でそう言った。

 

「それにしても成長したな榛名。まぁ、最後にあったのは8年も前だから当たり前だが。」

「兄さん、変身魔法も使えたのね。」

榛名が言うと隼人が言うと首を横にふった。

「いや、いつからか憑いてしまったんだ。隼がね。」

榛名はへぇーと漏らした。すると、隼人が思い出したように言った。

「言うのを忘れていた。俺はもう隼人じゃあない。隼さ。そう呼んでおくれ。」

隼人、隼が言うと、隼となり飛び立ち消えていった。

 すると、世界がぼやけて徐々に崩れていった。

 そこで榛名の意識が途切れた。

 

目を覚ますと榛名はベッドで寝ていた。榛名は飛び起き頭の中で整理しようとした。

 その時、ベッドの脇に隼の羽根らしきものを榛名は見つけた。

「してやられた。」

榛名は呟くと陸奥にメールを送った。


 

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