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異世界における革命軍の創り方  作者: 吉本ヒロ
3章 12歳、学園編
93/112

卒業2

皆さん、お盆はいかがお過ごしでしょうか・・・・・・・・・・いや、はい、冷たい視線は勘弁してください。長らくお待たせして本当に申し訳ありません。

ようやく目途が立ったので更新再開します。

とりあえず9月末に出す新人賞用の作品がほぼ出来上がったので、革命軍の方もぼちぼち書いていこうと思います。話的にはそれほどでもありませんが、とりあえず今の章は年内には必ず終える予定ですので、よろしければ今後ともお付き合いのほどをm(_ _)m




「もう、こんな所にいた!」




頬を膨らませる事で、言葉だけでなく全身でありありと不満を表現しているのはフィオナだった。

その身は普段着る事のない豪奢なドレスに身を包まれており、生来持ち合わせていた華やいだ雰囲気をより一層盛りたてる。その華やかさはどんな場所でもステージの中央のように変えてしまう程、誰もが目を奪われるだろう。



彼女がそんな格好をしているのには無論訳がある。

今日はフィオナ達の卒業式であり、その記念パーティーの真っ最中だからだ。



「せっかくダンスの相手に誘おうと思ってたのに、会場中を探してもいないんだもの。酷いじゃない!」

「どうせ僕じゃなくても、他の男性からお誘いがあったのでは?」

「キミ以外の相手に興味なんてないわよ」



と言うより、幾人かダメ元で誘うように仕向けたし、たとえ誘いに乗らずとも、角が立たないよう断るにはそれなりに時間もかかる。その間にこっそりと抜けだしたのだが、やはり見逃してくれるほど甘い相手じゃないようだ。

恐らく事前に隠れるであろう場所にめどをつけていたに違いない。

さすがに二年生代表として真っ先に帰るわけにもいかない立場だからこそ、仕方なく式の終わりまで隠れていたのだが。



それがなくともこの美貌、そして地位が伴っているのだから、同学年の中では一番人気だ。尤も、その武勇伝とやらで敬遠する人も少なからずいたが。それに、普段は人当たりの良い人格を装っているのだから、女生徒からの人気も高かった。だというのに、想定よりも抜けだすのが遥かに早い。



「先輩ならそのくらいは理解していたと思いますけど? と言うか、僕がそんな面倒な事をするなんて本気で思ってたわけじゃないでしょうに……」

「それでもよ! キミも今日くらい、私の望みをかなえてくれるって期待しちゃいけないのかしら?」

「それが可愛らしい乙女心、って言うならそうしたんですけどね……」



生憎、自ら食虫花に飛び込む程物好きではない。



「ああ、そう言えば最近気付いちゃったんだけど私、好きな子には意地悪しちゃいたくなるタイプみたいなの」

「…………たしか幼い少年が好意ある少女に似たような事をしますが、まさか先輩もその口ですか?」



どこの男子小学生だとツッコミを入れそうになったのをすんでの所で抑え、代わりの言葉を口にする。



「そうかもね。好きな子が出来た事なんて初めてだから、勝手が分からないのよ」

「…………」



あまりにも嘘臭い。

先のは男がとる行動だし、何よりこの人が自分を抑えられない程度の人間なんてそんなわけがない。



「キミがどう思っているかは分かるけど、というかそんな目で見てくる辺り隠す気もないみたいだけど、これでも女の子なのよ?」

「自分でリヴィアを少女扱いしておいて、都合の良い時は女の子ですか?」

「まあそう言わないでよ。あの時は初対面だったから、キミの魅力を本当には理解出来てなかったの」

「…………はあ、それで、何の用ですか?」

「うん、まずは……えい!」



フィオナにしては珍しく無邪気とも言える声音で、突如手を引っ張る。

口に対して身構えていたからこそ、体を使った急な行動には対処出来ず、両者の距離は一気に縮まった。

恋人同士が抱き合い、見詰め合うかのような至近距離で、しかしフィオナは変に甘い空気を醸すどころか本人にはあまりにも珍しい、無邪気な子供染みた態度でステップを踏み始めた。



「ほらほら、紳士なキミはレディのお誘いを断るなんて真似はしないでしょう?」

「…………分かりました、勝手にしてください」



強引に手を引っ張られ、振り回されれば断るも何もないだろう。

着せ替え人形にされる子どもの気持ちが分かる気がする。俺で遊ぶなと、今はそんな気分だった。

会場から離れたとはいえ、しかし音楽は微かに聞こえてくる。貴族としての必須技能として、得意ではないもののそれなりに踊れないこともない。



「んふふ~」

「…………」



にやにやと笑うフィオナは、それだけで何が言いたいのかを十二分に伝える。そんな予想、心底当たってほしくないが。



「やっぱりキミの事が好きみたい。それに案外キミの方も……。ほら、嫌よ嫌よも好きのうちって言うじゃない?」

「嫌なら嫌なんですよ。なんですか、その相手の都合考えない、自分にだけ都合の良い理論は。勘弁してください」

「だってねえ、そうやって、なんだかんだで付き合ってくれるんだもの。口では色々言うくせに、でも意外と優しいのよね、キミ」

「手、離しますよ?」

「んふふ~」



まして、そんな事言えば俺は意地でも離そうとするのは分かり切っている。が、どうやら近接戦闘の技術でも俺は負けているようで、合い気にも通じる要領でそれとなく体の動きを支配され、簡単には離せない。

かといって本気で抜けだそうとするには、全力で振り払うような手段を使わなくてはならないために、さすがにそこまでしようとも思えない。そんな心と体、共にギリギリのラインを突いた技有り。

……なんという技術の無駄遣いだろうか。

その一連の流れを理解し、にやにやと笑うフィオナは本当に性格が悪い。



「あ、ここで卒業する先輩から、キミにちょっと質問とアドバイスがあるんだけど……」



なんて言いだしたものだから、ようやく本題かと気持ちを改める。



「キミ、リヴィアちゃんに対しても随分とたんぱくなのね? それとも、女の子相手には皆そうなの?」



だが、飛んできた言葉は相も変わらず予想外。

少々辟易としながらも、とりあえず嫌味の一つは言わせてもらう。



「……覗き見は趣味が良いとは言えませんね」

「たまたま通りがかったのよ」

「それで、その用件とやらは何なのですか?」



日頃の、俺のリヴィアに対する態度の事を言ってるのだろう。どうせアンテナを張り巡らせたりして情報でも集めていたのだろうが、一々突っ込んだ所でキリがないのだ。

なら早急に終わらせるのが肝要だろう。



「いやそれなんだけど、キミがあの子の気持ちが分かってて答えもしないと言うのはどうなのかなって、お姉さん思っちゃうんだけどな~」

「…………」



思わず呻く。

そう来るとは思いもよらなかったし、目を逸らしていた現実を突きつけられたのだから。



「…………一応確認しますが、やっぱりそうなんですか?」

「そりゃそうよ。あれはどっから見てもそれ以外にあり得ないわね」



フィオナはそう言うが、自分も薄々気付いてはいた。が、確信が持てなかったから踏み込まなかっただけだ。

――いや、気付きたくなかっただけなのかもしれない。将来的に、自分と彼女は敵対する事になるのだから。



「分かるわよ? だってキミ、あの子とは根本的に違うものね。それに、からかったら面白そうだけど、根は潔癖なだけのつまらない子だもの」

「まあ確かに、あの真っ直ぐなバカさはどうかと思いますが……」

「もう、またそうやってはぐらかす。あの子は彼方(ひかり)、そしてキミは此方側(やみ)。ほら、噛み合わない。それをキミは、充分過ぎるほどに分かっているでしょう?」

「確かに。ですが、光があれば陰も出来る。本当の意味で噛み合うのも、凸凹な物だけ。それに、そもそも人間なんて光も影もごちゃ混ぜになった存在だと思いますけど?」

「…………」



その時、初めて饒舌なフィオナが言葉を切った。

が、不自然さは会話の応酬が途絶えただけではない。

ステップが止まり、いつしか音楽も聞こえなくなった。

張り付いていた笑顔は表情を失った能面のように、醸し出されていた陽気な空気が凍りつく。



「…………気に入らないわね」



ぽつりと、無機質な怒りが零れる。

好意の色が消え、感情が消え、ただ淡々と紡がれた言葉はしかしどうしようもない怒りが含まれていた。



「なんでキミは、光を宿しているのかしら? 私と同じ思考をし、私と同じ場所に立っていながら、なぜ綺麗事を肯定しているのかしら? 他人どころか自分さえも信用しないくせに、何かを信じているというその思考は一体どこから来ているのかしら? ……ああ、本当にキミはどこまでも愛おしくも妬ましくて憎らしいわね」

「…………」



そこまで見抜くかと、驚愕を覚える。

自分の事だ。

出来る事と出来ない事を把握するために何度も分析したからこそ、当てはまる節があると一瞬で理解する。



「そう言えば私、君に聞きそびれちゃったみたいなんだけどさ……」



更に半歩、フィオナが踏み込んだ。

息が掛かるほどの至近距離にあるフィオナの顔は、あまりにも無機質でハリボテめいた笑みが張り付けられている。

だが、その眼には冷徹さの中に怒りが含まれていて、もはや容赦はしない、お遊びはここまでだと、何よりも雄弁に語っていた。



「どうやって……いえ、どうして、ゴブリンロードを倒したのかしら? おかしいのよね。あの子みたいに、バカで猪突猛進な騎士気取りと言うわけでもない。それに、さすがにあの子一人でゴブリンロードの相手は荷が勝ちすぎる。まして、相手はあのゴブリンロード。聞いた話だと割と知恵も働くようね。だとしたらどう考えてもあの子の思考回路じゃ勝てっこない。なんでキミは、あの子に手を貸したのかしら?」



「力を貸してはいけませんか? 御しやすい上に立場も、そして力もある。簡単に裏切る人間でもない。恩を売るなら悪くない相手です」



「いくらあの子に力を貸そうと、キミも少なからずリスクを負ったはず。二人でゴブリンロードを相手になど、到底安全圏にいるとは言えないわ。キミは合理的な判断が出来る子。秘密を知られる事のリスク、命の危険。見返りにあの子程度の力。どうやっても割に合わない。あの子程度に出来る事が、キミに出来ない筈はない。なのにどうしてそこまでして助けのかしら? どうして、キミはそんな利害の外をいったのかしら?」

「…………」



いつもの、全てを見抜かんとする視線。

相手がどういう人間か。それを理解し、口を閉ざしてもある程度悟られるのではないかという危惧を覚えさせるそれは、しかしゾッとするほどに、思わず全部喋りたくなってしまうような妖艶ささえ感じさせる。



全てを数字とし、冷酷なまでに損得で動きながら、しかしその手の人間特有の、『人』を無視した愚かな手法はとっていない。

心という不可視の概念やその不条理さまでその数字に含まれているからこそ、この相手は性質が悪い。自分の言動によって相手はどう思い、どう動くか。そこまで計算尽くでやっているからこそ、本当の意味で付け入る隙がないのだ。



感情が合理性の足を引く事は良くある。それを理解した上で、考慮しつつも心などというものはそういうものだと割り切って合理性のために動いているか、解っているが、しかしそうしたくないからそうしないのか。



フィオナとイザークの差なんてものはそれだけで、言い換えればその一点を除き、両者の考え方の根幹は一緒であると言えよう。



「ああ、いいわ。キミの願いどおり、しばらくは様子見にしておいてあげる。少なくとも残り一年、キミの在学中くらいは何もしない」



いつまでも沈黙を貫く俺に対して急に冷めたと言わんばかりの態度だが、これはそんなものではないと勘が告げる。

怒るという感情がなぜ湧きあがったのかを、期待の裏返しだと言う事を、少なくとも今、平常心が乱されている彼女は気付けない。或いは、気付けたとしても、制御出来ていない。

それは、フィオナを知る者からすれば正しく異常事態。

そこに、イザークは初めて付け入る隙を見出した。



「だけど覚えておきなさい。私の心をここまでかき乱しておきながら何事もなく過ごせるなんて思わない事ね」



それは、将来きっとそうなるのだろうという彼女なりの勘。


そして少なくとも、そうする事を決めている自分としては、動かなければならないのだから間違いなくそうなるだろうという確信を抱いている。



「正直、未だに先輩が僕に対してそこまで固執する理由が分かりませんね。小者ですよ、僕は。先輩と比べれば見えない程に小さな、ね」

「キミは相変わらず自己評価が低いわね。でも、いくら本心からそう思っていても、そこらの蒙昧な輩なんかとは断じて違うわ。それに――」



ふっと息を吐くような間。

仮面を被った、いつも通りのフィオナの顔。からかうような笑みと共に吐かれた言葉には、どこか誇らしささえあったように見えた。



「好きになった人には自分と同じであってほしいと思う事はいけないことかしら?」

「さて、どうでしょうね? 価値観は人それぞれですから……」



明言はしない。


ただ、そこには含みを持たせていた。少なくとも、聡い彼女ならば意図は伝わらないわけがない。



「まあいいわ。自分好みに変えていく過程もまた、楽しいものだから」



それは、この答えで確証された。

いつか必ず自分の色に染める、絶対に染まらないという宣言は互いに対する宣戦布告。もう話す事はないとばかりに背を向け、去り行くフィオナの背中をただ見つめる。

やはり、自分とフィオナは相容れない。



時に休みたいと思う事は決して悪いことではない。人は走り続ける事なんて出来はしないのだから。

今のフィオナは、走り続けて疲れているのだろう。なまじ休まなくてもそれをしてしまえるだけの才覚があったから、今の自分自身の状態に気付いていないのだ。

フィオナ自身が、自らを化け物へと変えてしまっていた。



だが、フィオナの考えでは傷のなめ合いに終始してしまうだけだ。初めて見付けた休憩場所にも似た何かにずっと縋ってしまう。

ゆっくりと腐っていくだけで、救いがない。或いは、それを指摘し、改善すれば彼女は本当にターニャ、ロザンをも超える頂点へと上り詰めるのかもしれない。だけど――




「――――ああ、ようやく、僕はあなたが人間に見えました」




安堵から零れた言葉は、敵対者に向けたそれ。

毒にも薬にも成り得るが、劇薬である事に変わりはない。自身のコントロール下に収まりきらない人間を助ける危険など冒せない。敵対する事を恐れているが、しかし味方に引き込む自信はなく、まして革命に賛同してもらえるとは到底思えない。

そんな相手に、たとえか細い蜘蛛の糸だろうと、今まで全く見えてこなかった攻略の糸口を掴んだが故に零れた笑みは皮肉にも、フィオナと同種の攻撃的なものだった。









あの時クレスタの言った意味をようやく理解した。

フィオナは確かに俺に惚れている。だが、それは世間一般の好きとは違う。自分と同じ目線の人間、同じ渇望を知る人間を求めていた。だからこそ彼女はターニャに惹かれ、ロザンに親しみを覚え、錯覚から俺にも関心を抱いた。



所詮はそんなものなのだ。

俺の力はハリボテに過ぎない。

それを理解しているからこそ、彼女に勝る部分であるハリボテに縋るより他にない。

ハリボテを使って騙し続け、ハリボテで勝つ。だけど、ただそれだけでは限界が来る事を、今のままでは塗り固めた鍍金が剥がれる事を誰に言われるまでもなくイザークは理解していた――



次話は一週間後の13時になります。(予約済み)

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