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異世界における革命軍の創り方  作者: 吉本ヒロ
3章 12歳、学園編
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ダークエルフの問答

本日二話目です




エルフの意思を統一し、アーシェスが同族を率いての実戦で幾度となく完璧な戦果をあげた事でその地位を盤石のものとした時、ようやくルツィアは重い腰を上げた。



また、ゲリラ戦術というものを実地で理解したエルフに指揮を引き継ぎ、アーシェスもルツィアと共に行動する。そもそも多方面で散発的に部隊を展開してこそ、ゲリラ戦術はその真価を発揮する。言い換えれば、アーシェス達がいないと機能しないようなら、それは紛いものでしかない。

そういった事情とルツィアからの要請もあって、アーシェスはルツィアに同行した。



そして同行した孤児の者達は人間として嫌悪されながらも、奴隷狩りから助けたエルフの娘達を中心にようやくエルフ達から少しずつとはいえ一定の信頼を得る事が出来た。それぞれが分散して各部隊に随行し罠の設置や誘導方といった指導をしてはいるが、それもあくまで補助に徹している。実際、彼らの罠の知識だけでなく、エルフの森に対する知識と組み合わさってより巧妙になった罠も多数あったほどだ。



だからこそ、安心して任せる事が出来た。



ダークエルフの特徴と言えば、その器用さからくる万能性にある。ほとんど全ての事を人間よりも上手く行う事が出来る点は、人間をして短所を突けず、戦争で大いに苦しめた。

近接での戦闘は勿論、そこに中距離、または遠距離装備を組み合わせ、状況によって手を変える器用さ。思考の柔軟性等、全ての種族の中で最も優れているとイザークは判断するほど、種族としては強い。特に、集団戦よりも少数での戦闘では恐ろしいほどの安定感を誇る。だが当然、弱点はある。それはその汎用性故、エルフほど弓が達者なわけでも、ドワーフほど近接戦闘が強いわけでも、そして獣人ほど集団戦が得意なわけでもないという点だ。



故に、人間の数の暴力に屈した。

いくら地の利があろうと、十倍を超す軍勢を相手に為す術がなかったのだ。

そのダークエルフがいる集落を目指し、ルツィアとアーシェスはつれだって歩く。

エルフが好む明るい森を歩き続けている内に、いつしか森の風景が変わり始めた。



日の光は入らず、昼なのに暗く、鬱蒼と生い茂る木々や草。花の色も、原色の強い、どこか毒々しい色のものばかりとなっていく。

そんな道なき道を、二人は黙々と歩き続けていた。そして――



「ようやく見付けたわ……」



不意に立ち止まったルツィアの口から、久方ぶりの言葉が零れた。

その声を合図にほんの僅か、注視しても気のせいだと断じかねない程度ではあるが、風もないのに草が揺らいだ。しかしそれ以外に変化はなく、ルツィアは仕方なしに再び言葉を発した。



「そこのあなた、私達を案内してくれるかしら?」



そして今度こそ諦めたかのようにガサガサと草が大きく揺れ、その間から一人のダークエルフが姿を現す。



「オーケー、降参だ。と言うか良く分かったな?」

「ええ、同族なのだから、おおよそながら分かるわ」

「それにしても、見ない顔の同族に加えエルフの嬢チャン……それもハイエルフたぁ珍しい組み合わせだな?」

「ええ、とても良い話しを持ってきたのだから、最高待遇で迎えて頂戴?」

「そいつぁどうなるか保証できねえが、まあとりあえず仲間に掛けあってはみよう。ついてきな」


その案内に従って、ルツィアとアーシェスはダークエルフの里に招かれた。








「私達の要望はエルフ、獣人、ドワーフそして私達ダークエルフによる連合軍の創設。そして、人間の支配からの脱却よ」

「「「…………は?」」」



ダークエルフの里に辿りつき、物珍しさから会議に参加出来る資格を持つ者の大多数が来た時、ルツィアは誰の耳にも届くよう大きな声で叫ぶ。

その言葉に、誰もが空いた口が塞がらない。

今の言葉は事実なのか、自分はなにか聞き間違いをしたんじゃないか。そんな疑問をありありと表情に浮かべ、周囲の反応を窺って更に数分の時間を掛け、ようやくそれが自分だけじゃないと判断する。その時点ですでに、彼らは冷静さというものを失っていた。



「む…………無理だ!」

「いいえ可能よ。今ここに、エルフのお姫様がいる事が証明にならないのかしら?」

「…………」



反論の声は、すぐに否定される。

そこには静かながらも力強い、確固たる自信が込められていた。



「私達のいた場所がそうだった。全ての種族がいたわ。既に、私達にとってドワーフも獣人も仲間なの。なによりそこには人間もいて、彼らは間違いなく私達の同志なのよ。なんせその場を提供したのは人間の貴族なんですもの」

「はっ、化けの皮が剥がれたな! 人間だと!? あんな奴らの事を信じられるって奴がどこにいる!」

「ここに二人いるわ」



力強い言葉に、誰もが押し黙る。



「貴方達の思っている欲望に塗れた人間が、ハイエルフを奴隷にして何もしないなんて言われたら信じられるかしら? でも事実、彼はこの子に何もしていないの」

「「「…………」」」



あまりの衝撃的な言葉に一同揃って驚いたようにポカンと口を開け、思考が停止する。

その中で一人、何もしていないという言葉を聞いて憮然とした妹分に小さく苦笑し、ルツィアは続けた。



「私達を助けてくれたのは、人間の貴族。彼が全ての絵図を描いて革命軍を発足し、私達を送り出したわ。子供の頃から商業を始め、零から大商会を創り上げたのだから資金力も十分。貴族という立場を利用して、様々な事をやってくれているわ」



畳みかけるルツィアの言葉に、誰もが聞き入っていた。

停止した思考、空白となった頭の中に自然とルツィアの言葉が入り込む。

一つ一つ丁寧に疑問を誘導され、それを正面から打ち破る。

この場にいる者全員が、既にルツィアの掌の上だった。



「……だ、だが人間が裏切らない保証がどこにある! お前達の判断が正しい保証も、お前達の言う人間が裏切らない保証も失敗しない可能性はどこに!」



「彼の凄さに関しては、言っても伝わらないわね。彼以外に不可能な事を何度も達成しているけど、きっと実際に見ないと伝わらないし信じられない。何事にも失敗の可能性は付いて回るけど、彼なら大丈夫だと思っているわ。実際、これ以上のチャンスを準備できる人がいるかしら? 私達は絶対に裏切られないと思っているけど、それだって言っても伝わらないわよね? でも実際、裏切らない保証ならあるわよ?」



「それは…………?」



誰もがゴクリと息を呑み、耳を傾ける。

同盟が実現した時のメリットは計り知れないほど大きい。

絶望の中にいるからこそ、希望を見出せばそれに縋りたくなるのは自然の流れだ。

だからこそ、それを実現するための最大の保証ともなる人間の協力とはなんなのかを、誰もが知りたがっていた。



そしてルツィアは口を開く。



「だって彼、ここにいるお姫様にゾッコンだもの」

「はっ!?」

「なっ!? ち、ちがっ、っ〰〰〰〰〰〰〰〰!!」



反射的に否定しそうになったアーシェスは黙ってろというルツィアの視線を受け、仕方なしに黙る。

自分が連れてこられたのはエルフがこの交渉に乗っていると示すためだと思っていたが、人間を信用させるためだとは思いもよらなかった。



言いたい事は万とあるのだが、僅かに残った理性はルツィアの交渉に口を出すべきではないと告げる。



「いや、だが確かに…………」

「エルフは鼻持ちならねえけど、確かにあれなら……」



誰もが一度は目を奪われる美貌だ。

鼻持ちならないエルフの中でも、その頂点に位置するハイエルフ。

そんな存在に対して、鼻を明かしてやろうという気持ちをもった者も少なくなかった。だが、それ以上の衝撃を受け、言葉を失った。そんな小さな思考など吹き飛んだ。ただただどうしようもなく、魅了された。



本人は知らず呟いただけなのだろうが、鋭敏な聴覚をもつこの場にいるものなら自然と声が聞こえてしまうものだから、アーシェスは耳まで真っ赤に染めて俯いてしまう。



「…………くく、クククク、ハハッ、ハーッハッハッハッハッハ!!」



それとは別にもう一人、俯いて肩を震わせていたダークエルフが顔を上げるや大声で笑い出した。


それは先程、ルツィアと最初に遭遇したダークエルフだった。



「いかん……駄目だ。なんだそいつおもしれえな! ああ、なるほど。恋は堪んねえよな、あれは駄目だよどうしようもねえ」



アーシェスは両手で顔を覆っていたが、もう限界だと姿を見られないようルツィアの背後に回り、聞きたくないとばかりに両耳を自らの手で覆う。密かにルツィアの背中をおでこで叩くが、弱々しい抗議など完全に無視されていた。



「しかもそのために反乱起こそうってんだ。いいなそいつ、男じゃねえか。いいぜいいいぜえ、俺は乗ろう!」

「「戦士長!?」」



各所から声が上がる。

身のこなしから只者ではないと思っていたが、どうやらかなり立場の高い者だったようだ。



「お前達も自分の意思で決めろよ。つーわけで長老方、悪いけど俺、行くわ」



あまりにも軽いノリに、思わず唖然とする。

だがこの中で最も早く気を持ち直した長老が、声を上げた。



「ならん! 戦士長たるものの立場を忘れたか!」



引き止めるのは道理、ここで一人の脱退を許せば、後は雪崩のように歯止めが利かなくなり、ここのコミュニティが一気に崩壊してしまうのは目に見えている。



「戦士足る者、同族を守るために~って奴だろ? だから今から、多くの仲間を救いに行くんじゃねえか」

「ぬぐっ!?」



慌ててとびだしただけの言葉に、説得力は宿らなかった。

むしろ反論を受け、更なる劣勢に立つ羽目になった。



「死にゆく者なら無理に冒険する必要はないものね?」

「……なんじゃと?」



そこで続く横槍。

長老達から険しい表情で睨みつけられても、ルツィアは未だ涼しげなまま。



「事実よ。私達若者は、何十年と生きなければならないの。貴方達老人は数年程度が安泰ならそれでいいけど、私達はこれから長い間、人生の保証がいるのよ。それは、今の環境で坐したまま得られるほど安くはないの」

「「「そうだそうだ!」」」



ルツィアの言葉に、聴衆の意見は二つに分かれる。

そう、たとえ同族とはいえ、余所者であったはずのルツィアに、既に味方がいたのだ。この場の空気や一連の流れはそれほどまでに、彼女の立ち振舞いや論に宿った説得力が浸透していた。

冷静さを失い、感情と理で訴え、知らず同調させていく。気づけば、敵地は味方で溢れていた。

それも多数決をとれば、圧倒的に勝利するほど、数に開きがあった。



もはや決定的に、議論の天秤は傾いた。

イザークが欲しているのは戦力であり、戦力とは若者である。

無論、長い年を生きた者の経験を否定はしないが、ルツィアは同族故にダークエルフを良く理解していた。今の革命軍に、その手の者は害になる可能性が高い、と。

何より、老人だけで生きていけるほど甘い世界ではない。



老人は知恵を出し、若者は体を使う。それは古今東西のみならず、ほとんどの種族の間で共通認識でもある。だからそこを攻めるのだ。若者全てを敵に回せば生きていけなくなるかもしれない。その可能性が頭を過ぎれば、最終的に老人は否応なく味方するより他にない。

多少の軋轢を生まないわけではないが、それでも危険な事をさせるわけではないし真っ当に生きて行く糧も得られるのであれば、すぐに不満もなくなるだろう。



イザークをして戦士ではなく参謀に欲しいと思わせたルツィアの知性は、更なる磨きをかけ続けていた。





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