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「・・・ん」


 目を開けると真っ白な空間が広がっている。


「?」


 俺、田坂悠馬(二十五歳)は、出張のために乗り込んだ夜行高速バスの室内とは異なる、見覚えのない空間に戸惑った。夢かと思ったが、夢にしてはリアル過ぎる感覚がある。周りを見回してみると、俺と同じ夜行高速バスに乗り込んだ者たちが同じように周りを見回していた。


「申し訳ございませんでした」


 突然聞こえた謝罪の言葉。その声の主に全員が顔を向ける。

 土下座していたのは三十歳前くらいのバスの運転手だった。


「あの、何で土下座してるんですか?」

「それはですね、事故ってみなさん死んじゃったからですよ」

「え、死んだ?」

「そうです。橋から転落して死んじゃいました」


 スーツ姿の美女の質問に運転手が気軽に答えた。


「本当に?私起きてたけどそんな記憶ないよ?」

「私も」


 運転手の言葉に女子高生らしき二人がそう口にする。

 確かに、橋から転落するような事故なら何かしら覚えているはずだ。


「ああ、それはオレの能力のせいかな」

「能力?」

「うん。オレこう見えても神様だから。それで事故の時の記憶を消したんじゃないかな?」

「かな?」

「ああ、ぶっちゃけ、事故の時うとうとしてたんであまり覚えてないんだよね」

「「「「「「「「・・・・・・」」」」」」」」


 段々チャラくなる自称『神』の運転手に頭を抱えたくなったのは俺だけではあるまい。


「神野君、今の話はどういうことだい?」


 チャラ神に同じ格好の四十歳前後の男性が詰め寄った。おそらく休憩を取っていた交代要員の運転手だと思う。


「あ、今江さん。それは、その…」

「私も起きていたんだけどね、出発してからこの真っ白な空間に変わるまで一時間も経っていないはずなんだよ。ということは、出発の時に君は眠気を感じていたってことだよね?それを伝えずに先に運転すると言ったってことかな?」

「えっと、その、そうですね」

「何故言わなかった?」

「先に仮眠を取ることになると、見たかった夜景を通り過ぎちゃうんですよね」

「他人の命を預かる仕事をなんだと思ってるんだ!」

「す、すみません」

「みなさん本当に申し訳ありませんでした。私のチェックが甘かったばかりにこのようなことになってしまって」


 今江と呼ばれた運転手がチャラ神の頭を下げさせながら、隣で土下座した。帽子を取った頭は見た目年齢以上に進行した薄毛。一瞬吹き出しそうになった。


「今江さんのせいじゃないですよ。オレ神なんで人間の目を欺くくらい楽勝ですから」

「きちんと謝れ!」


 ドヤ顔で自分の能力を誇るチャラ神の頭を今江さんが床に叩きつけた。


「なあ、本当に死んだのか?」


 まだ死んだという実感が持てない俺はチャラ神にそう尋ねてみる。


「はい。死にましたよ。何なら見てみますか?ご自分の死体」

「いや、いい」


 チャラ神の提案はきっぱり断った。自分の死体など見たくもない。


「みなさんも見てみたかったら言ってください。死んだ時の記憶も戻せますから」


 チャラ神のその提案に乗る者はいなかった。

 真っ白な空間が沈黙で満たされる。


「ねえ、ぼくたちこれからどうなるの?」


 沈黙を破ったのは小学生の男の子だった。


「あ、それは僕も知りたいです。わざわざこんな空間に集めたのは謝るためだけじゃないですよね?」


 イケメンの男子高生らしき人物がそれに続く。


「うん。それなんだけどね、オレのせいでみんな死んじゃったから、他の世界に転生してもらうのはどうかなって思って。生き返らせるのは無理だから」

「他の世界に転生?」

「そう。オレが神様として司ってる世界にね」

「そこってどんな所なんですか?」

「分かりやすく言うと、剣と魔法のファンタジーって感じかな。文明レベルとしては中世くらいをイメージすればいいよ」


 転生先は定番のものだった。


「ファンタジーってことは魔物が居たりするの?」

「何処にでも居るよ」

「じゃあ、それを倒せばお金になったりは?」

「なるね。冒険者と呼ばれる者たちはそれで生活してるし」


 冒険者。いい響きだ。やはり異世界転生するなら冒険者だよな。


「魔法を使えるようになったりする?」

「多分ね」

「『多分』って、異世界転生したらチート化して魔法が使えたりするものじゃないの?」

「チート化するのは間違いないけど、どんな能力を持つかはランダムだからね」


 チート確約はありがたいが、ランダムなのか。魔法は絶対に使えるようになりたいのに。


「魔王みたいな存在は?」

「魔族の王様は居るけど、君たちが想像するような『魔王』は居ない。まあ、そう呼んでもおかしくない力を持った魔物は居るけど」

「そう。じゃあ、勇者になって魔王を倒せとかってことではないのね」

「そうだよ。特に義務はないから好きに生きればいい」


 好きに生きられるのはいいな。それなら思う存分楽しめそうだ。


「もう一ついいか?転生ってこのままの体なのか、それとも赤ん坊の状態で生まれ変わるのか、どっちなんだ?」

「基本的にそのままだよ。まあ、髪の色とか、多少の変化はあるかもしれないけど」

「そういうことなら俺はその話に乗る」


 マッチョな男性はいち早く転生の話に乗っていた。


「そう。他のみんなはどうする?転生するか、あの世逝きか、どっちにする?」

「ぼくは転生する!それでいっぱい魔物を倒す!」

「智弘が転生するならあたしも転生するよ。智弘はおばあちゃんが守ってあげるからね」

「違うよ。ぼくがおばあちゃんを守るんだよ」

「智弘」


 小学生の男の子と、目を潤ませている祖母、見た目は五十歳半ばのおばさんも転生することを決めた。


「俺も転生するよ」


 俺も勿論、転生派だ。チート確約の異世界と、どんな場所か分からないあの世なんて比べるまでもない。


「私もそうするわ。まだあの世になんて逝きたくないもの」


 スーツ美女も転生する。これはお近付きにチャンスかも。


「僕も転生します」


 イケメン男子高生もか。


「私も転生ですね。みなさんが無事に転生されるか見届けたいので」


 今江さんも転生する。チャラ神とのやり取りを見ていて思ったが、とても責任感の強い人のようだ。困ったことが起きたら頼りにするといいかもしれない。


「あの、転生するのはいいんだけど・・・」

「その前に、物の処分って出来ないかな?」

「無理」

「え、神様ならそれくらいしてくれてもいいじゃない!」

「そうよ!あなたの所為で死んだんだから!」

「いや、だから無理なんだって。オレの寄り代がダメになったから、もう君たちの世界に係われないんだよね」

「てめえ死ね!」

「死んで償え!」


 女子高生たちはそう言いながらチャラ神をサンドバッグにしていた。どんな物を処分したかったのか分からないが、今の姿にはガチで引く。せっかく可愛い顔をしているのに台無しだ。


「痛、痛いから止めて」

「やめるかボケ!」

「マジで死ね!」

「止めてって、あ、でも、なんかこれもいいかも」

「きもい。マジきもい」

「ありえないんですけど」


 チャラ神の変態発言に女子高生たちは殴る蹴るを止め、飛び退いて距離を取った。そして、冷ややかな目でチャラ神を見下している。


「あ、その視線もいいね。グッとくるよ」

「「「「「「「「「・・・・・・」」」」」」」」」


 最早真っ白な空間には冷ややかな、猜疑に満ちた視線しかなかった。


「あー、女の子以外はそんな目で見ないでくれる。・・・みんな、転生ということでいいね?」


 チャラ神の問いに反応する者は誰も居ない。


「じゃあ、行くよ。はあー、もうちょっとエロ動画見て夜更かししたかったな」

「「「「「「「「「おい!」」」」」」」」」


 チャラ神が事故を起こした睡魔の原因が判明し、全員が突っ込んだところで世界は暗転した。







 真っ暗だった視界に光が差してくる。闇が全て晴れた時、俺たちは空の上に居た。


「おお」


 全周囲遮るものがない。足元すら遮るものがない状況は、飛行機の窓や映像などで空中からの景色を見慣れていても感動を覚えた。


「ねえ、髪の色とか、服、変わってるよ」

「あ、本当だ。変わってる」


 女子高生たちの言葉に周りを見回してみると、確かに髪の色や服装が変わっていた。服装は全て現代のものから、中世ヨーロッパ風の旅装へと。髪の色は見事なまでにバラバラだった。女子高生たちは髪の色が緑と水色に。スーツ美女は黒髪のままだが、艶が増したような気がする。おばさんは紫で、小学生は白銀。マッチョはこげ茶色。今江さんは頭に真っ赤なバーコードが乗っていた。


 帽子くらい用意しろよ!


 見た時にリアクションを取らなかった自分を褒めてやりたい。


 残ったイケメンについては嫉妬しかないな。キラキラと輝くような金髪は、ハーフっぽい顔と相まってイケメン度が増したようだ。なんか神々しさすら感じる。


 見た目が既にチートだろ。


 まあ、それについては元の世界からなんだが、愚痴りたくはなる。


「ようこそオレの世界へ」


 そう言いながら現れたチャラ神は気品溢れるローブのようなものを纏っていたのだが、神々しさではイケメン男子高生に負けている気がする。


 やっぱチャラいからか?


 チャラ神からは威厳が全く感じられなかった。


「まあ、取り敢えずステータスの確認でもしてみてよ。一般人よりかなり能力が高いはずだから。ちなみに、一般人の平均はMPが50で、他が10くらいかな。それで、特殊なスキルは持ってない」

「どうやって見るんですか?」

「ステータスを見たいと思えば頭の中に浮かぶから」


 俺は言われた通りにやってみた。



田坂悠馬 25歳 男

種族 :人間

MP :2680/2680

筋力 :14

生命力:15

器用さ:29

素早さ:13

知力 :57

精神力:50

持久力:17

スキル:言語自動変換

    パラメーター上昇ボーナス

    小物生産

    異次元収納

    鑑定



 確かにチートだな。


 確認した能力値は確かにチートと呼べるものがあった。特にMP。明らかに桁が違う。知力と精神力も高く、魔法を使う素養は高い。


 スキルの内容が知りたい。


 俺がそう思うとすぐにスキルの詳細が表示された。


『言語自動変換』

 全ての言語が対象者に理解出来るように、会話、読解、筆記において自動的に変換される。


『パラメーター上昇ボーナス』

 能力値が上がりやすくなる。


『小物生産』

 一辺30センチの立方体の生産ブロックを形成し、その中で加工、生産出来る。MP消費。


『異次元収納』

 異次元に作り出した空間にものを出し入れすることが出来る。MP消費。


『鑑定』

 人や物などの詳細を知ることが出来る。



 戦えねえ。


 字面からなんとなく分かっていたけど、戦闘に使えるスキルが全くない。俺は冒険者になれそうもない能力にがっくりと肩を落とした。


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