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異世界における革命軍の創り方  作者: 吉本ヒロ
3章 12歳、学園編
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楽しい実験





最近になってようやく多少は慣れてきたとはいえ、エミリオにとって、と言うより、ここを知る誰にとってもこの場所は鬼門であった。

広大な森の、それも深い位置にありながら魔物は寄りつかず、念の為に配備してある護衛さえ護衛対象から一キロもの距離を置く。そんな場所へ行かなければならないのは、主であるイザーク直々のご指名に他ならないからだ。



尤も、連絡係など自分でなくとも誰でもこなせる内容なだけに、エミリオとしては自分に対する単なる嫌がらせだと思っているが。

簡素な掘っ立て小屋の煙突からは妖しげな煙がもくもくと立ち昇り、今もその中にいる人間が稼働中なのが窺える。

分厚い布で口元を覆い、扉を開ける直前で息を止め、目を瞑って扉を開け、全力でその場から距離を置く。

その瞬間、まるで爆発したかのようにその小屋の中に充満していた煙が逃げ場を求めて外へ飛び出した。



どこか遠くで鳥達が一斉に飛び立ち、人間などより遥かに重い体重の生物が一斉に移動する音を捉えたが、エミリオにとってそんな事は些細な事。

幾度となくシミュレーションし、訓練を重ね、生存本能が最大限に発揮された結果、エミリオは想定通りに完璧な退避を実行してみせた。

そして不思議で妖しい煙が出なくなった頃、ようやくゆっくりと、慎重に中へ突入を開始した。







「……できた、出来たぞぉおおおお!! ああ……何たることだ、あの御方の発想とこの私の開発で、次々と人類の歴史が変わっていく! ああエミリオ君、丁度良い所に来た! さあ、早くこれを使って試してくれたまえ!!」



「ワイバーンの皮膜とジャイアントスパイダーの糸をメインに使って作られた自信作! ほんとご主人様ってば、もう発想がすっごいよね! 普通こんな事考えるわけがない! もう正気じゃないわよ! ほんと大天才!!」



こんな物を実際に作ってのけるだけでなく、容赦なく使うよう強要するこの二人も正気じゃない、などという言葉は、さすがのエミリオでも言えない。

たとえ相手が狂人でイカれた科学者であっても、今まであれだけ常識破りのあのイザークが発案した事でさえ半信半疑になってしまうような、制作が失敗していれば死んでもおかしくない羽目になるとしてもだ。



というかなんで裁縫染みた事をしているのに、あんな煙が出ていたのか等疑問は尽きないが、会話が成り立たない事も深入りする事も悪い結果しかもたらさない事を嫌というほど経験したから、敢えて何も聞かない。

この二人の扱いはもう学んだのだ。



とにかく極力関わらない事、これに尽きると。



ドワーフが掘ったその小屋の地下には、小屋の何十倍もの広さと王都のギルドをも上回る程様々な魔物の素材が収められている、地上にある小屋からは想像もつかないようなほど立派で広大な地下室がある。

これらは科学技術がなくとも、素材そのものがそれすら上回る可能性を秘めているからこそイザークが金に物を言わせて集めさせた物であった。

事実、今まで使い道がなく、廃棄されていた魔物の素材の使い道を新たに見つけて道具に変えた事も多くある。



それら皆、やはり常人には思いつかないような突拍子もない事ばかりだったが、今回ばかりはそれに輪を掛けて突拍子もない事だから、思わず文句の一つも言いたくなるものだ。



……だがまあ確かに、これが言われたとおりの物ならば、これを使われて意表を突かれない人間などいるはずがない。


故に最重要機密として扱う理由も分かっている。

分かってはいるのだがーー


「さあ行こう! 早く、今すぐ、早急に!」

「そうよ、世紀の大発明が正しいという実証を! 私とご主人様の愛の結晶である子供に陽の光を!!」

「おいおい、リノったらおっちょこちょいなんだから。父親である僕を忘れてもらっちゃあ困るな。主であるイザーク君と僕とリノ3人の、だろう?」

「やだなお父さん。今回これを開発したのはほとんど私だよ? 裁縫の分野で役立たずだったんだから、正真正銘この子はご主人様のアイディアという種を受け取って、私が育て上げた、二人だけの子供だよ!」

「…………」

「…………」



沈黙が支配したのは、一瞬の事。

睨み合う二人の間に火花が見えたのは、エミリオの錯覚か。



「だいたい、リノはいつもどこか抜けてるんだ! いつもいつも肝心な部分をおろそかにして、この前の薬の開発の時だってマンドレイクの粉が多すぎて失敗したじゃないか! エミリオ君の脈が急速に弱ったから、あの時はもうダメだと思ったんだよ!」



「え、あの時ってそんなにヤバかったのか? 確か起きた時、単に眠り薬だったって言われた気が――」



「お父さんだって一度研究に没頭したら周囲の事に気が向かないから、耐性のない人だと死に至る毒を嗅がせてしまってたんだよ! あの時なんて、私が後でこっそり解毒剤飲まさなかったらエミリオさん死んでたんだよ!」



「え、うそ、それいつの事? それいつの事!?」



まさかやけに目眩が酷かった時の事か? それとも、過労がどうとか言ってた時の事か? イザーク、お前のせいにして悪かった。謝るからこの二人の当番変えてくれ!



「リノだってまだまだ失敗した事はたくさんあっただろう。確かあの時だって――」

「失敗こそ進歩の礎だって言ってたのはお父さんじゃない!」

「それにしたって、状況や内容次第だ!」



思い当たる節がありすぎてどれか分からないが、ともかくこの親子は俺の言葉を聞いてくれないだろうか。



「そんな事はどうでもいいから、とりあえずやるなら早くしてくれ! こっちはもう覚悟決めてんのに、逃げたくなってくるから! これ以上聞きたくないから!」



「「良くない!!」」

「…………」



……もうやだこの親子。

科学者として譲れないのか、単なる中年オヤジの嫉妬なのかはともかく、さっきまで強引にさせようとした実験そっちのけで口論を白熱させた



「普段私が裏方の仕事したり、こうした苦手分野で手伝ってなかったら生活もままならなかったくせに!!」

「うっ、確かに親として養わなければならないのは分かっているが、しかし科学者としては――」

「お父さんなんて大っきらい!!」

「はうっ!!」

「エミリオさん行こ」

「いや、あの……」




世の父親が、娘に言われて最もショックを受ける事を言われ崩れ落ちる父親を放って、リノに手を引かれながらエミリオはこの小屋を後にする。



だが結果、この後の発明品を使用した実験で今日もエミリオは何度も死にかける羽目に陥った。

仲間であり、部下でもある他の連中も将来的には使用する事が決定していたが、しかし試作段階では決してエミリオと視線を合わせようとせず、またさすがに命令するのも気が引けたために、その苦労は全部エミリオが背負いこむ事になった。



だからせめて報告書でくらい、こんな状況を作り上げた元凶であるイザークに対して嫌味を書いても問題ないだろう。



あれこれ考え、イザークに対する皮肉として結果、最も適当な言葉を思いついたから勢いもそのままに、報告書の最後に書きなぐった。




――サンプル完成。これより自殺の訓練を始める、と。





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