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異世界における革命軍の創り方  作者: 吉本ヒロ
3章 12歳、学園編
99/112

ガールズトーク

本日二話目&一週間後に3話分投稿予定です。

それと今まで感想は返信するようにしていましたが、(すごく、とても、非常にお待たせすることはありましたが)今後返信はしない事も多くなりそうです。

本当に申し訳ない。

目を通しはするのでご容赦くださいますようm(_ _)m






「そろそろイザークが帰ってくるのじゃが、ルツィアよ。お主に聞きたい事があるのじゃが……その……な、何かする事……というかじゃな……。何かその、した方がいい事はないじゃろうか……」




と、女性陣だけの集まりでアーシェスがそう切り出した時に、ようやくルツィアは合点がいった。

最近、どうにもアーシェスが落ち着きを欠いていると思ったが、そういう事だったか。とはいえ、幾ら三年間離れていたといっても、その理由は思った以上に幼さを感じさせるのが残念だが。



各々が自身の種族との話し合いを無事に終わらせ、先日イザークの指示通りに作戦を終えた今、しばらくは自由行動となっているのだが、誰が口にするでもなく、皆が自然とイザークを待つために自分の種族の元へ旅立つ事はなかった。



イザークから命じられた任務を果たしたからこそ最低限の自信を得て、ようやく手に入れた結果で彼の傍にいても良いと思えるようになったからだ。

訓練は積んだ。精鋭と名乗れるだけの自負も自覚もある。だけどそれでも結果が伴わなかったからこそ、イザークに対しておんぶにだっこで申し訳なく思えていた。まだ最初の一歩に過ぎないが、それでもようやく得た成果なのだ。


大半の者は自覚がないかもしれないが、その気持ちは良く分かる。


ただまあ、この妹分にも似た少女だけは考えている次元が違うのだが。


いっそのことその上目遣いをそのまま適用すればいいんじゃないかと割と本気で思わなくもないが、それを口にしない程度には真剣に考えてみようと思う。



「……あ、じゃ、じゃがその前にまずは確認しておきたい。お主、イザークの事をどう思っておる?」

「私……?」



だが、ここでふと自分の事を尋ねられ、何を言っているのか分からなくなる。

だから思わずオウム返しに聞き返す。



「うむ、お主、最初にイザークにちょっかいをかけておったじゃろ。今はどう思っておるのじゃ?」

「…………ああ、そういえばそんな事もあったわね」



随分と昔の事のように思えて、事実、過去になっていたからすっかり忘れていた。



「安心していいわ。あれはあの時、彼が本気だったかどうか分からなかったからそうしただけ。まだ幼い子供なら、私が気に入られれば少なくともダークエルフはある程度まともな待遇を受けられるでしょう? 上手く立ち回れば、私が彼をコントロール出来たかもしれない。だからそうしただけよ」

「そ、そうか。なら良いのじゃ」



そうだ。

もう、そんな事をする必要などない。

今はもう、彼の言葉を疑うことこそ裏切りに他ならない。

疑いはとっくに晴れたのだから、そんな必要などどこにもないのだ。



「まあでも、彼から迫られれば別に私は構わないのだけれどね」

「なっ!?」



ただまあそれとは別に、仲間だという事もあるのだろうが私の言う事を一々真に受け、頭から信じるものだからついからかいたくなってしまう。



「だってほら。私達のために激務をこなし、神経をすり減らしてくれているのだもの。彼がストレス解消のために求めるなら、そのくらいは付き合ってあげてもいいと思ってるわよ。それはきっと、ここにいるほとんどがそう」



それくらいには、彼の事を好意的に見ている。実際に誰となく女子会のメンバーに流し眼を送ると、視線があった者のほとんどがそれとなく視線を逸らす。この反応だけで、答えとしては充分。まったく、彼の傍にいて、彼の事ばかり見ているから、シエラほど露骨に分かりやすい子くらいしかイザークに好意を寄せているかどうかも気付かない。



アーシェスはアーシェスで、これで意外と鈍い部分がある。

ほら、だから油断などしてないで、すぐに勝負を決めなさいと促すのだが――



「なっ、ま、まさか!? お主たち全員そのつもりなのか!?」



慌てたように左右を見て、愕然とする表情は少々予想外というか期待外れ。

この子は自分の容姿を自覚しているのだろうか。

最終的には好きな相手の好みに合うかどうかという点で不安になっている気持ちも理解できない訳ではないが、イザークはどう考えてもこの子を悪く思っていないはず。

恋愛的な好きという感情も、少なからず抱いているはずなのだ。



「もう、そんなに不安だったら胃袋でも掴んだらどうかしら? 男の人はだいたいそれで問題ないって言うし」



そういう意味では出来レースで、だから思いついた良く聞く話をそのまま口に出してしまうような、少々投げやりなアドバイスをしてしまった。



「じゃ、じゃが天ぷらに勝るものなどなにがある! 山菜をあそこまでおいしく食べる方法など、妾達エルフは知らなかった! いや、それだけではない。マヨネーズにしょうゆにみそ! クレープもアイスも、あれほどの物を生みだす男の胃袋など掴めるものなのか!?」


「……プリンもにゃ」

「シュークリーム!」

「け、ケーキもおいしかった、です……」



エステルやリーズ、シエラも納得しているが、言われてみればアーシェスの焦燥も確かだろう。イザークではなくアーシェスこそがとっくの昔に胃袋を掴まれているのだとすぐに理解した。いや、胃袋を掴まれているのは、むしろイザークとある程度関わりのある者全員と言っても過言ではないが。



ドワーフは一時期、蒸留酒を浴びるように飲んで酔い痴れ、イザークが取り上げる事で弱みまで作り、精神的にも完全に服従した。何とも情けない理由だと当初は残念な生物を見るつもりになっていたが、それだけで終わらなかった。



獣人はその多様性に合わせた料理、特に肉料理のバリエーションを増やし、ダークエルフやエルフもまた、その肉料理や山菜等、今までの乏しい調理方法を改善、素材の味を生かした料理で瞬く間に虜になった。

マヨネーズに至っては、それなしでは生きていけないとさえ豪語するほどの狂信的な信者を生みだしたほどだ。



そして何より、甘味だ。



その味と多様さに、種族問わず女性陣の総てが虜になったと言っても良いだろう。

あれは確かに、全てを投げ出して服従を誓いたくなってしまうほどのものだった。

何よりズルイことに、彼は一部の調理レシピを公開していない。つまり、彼以外にそれを作り出す事の出来る者はいないのだ。



つまり、この分野においてイザークには到底勝ち目がないどころか、胃袋を掴まれているのは此方側だ。

そしてそれを賞品にした際の訓練は、誰もが異様なほど集中するばかりか、競争相手は親の敵とばかりに情け容赦なく接していたほどだから実際、役に立ったと言える。



「…………ごめんなさい、私が悪かったわ。方向性を変えましょう」



だからあっさりと降参を示し、方向性を変える。

これ以上勝ち目のない分野で戦う事は無意味だと判断するしかなかったからだ。



「それとなく誘惑したらどうかしら?」

「そ、それが出来れば苦労はせぬ。相手はあのイザークなのじゃぞ。旅立つ前日にもそれとなく誘ったが……あ奴め、全く気付く素振りを見せんかったのじゃ!」



と、怒り混じりに言われてみれば確かに、あれはあれで妙に鈍い所がある。

アーシェスとの距離が近すぎて気付かないというわけでもないだろう。と言うより、そういったものを端から除外しているような、考えないようにしているかのような節がある気がするのは気のせいだろうか。



「…………そうね、こうなったらもう、曲解しようのないほどまっすぐに行くのはどうかしら?」

「なっ!? そ、そんな恥ずかしい事、で、できるわけな……、そ、そいうのは男の、方から……」

「でも、そうでもしないと彼、きっと手出ししないわよ?」

「う、うむ……」



唸るアーシェスに、普段の冷静さは欠片もない。イザークの事となると一杯一杯で、すぐ人の意見に左右されて疑う事をしない。

嘘を言うつもりもないが、それを信頼の証と喜ぶべきなのか、それとも単にそれほどの余裕もないほど必死なのか。



だがイザークがもしそうなら、有効な手なんてこれしかないだろう。

なんというかこうなってしまえば、イザークを籠絡する方法ではなく、アーシェスが勇気を出せる方法に焦点を当てた方が早い気がする。

かといって、あと一歩の所をうじうじと悩むこの()に何を言ったって効果はないだろう事も、なんとなく分かる。そうなってくると、やはりその一歩を踏み出さざるを得ない、強力なライバルのような娘が必要だろうか。



今すぐ対抗馬になりそうなシエラにちらりと視線をやるが、やはりあの気の弱さはどうにも不安だ。


他にも何人か心当たりを見るが、アーシェスと比べると何とも言えない。


どうしたものかと助け舟を探すが、やはり無理やりにでもシエラを焚きつけてみようかしらと悩み、つい口にしてみる。



「シエラちゃんはどうなのかしら?」

「…………え? わたし、ですか?」



ぽかんとした様は自分に質問が来るとは思っておらず、本当に予想外といった様子。



「む、無理です! そんな冗談を言ってからかわないでください!」



少々慌てながらも、それでも自分では考えもつかないと首を振って否定する。

その慌てふためく様子はまさに女の子といった様相で、アーシェスよりも小動物的なかわいらしさは勝る。

普段イザークの前では形を潜めていた女の子の部分を見せれば、意外とイザークもころりといきかねないのではないだろうか。



「無理なものか」

「…………え?」



そして、思わぬ所からも援護射撃が飛ぶ。



「何を他人事のようにしておるのじゃ。一番を譲るつもりなどないが、お主なら二番目でも構わぬ」

「そ、そんな事は…………」



それは、聞く者が聞けば高慢だと言われかねないが、アーシェスを知る者からすれば驚きであった。

あれほどイザークを好いていて、なお且つその寵愛を一身に得てもおかしくないほどの美貌だ。

だからこそ、そういう意味でも妾としての二人目、三人目などあり得ないだろうと、誰もがアーシェスに言われるまでそう思っていた。



そして当然、シエラもイザークに対する想いを告げるつもりもなかった。

だから最も衝撃を受けたシエラはしばらくの間、頭も体も硬直したままでいた。



「あ、で、でも私、体が……」

「そのような詰まらぬ事を気にするほどあ奴は狭量ではない。それはお主が一番良く分かっておろう」



シエラの言い訳を許さないまま、アーシェスは分かり切った事を言わせるなとばかりに告げる。



「…………えと、……でも……」



シエラは何度も口を開きかけては閉じた。

咄嗟に思い浮かんだ、自身のあらゆる欠点を挙げて遠慮を口にしようとアーシェスの言った事は正しい。そしてそれ以上に、それを否定すれば自分よりも重きを置いているイザークに対しての侮辱にもなりかねないと理解しているからこそ、シエラは何も言えなかった。



だから、シエラが口にしたのは別の事。


初めてイザークに出会った時の事は、心の奥底で大事に秘めている。



「……私に出来るのは、お傍で支える事だけです。あの方から頂いた恩をほんの少しでもお返し出来れば、それでいいんです。私のする事が少しでもあの方の役に立てば、それだけでいいんです。あの日抱きしめて頂いた温もりは今も、褪せる事なく覚えています。それだけでもう、他になにもいりません」



だからただ、それだけの事なのだ。

そしてきっぱりと言い切ったシエラに、誰もが息を呑んだ。



触れれば折れてしまう。そんなイメージを誰もが抱いていたが故に、それとは正反対の固い意志を見たからこそ。そして同時に、自分自身の至らなさに思い至って。


シエラの抱くイザークへの思慕は理解していた。イザークのために何でもするという事は理解していながら、だけどだからこそ、イザークを求めないという所まで徹底しているとは思ってもなかったのだ。


それは、自分達が想像していたよりも更に上を行く覚悟だった。


普段裏方に徹しているからこそ、自分達とは違う領域で分からないし目立たない。


正直に言えば、そういった役目も必要な事だと理解していながら、それでも今までそれしか出来ないからと、心のどこかで低く見ていた事を悟らされた。


実際には、ほとんど役に立っていない自分達よりずっと、日頃から役に立っているというのにだ。


だから今の話を聞かされる前から、シエラを対等に見ていたのはいったい何人いただろうか。


イザークとアーシェス。そしてそれ以外では数える程だろう。


だけど、シエラはそんな他者の評価などどうでも良いと言ったのと同義だ。


褒められなくても認められなくても、それでもただイザークのために自分に出来る事をする。


足を引っ張るようなら自ら消えるし、役に立つのならば道具としてでもそう在る。


シエラはただ、それだけで良かった。



「それ以上を望んでも悪いとは思わぬし、あ奴も応える程度の度量は持ち合わせておるはずじゃが。それでもか?」


「構いません。私はこれ以上、あの方の重荷になりたくはありませんから」



アーシェスの気遣いにも、シエラはきっぱりと答える。



「…………ただ、もし……ですが、それでも、万が一にも、あの方が求めて頂けるのであれば、ええと、その……お応えしたいとは思います」



とは言え、そこはやはり年頃の少女でもあるシエラだ。どうしても感情が理性を上回ってしまったか、俯き、言い淀みながらも付け加えられた言葉に、思わず同性でありながらときめいてしまったのは不覚と言えば不覚だろうか。



ぽーっと、まるで酔っているかのように熱に浮かれているのは、何もシエラだけではない。

女性しかいないのに、なぜか思わずシエラに恋をしてしまったかのような表情でシエラを見ている者も若干名。



「かわいい……」

「いじらしい……」

「きゅんってきちゃった……。これが、恋……?」

「あ、あの! ……し、仕事を思い出したので、これで失礼します!」



誰が言ったかは分からなくとも、しっかりとその耳に届いたらしく、らしくもなく大きな声で詰まりながらも言い切った直後、シエラは脱兎のように逃げ出した。



「きゃー!」

「ねえ聞いた!? イザーク様に振られたら、私のお嫁さんになってくれないかしら!!」



場が鎮まり返ったのは一瞬。すぐに堪え切れなかった者が、叫ぶ。




「〰〰〰〰〰〰〰〰っ!!」




当然、その声も届いたのだろう。

シエラの去った方角から、エルフにしか聞こえないほどに微かな声で声にならない悲鳴が上がったような気がしたが、こればかりは言わぬが花だろう。









「どういう風の吹きまわしかしら?」



シエラの件で騒然とし、各々が思い思いに話しあっている中で隣にいたアーシェスへと話しかける。

どうしてシエラにあのような話を振ったのか、少々予想外だったから興味が湧いたのだ。



「あ奴は人間で、妾はエルフじゃ。いつか必ず、人間同士で子を為しておいた方が有利に働く場合もあろう。それに、英雄なのじゃぞ? 女の十人や二十人くらい……は断じて認めぬが、数人程度なら許容するのも正妻の器というものじゃ。ならば妾も良く知っておるシエラなら問題はないのじゃ」



それが広いか狭いかは何とも言えないが、個人的にはこの子を知っているからこそ広いとも思える。

とは言え、正妻というからには正妻らしい行動や結果を残してほしいとも思うが、それを言えば拗ねてしまいそうだから口には出さない。


それに、アーシェスの言う事も一理ある。


間違いなく人間の妻がイザークには必要になってくるし、それだけでなく、理想を言うなら各種族から一

人ずつを妻に迎えるくらいの方が、バランスがとれて良い。

彼を知っている者ならば妻がアーシェス一人だろうとエルフだけを贔屓にしない事を理解しているが、やはり彼の事を知らない者からこじつけに近くとも不平不満は出てくる。



もし合理的な判断でエルフを贔屓するような決断を下した場合、たとえそれまでに他種族を重んじてきてもやはりそこを突かれる場合もあるだろう。

口性のない者がそれを口にして広まってしまえば、やはりそれなりに問題になってしまう可能性があるのだ。



そういった政治的な問題は、どうしたって付いて回ることになるだろう。



ただ、ふと思う。それにしても不思議なものだと。

あれほど嫌っていたエルフの事を、それもその象徴でもあるハイエルフの少女を今では妹のようにさえ思えてしまうのだから。

最初こそ種族間でぎくしゃくし、些細な諍いが絶えなかったがこの少女は幾度となく槍玉に挙げられながらも良く耐えた。



文化の違い、思想の違い、そして何より未熟な精神。それらが原因でよくぶつかり合ったものだが、最も我慢したのはこのハイエルフの少女だと言っても良いだろう。

そして、イザークの公正な判決もまた、理性で納得せざるを得なかった。

かつて無知ゆえに諍いが起こる事もあるとイザークが言っていたが、本当に言うとおりだ。

今では頼りになる同志でもあるし、こういう私生活で相談事に乗るのも悪くはない。



「でも、早く帰ってきてくれないかしら……」



悪くはないのだが、ずっと同じ場所をぐるぐると回るような状況には正直徒労感もあるし、彼が帰ってくればすぐに解決する問題なのだ。

本人にその自覚がないから余計に性質が悪い。



頼られている今はどうにも応えたい感情が強い。とは言え、弄りたい気持ちもないわけではないし、何より結局のところ、この娘の相手をするのは彼だと決まっている。

だからまあ、帰ってくれば丸投げしてしまって問題はないし、それが出来れば素直に弄る方へ回れるから早く帰って来いと、今はまだ遠い彼にそんな思いを馳せた。


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