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異世界における革命軍の創り方  作者: 吉本ヒロ
3章 12歳、学園編
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暗殺任務4

ゴールデンウィーク中にもう一話投稿できるかな、なんて思ってましたが、無理でした。

いや、字数的には割とかけたんですが、数話先の部分ばっかり書いてたので穴あき状態で、結果として遅れちゃいましたね(苦笑)

と言うことで遅れてしまった分、近いうちに(と言っても二週間以内)最低でももう一話投稿予定です。


それと話の都合上次話が長くなる分、今回短めです^^;




 相手は鎧に身を固め、傷つけることさえ容易ではない。軽装の自分では不利だ。練度の面でも、簡単に勝てる相手でないのは解っている。


 だけど同時に、自分しかいないのも解っている。


 戦闘が苦手だなんて泣き言は言ってられない。


 だと言うのに――なんて、なんて無様な戦いか。


 退路を塞ぐこの騎士たちが、邪魔で邪魔でしょうがない。今すぐに消えてしまえと、心で叫ぶ。


 ぐちゃぐちゃになった思考は戦闘に集中出来ていない証拠だ。


 まだ一人を倒しただけだと言うのに、この体は致命傷こそ避けているものの、決して少なくない傷を負っている。


 どれほど時間が経ったか。一秒でさえ貴重なこの時間を、いったいどれほど浪費してしまっただろうか。




――ベルガは今、どんな状況なのか。




「ッ、ァアアアああああ!!」



 後ろを振り返って確認したい衝動を抑え込み、代わりに悲鳴染みた気勢を上げる。

 そんな余裕があれば、相手を見て隙を探るべきだ。


 斬りかかってきた剣を躱しざまに指を切り落とし、その相手の横にいた騎士の攻撃を再び躱す。が、最初に相手をした騎士は、指を落とされたからといって素直に戦意を喪失してくれるほど甘くはなかった。


 油断をした覚えはない。ただ単に、己の力量不足なだけだ。が、今それを言い訳に出来る程余裕のある状況ではなかった。


 盾で強く押し出す様に殴りかかられただけだが、その一撃を回避しきれなかった。


「ッく!」


 ギリギリで飛び退る事が間に合い僅かながら衝撃は殺せたものの、クレスタの体はその一撃に堪らずに弾き飛ばされた。


 子どもと変わらない軽い体は大きく弾き飛ばされ、家の壁に強く背をぶつけてようやく止まる。



「――ッ、ゲホッ! っぐ! ぅぅぅううううう!」



 だが、いつまでもこうしていられない。

 嗚咽染みた唸り声が漏れようと大した事はないとばかりに強がり、すぐに立ち上がる。

 しかしその数瞬、ほんの僅かな時間だけ、距離が開いた事で僅かな時間の余裕が出来たクレスタが真っ先に視界に入れたのは、ベルガの後ろ姿だ。


 その姿が飛び込んで来て、クレスタはどうあがいても間に合わないことを悟った。








「ッァア!」


 ベルガが繰り出したのは、上段からの一撃。

 何の変哲もないそれが、しかしベルガの必殺剣だった。


 その一撃は確かに速い。が、先程の一撃と比較すれば速さも重さも数段劣る。それだけならば辛うじてとはいえ、クレスタでさえ対応できる速さに過ぎない。


 だが、この技の神髄はこの後だ。


 人を殺すのに、力いっぱい斬る必要はない。


 体を二つに分けなくても(くび)を、心臓を、それなりの力で一突きすれば、人はあっけなく死ぬ。女子供でさえ、その気になれば人を殺せるのだ。


 ベルガの攻撃はこの理論を突き詰めたものだ。


 急所を突けさえすればいい。


 故に採ったのは、元来悪手とされる手法。しかしそれを、独自の理論に基づいて必殺の技に昇華した。


 基本的に、武器と言うのは振り切るものだ。避けられたからといって振り切ることなく中途半端に止めてしまえば、それこそ隙だらけの姿を晒してしまう。


 ある程度の、走る事で言う助走がなければ、相手は簡単に対処してしまう。かと言って助走が長すぎれば、それもまた簡単に軌道が読まれて対処されてしまう。つまりそれらを考慮し、振り切った後の攻撃、一撃一撃の間隔をいかに短くするかは、攻撃において最重要素と言っても過言ではないだろう。


 振り切った勢いを殺さずに連撃に変える。それこそが、武の到達点の一つだ。無論敢えて一度止め、タイミングをずらすなどの駆け引きはあるが、毎度の如く一々止めてしまってはその隙を突かれてしまう。


 ベルガの攻撃はロザンに防がれた。だがこれで終わらない。


 全力の攻撃でありながら全力ではないからこそ、防がれても態勢は崩れない。技の継ぎ目にあたる硬直時間がないに等しい。そして、その攻撃の速さと正確性は生半な防御を許さない。


 防がずに躱してもあまりにも当然のように、ロザンに引き寄せられるように軌道を変えるなどと剣の術理に反した攻撃を可能とするのは、偏にベルガの常軌を逸した鍛錬の集大成、経験から成る先読み、それを基にした絶妙な力加減あってこそだ。


 防がれた際に生じる反動を利用し、ほとんど手首の返しだけで目にもとまらぬ怒涛の連続攻撃が繰り出される。強引に弾きにくれば力を抜いて受け流し、致命的な隙を突くための準備が出来ている。防ぐ時は反撃に移れないよう強く斬りかかり、相手の防御を僅かなりとて崩す。躱せばそれに合わせて一瞬だけ力を抜き、角度を変えて追跡する。


 そしてロザンにとって何より性質の悪いことに、この技を使ったベルガは最悪ここが死に場所になることも覚悟している。


 もしロザンが攻撃に転じれば、これ幸いと相打ちを狙うだろう。


 それはイザークが語っていたサムライという存在が成し得た、己自身の命さえ捧げる究極の滅私。


 攻撃は最大の防御といった、ロザンクラスの人間には通じないはずの概念を、しかし己の命を捨てる事で体現する。


 瞬き一つ許されない、常軌を逸した観察眼。筋の動き一つ逃さないとばかりに張り詰め、一時間を一秒に凝縮したかのような短期決戦。


 その覚悟、その気迫。それがあって初めて、ベルガはロザンに抗し得ている。


 この中でただ三人。


 当事者であるロザンとベルガ、そしてクレスタだけが、事態を完璧に把握していた。


 ロザンが連れてきた部下達はロザンを相手に戦いの形になっている事に驚き、しかしやはりロザンが負けるはずはないと思っている。


 その認識は正しい。


 だが、それが彼らの理解出来る範疇以上の次元で攻防が行われているため、内容まで理解できているわけではない。クレスタもまた、ある意味では彼らと同次元だ。しかし、ベルガがあの技を出している。そして、事実上の膠着状態。


 それが何を意味するのかを理解しているため、彼らよりも一歩進んでその攻防を理解しているのだ。


 ここまであの技を見せて決着がつかないのなら、もういつ破られてもおかしくはないと。


 噴き出る汗は緊張でも恐怖でもなく、圧倒的な肉体的、精神的疲労の現れ。

 当然、その認識は他の誰よりも渦中の二人が理解している。であるならば、どうだろうか。ベルガは今止めればそれこそ全てが終わりだと理解している。


 もはやこの状態から距離をとろうとすればそれより速く詰められて斬られる。防御に移れば、やはりその隙に斬られる。

 それはもはや行く先が断崖絶壁と知っていながら、しかし背後から燃え盛る炎が迫っているが故にそちらへと全力疾走するような、悲しくなる程の矛盾だ。


 そんな矛盾、どちらを選んだ所で死ぬしかない。その選択を、ただただ時間を稼ぐためにやっているにすぎない。



 それを、クレスタもまた痛い程に理解していた。だから――



「……ごめん」


「っ!」



 これ以上時間を無駄には出来ない。絞り出して紡がれたような言葉に、呼吸さえ許されないようなベルガは答える余裕さえない。


 だが、それでもほんのかすかに頷いたように見えた。


 クレスタは全部を理解していた。


 自分が残っても足手まといにしかならず、ロザンが相手では足止めさえ出来ない。だからこそ、ここでは足止めの役でさえベルガ以外には不可能なのだ。


 もはや騎士達の囲みを突破する事は不可能だ。しかし自分一人ならベルガを見捨てる事で騎士達を無視し、逃げる事が出来る。


 見捨てたくない、などといった感傷を殺し、クレスタが逃亡を開始しようとした時、飛翔するのは無数のナイフ。



 それがあらゆる角度からロザン目掛けて殺到した。


 

 結果、ロザンはベルガとの距離をとって全てを躱し、或いは叩き落とす。


 そしてロザンが顔を上げたその視線の先に――



「よお、公爵様。アンタにしちゃあ随分と珍しく、そして面白い状況になってるじゃないか。俺達も混ぜてくれないか?」



 八人の暗殺者が、傍にあった建物の屋根から姿を現す。



 事態は更なる混迷の様相を来たした。

 

今回メインの戦闘シーンが伝わったかどうか・・・

その辺りの描写もやはり難しいですね^^;

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