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異世界における革命軍の創り方  作者: 吉本ヒロ
1章 5歳、革命決意
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約束

次からようやくまともに動き始めます^^;

誤字脱字があれば教えて頂けると助かります。





「シエラ、入ってもいいか?」



 約束通り、朝食を食べてすぐにシエラが泊っている宿屋へと向かい、部屋の前でノックと共に声を掛ける。


「あ、はいっ!」


 何時頃来るとは伝えてなかったのだが、驚くほど即座に返事が返ってきて、次いで慌てて駆け寄るような音がし、ドンッ、という何かが扉にぶつかったような音がする。


「あうっ!?」


「…………」


 まるで慌てて扉を開けようとし、引かなければ開かない扉を勢いのままに押し開けようとしてぶつかってしまったかのような、聞いているだけで痛くなりそうな音。


「……………………あ、あの……お待たせしてすいません……。もう大丈夫です……」


 何かを堪えるような声を聞いて恐る恐る扉を開けてみると、おでこを押さえて蹲るシエラがいた。


「…………待ってました……。来てもらって、嬉しいです……」


 おでこの上においていた手は、まるで縋りつくようにイザークのズボンを握り、うる目で見上げる。

 腫れてはいないようだが、おでこが赤くなっているのが痛々しい。それを見て思わず、おでこに触れるか触れないかの所で優しくさする。


「昨日は悪かったな」

「いえ…………約束通り、来てくれましたから」


 つぼみがゆっくりと花開くように、はにかみながらも可憐な笑顔を見せる。


「…………あのだな……昨日に続いて悪いんだけど……その……昨日と大きく事情が変わってな。……本当に悪いけど、少ししか会えなくなりそうだ」


「…………え?」


 恐らくは予想だにしていなかった今の一言が信じられないと、衝撃を受けたのだろう。

 あまりこの世界の価値観に染まっていない自分の存在は、シエラにとっての救いに等しいことは分かっている。

 シエラには同情している。出来る事ならなるべく会って、話して、少しでもシエラのために時間を割くべきなのも分かっている。


 それでも、革命を起こそうと言うのだ。


 今の内からやれることは全てやっておくべきだし、そうするのなら時間は幾らあっても足りない。

 だから最低限の面倒は見るが、シエラ一人に構っていられない。


「…………い、イヤです! 言う事なら何でも聞きます! 何か悪いなら直します! だからお願い……捨てないで……。私を、独りにしないで……!」


「違う、そうじゃない! 捨てたりはしない! 少なくとも成人までは面倒を見ようと思っている。ただ、俺にはやらなければならない事が出来たから、思ったよりもここに来る時間がとれなくなりそうなんだ。分かってくれ……」

「だったら……だったら私が手伝います。何でもしますから傍においてください!」


 不安なのだろう。

 だからもしかしたらと想像し、自分がいてもいい理由を作るために必死なのだ。


「シエラ、落ち着いて良く聞いてくれ。俺がやらなきゃいけない事はとても困難で、命の危険が伴う事だ。失敗する可能性の方が高いくらいで、当然ながら失敗すれば死ぬ。無理に手伝う必要はないんだ。今後、会いに行ける時間は減るが、なるべく会いに来るし、責任を持って養うから――」


「だったら尚更です!」


 イザークの言葉を遮って、シエラが叫ぶ。


「私はあなたに救われました! ずっと独りだった……皆、敵だった……。本来なら、あの時に死んでいました! 命の危険というのなら、私にとっては生きることそのものがそうだった! ですからそれは今更の話です。今の私には何もできませんが、わがままでも、あなたの傍にいたい……。あなたに救われた恩を返したい……!」


「シエラ……」


 シエラの気持ちは、それなりに分かるつもりだ。

 それが依存からくるものであろうとなんだろうと、これだけまっすぐな気持ちを裏切ることも出来ない。

 それにきっと、今なんと言おうと、シエラが諦めることはないだろう。文字通り、なんでもする覚悟なのだろうから。


「…………分かった。教育の機会を与える。アルビノだから日光に当たるのはまずいだろう。今すぐには無理でも、将来は内政に携わって手伝ってほしい」


「あ……はい!」


 武芸に関しては自習なり適当に口の堅い外部講師を雇えばよいのだろうが、学問に関してはそもそも講師を出来る人の数が圧倒的に少ない。

 まして呪われる、なんて事を本気で信じている人の中で、講師を引き受けてくれる人はまずいないだろう。

 また、自習するにも書物自体が高価であり、自習など出来ないから、今の段階では自分以外に教えることのできる人材はいない。

 結果としてシエラの要望にも沿った形になるだろうから、その点、図らずも問題を解決していると言えるだろう。


「あまり時間はとれないが、なるべく毎日顔を出す。ただ、これない日も出てくると思うから、その時はすまない」

「いえ、それは仕方がない事なのでしょうから……。…………それと……あの……これを……」


 おずおずと、何かを堪えるように差し出したのは昨日約束の証として渡した指輪だった。

 不安なのだろう。これを返すことで、もう来ないのではないかと思う事が。

 これはどれだけ口で言った所で、きっと安心出来ない。ただ日数を重ね、傍にいる事が当たり前となるようにするしかない。


「……いや、これはまた受け取りに来るから、もうしばらくシエラが持っていてくれ」

「はいっ!」


 だから約束の証として渡しておけば、シエラも少しは安心出来るだろう。

 満面の笑みを見せたシエラを見て、間違いではない、これで良かったのだと自分に言い聞かせた。






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