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異世界における革命軍の創り方  作者: 吉本ヒロ
3章 12歳、学園編
98/112

領地、そして王都

本当は年越す前に数話投稿する予定だったのですが、予想外の事態が複数重なってしまい、ここまで遅くなりました。本当に申し訳ない(全力土下座)

いや、最近更新ペースやばいなと一応頻繁に思うくせに、一向に改善で来てませんね、はい。

し、しばらくはきっと大丈夫ですよ(震)






領地へ帰ってすぐ、何よりも速く兵を率い、山賊討伐を開始したイザークだが、その動きについてこれない者は多かった。



当主としてのイザークの能力が未知数だったという事もあり、下手な動きが出来なかったという点や、予想を大きく裏切るほどに早く帰還したというのもあるにはあったが、侯爵が討たれたという状況で、独断で出陣をする者どころか、そもそも出陣の準備すら整っていない者が大半で、彼らの多くは半ば見捨てられるように声を掛けられる事すらなく置いて行かれた。



そんな中でも数百を数える程の山賊を討伐出来たのは、どこからともなく率いていた、今まで領軍には存在していなかった兵士がいたからだ。



遅れてきた兵士が到着した時には既に武具は剥がされ、主だった首は塩漬けにされ、体は焼かれていた程で、実際に山賊が何人いたのかは、山賊が使っていた武具から推測するしかない。



なぜ山賊の位置を把握していたのか、その兵はどこから率いてきたのかといった疑問を抱くより先に、現場に到着した者も大叱責を受け、降格処分を受けたせいでイザーク自身への恐怖と反感を抱き、それどころではなくなった。



ただ、イザークが率いていた軍の行軍速度や強さ、そして無駄口一つ叩かない態度は間違いなく精鋭と呼んで差しつかえない。だが、気になる存在である彼らの身元は不明で、しかしイザーク直々に率いてきたという事で詮索する事も憚られる。


今回の件で華々しいデビューを果たした彼らは、今後領軍の中枢としての立場を確立していった。







領地へ帰って最低限の用事を終えてすぐ、再び王都へとんぼ返りしなければならない理由は単純。

正式に爵位と領地を継ぐための儀式があるからだ。



緊急事態故に領地へ帰る事を優先したし、そういった行動が認められる事は調べていた。だけどその事件を終わらせたのだから、その手の手続きをしなければならない。

慌ただしい事この上なく、睡眠不足が続いたせいか、揺れの酷い馬車の中でさえ爆睡してしまえるほどに多忙な日々だった。




そして今日、儀式の打ち合わせを始めとする様々な段取りを経て、玉座の間に続く紅い絨毯の上を歩く。

紅い絨毯の敷かれた道の両脇を固めた計二十人の近衛が抜き身の剣を掲げ、交差させる。



これはこの道を行く事で我が身の潔白と王への忠誠を誓う儀式だ。二心あらばこの剣は立ちどころに振り落とされるというらしいが、ここ百年は腹黒さに定評のある貴族とてその剣を振り下ろされた事はない。



あからさまに他国に通じている者も含めてだ。つまり、国家転覆を狙っている身ではあるが、安心してこの道を歩く事が出来る。


そんな謁見の際には壁際で諸侯が見守る。


元々多くの貴族が集まる時期故に、緊急の割には数が多い。


ここで異議があればいつでも申し立てられるという事だが、これもそうそう申し立てはない。ましてこの身は唯一の嫡男だ。親を殺した確かな証拠でもあれば別だが、そんなヘマもしていないのだから何一つ問題はない。


辿り着いた玉座の前に跪き、年老いた王へと首を垂れる。


事前に一度返納していた、我が家にあった侯爵位を示す儀礼剣を、再び王から授与された。


これは爵位が高い程この儀式用の剣の長さが長くなると言う代物だ。それでも儀礼用という事もあって、イザークが受け取ったのは標準的な剣より十センチ程短い剣だ。

神の前で国そのものである王に忠誠を誓うといった形ばかりの叙勲の儀は恙無く進行し、拍子抜けするほどあっさりと終えた。










「見事な手腕だな」



正式に侯爵となった身である以上、やれる事もやらなければならない事も一気に増えた。

何度目になるかも分からない程に今後のプランに見落としがないかを再確認していた時、ふと、柱の陰から声と共に姿を現したのは第二王子であるヴェルナスだった。



兄であるエシュトル王子よりも利発的だという噂だったが、王子という事もあってか、他人を値踏みするような視線を隠しもしないという点では、所詮は二流三流でしかないといった所だろうか。

その辺りは経験不足という事もあるのだろうが、そもそもそんな技能を必要としてこなかったのだろう。

爵位継承の儀式が終えてすぐ、多くの貴族が未熟な侯爵の隙を窺い、たかってくるかと思っていたからこそ、明らかな人払いを不自然に思っていた。



だから、それなりに高位の人間から声が掛かるだろうとは思っていたが、せいぜいがヒューゲル公爵から顔合わせや若造に対する利益を掠め取るための策略が来ると思っていただけに、それがヴェルナスだとは思わなかった。

その点では、予想外と言えば予想外なので、小さな驚きはあった。



「お褒め頂き大変光栄ですが、たかだか山賊退治。それも誇り高き貴族を襲うという頭のいかれた無能者です。あまりにも度を過ぎた無能故に予測出来ず、両親の事は残念でしたが、仇はとりましたので浮かばれることでしょう。一度種が分かってしまえば、そんな山賊風情に時間を掛ける方が難しい程かと……」



「親を殺した手腕が、だよ。かなりの人数が関わっておきながら証拠を残さず、他の人間が介入する前に迅速かつ的確に動いた。これを見事と言わずしてなんと言う」



「お戯れを……」



この時点で、イザークの警戒レベルは一気に引き上げられる。

他の人間と比較しても耳が早く、かつ的確な分析が出来る人間だ。それも、自分より爵位が上、と言うより、ほとんど頂点に立つ人間。

実権では侯爵家当主である自分に敵わないが、それでも蔑ろにして良い相手でもない。

百の護衛とそれを上回る襲撃犯計数百を、生きたまま他者に確保される前に皆殺しにした事を理解しているのだろう。

それは紛れもなく、一定の頭脳と忠誠心の高い兵がある事を示す行為だ。



「証拠がないと、ご自身で仰られたではございませんか。まして父を殺すような真似を、一体どうして子である私が出来ましょうか?」



まして兄弟での跡目争いもない。

普通、そんな疑念が過ぎろうとも冷静に考えればあり得ないと、そう思うのが大多数の意見だ。

つまり、誰かが怨恨や利害で動くことはあっても、わざわざそうする必要性のない嫡男自らが、とはならない。

だからこそ、そうだと確信している相手に対して油断など出来るはずもなかった。



「ふっ、まあいい。今日は化かし合いをしに来たのではない。貴様に話があって来たのだ」

「はなし……ですか?」



ほとんど関わりのないヴェルナスと話す事など特にないが、先の一言でないがしろにも出来ないため、慎重に続きを促す。



「貴様は、そのまま父の地盤を受け継ぐのか?」

「…………仰られる意味が私には分かりかねますが」



言葉通りの意味であれば、その通りだろう。

だからこそ、言葉通りというのはあり得ない。そこにある含みが複数考えられる時点で答えかねる質問だし、下手な返答も許されない。



「ああ、まだるっこしいのは嫌いなのだ。それに、あまり時間もないから結論から言わせてもらうが、俺の配下に降れ」


「私は、この国の忠実なる臣であるつもりですが?」


「言ったであろう、一々回りくどい真似はよせ。貴様がそのまま地位を継げば、俺の兄の側になる。父と同じく大した能力も持たない、あの無能者の側だ。そんな者の下では、お前の能力も発揮できない、宝の持ち腐れとなろう。俺には優秀な配下がいる。貴様のような、な」



何が言いたいのか、おおよそながら理解は出来た。

だけど当然、素直にはい分かりましたといくはずもない。



「ロザンとヒューゲル。同じ公爵だがどっちが強いか、言い換えれば、私と兄上、どちらが真の国王に相応しいか分かっていよう?」


「殿下、さすがにお戯れ過ぎでは? 今の言葉は聞かなかった事にしておきますので、どうかこの話はこれまでに」


「この手の話題に関して慎重というのも分かるが、それでは本当に動かなければならない時に機を逃すぞ?」



愚かと言うほどでもないのだろうが、実績もない人間の言う事に従う者もそうはいまい。

まして自身でそう言っていたとはいえ、それでもおおっぴらに喋り過ぎだ。

俺という人間を見極めての事ならばその判断は正しいのかもしれないが、それほどの能力もあるとは思えない以上、あまりにも軽率だろう。



こんな事を自身満々に言ってのける人間というのはおおまかに二種類。

即ち、実際にそうだとあらゆる状況から判断出来る優秀な人間か、単に自分自身の事すら理解出来ていない間抜けか。そしてこの第二王子様とやらは、おそらく後者だ。

無条件に自分が特別だと信じて止まない種類の人間だろう。



王族に生まれたのだから理解出来なくもないが、そのような思考では何も成せはすまい。

まして現状の身分に満足している自分としては、厄介事を持ちこまないでほしいのだ。

緻密に作り上げた計画にイレギュラーが起こる事だけは、心底勘弁してほしいと思っている。



「なぜ私なのですか?」


「その手腕は悪くない。地位に胡坐をかいた無能者が多すぎる中、貴様のような有能な人間こそが国を支えるに相応しい。俺はこの国の王にとどまるつもりはない。帝国を、世界を喰らうに有能な部下は一人でも多いに越した事はない」


「世界、ですか……。随分と大きく出られましたが、あまり現実的とは思えませんね。まずこの国には有能な人材があまりに少ない。国内ですらままならぬ中、外に目を向ける余裕があるとは思えません。帝国は盤石ですよ。層の厚さ、皇帝はもとよりその配下の文官武官共に充実している。たとえこの国に二人の英雄がいようとも、それだけでどうにかなるとは思えませんが?」


「貴様が三人目たり得るのではないか? そして、貴様らを飼殺しにせず、御する君主がいればそれで良い」


「お戯れを。私は何の実績もない若輩者です。それに波乱なく、平凡な人生が送れればそれでいいと、心底そう思っています。貴族としての特権を使って毎日を享楽に溺れて過ごせればそれでいいと」



御する? あのロザンとフィオナを? それはあまりに高慢だろう。

せいぜい噛みつく方向性をコントロールした放し飼いにするくらいが現実的で、それにしたってフィオナはそれを分かってそうさせているにすぎない。



あの人がその気になれば容易く崩れ去る、脆い砂の城でしかない。

……いや、なるほど、どうにも能力や思想と言動が合わないと思い、会話事態を苦痛に感じ始めていたが、ロザンがバックについているという事は即ち、頭脳であるフィオナが背後にいるという事。



――即ち、ヴェルナスはフィオナの操り人形だ。



プライドが高く、自分自身を賢いと疑っていない。

せいぜいが貴族の中では、という程度の賢さで、それとて自分自身が王子として育てられたから狭い視野しか持ち合わせていない。



権力に染まり、権力に呑まれたが故に他者を思う事すら出来ない矮小な人間特有の傾向が見られる。

意思を持っているようで、だけどそれとなく本人も気付かないよう上手く操られている。

つまり、これはその向こう側にいるフィオナとの交渉だ。

そうすると見えてくる視点が変わってくる。


ヴェルナスに話しかけながら、その実影に向かって話しかける。


向こう側にいるフィオナの意図は? ヴェルナスを操る事は分かるし、それを通じて味方に引き入れようというのもまだ理解出来る。ただ、それだけのはずがない。その先に何かが起こり、そして得ようとしている。


勝って当然の継承権第一位のエシュトルよりもヴェルナスに付くのは分かる。

だが、結果として王家よりも力を持つ公爵家が存在する事になろうと、フィオナはそんな事を結果に見据える人間ではない。それは所詮、過程に過ぎない。



結果何を求めるのか、とは、少し考えただけで理解出来る。いや、自分だからこそ出来てしまうのか。

かつてフィオナは隠したピースを見つけ出し、類稀な頭脳を以って力づくで答えを導いた。そして今、イザークはフィオナが告げた答えを知っているからこそ、無理やりに過程を導く。



自分で言うのもなんだがつまり、フィオナの目標は自分という事になる。



絶対的な権力を用いて策を実行し、それに対して足掻く過程を愉しみながら結果として戦利品(イザーク)を手に入れる。


恐らくはこんなところだろう。


実際の過程は、軽く考えただけで何通りもあるためにどうなるか分からないが、描いている結果だけは恐らく変わらない。


他人がこんな事を言い出せば正気を疑うのだが、これで間違いないと判断してしまう自分が怖いのか、そうさせたあの人が怖いのかもう良く分からない。なんかもう泣けてくる。


一瞬だけ、形だけの婚約者と本当に結婚して逃げるべきかと思ったが、恐らくこれはそういうメッセージでもある。


つまらない女と結婚して逃げようものなら、恐らくその女の実家を経済的にも面子的にも武力的にも圧倒してあらゆるルートを潰し、後ろ盾を失くした上で離婚させ、そこに自分の籍をねじ込むくらいやりかねない。


どこまでやるか分からないからこそ、普通あり得ない事でもやるかもしれないと思わせる怖さがある。そして、実際にそれが出来てしまう所も。


それが嫌なら同じ派閥に属して名を上げろと、恐らくそんな所だろうが、どちらにせよあの人は楽しめるのだろうし、権力闘争などしたくもないから良くない事に変わりはない。


それにあの人のことだ。同じ派閥に属すれば間違いなくちょっかいを掛けてくるに決まってる。



「今はまだ、爵位を継承したばかりでそのような余裕もございません。地盤を固める事で手一杯となるでしょう。ですが時がくれば、ヴェルナス様にお味方する事を約束しましょう。それでは、私はこれで失礼します。急いでやらなければならない事が山積みですので」



結果、出てきたのは無難な返答。


言葉だけの密約であり、旗色を窺う蝙蝠になるための曖昧な態度だが実際、フィオナがいるならそちらの方が安泰だろう。

それを、ヴェルナスではなくフィオナが理解している。

寝返るに値する状況を作るから此方側へ付けと、暗にそう言っているのだ。

だから今は、表立って旗頭を変えはしない。

グレーゾーンを渡り歩き、有利な方へ付くのは誰もがする事だ。



第一王子の派閥筆頭であるヒューゲル公爵も中々陰謀に長けた人物だと理解しているが、それでもフィオナやロザンという規格外の英雄と比較すればどうしたって見劣りしてしまう。

やっぱり貴族なんてものは碌でもない存在でしかないと、嫌でもそう思ってしまう。



「さっさと領地に引きこもりたい……」



最近はどうにも溜め息が増えた気がする。

その原因のほとんどがあの人のせいかと思うと、やはりどうにも哀しくなってくる。

その諸々の原因に対して安全性を重視した程ほどの距離に何人か密偵を忍ばせてはいるが、増やすべきなのか、むしろ肝心な情報は秘匿されるだろうから開き直ってノータッチでいくべきなのかと、帰りの馬車の中では随分と頭を悩ませる羽目に陥った。




今日中にもう一話投稿しますね。

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