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 あれから気の向くままに八つ当たり、じゃない、木を蹴り倒してすっきりしたところで魔物の住む領域からは帰ってきた。

 ちょっと試したいことがあるので街には帰らずに河原に居ます。

 試したいことは他でもない。蹴り倒した木や、魔物が刺さった棘付鳥籠を回収した時に捕獲したスライムを殺れるかどうかの確認です!


「それじゃあ、やりますか」


 周りに人気が無いことを確認して一匹のスライムを異次元収納から出す。

 その後、脇差を一本取り出した。

 取り敢えず、最初は核を斬ってみることにする。全力で。


「ふむ。いけるな」


 筋力200オーバーの全力だからな。核を胴体諸共スパッと両断だよ。

 当然、スライムはあっさりと死亡する。

 続いて、もう一匹スライムを出して核以外を刻んでいく方法を取る。

 こちらでも問題無く殺すことが出来た。


 ふっ。最早スライムなど敵にあらずだな。


 殺すことが出来ずに数を増やすだけだったあの時の俺とは違うのだ。


「他のは後日でいいか」


 今の俺ならスライムも簡単に殺れる。どう処理するか悩む必要も無い。

 それなら捕獲している他のスライムは急いで処理しなくていいだろう。

 生かしておけばスライムに利用価値を見出した時に増やすことも出来るしね。


「さて、帰るか」


 やることもやったので、俺はスライムの死体を回収して街に向かった。




 街に帰ってきた俺は剣術道場に行って汗を流す。地道な努力は大事だからね。最近は型の稽古に試合形式の稽古もするようになった。一対多数のね。当然、俺が一。ステータス的に圧倒しているから余裕で勝つんだけど、技量が上の人から『師範』扱いされだしたのは正直困っている。俺のは圧倒的なステータスによるゴリ押しなんだもん。教えられることなんか何にも無いよ。

 剣術道場で汗を流した後、風呂屋に寄ってさっぱりしてから宿に戻った。

 そして、夕食を食べた後、酒とつまみを持って部屋へと戻る。

 これから酒を飲みつつ生産タイムです。

 あ、その前にカーボンナノチューブ製装備の点検をしないと。発癌性物質だけに損傷や劣化が怖いんだよ。癌にはなりたくないもんね。

 そう言う訳で、僅かな傷も見逃さないように『鑑定』使って念入りに調べていった。


 ・・・うん。問題無いな。


 じゃあ、改めて生産タイムだ。

 先ずは注文を受けた歯ブラシや骨の容器を材料の許す限り作っていく。

 歯ブラシはノーマルの物とワンランク上の物を。ワンランク上の物は着色もすることにした。色は赤、ピンク、オレンジ、黄、黄緑、緑、青、水色、紫、黒の十色。ここまで用意する必要は無いだろうが、これだけ揃っている方が陳列した時の見た目のインパクトがいいと思って。

 骨の容器もノーマルの物と十色に着色した物を用意する。

 染料の手持ちが少ないから着色した物は多くはないけど。各色三百ずつくらい。

 色を付けなかった物は万を超えているけど。

 これらを少しずつ渡すんだけど、渡す時どうしようか。

 歯ブラシは前に行商人の人に渡した時のように五十本ずつ茶筒型の容器を作って入れるとして、骨の容器の方が問題だ。薬屋に納品する分は少量なのと、先方が木箱を用意してくれているから商品のみを渡していたんだよな。

 でも、ブリトビッツ商会に納品する数は桁違いだから・・・。

 うーん、クルトと相談してから決めるか。一人で考えてもいい案浮かびそうにないし。


 次に、今日大量に木を蹴り倒したから鉛筆とノートも量産する。それと、トイレットペーパーも。

 あ、トイレットペーパーを売るならペーパーホルダーも要るな。骨の容器を幾つかペーパーホルダーに作り変えよう。

 これらの扱いも要相談。

 特にトイレットペーパーはかさばるから輸送面がネックになると思う。だから、商品としての価値が分かり難いんだよね。

 今日作る商品はこれだけかな。


 後はカーボンナノチューブを出来るだけ作る。

 疲れたら酒を飲んで一休み。

 で、また作るの繰り返し。

 今、何かを作りながらMPを一番消費出来るのがこれだからね。今日も頑張ってMPを使い切るまで作るのですよ!

 MP58億もあるから限界まで消費する必要も無いんじゃないかと思うこともあるけど、何処まで増えるのか確かめたいとの思いがそうさせてる。

 ただ、部屋だと狭いから同時に展開出来る生産ブロックの数が少ないから効率が悪くて。

 屋外だと際限なく展開出来るけど人目に付くしな。

 そろそろ生産拠点となる建物の購入を検討するべきか。

 今は資金が無いから無理だけど。

 そんなことを考えつつ延々と生産を続け、MPを大体使い切ったところで眠りに就いた。




 朝起きた俺は朝食を取るとすぐに宿を出る。

 いつものように得意先を回ってからブリトビッツ商会に向かった。


「おはようございます」

「おはようございます。頼んだ商品をもう届けに来てくれたんですか?」

「はい。それと別件の相談もですね」


 俺はクルトの前に作ってきた商品を取り出しながら話をしていく。

 歯ブラシと骨の容器の着色した物は全て今日納品。色の付けていない物は千ずつ納品となった。他は後日。

 いきなり万を超える数は受け入れられないよね。

 骨の容器は用意してくれた麻袋に入れることになった。


 鉛筆とノートも即座に取引決定。

 鉛筆は五百本、ノートは三百冊を渡した。

 あ、鉛筆削りも作った方がいいよな。ここはクルトの執務室で俺以外にはクルトしか居ないから今作ってもいいか。

 納品しなかった骨の容器を変形させて本体を作り、鋼で作った刃を取り付ければ完成。

 取り敢えず、五十個作って渡しておいた。


 トイレットペーパーも問題無く商品になるそうだ。

 今出回っているお尻を拭く物に比べれば遥かに質が良いから。

 かさばるから輸送面が心配だったけど、積荷の編成を考えればいいだけだと言われた。重くてかさばらない商品もあるからと。余程の遠距離でない限り十分売り物になるとのこと。

 ペーパーホルダーも渡して、今日用意していた商品は全て取引のラインナップに加わった。


「それではよろしくお願いいたします」

「はい。承りました」


 商品を渡し終えた俺は、新たに注文を出す。

 注文したのは米に調味料や香辛料、魚貝類をはじめとしたこの街で入手するのが難しい食材だ。

 米は取り扱っているそうだけど、味噌や醤油は取り扱ったことが無くどんな物か分からないとのことなので、珍しい調味料があれば仕入れてほしいとお願いしておいた。

 香辛料もこの街にあるものだけだとカレーとか麻婆豆腐とか作れないから。

 一度食べたいと思うとどうしても求めてしまうんだよ。

 この街の食事も美味しくて不満は無いけどさ。

 食材は単純に料理の幅が広がるからだな。

 俺は味噌や醤油が手に入ることを願いながらブリトビッツ商会を後にした。




 今日の昼は丼物にしようと思っている。昨日、海鮮料理を食べた時に海鮮丼が食べたいと思って以来、どうしても丼物が食べたくて仕方がないのだ。

 ただ、今のところ米は無い。

 だが、小麦粉はある。

 そこで俺は思った。

 だったら、某無人島生活で定番の『ちねり米』を作れば丼物が出来るのではないかと!

 そう言うことなので昼は自炊です。

 俺は宿の部屋に戻ると、窓が閉まったままの薄暗い中、昼食を作り始めた。

 生産ブロックを展開し、異次元収納から小麦粉と水を送り込む。小麦粉を水を加えて練り上げ、それを米の形に成形していく。形が出来たところで熱を加えればほかほかの『ちねり米』の完成である。所要時間三十秒。本家と違い、手間も時間も掛かりません。

 後は上に乗せる物だけど、今日は大猪の肉を使ったカツ丼にするつもりだ。

 色々改良を続けているソースを使ったソースカツ丼に。

 普通のカツ丼は醤油とか無いから思う味になりそうにないからね。

 何はともあれカツの調理に取り掛かる。

 先ずは部屋の隅に置いておいた石の容器から肉を取り出す。肉を柔らかくするためにすりおろした玉葱と一緒に入れておいたやつを。

 小物生産ではこの手の作業が出来ないからね。酵素の力でタンパク質を分解して肉を柔らかくとか、発酵とか、熟成とかは無理。切り込みを入れて食感を柔らかくするとか、味を行き渡らせて染み込んだ状態にするのなら出来るんだけど。

 まあ、出来ないのはこの作業だけ。残りは小物生産でぱぱっと仕上げましょうか。

 肉を生産ブロックに放り込み、小麦粉、溶き卵、パン粉の順番でまとわせ衣を作る。

 そして、少量の油をまとわせ加熱していく。衣の部分はカリッとさせたいので高温で。肉はジューシーに仕上げるために低温で。

 火が通れば切って、刻んだ野菜を乗せたちねり米の上にドーン。

 その上からソースをたっぷりとかければソースカツ丼の出来上がり。


「うん。見た目は見事な丼物じゃないか。では、早速」


 俺は箸を取り出しソースたっぷりのカツを口へと運ぶ。

 その味は勿論美味い。絶妙な火加減のカツに改良を重ねてきたソースの組み合わせなのだから。

 問題はこの先。ちねり米との相性なのだ。

 俺はカツを口に含んだまま、ちねり米をかき込んだ。


「!!!」


 いける!!!これはいけるぞ!!!ちゃんと米の代わりになってる!!!


 確かに味は小麦ではある。

 だが、その食感、口の中で具材やソースと混ざり合う様、かき込んでいく感じは正に俺の求めていた丼物だ。


 ちねり米恐るべし!!!


 何でもっと早く気付かなかったかな。俺にとってちねり作業なんて一瞬なのに。

 これからは昼飯はちねり米の丼物に決定だな。

 米が手に入るまでの間はだけど。




 昼食を食べ終えた俺は戦闘準備をして魔物の住む領域へとやってきた。

 廃棄物処理の仕事をするまでだから長居はしないけどね。

 魔物を狩るのも、木を蹴り倒すのも移動しながら出来るから、短時間でもそこそこの収穫になるので問題無い。

 さっと行って、さっと帰ってきた。

 成果は魔物が大小合わせて六十体くらい。何かみんなと狩りに行っていた時よりも襲って来る魔物の数が増えているような気がするんだけど・・・。

 うーん、まあいいか。今なら簡単に撃退出来るし。

 あ、それと、木は七本蹴り倒したよ。


「こんにちは」

「おう。来たか。よろしく頼む」

「はい」


 解体所に着き挨拶するとすぐにお仕事開始。

 十樽程廃棄物が溜まっていたのでさくっと回収。二分と掛からなかった。


「じゃあ、また来ます」

「ああ」


 取り敢えずの仕事を終えたので一言告げてから解体所を後にする。

 さて、これからどうしようか?次は終業時間頃に来ればいいから時間はそれなりにあるけど。

 狩りに行くのはそろそろ日が落ちるので止めた方がいいし、剣術道場で汗を流すには時間が早いかな。


「あ、職人ギルドにでも行くか。ガラスの商売が本格化するし、ハインツに報告しておくかな。ついでに、ハインツの予定を聞いて酒を奢る日取りも決めておこう」


 俺はそう決めて、体の臭いを確認する。


「うん。問題無いな」


 解体所での作業が短時間であったため、体に解体所の臭いは移っていなかった。

 前に一度叩き出されたこともあるから確認しておかないとね。

 念のために他の物の臭いも嗅いで嗅覚が正常なことも確認しておいた。

 それから俺は職人ギルドに向かうのだった。


「こんにちは」

「こんにちは、タサカさん。ガラスの商売はどうですか?」


 職人ギルドに入って挨拶をする俺に、ハインツが挨拶を返してくる。

 どうやらハインツ以外は出払っているようだ。


「お陰様で大口の取引になりました」

「そうですか。それはよかった」

「その件でハインツさんにお礼がしたくて。今度酒でも奢らせてください」

「お礼など不要ですけど、断るのも野暮ってものですね。お言葉に甘えさせてもらいます」


 ハインツも承諾してくれたので日取りも決めておく。

 今度の休みの前夜に食事がてら飲むことになった。


「あの、タサカさんに一つ頼みがあるのですが」

「頼みですか?一体どんな」

「眼鏡を作ってもらいたいのです。職人たちの」


 眼鏡か。それは商品として考えていなかったな。


「眼鏡ですか。それは構いませんけど、暫くは無理ですよ。ガラスの原料は全て使って、商品も既に納品してしまっているので」

「原料が手に入ってからで構いませんよ。お願い出来ますか?」

「はい。あの、眼鏡が必要な人って結構いるのですか?」

「ええ。この街に眼鏡屋はありませんので。僅かに入ってくる輸入品だけでは需要は全く満たされませんし、眼鏡屋のある街まで行くにも時間とお金が掛かり危険も伴います。物凄く不自由している人以外は気長に待つしかないんですよ」

「そうですか」


 クロークルから眼鏡屋のある街まで行って、帰ってくるなら一ヶ月は見込まないとダメだからな。

 その旅費、眼鏡の代金、仕事によってはその間収入が無くなることも考えると、おいそれと買いには行けないか。

 僅かに入ってきているようだけど、需要を満たせる程じゃない。

 十分商売として考えていい案件だ。

 ただ、眼鏡って視力検査して視力に合わせて調整しないとダメだから、手間が掛かってしまうのがね。俺一人で対応しようとすると他のことが出来なくなってきそう。

 まあ、困っている人がいることだし、商売として進めるつもりではいる。

 その為にも、そろそろ本格的に従業員を募集し始めるかな。あと、店舗の確保。

 明日にでも商人ギルドで相談してみるか。

 俺は暫くハインツと相談やら雑談をして職人ギルドを後にした。


 職人ギルドを出た俺は剣術道場に向かう。

 一時間程汗を流せば解体所に向かうのにちょうどいい時間になるから。

 そうして剣術道場で一時間程汗を流して解体所に向かった。


「こんばんは」

「おう。ちょうど終わったところだ。片付けてくれ」

「はい」


 俺はちょうど作業が終わったところにタイミングよく着いたようだ。

 早速、溜まっている廃棄物十二樽分を手早く片付ける。三分も掛からない。

 道具類の後片付けや、建物に洗浄の魔法を掛けて回るのを手分けしてやっている職員の人たちより早く終わってた。


「本当、見事なもんだよ。作業は早いし、樽も綺麗になるし、これからも続けてもらいたいんだがな」

「倒れていた人が復帰するまでとの契約でしたので。それに、これからは私も商売の方が忙しくなりそうですし」

「そうか。仕方ねえな」


 俺が廃棄物処理の仕事を請け負うのもあと数回。

 近々、倒れていた廃棄物処理業者の人が復帰するのだ。

 俺としても元々担当していた人が復帰してくれるのは望ましい展開である。

 ガラスの商売が本格化して他の街へ行くことになれば、結局誰かに穴埋めしてもらわないとダメなのだから。


「それじゃあ、失礼します」

「おう。お疲れさん」


 解体所での仕事を終え、冒険者ギルドで報酬を貰ってから風呂屋に直行。

 風呂に入った後は、宿に戻って食事して、生産タイムで、就寝と。

 あー、最近はマジでMP使い切るのがしんどいよ。




 朝起きて朝食を取った俺は、いつものように得意先回り。

 その後はのんびりと露店などを巡っていく。

 今日は商人ギルドに行くつもりだけど、この時間帯は混雑しているので昼過ぎに行く予定なのだ。だから、それまでの時間潰し。

 昼食を自炊するようになったのでその材料探しも兼ねてね。

 昼食は塩ダレで味付けした角兎を焼いてちねり米の上に乗せた角兎丼。それと、露店で買った野菜のサラダに果物と言うメニュー。勿論、美味しかったよ。

 昼食を食べた後、食休みがてら一時間程生産タイム。それから商人ギルドに向かった。

 やはりこの時間帯になるとそれ程混雑していない。すぐに受付に空きが出来た。


「本日はどのような御用件でしょうか?」

「人を募集したくて。それと、店舗を構えようと思うので物件を探しています」


 商人ギルドにはハローワークのような業務もある。人を募集するなら先ず相談する相手だ。

 それと、店舗として利用される建物を扱う不動産屋の面も持っていた。


「人の募集と店舗についてですね。先ず人の募集についてですけど、どのような業種の募集ですか?」

「商品販売の接客と事務仕事がメインです」

「商品販売の接客と事務ですね。募集する人数は何人ですか?」

「うーん、三人でお願いします」


 当面は眼鏡の販売だけに従事してもらうから三人くらいで大丈夫だと思う。

 人手が足りないようなら後で追加募集をかけるだけだ。


「三人ですね。給金は幾らで募集しますか?」

「そうですね、月金貨十八枚からで」


 商会が出す求人の平均的な月収は金貨十六枚ちょっと。それより少し高目なら問題無いだろう。対価として少ないようなら後で増やせばいい。


「月金貨十八枚からですね。では、こちらに商人ギルドの身分証をかざしてください」

「はい」


 俺は言われた通り水晶玉に右手の青い石の付いた指輪をかざす。すると、青い石が発光し、暫くするとおさまった。


「はい。これで募集の手続きが終了しました。応募があり次第連絡いたします。連絡はどちらにすればよろしいですか?」

「『走る陸亀亭』に宿泊しているのでそちらにお願いします」

「『走る陸亀亭』に連絡ですね。承りました。では、次に店舗についてですけど、どのような条件のものをお探しでしょうか?」

「取り敢えず、東区にあるものがいいですね」


 ハインツとの約束もあるし、眼鏡の販売は先ず職人たちからと思っている。

 それなら、職人たちが集まる東区に店舗を構えた方が都合がいい。


「東区にある物件ですね。該当するものは幾つかございます。それ以外に条件はありますか?」

「今のところは特に。実際に物件を見て判断ってところですね」


 大まかな場所以外の条件は特に決めていない。

 下手に条件を設けると優良な物件を知らずに終わることもあるだろうから。


「分かりました。それでは担当の者に案内をさせますので暫くお待ちください」

「はい」


 それから俺は案内の人と七件の物件を見て回った。

 東区のメインは中央広場から東門へと抜ける東門通りだ。ここにある二件の物件は、交通の便や建物の大きさなどはいいのだが、周囲の音がかなり五月蠅い。鍛冶やら木工やらの作業音に、頻繁に通る商品運搬の馬車の走行音などが結構な音量なのである。と言う訳でこの二件は不採用。

 路地沿いにある三件の物件も不採用。交通の便が悪くて場所が分かり難い上に、建物の大きさが小さ過ぎるのが問題だった。

 残りの二件はどちらも北東通りに面した物件だった。北東通りは中央広場から北東に延びる通りで、東西南北の城門に延びる主要四通りに次ぐ広さの通りである。この通りは職人たちの住む東区と、貴族など富裕層の邸宅が集まる北区の境にもなっていた。その為、この通りの東区側にあるのは仕立て屋などが多くなっており、通称として『仕立て屋通り』と呼ばれることもあった。この通りは、人通りはあるけど騒がしいと感じることは無く、上品な感じが漂っている。

 ここにある二件の物件は、交通の便がよく、建物が立派で大きなものだった。その分、お値段お高目。場所は、一つが城壁のすぐ側のもの、一つが中央広場に近いものだった。値段は中央広場に近い方がうんと高い。

 でも、選んだのは中央広場に近い方。流石に城壁のすぐ側と言うのは場所が片寄り過ぎているからね。

 店舗とする物件を決めた後は商人ギルドに戻って契約。

 これで今日から俺も店舗持ちの商人になる訳ですよ。

 でも、現状、買い取るのは予算的に厳しいので賃貸契約だけどね。税金やら各種の支払いでお金が要るから。


 契約が終わって商人ギルドを出ると日も暮れてきている。

 物件巡りで時間が掛かったからな。

 この後はすぐに寝具を取り扱っている店に向かおうと思う。契約した店舗で寝泊まりするためのベッドと布団などを買わないといけないのだ。

 と言う訳で北西通りにダッシュ。富裕層向けの寝具を取り扱っている店がそっちにある。ベッドの現物が置いてあるのはそこくらいだ。ベッドなどの大型家具は注文生産の方が主流だからね。

 人波を躱しつつ目的の店に到着。ベッドはちゃんと買えました。キングサイズのやつ。それ以外のサイズは無かったからね。あったのはキングサイズの天蓋付ベッドと、天蓋無しのベッドの二種類だけ。買ったのは当然天蓋無しの方。天蓋って何の意味があるんだ?邪魔なだけだろ。

 一緒に買った布団や枕は流石は富裕層向けと言ったところだ。宿のものと段違いの肌触りとふかふか具合だよ。

 買った物を異次元収納に仕舞って店を後にし、剣術道場へ。小一時間汗を流したら風呂屋に行って宿に戻る。

 店舗で寝るのは明日からだよ。今日は宿で過ごして、明日の朝清算してチェックアウトの予定。

 食事の時に女将さんにもそう伝えておいた。

 食事の後は生産タイムで就寝と。




「ん、んー」


 朝起きて伸びをした後、手早く着替えを済ませる。

 それからいつものように布団や枕を異次元収納に放り込んで汗などの汚れやダニなどをしっかりと分別。今までお世話になったので念入りにしておいた。

 その後、異次元収納から取り出してシーツを剥がしてベッドの上に。

 シーツを丸めて手に持ったら部屋のチェック。

 朝食を取った後、そのままチェックアウトするから忘れ物が無いようにしっかりと確認しておかないとね。


「うん。忘れ物は無いな」


 忘れ物が無いことを確認した俺はシーツを持って部屋を後にした。


「おはようございます」

「おはよう。よく眠れたかい」

「ええ。お陰様で」

「そう言えばさっき商人ギルドから募集に応募があったから来てくれって連絡があったよ」

「そうですか。早いな。ありがとうございます。後で寄ってみます」


 募集を出したの昨日だぞ。こんなに早く応募があるなんて思ってもみなかった。ありがたいことなんだけど。

 連絡貰った以上チェックアウトしたらすぐに行ってみるかな。どうせ連絡先を変更してもらうために商人ギルドには行くつもりだったし。

 まあ、何はともあれ、先ずは飯だろう。

 最後の朝食も勿論美味しかったよ。


「今までお世話になりました」

「こちらこそ世話になったよ。これからもちょくちょく顔は出すんだろ?」

「はい。定期的に商品の補充に伺うと思いますよ」


 歯ブラシの委託販売は切らずに続けるので商品の補充に定期的に回る予定ではいる。


「そうかい。それならこれからもよろしくね」

「はい。こちらこそよろしくお願いいたします」


 チェックアウトした俺はすぐに商人ギルドに向かった。

 やはり朝方は人でごった返し混み合っている。暫く待たされるのは確実。受付に並んでいる人の列はどれも長い。

 受付には昨日担当してもらった人が居たのでそこに並ぶことにした。その方が話が早いからね。


「昨日出した募集に応募があったとのことですが」

「はい。三人の方が応募しています。面接される場所や日時はどうされますか?応募された方は今のところこれと言った予定は無いらしく、昼間であればいつでもいいそうですが」

「面接の場所と日時か。どうしようかな」


 場所は契約した店舗があるけど、あそこには今何も無いからな。殺風景なのは仕方ないとして、最低でも面接までに机と椅子は用意しないとダメだな。

 面接はそれらを確実に揃えてからになるか。


「面接の場所にお困りでしたら当ギルドの一室を利用されてはどうですか?利用料金は必要無いのでそうされる方は結構いますよ」


 ギルドの一室を借りて面接するのか。確かにそれなら面倒は無いな。場所が分からないなんてことも無いだろうし。


「そうですね。じゃあ、お願いします。時間は一応、明日の正午過ぎで。都合が悪いようなら翌日、翌々日と順延してもらいたいのですが可能でしょうか?」

「はい。ギルドの方は大丈夫です。応募された方にもそう伝えておきますね」

「お願いします」


 そうして商人ギルドを後にした俺は、ブリトビッツ商会に行って宿を引き払った件と契約した店舗の場所を告げ、得意先回りをして、狩りに出掛けた。

 昼食は森の中で作った大角鹿のステーキ丼。外で食べる丼物も乙なものだね。

 狩りから戻ると、剣術道場で汗を流して、風呂屋でさっぱりして、宿に行きかけつつ店舗兼自宅に戻った。

 夕食は塩ラーメンと焼き餃子。餃子は酢だけで食べたけど、やっぱり醤油欲しい。ラーメンも塩より味噌がよかった。


 はあー、ダメだな。段々と欲求が増してくる。今までは我慢出来ていたのに。まあ、こればかりは折り合いを付けていくしかないか。


 生産タイムは宿の部屋と違って広々としているから効率がよかった。十倍近い数の生産ブロックを展開出来たんだから。店舗用の広い部屋で本当に何にも無いからね。

 それでもMPを使い切るのがしんどいことには変わりないけどさ。


 そんな広い部屋にキングサイズのベッドを異次元収納から取り出して寝ようとすると寂しさすら覚えた。

 ああ、早くイチャイチャ出来る恋人が欲しい。一つ屋根の下で過ごす恋人が。あ、この世界だとそれは完全に結婚相手か。

 日本に居た頃は結婚と聞くと躊躇うこともあったけど、今はいい人であれば躊躇わない。何故なら稼ぎが桁違いだからな!生活費の心配も養育費の心配も無いくらい稼ぐ自信がある!勿論、飲み代も遊興費も削ること無くだ!!!日本に居た時のようにゆとりの無い稼ぎとは違うのだよ!!!

 あとはいい人さえ居ればいいのに・・・。

 はあ、何処かで婚活パーティーとかやってないかな?

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