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異世界における革命軍の創り方  作者: 吉本ヒロ
3章 12歳、学園編
84/112

フィランデール大森林2

お待たせして申し訳ない。

ようやくある程度は以前のように書けるようになってきました^^;

この後もう一話投稿します。




「こちらです」



助けだしたエルフの三人のうちの一人、ユティの案内にアーシェス達は従う。ハイエルフの自分と人間である彼らが気になるのだろう。

何を話せば良いのか。

そんな多分に戸惑いを含んだ視線をチラチラと向けられる。

だから安心させるようにそれとなく話題を振りながら、これから行く場所の雰囲気などを事前に掴む。



そんな事をしている内に辿り着いたエルフの隠れ里で五人を迎えたのはやはり困惑、戸惑いの声と怯え、そして恐怖からくる威嚇だ。

次々と集まるエルフの構える弓。

無論その構えた弓の照準はアーシェスや救出したエルフ以外の四人に向いていたが、その反応も予想の範疇だったため、アーシェスとエルフの三人が庇いだてするように立ちふさがり、辛うじてながらも小康状態を保っていた。

とは言え彼らも混乱している。

いつ矢が放たれてもおかしくはないという中、未だ次々とここへ集まるエルフの中から一人の年老いたエルフが慌てて歩み出た。



「皆の衆、一度武器を降ろせ!」



その言葉で躊躇いがちながらも弓は降ろされ、照準は地面を向いている。しかし弦は引かれていないが、いつでも放てるよう矢を番えてはいる。この状況が続けば、万が一にも同胞の三人とハイエルフであるアーシェスに中る危険性を危惧したものだった。

エルフは基本的に、肉体的な全盛期の十七~二十二歳程の間で成長が止まる。しかし、それは人間にとってインパクトが強いからそこの噂だけが広がったに過ぎず、個人差はあれども五百歳を超えた頃から再び体は成長し、まるで今までの反動といわんばかりに、十年ほどで老衰するとされている。



彼もまた、その中の一人だった。

深いしわが刻まれた顔は、もうそれほど長くはないと察せられる。



「まずは生きてハイエルフの血を引く御方に再びお会いでき、恐悦至極にございます。もはや血は絶えたとばかりに思っておりました」


そう言ってエルフの老人は深々と頭を下げる。

それに倣い、周囲もまた、遅れながらにゆっくりと頭を下げる。が、しかし多くはまだ人間に対する警戒心が強いため、頭を下げながらも視線をそらさず、不格好なおじぎとなっているが。



「それと、皆の衆がとんだ御無礼を……」

「よい、急に来た以上、それも人間を引き連れているのじゃから、皆の反応は当然じゃ」

「寛大なお言葉、ありがとうございます」




エルフはおよそ五百年を生きるがハイエルフは例外で、最低でも千年を生きるとされている。今まで確認された中には三千を数える者もいたと言われているのだから、自然を強く崇拝するエルフにとって種を超越したその存在に対し、偶像(かみ)に対する崇拝にも似た感情を抱くのもまた、当然の帰結ともいえるだろう。



「聞きたい事は色々とあるじゃろうが、時間がもったいない。そして、今これほどの数が集まってくれておるために都合が良いので、本題から入るのじゃ。妾はアーシェス。アーシェス=シェラード=ユグドラシル。恐らくは最後のハイエルフじゃ。今この苦境に立たされ、このままでは滅びゆく我が一族に告げる! 妾が提唱するのは一人の人間を筆頭とし、全種族が対等に同盟を結んで人間に立ち向かう反乱――革命じゃ」

「「「なっ……!?」」」



ここにいる誰もが言葉を失う。

今の発言を理解するには、言葉こそ簡単でありながら難しい。

途方もない何か、自分には理解の出来ない高い次元での出来事めいて、しかし他人事ではない事実。



隠れ里にいる亜人の扱いに関しては孤児の者達でさえ、多くはあくまでイザークの私設部隊。亜人種の力を生かした、切り札的な少数精鋭の部隊であると思い込まされている。そんな中、ほんの一握りながら薄々と亜人による亜人のための部隊であると、革命までは結びつかなくとも、一歩踏み込んだ思考が出来、真相に近づき、それでいて信頼出来る者を選んできた。

共に過ごしたという体験、受け入れるだけの素地がある彼らをして、真相を明かされた時の驚きは生半なものじゃなかった。



ならばここにいるエルフ達の驚きはいかほどだろうか。

人間という種が共有する価値観に反旗を翻すという事は、人間種そのものを敵に回すと言っても過言ではない。だというのに、それを人間が提唱し、他の人間の協力を得て果たす。そのバカげた発想、そして重みは如何ほどか。何より性質の悪い事に、それを、目の前にいるハイエルフの少女は伊達や酔狂ではなく本気で信じているという事。

そのまま周囲のエルフが言葉を失ってどれほど経ったか。徐々に周囲は騒つく中、それでもアーシェスと向かい合う老エルフは黙したまま。そこから更に数分が経過し、ようやく一方が口を開く。



「その……アーシェス様。失礼ながら、人間に立ち向かうというのも、全種族との同盟というのも、実現出来るかどうかという点はともかく理解できます。しかしその……人間を筆頭というのは、どういう事なのでしょうか?」



そう言って、ちらちらと護衛として付いて来た三人に視線をやる。



「他の種族との連携は? どうやって同盟を締結するというのですか? 全て上手くいったとして、本当に勝てるのですか? いやそもそもそこのダークエルフはともかく、いや、ドワーフでさえ上手くいかぬ可能性は高いというのに、人間は……」



一見質問攻めでしかないが、それでもこの状況で最低限要点を纏めて話せるだけでも、まとめ役の面目躍如といったところだ。

そう言ってここまで護衛役として、そして何より、道中の人間の目を欺くため共にしてきた彼らに露骨に視線をやる。

人間不審になるのは良く分かる。

自身も最初はそうだった。今もまだ、全てを信頼出来るほどじゃない。ただ気付いたのだ。信頼出来る人間は確かにいて、全ての人間が無条件で敵などではないと。あの例外とも言える人間との関わりで、先入観や思い込みはなくなり、現実が理解出来た。

たしかにそれは少なくて、たとえイザークの配下だからといって無条件に全員を味方だと言えるほどではないけれど。

それでも確かに、少数ながらそういう人間もいるのだ。



「妾はどうやってここへ来たと思うのじゃ?」

「それは……」



言い淀んだのは、現実とは思えないから。

合理的に考えればそれ以外ありえないのに、しかしその答えは認めるにはあまりにも突拍子もなく、そして感情としても認めるわけにはいかないものだからだ。



「そうじゃ。彼らが護衛として他の人間の目を欺いたからじゃ。そして、一度捕まり、奴隷に落とされた妾を買った人間が妾達を鍛え、自由を勝ち取るための力を貸してくれておる」

だから答えを待たずに続ける。

「ここに来る時、彼らが裏切れば妾は何の抵抗も出来ず、再び奴隷になっておったはずじゃ。彼らもまた妾達と同じ主に仕え、共に戦う同士でもある。主は……あ奴は人間の中でも、いや、どの種族のどんな者よりも賢く、誇り高く、そして優しい。本当に甘い奴なのじゃ」

「「「……………」」」



ふっと、アーシェスは軽く息を吐く。

堪え切れなかったが故に零れた小さな笑みは、まるで仕方のない子供を見るようなそんな笑み。そこで緊迫した空気が一瞬で解き解れる。相手の事を理解し、種族など関係なく心から信頼している様が誰の目にも分かる。

だから誰もが声を失った。

そんな人間もいるのかと、アーシェスがこうしてここにいる事を拠るべき証とし、その言葉を信じたのだ。



「そう遠くない内にこの森におるダークエルフとの同盟の締結、そしてドワーフ、獣人の者を数人程連れてくるつもりじゃ。彼らと交流すれば、色々な事が分かるはず。このまま隠れておるだけでは駄目じゃ。自ら戦い、自由を勝ち取らねばならぬ」

「ですが……」



言うは易く行うは難い。

そんな事は誰もが分かっている。

アーシェスの口から語られる理想論は、あくまで理想。現実的に考えてしまえば、困難な事案が山積みだ。

それに、アーシェスの事を感情(こころ)は認めても理屈(あたま)ではまだ認め切れていない。

今もじわじわと種族の数は減り、先細っていく。かといって一斉蜂起した所で、実際に人間を打ち破れるとは思えない。少しでも長く生きながらえるべきなのか、あまりにも分の悪い賭けに出るべきか。誰もが答える事の出来ない問いであった。



「今はまだ良いのじゃ。人間はまとまっておらぬ。十年前に国を挙げ、各地で突如として行われた奴隷狩りからそう年月が経っておらぬから、今は充分な数がいて、大規模な奴隷狩りが行われてはおらぬ。じゃが、なんらかの理由でこの国が安定した時、隣国の帝国に攻め滅ぼされた時、人間は必ずやる。このままならばいつの日か必ず妾達エルフを根絶やしにするのじゃ」

「「「…………」」」



誰に言われるまでもなく、誰もがそうなるだろうという予感を胸の内に抱いている。

アーシェスがそれを断言した事で、心の奥底に押し込めていた不安は急速に膨れ上がる。

その言葉が不安をあおり、そして縋るものなど他にないと少しずつ彼らの意識に刷り込まれていく。



「じゃからこそ、戦うしかない。それはエルフだけではない。全ての種族が団結し、人間の圧政に立ち向かわなければならぬ」

「…………」



それでも返答出来ないのもまた、無理はない。

それもここまで案内させるための罠ではないのか。

裏を考えればキリがない。そして、人間を信用出来るだけの材料を未だ持ち合わせていない。

だから信頼させるのだ。

人間ではなく、指揮官としての自分自身を。



「――全ての準備は出来ておる」



口火を切ったのは、有無を言わさぬ一言。

そこに全てが集約されていた。

覚悟、信念、そして確信。



現在(いま)よりおよそ五年、ここに隠れ潜み続けるために必要な物資の援助、安定した生活のための食糧、情報の支援。そして、誰一人として人間に捕まらぬための戦術も」

「なんと……」

「それは一体どのような!?」



堪らずに、他のエルフからも声が上がる。

それは誰もが望んだ事だった。

楽ではない暮らしで、食料の余裕はない。

今も少しずつ捕獲されて数を減らす同胞。今朝挨拶を交わしたのに、もう顔を合わせる事のない同胞。そんな事が起こる度、胸を痛めつつも仕方のない事だと諦めていた。

そんな想いをしなくていいと言われてしまえば、藁にでもすがる思いで期待してしまうのも無理はないだろう。



「ゲリラ戦術じゃ。これもまた、その人間が編み出したもので、これさえあれば少なくとも十年は完璧な拠点防衛を成し遂げるはずじゃ」

「ゲリラ戦術……ですか?」



聞き覚えのないそれに、長老は首を傾げる。

しかしイザークに直接教わる事で具体的なビジョンを知っているアーシェスは、確かにこれこそが最良であると認めていた。かつての米軍を苦しめたそれを、装備、戦術、知識といったあらゆる面で未発達な世界でやればどうなるか。

これさえ上手くいけば確固たる実績とし、エルフを率いる者としてアーシェスの地位は確立できるだろう。



エルフとて馬鹿ではない。

今まで確かに、言葉は知らなくともゲリラ戦術染みた戦い方をしてきた。が、それはあまりに少数かつ散発的で、初歩とも呼べない程にお粗末な、あまりにも統率のとれていないやり方だった。

捕まってはいけない、発見されてはいけない。それは即ち死ぬより酷い目にあわされる事と同義だ。

その恐怖が、彼らの思考を凍結し、柔軟性を失わせた。逃げの一手か自棄になって逃げずその場に留まって立ち向かうかだけの手しか打てなくしてしまった。

だから大した効果を上げる事が出来なかった。だが――



「迷彩服を始めとする装備、多種多様な罠、そして指揮。徹底して敵の戦意を挫き、エルフの長所を生かして一方的に攻撃を仕掛ければ、妾達が負けるはずなどないのじゃ」



ここで積極的な防衛策が打ち出される。

元々木から木へ跳び移ることも頻繁にあったエルフではあるが、やはりそれとて限度もある。だからこそ滑車を利用した立体的な機動防御、足を止める物から必殺の罠まで、あらゆる手段を講じ、各所に監視所とキルゾーンを作り出す。



「この状態を保ち続ければたとえ敵が十倍の軍勢であれ負けはしない。必ず、の」

「で、ではずっとそうしていれば――」



確かに言いたい事は分かる。

この森の広さを勘案すれば、間違いなく長期にわたる防衛は可能だろう。数十年、もしかしたら数百年はもつかもしれない。だが――



「人数に任せて森の外延部から木を切り倒して少しずつ進むか、森に火を放つか。或いはもっと膨大な数で文字通り押し潰すか。それらの方法で、この作戦は破綻する。それをするのもまた、人間じゃ」



そんな不条理ともとれる力技は、しかし現実のものとされれば対処は困難な事態になると容易に理解出来る。

あり得るのならばいつか必ず起こり得る。

どのエルフも希望的観測でアーシェスの言葉を否定しながら、しかし頭のどこかで理性は判断を下した。長い間生きてきたエルフだからこそ、人間の急速な成長と加速度的な人口の増加は嫌というほど理解しているのだ。



「……分かりました。もとより王族である貴女様が仰る事です。従いましょう」



その理路整然とした言葉。王族として生まれ、将として育ち、今まで少ないながらも同族を率いてきた事で培ってきた、革命軍の中でも群を抜いて高いカリスマは、圧倒的な説得力としてここにいる者らを説き伏せる。

まずは多くのエルフが集う、この森の奥にある現在の首都にあたる場所で同じように説得する事。次いで同じ森に住まうダークエルフとの同盟の締結、そして、実戦においての結果。



それが残された課題だ。

だが、ここでのやりとりで得た感触から、先の二つはそう難しいものではないはずだ。

後はただ、実戦。それも初戦における完璧な成功を成し遂げるだけだ。

幾ら策を練り、隠れ里で何度もシミュレートして実戦における齟齬を失くしても、やはり不安というのは少なからず拭えない。



自分一人ではなく、力量を把握しきれていない複数人同士の戦いであり、小さなミスから全てが崩壊する可能性を知っているだけに、その手の不安は嫌でも付き纏う。だがそれでも、ルツィアがいてくれる事は大きな安心材料になるし、不安を見せる事も許されない立場にいるのだ。

もはや突き進むより他に道はない事くらい、革命に賛同した者なら誰もが理解している。

内心の危惧は表に出す事なく振り払い、歩みを進めた。


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