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異世界における革命軍の創り方  作者: 吉本ヒロ
3章 12歳、学園編
87/112

酒宴

本日二話目です。

元々前話で終わる予定だったドワーフ編をちょっとお盆仕様に伸ばしただけですので、短いのはご容赦を(´・ω・`)



ジェナスが目を覚ましたのは、日が暮れ始めての事だった。

半日は寝ていた事になるが、それでも尚、限界まで酷使した体は疲れを残している。

とはいえ、起きた時には既に大勢のドワーフに囲まれ、話をねだられたとあってはさすがに二度寝するわけにもいかない。外の情報を知り、革命軍への理解を深めることは勿論、まだここの入り口には道中の護衛としてついて来た者達もいる。それに予定ではとっくに数十人の商隊を装った輸送部隊もここへ来ているはず。



待ち惚けさせるのは悪いし、ここの守備部隊とも良くない緊張状態を続けさせれば何が起こるか分からない。

だが――



「お前さんの言う人間の話を聞かせてくれんか?」

「たしかに。それは俺も気になってた」

「おう、お前さん程のドワーフが惚れこむ程の男、随分と凄い奴なんじゃろうな」



ずっと変化を待ち望んでいた彼らが、革命だなんて愉快極まりない餌を与えられればどうなるかは言うまでもない。

だが、この言葉にはジェナスも気を良くした。

自身が認められたという事。そして、ひいてはその自身が認めた男が認められたという事。

それが分かったから、思わずその大将(おとこ)の事も自慢してしまいたくもなるというものだ。



「アイツはスゲエぜ。人間でさえ驚くような物を開発し、巨万の富を得た。幾つか気になったやつを俺も試したがその中の一つ、蒸留酒なんて酒を飲んだ時には驚いて酒を噴きそうになっちまったほどだ」

「「「なんと!?」」」



酒を噴くとはドワーフの諺で、それほど驚いたという意味だ。

それを言葉通り体現してしまいかけたというほどなのだから一体どれほどの酒なのか。これを聞いたドワーフの興味はその蒸留酒に津々だった。



「僅かひと瓶の酒で酔えるなんて思ってもみなかったな」

「なんじゃい、お前さん下戸か?」

「わはははは、ドワーフたるもの、樽で飲めるようになってこそ一人前の大人というやつじゃ!」

「そうじゃそうじゃ!」



早速出来た良い酒の肴を口々に笑う。

酔っ払いに話題の提供をしてしまえば、こうなることは目に見えていた。



「いや、あれはスゲエ。今までの酒は水でしかなかったんだ。あれこそが酒というやつだ」

「「「……ゴクリ」」」



その言葉に、誰もが知らず唾を呑む。

ジェナスを笑い者にしようとした空気など一瞬で吹き飛んだ。

水を飲んでも渇くばかりで物足りない。酷い者になると手が震えるほどの禁断症状に苦しんでいたドワーフは、もはや忘れかけた酒の味を思い出した。ましてその酒を超える、本物の酒があると言われれば、飲まずに死ねるわけもない。



「と、ところで若いの。その、酒は……あるのか?」

「お、おう。まあお前さんが下戸かどうか、その酒を飲んでみるまでは……のう?」

「あ、ああ。まあやはり、自分の身で試さなきゃ何も言えんわな?」

「うむ、経験する前から大口叩くなど、年長者にあるまじき振舞いじゃった……ちら」

「おいおい、まずはリハビリからだろう? 普通の酒だが、樽で持ってこさせた。そっちの酒は後にしとけ。いい加減ここに着いてるはずだから、余計な話は飲んでからだ!」

「お前さん、若いのに中々分かるじゃねーか。おうお前ら! やるぞ!」

「「「おう!!」」」



イザークが見れば、いくら同族が持ってきたとはいえ、あまりの警戒心のなさに呆れ果てただろう。

というか良くここまで持ちこたえたものだと、むしろ呆れを通り越して感心するほどの光景だった。が、幸か不幸か、種族の説得は相談こそ乗りはしたものの、各々に一任してあったため、詳細を知る事はなかった。

だがまあ、その程度の事に気が回らない程にそれを欲するという点で、酒は間違いなく彼らにとって命の水だった。





ドワーフの戦士を象徴するものとして、その近接戦闘における固さと怪力は種族を超えて誰もが知る所であるが、その戦士の嗜みについては意外と知られていない。

だがしかし、ドワーフとして育った者ならば男女の区別なく、子守唄のように聞かされてきた言葉がある。それは――




「おっしゃ来いやァッ!!」

「おらあッ!」




――酒と喧嘩は戦士の嗜み。

剛腕が唸りを上げ、挑発した男のドワーフの頬を捉える。が、そんなものは効かんとばかりにガッハッハと豪快な笑い声を上げ、お返しとばかりに腹を殴る。

酔いが回っていない時はまだ、腕相撲などで済む事もある。だが、段々と酔いが回り、場が温まればそれで済まない。周囲は良い肴とばかりに囃したて、ノックダウンと同時に殴り飛ばされたドワーフに巻き込まれた者が自然次の挑戦者となる。



そんなエンドレス状態が続く酒宴は終われば毎度死屍累々となるほどで、馬鹿な男達をしょうもないとばかりに女が世話をするのもまた、ドワーフの文化であった。

しかしそれにしても、今回の宴は度を超えて酷いと言えよう。なんせ数年ぶりの酒に、ジェナスの成し遂げた偉業。そして大反攻という希望が齎されれば、誰もが抑圧されてきた反動で羽目を外したくもなるというものだ。



高さ一メートル五十センチ、直径五十センチはある大樽が次々と空けられ、早く次を寄越せとがなり立てる。余裕をもって持ってこさせた酒が底をつくのではないかと心配してしまわなければならないほどの勢いで、正しく底なしのうわばみ集団だ。

あまりにも騒がしく、いつの間にやら門衛までもが全員参加するというあまりにも無防備な状態で、酒宴は早朝に及ぶまで続いた。


無論その中には主役でもあるジェナスの姿もあり、しかしさすがに早々とノックダウンしたのも仕方がないだろう。



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