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異世界における革命軍の創り方  作者: 吉本ヒロ
3章 12歳、学園編
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デート・アフター




キャリーは二人してベッドに倒れ込んでいる姿を見て嘆息した。

客人の方は着衣が乱れたまま横たわっているため、艶めかしい肢体がちらりと覗く扇情的な格好。この光景を男が見せられれば、それこそ理性など吹き飛んで、襲いにかかるだろう。



尤も、その横にいる主人だけは例外かもしれない。何せあれほどに、自分が今まで見てきた多数の美人と比較しても一番と言って良い程の美貌を誇るアーシェスが傍にいて、王都へ来る前の年から少しずつアタックをかけているというのに、未だ進展らしい進展が見られないのだから。



それでもイザーク自身多少なりとも気にしてはいるようだから、時間の問題のような気もするが。

日頃の訓練からその体躯が筋肉で引き締まっているのは知っているし、覗く横顔は貴族らしい端正なものだ。それに、庶民にさえ嫌われていた孤児達を助けてくれるほどに、対等に接してくれるほどに優しい。



彼なりに目的はあるのだろうが、それにしたって自分達は道具として使い捨てにされても文句は言えない立場なのだ。

今以上の待遇など望むべくもない。



この屋敷内に入ってからの僅かなやりとりだけで、イザークが相手としているのは自分では手に負えない人間だと理解させられた。

だが、イザークもまた決して負けてはいない。対等に話し合い、むしろ最後は結果こそ共倒れだが、お互いの目的を顧みれば勝利したと言っても過言ではないだろう。



だからだろうか。

珍しく穏やかな表情で眠っている所を見て、キャリーは優しく微笑む。

普段は毎夜遅くまで頭を悩ませ、まとまった睡眠もとれないのだ。今日くらいはゆっくり眠っても良いだろうと、優しく布団をかけた。



早朝には客人より確実に早く起こさなければならないのだから、自分は眠るわけにはいかない。何せ本人が起きている時に、あれほど貞操やらプライドやら今後の展開がマズイことになると何度も念押しをするほどなのだ。



薬を使ったとはいえ、万が一にも夜に起き出された場合の対処等を考えれば今日は寝ずの番になるが、それくらいなら仕方がないだろう。これもまた、自分なりの恩返しなのだから。







イザークが寝起きに一杯の紅茶をゆっくり飲みながら、それほど重要ではない書類に目を通していた時だった。

近くにあったベッドからゆっくりと体を起こす気配を感じ、視線をやる。それと同時に、書類をキャリーに室外へ運ばせた。



「おはようございます、先輩。気分はどうですか?」



朝日に包まれ、早々に紅茶を片手に嫌味を言う。

それから数秒後、少し考え込んで自分は負けたのだと理解したのだろう。お陰さまでこっちは最高の気分で朝を迎えられた。



「うん、悪くないわね」



が、そんな嫌味は軽く受け流される。

それも強がりではなく、本心から言っているのだと理解させられて、最高の気分に水を差された。



「いえ、惚れ直したわ。まさか私が負けるなんて思いもよらなかったから」

「まぐれですよ。と言うか先輩が油断しすぎていただけでしょうに……」



嘆息混じりに告げたのは本心。



実際、先輩が普段通りならばああも上手くいったかどうかは分からない。



「ま、私も好きな男の子とのデートで普段通りじゃなかったってことね」

「…………」



しれっと何やら言ってのけるが、あまりにも嘘臭い。



「それに、朝起きて一番にキミの顔が見られたんだもの。うん、悪くないわ」



部屋を出ておけばよかったと後悔したのは直後。勝利の余韻に浸っていたいがために犯したミスだった。



そんな考えを見通したのか、ふふっと微笑む。



やはりどうにも自分は未だに彼女の掌の上にいるようで、素直に勝利を喜べない。



「まあいいです。今日から学校が始めるのでしょうから、先輩は先に行っててください」

「あら、いっしょに――「今すぐ帰ってください」」












「それでクレスタ、感想はどうだ?」



フィオナを強引に追いだした後で、隠れ潜んでいたクレスタに尋ねる。



「……確かに厄介。でも、イザークなら勝てる」

「根拠は?」



昨日のデートを一日中尾行させ、クレスタなりにフィオナを分析してもらった。

同じターニャの弟子であり、この方面で最も能力の高かったクレスタだからこそ任せられた任務だ。



そして、その選択は間違っていなかったようだ。



正直俺ではあの人に真剣勝負で勝てるイメージが全く湧かないが、クレスタが言うのであれば一考の価値がある。期待するだけの価値があるのだ。



「……あの人はイザークの事が好きだから、そこにつけ込めばいける」

「…………は? いやいや、お前ちゃんと見てたか? あの人どう見ても俺の事を、全力を出しても壊れない最高のおもちゃとして遊んでいるだけだぞ?」



そう思ったのに、クレスタらしからぬ頓珍漢な答えが返って来たとあっては落胆するより他にない。



まるでリーズのような解答だ。……それとも長く一緒に過ごしたせいで、リーズのぽんこつでも感染(うつ)ったのか?

まったく、あのおばかの感染力にも困ったものだ。エミリオには悪いが、拠点から移すべきかと本気で考えてしまう。

ああ、いっそ、ロザンか先輩辺りに感染してくれれば文句ないのだが。



「……イザークこそ、なんであんなに真っ直ぐに言われているのに気付かないの?」

「いやいや、どう聞いても裏がありまくりだろ。絶対なんか良からぬ事でも企んでいるぞアレ」



その企みだって、少なくともドッキリなんて低レベルなものじゃない。

クレスタの言い分を認めてしまえば、それは地獄への片道切符へと即座に変貌するだろう。闇金も真っ青の悪魔との契約書にサインをしたも同義だ。

そんな俺に呆れたような視線をやるクレスタだが、こればかりはまだ先輩と付き合いがないクレスタだからこその、らしからぬミスだろう。



「それで、他に何か分かった事は?」

「……何もない。あるけど、どうせイザークも気付いてそうな事ばかりだし、肝心な所は言っても気付かない」



何やら含みのありそうな言い方だが、あの先輩が俺に対してそんな事あるわけがないのだ。



冷静になった際に恐らく本人が自分自身の勘違いに気付くだろう。だからこそ、それを前提に動くのは間違いなのだ。



「まあそういう事なら分かった。とりあえずは急ぎの用事もないし、今後しばらくは拠点に戻って教育に回ってくれ。あっちはあっちで、生徒が増えすぎて手が回らないようだしな」



王都にいればロザンと出くわす可能性もあるのだ。ロザンの部下にも顔を見られているのだから、クレスタは王都から離れた方がいいだろう。



「……わかった」



そこは、いちいち口に出すまでもなくクレスタも重々理解している。



「それじゃアイツらにもよろしく伝えといてくれ」


「……ねえ、イザーク」


「なんだ?」



クレスタにしては珍しく言いよどむような、いまだ伝えるべきかどうか逡巡しているかのような態度。




「……ごめん、なんでもないわ」

「……そうか」



結局言わないと決めたのか、言葉を濁す。

少々気になったものの、言わないと決めたのならそれが最善だと判断したのだろう。



「それじゃまたな」

「……ん」



敢えて追求することもなく、改めて別れを告げる。

それに答えて、クレスタもひっそりと、屋敷の者にさえ見られることなくここを後にした。


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