先生
短めなので早めの投稿です。
それと諸事情あって、本来なら数か月先の予定でしたが、新作をこちらの方へもアップしました。(詳細は活動報告にありますが、面倒でしたら色々あったんだなあ、くらいに思ってくださいw)
よろしければ目を通していただけると嬉しいです。
http://ncode.syosetu.com/n4639de/
(本日分は朝7時が予約投稿の最終便です)
「せんせー!」
子供の元気な声が聞こえ、彼は振り返った。
「カイン、ベラト、今日も元気ですね。他の皆さんはどうしました?」
「先に川に行ってるよ。せんせーも行こーぜ!」
「さて……、大人には大人としての仕事があるのです。皆さんには申し訳ないですが、子供は子供だけで遊びなさい」
と、一見冷たく断っているがその声には温かみがあり、そして子供達も先生に対して萎縮も遠慮もしない。
「えー、でも皆言ってるぜ、せんせーは色んな事知ってるけど、仕事だけはしてないって。宝の持ち腐れだって」
その子供特有の素直さに、思わず苦笑してしまう。
だが、今こうして会話するのもまた、自身の仕事の内なのだ。
「何もしていないように見えて、意外としているものです。さあ、子供はもう行きなさい」
「ぶーぶー、せんせーのケチ!」
「ずるいぞ、せんせー。いっつもそうやって煙に巻く! たまには俺達と遊んでくれたっていいだろ!」
「たまになら相手してあげてるじゃないですか。今の私は忙しいのです。さあ行った行った、私なんかに関わっていると、君達の遊び時間が減りますよ?」
「ふーんだ、せんせーのバーカ!」
「年中暇人のくせに!」
と、文句を言いながらも駆けだした。
いつまでもこんな場所で時間を潰し、遊び時間が減るのは嫌なのだろう。子供らしく、そして分かりやすい。だからこそ、自分としてもやりやすくあるのだが。
この先生と呼ばれる人物は、実に不思議な人物だった。
どこからか来た、素性も知れない流れ者。
そんな者が村の外れに居つけば、村人達が警戒を強めるのも当然だろう。だが度胸試しにと近づいた子供から人当たりの良い性格で好かれ、徐々に大人達も彼の人格を認めて行った。
若くして村人では集団で立ち向かっても多大な犠牲が出たであろう魔物を相手に一人で立ち回り、勝利した事。多少ながら医学にも精通し、薬草を用いて村の病人やけが人に対して薬を処方した事。
それらを無償で行ったからこそ、よそ者だった先生の地位は一気にゆるぎないものになった。
商人以上に、読み書き算術が達者な事。どこかの街の人間が定期的に訪ねている事。
その学の高さから貴族の落胤ではないかとも噂されていたが、結局、何一つとして分かった事はない。
ただ、あっという間に村の顔役の地位を築き上げ、村に溶け込んだ手腕は、客観性を持った人間が見ていれば見事と言うほかない。
周辺の村からも、評判になったその先生にわざわざ会いにくる程だ。
もしその先生自身が、自分は学などあるはずもない孤児の出身だと言ったところで到底信じてもらえはしないだろう。
親の庇護下にあるのが当たり前だと思い、今の生活を送っている彼らのような存在を見ると昔は殺してやりたいほど恨んでいたものだが、今は心にさざ波一つ立たないのだから不思議なものだ。
過去の自分は、今の自分をちっとも予想出来なかっただろう。
それくらいに、自分は変わった。
変えられたというべきだろうか。
あの人が悪いのかお人好しなのかも分からない変な主と、家族のような仲間のせいで。
村人だけでは犠牲なしでは勝てず、しかし自分ならば一人でも勝てる魔物を仲間の手を借りてここへおびき寄せた事も、誰にも気付かれず数人に毒を盛り、村にいる医者もどきでは手の施しようがない状況で解毒剤を用意した事も、全ては自作自演。
痛む心もないわけではないが、それでも必要なら躊躇わない程度のものだ。
もしそれが必要だと言われれば、そして自分もまたその必要性を認めれば、この村の住民を皆殺しにする覚悟もあるのだから。
しかしそれにしても、当初の予定通り信頼を得てしまえば、あとは大した事をする必要もないため、退屈なのも事実。
あの悪ガキ共と一緒に遊ぶのもまた、悪くはないだろう。




